僕は小説が書けない

綿麻きぬ

何故だ?!

 僕は小説が書けない。


 僕は小説書きを名乗っている。でも、それはきっと夢だ。


 今過去作を読み返して。それはきっと誰もが小説ではないと言うだろう。散文だって。


 これだって小説じゃない。


 だたの愚痴だ。


 僕は小説をもっと良くしようとして、同じ小説書きに意見を聞いた。どれも的を射た話だ。


 凄いよ、僕が分からなかったことを当てる。当たってるよ、本当に。もっとこうした方がいいってのを教えてくれる、本当に凄い人だよ、あなたは。


 ネットで同年代の小説書きの話をよんでさ。


 あぁ、こんな凄いのが書けるんだ。さぁ、僕も書こうってなるんだけどさ。書けないんだよ、文字が浮かばないんだよ、情景も浮かばないんだよ。


 でさ、小説の書き方の本を読んだんだよ。


 そしたらさ、「書きたい」じゃなくて「読みたい」を書けってさ。


 でもさ、もう僕には読みたいってのがないんだよ。もうさ、疲れてさ、読みたいって思える話が書けないんだよ。


 そもそも、僕は書きたい物語を書いているのであって、読みたい物語を書いてる訳じゃないんだよ。


 僕は、一体なんのために書いているの?


 あぁ、思い出したよ。読みたい物語を書きたいって思ったわけじゃないんだ、自分のこの思いのぶつけ所が分からなくて、書いてたんだ。


 このネットの海の中に小説を投稿して、顔も知らぬ人からコメントがあって、それに一喜一憂して。


 僕は…、僕は…



 いつの間にか涙を流していた。懺悔の涙か、はたまた後悔の涙、それとも自己嫌悪の涙か。


「ねぇ、大丈夫?」


 僕に声がかけられた。そこは教室だった。窓からは夕日が差し込む。そして目の前にはクラスメイトがいる。


 腰まである黒髪、左腕には銀色の時計、そして僕を覗き込んでいた。


 このぐちゃぐちゃな顔を見られた後悔が先立ち、急いで教室を出ようとする。


「ねぇあなた、小説書いているでしょ?」


 それは今の僕に対しては禁句だった。自己肯定のためだけに書いている僕を君は肯定はしてくれないと思っているから。


「私、あなたの小説好きだから」


 その一言は僕の歩調を緩めるには十分だった。


「あなたは知らないかもしれないけど実はtwitter、FFだから」


「小説、カクヨムで全部、応援ボタン押してるから」


「なんなら友達に宣伝しているから」


 君は矢継ぎ早に言ってくる。


 ちょっ、友達には宣伝しないでくれ、僕の顔にそんな焦りが出たのを見て君は笑った。太陽みたいな笑顔だった。それは僕の心の曇りを晴らしてくれる、そんな太陽だった。


「やっと笑った。今日一日、顔が暗かったから心配したんだから」


 そんなただのクラスメイトでなにも接点がないはずの君がなぜそんなことを心配する。


「だってあなたと一番仲が良いネッ友でしょ?」


 うん? なんだって?


「も、もしかしてFFの君が、君なのか?」


「そうよ、今頃気が付いたの?」


 いや、まて、そんなことは…あるわ!!


「そうよ、よく考えなさい。だって、文化祭の日にちも一緒、あとクラスの友達しか知らない話をサラリと入れてたでしょ?」


「あんな恥ずかしいことや黒歴史とかも知っているわよ」


 まてまて、それで僕を脅してどうする?


「知らないと思うけど、結構あなたにアピールしたんだから」


 えっ? なんのことですかね?


「ここまで来て知ったかぶりはさせないよ」


 そういい君は僕に詰め寄る。


「そんなしょげた顔しないで! あなたにはこの私って言う読者が永遠についているから! そして私はあなたのことが好きだから! 全部ひっくるめて好きだから!」


 えっ、マジすか。


「ここまで言わせといて、あなたは何も言わないのね?」


 君は鬼の形相で僕に吠える。


 もう僕もやけくそだ! これぐらい言ってやるよ!


「付き合ってくださいィィィィィィィ!」


「はい」


 君は照れた顔で答える。まてまて、君が言わせたようなもんだろ。


 こうして僕は彼女ができて、冒頭の悩みもある程度は解決された。


 今ではネットでもリアルでもイチャイチャ生活を送っている。


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僕は小説が書けない 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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