第五話 スッキリ

 あっ! そういうことか。


「おじさんのヒントだと、名前が重要ってことだよね」

「そんな感じの言い方だったね」


 わたしが身を乗り出したので、ユウキちゃんもググっと顔を近づけてくる。


「名前の頭といえば頭文字のことじゃない?」


 距離が近いから、秘密の話をするような小声になった。

 うーん、と曖昧な返事。

 それなら、と耳元に口を近づけてもっと声を潜めてみる。


「中島先生がN、スコット先生はS。Sにはくっついて、Nにはくっつかないもの――」

「磁石だ!」


 バッとユウキちゃんが体を起こした。


「もぉ急に大きな声を出さないでよー」

「ごめん、ごめん。いやー、超スッキリだわ、これ」

「他の名前でもいいのに、あえて自分と校長先生を使うなんて、スコット先生も結構やるね」

「頭文字に気づいた朋華ちゃんもなかなかやるよ」


 まぁねと胸を張る。おじさんのヒントがあったからだけどね。


「それじゃ三問目の答えは磁石ということで、最後の――」

「ちょーっと待ったぁー!」


 おじさんが椅子に座ったまま右手を挙げて、キャスターを滑らせてくる。


「三問目の答えは磁石じゃないんだよ」

「いやいや、これは磁石で間違いないでしょ」


 この答えには自信がある。


「もちろん、考え方は合っているんだけれど、答えを磁石にしちゃうとこの宿題の隠しテーマにたどり着かないんだ」

「隠しテーマ?」


 ユウキちゃんの問いかけに、おじさんはニヤリとしてうなずいた。




「なるほどねー。これで本当に超スッキリ」

「いやー、そう来たかって感じ。スコット先生、やるじゃん」

「最後の宿題としてはなかなか深いよな」


 おじさんの話を聞いてからは四問目もすんなりと解けて、隠しテーマもすぐに分かった。これで月曜にはメイちゃんたちに答えを教えてあげられる。


「ユウキちゃん、ありがとー」


 立ち上がって、ソファに座ったままの彼女へ抱き着いた。


「ちょっとぉどうしたの?」


 戸惑い気味な笑顔の彼女に「感謝のハグ」とひとこと言って離れた。

 照れくさいけれどわたしからの精一杯なありがとう。

 ユウキちゃんと一緒にこの問題を解き切ることが出来て、本当によかった。


🌞


「というわけで、二問目の答えは藍」

「なるほどね」


 週明けの登校班、さっそくメイちゃんたち四人に答えの説明を始めた。

 にリンちゃんは納得してくれたけれど、カンナちゃんはピンと来てないみたい。きっと、あのことわざを知らないのだろう。わたしが言える立場じゃないけれど、しっかり勉強してね。


「校長先生の頭は?」


 メイちゃん、言い方。いつもニコニコしているから許されちゃうけど、上級生になったら気をつけて。

 それにね、校長先生の頭は関係なかったんだよ。


「頭って頭文字のことだったんだ」

「それじゃぁ答えは磁石だね」


 チッチッチッ。ナツキちゃんに人差し指を立てて振る。大人しいのは悪いことじゃないけれど、今みたいに積極的に意見を言うのも必要だと思うよ。


「私たちも最初はそう思ったんだけどね。それが答えだと隠しテーマにたどり着けないの」


 いつものように、おじさんは自転車にまたがったまま列の外側を進んでいる。わたしの話も聞こえてるんだろうけれど、何も言わなかった。


「スコット先生は英語の先生でしょ? この宿題にも英語に関するテーマを隠していたのよ」

「どういうこと? どの問題にも英語なんて関係ないよ」

「カンナちゃんの言う通りだけれど、一問目、二問目の答えをもう一度考えてみて」


 みんな一瞬、黙ってしまった。

 昨日の私たちみたいに。


 一番早く気づいたのは予想していた通り、頭が良くてしっかり者のリンちゃんだった。これからも頼りにしてるよ。


「答えは計、藍だよね。ひょっとして、これってアルファベットのK、Iに掛けてるの?」

「ピンポーン! 正解」

「問題の答えがアルファベットなら三問目は磁石じゃなくってNかぁ」


 にんまりとするリンちゃんの隣で、メイちゃんが何度もうなずいて納得してる。


「そうなると四問目も簡単でしょ? 篠下くんと井上くんの間にあるのは……」


 さぁ今度は誰が最初に答えるか! 

 じっと見守っていると――。


「わかったっ!」


 おぉ、カンナちゃんか。


の下との上、答えはD」

「正解者に拍手ぅ」


 カンナちゃんは両手を挙げて応えている。


「四つの答えを並べると、K、I、N、D……キンド?」

KINDカインドって読むの。優しい、とか親切な、って意味だよ」


 またメイちゃんが「ふーん」と言いながら、何度もうなずいている。


「スコット先生はクイズみたいな宿題を出すことで、この言葉をみんなに印象付けたかったんじゃないかな」

「そうかもね」


 リンちゃんは相変わらずクールだなぁ。


「わたしはもう覚えたよ」

「えーっ、うそだー」「カンナは絶対に忘れる」「じゃぁ意味は?」


 いっせいに突っ込まれたカンナちゃん。

 思わずふっと笑ったあと、おじさんを見ると左手でオッケーサインを送ってくれた。

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