精霊と龍の冒険記

夏樹

第1話 精霊と龍

 かつて、王都は龍族によって支配されていた。その強力な権力と魔法は例外なく、この国で最強のものであったし他の誰にも犯せない……、と言われていたのはとうに昔のことである。

 人間と精霊の協力。それは龍族にとって一番恐れていたこと。龍族が支配をしているということに不満を持った人間と精霊は、強力な魔法で龍族の魔法を退きその剣で龍族の鱗を破った。

 そして人間と精霊は覇権を我が物にし、街を作り変え、国家すらも変えていった。

龍族は残滅され、あるいは逃げ、この国からは一体たりともいなくなり、人間たちがいない所でひっそりと隠れている。という結末となってしまった。

 しかし、世界は人間を中心として発展していき、いつしか精霊たちは自分勝手な人間たちに見切りをつけ、人間の国から精霊はほぼ見かけなくなってしまった。世界中に精霊は散り散りになってしまったのだ。


「えーと、とりあえずはそのニンゲンの国ができたっていうことなの?」

「そうよ。私達精霊族は魔法こそ優れたものの、人間のように力がなかったの。だからこうやってできるだけ人間と争わないように僻地にいるのよ」

 そこにいたのは二人の精霊。一人は、絹のようになめらかな黄金の髪を長く流している大人の精霊と、深い緑の髪を束ねている子供の精霊であった。

二人の精霊の名はレリィとカミール。大人の精霊のほうがレリィで子供の精霊のほうがカミールだ。

「ケルアはニンゲンと会ったことはある?」

 ケルアは茶髪の大人の精霊。この精霊たちの家族、といったところだろうか。椅子に座り、二人の精霊をなんとなしに見ていたのだ。なんというか自分のことをそうやって説明するのは難しい。

「ニンゲンかぁ、会うというか見かけたことがあるくらいかな」

 精霊たちは人間のように男女という概念はない。魔力があるところに湧き、その魔力同士が近ければこのようにこうやって集まって過ごすことが多い。

人間よりは一回り小さく、物を食べなくても魔力があれば生きていける。強いて言うなら、睡眠をとることは人間と一緒といった感じだ。その他にも特殊な生態は数多くあるのだが、そのうちの一つが魔力探知である。

「なんだか見慣れない魔力を感じるな」

 その瞬間、ケルアは危険を感じた。その魔力は強そうでなおかつ、急激に接近してきている。

「レリィ、カミール、逃げろ!」

二人も魔力を感じたのだろう。すぐに逃げようとしていた。

 一瞬レリィと目が合う。その表情はとても心配そうだった。こんなときにもこっちの心配をしてくれているのだろう。

「大丈夫、なんとかなるから」

レリィたちの姿は見えなくなった。むしろ強力な魔力で何も見えなくなった、の方が正しいかもしれない。

次に目が覚めた時、そこはもとにいた場所だった。だが、レリィもカミールもいない。

 目の前には、自分よりも一回りも二回りも大きい、黒く焼けた肌と腕の十字型の傷が特徴的な龍族の女性がこちらを品定めでもするかのように、見下していた。

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