第2話 ケミンズ
負けじとこちらも睨み返す。物理戦になったらとんでもなく分が悪い。ただ、いきなりお手上げになってしまうのは癪に障るってものだ。
少しの時間、にらみ合いが続いたが向こうからは手を出してこない。もちろん、こちらが手を出したらその瞬間に均衡は崩れる。ならば話を持ち込んでみよう。
「なぜ、こんな所に龍族が来たんだ?」
一つ一つ、はっきりと伝わるように言葉を選ぶ。立場としては向こうが上。だが、舐められてはいけない。
「人間どもが戦争を始めそうだからだ。国はすでに二つに別れ、じきにその二つの国がぶつかりあうぞ」
彼女は顔色を変えず見下した状態で言った。だが、それは龍族に対しても大変なことではないだろうか。
戦争。他種族同士のぶつかり合いではなく、同種族同士がぶつかりあう時に使われる言葉である。
ただでさえ人間は他の種族を追い出したというのに、自分たちの種族すらも敵に回すのか。正直言って、愚かとしか思えないが。
「それで、その戦争と私とがどう関係があるのだ?」
「この森は、戦争が拡大すれば戦地の一つとなる、ということを伝えにな」
「ご丁寧に、忠告に来てくれたのだな?」
「いや、これは世界規模のことだ。わざわざ忠告したところでキミに何かできることがあるのか?」
「……つまり協力しろと、そう言っているのだろう?」
「そういうことだ。詳しく言うと同盟を組んでほしいのだ。それはもう少し話し合いを進めるべきかもしれないが」
かつて人間と精霊が同盟を結んだように、今度は龍族と精霊が同盟を結ぶ。こんな状況だ。表情にこそ出さないが龍族もだいぶ切羽詰まっているのだろう。
しかし、だからこそ。
「本当にここで今、龍族と精霊族が同盟を組んで良いのだろうか?」
「なっ!?」
今まで動揺を見せていなかった龍族の女性がここにきて初めて明らかな動揺を顔に示す。
当たり前だ。この状況で同盟を組まなければこの森はまず間違いなく戦場になるだろう。しかし、それ以上に、自分にだって精霊としてのプライドがある。
「龍族が人間たちの戦争を抑え、ふたたび国を持ったとしよう。その時、精霊族はどうなるのだろうか?人間にされたことと同じように駒として利用されるだけか?」
駒として利用されるくらいなら、自分の土地と引き換えに精霊族の誇りを捨てるくらいなら、精霊族の誇りをとる。これは、ケルアだけの判断ではない。種族全体の判断だった。
「わざわざ龍族と精霊族の同盟にするべきだろうか?一体の龍と一匹の精霊が手を組むということで十分ではないのか?」
人間相手に一体の龍と一匹の精霊で太刀打ちできるのか。おそらく戦争を止めるなんて無謀なことは出来っこないだろう。だが、この森を守ることくらいなら出来るのではないだろうか。
「なかなか面白いことを言うな。ぞろぞろと大人数を連れて行くのではなく、あくまでも少数でこの森を守る。それだったら、龍族も精霊族も多くの犠牲を払わずに済むってわけか」
龍族の女性は、うんうんとうなずきながら少しの間考える。そして再び口を開いた。
「そっちの言うことに乗ってみることにしようか。私の名前はブルスト・ケミンズだ。よろしく」
「ありがとう。自分の名前はケルアだ。こちらこそよろしく」
こうして龍と精霊の手が結ばれたのだった。
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