第3話 学校を去った人


最初に話をするのは、特殊なケースだけど、精神的なショックが原因で退学してしまった同級生のことだよ。


正確には一学年上から留年してきた「同級生」のことだけどな。


あれは、高校二年生の四月のこと。

クラス替えで、クラスメートは大半が初めて見る顔、教室も、担任の先生も替わり、最初のホームルーム、各自の出欠確認が終わったところで、担任の先生から話があった。


「今はお休みしていますが、もう一人、新しい仲間がいます。雨宮(あまみや)晴美(はるみ)さんです。雨宮さんは…」


先生の話は、掻い摘んで言えば、

・雨宮さんは一年生の終わり頃、事故でご両親を同時に亡くされ、そのショックで休学していた。

・親戚の方の下で、一年余り休養して、ようやく立ち直り、二年生として復学する

ということだ。


一週間後、雨宮さんは学校に出てきた。第一印象は大人びた感じ、それに、これは関係ないことだが、美人だった。


「晴美、元気なのね」

「よかったじゃないか」


休み時間には元のクラスメート、一学年上の先輩たちが、私たちの教室まで励ましに来ていた。そして、授業が終わると、近くの席の女の子に「じゃあね」とでも言って、迎えにきた三年生のボーイフレンドと帰っていった。

授業では、何度か先生が当てたが、殆ど答えられなかったと記憶している。でも、「ダメじゃないか」などとは先生は言わなかった。気持ちが落ち込まないようにと、「頑張れよ」と言っていた。


私は話をするどころか、挨拶もしたことがなかったけれど、その様子を見て、「大変なんだな。立ち直ってなんかいない。勉強なんかできる訳がない」と感じたのを覚えている。


そして中間テスト前、復学して一ケ月も経たない頃だったと思うが、雨宮さんは突然退学してしまった。


「いろいろ話をしましたが、違う道に進むことになりました」


担任の先生からは簡単にそんな説明があったように記憶している。

本当に短い「同級生」期間だったけれど、なぜか、今でも時々、思い出すよ。顔はぼんやりだけど、雨宮晴美という名前ははっきりと覚えている。


高校一年でご両親が亡くなってしまう、もの凄く辛かったんだろうね。

どんなに想像しても、彼女の辛さは分からないよな。そういう中で、留年して、一つ年下のクラスで勉強するって、とても出来ない。


でも、雨宮さん、今、元気かな?いや、元気であって欲しいな。

本当に心からそう願っている。

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