第四話 サンタさんは……

 ユウタ君はきょとんとしてわたしの顔を見上げてる。


「サンタを捕まえちゃえば正体も分かるでしょ、ね」

「あのなぁ、一年生にいい加減なことを言うのは止めとけ」

「いい加減なことじゃないもんっ」


 それなりに考えての作戦なんだから。

 ムッとしたわたしをスルーして、おじさんはユウタ君へ向き直る。


「ごめんね、このお姉さん、しょっちゅう変なことを言うから――ぁがっ!」


 渾身の右ストレートがおじさんの右わき腹へクリーンヒット。


「変なこと、言うなし」


 そんな二人のやり取りを気にすることなく、ユウタ君は自分のことに集中している。


「サンタさんのソリは空をとぶよね? ジェットかな」

「ジェットって、あのユウタ君が発明してくれる自動装置に使うやつ?」

「うん。サンタさんはもうジェットをもってるのかもしれない」


 おぉ。あの自動装置、まだあきらめてなかったんだ。

 妄想と言われようと、色々なことを想像して楽しむのはいいことだよ。

 なかなか見所があるね。


「プレゼントを入れる靴下に罠を仕掛けておくのは、どう?」


 めげずにサンタ確保作戦をそそのかすと、おじさんが肘で小突いてきた。


「あー、でもトナカイもいっしょに空をとんでるよね」

「そうだね」


 うぬぬ。わたしの話、全然聞いてないな。

 ここでひるまずにガンガン攻めるよ。


「靴下の中にスタンガンを仕込んでおいて、手を入れたら感電しちゃうのは?」


 肘で小突かれた。二回目。


「トナカイにはジェットをつけられないよなぁ」


 あいかわらずスルーしてくるユウタ君。


「サンタさん宛に手紙を書いて、一緒に飲み物を置いておくの。それに睡眠薬を入れて――」


 肘で小突かれた。三回目。


「あんなにたくさんプレゼントをくばるから、お金もちだよね、きっと」


 そう言ったきり、彼は黙って歩いている。


「なんでサンタを捕まえることにこだわってるんだよ」


 ユウタ君の推理中に、おじさんが小声で聞いてきた。


「捕まえようとしても捕まらなかった。やっぱりサンタさんは不思議な人だ、って思うかなぁって」

「あぁ……そういうことか」


 どうよ。わたしだってちゃんと考えてるんだからね。

 ドヤ顔を見せるとおじさんは軽く頭を下げた。


「ヴォッ!」


 おぉっと、ここで出ましたユウタ君のシンキングサイン。

 それにしても、どこからこんな音が出て来るんだろう。不思議だ。


「先生、ぼくわかったよ」


 満面の笑みを浮かべて見上げてる。目をキラキラさせちゃって。


「サンタさんはしんだりしないし、空をとべるし、お金もち。ぜったい、まほうつかいだとおもう」


 ふーん、そこに落ち着いたんだ。


「だって、まほうつかいとおなじだもん。としとっても生きてるし、ほうきで空をとんだり、すきなものをまほうで出したりするでしょ。サンタさんもそりで空をとんだりプレゼントはまほうで出してるんだよ。いいまほうつかいなんだね」

「きっとそうだよ」


 理由もしっかりしてるし、見事な推理。これは立派な探偵になるかも。

 おじさんもなんだかうれしそう。


「でもね」


 なに、ユウタ君。続きがあるの?


「お父さんがサンタさんみたいなこというんだよ。『いい子にしていないとプレゼントをよ』って」


 おじさんと顔を見合わせて笑った。

 お父さん、詰めが甘いよ。



「それじゃ、またね」


 ユウタ君に声を掛けた。いつも登校班が団地の中庭へ入るところで別れて、駅へと向かう。


「バイトの帰り、事務所に寄っていい?」


 おじさんともここまで。


「いいよ。それじゃ、気をつけて」


 自転車を漕ぎ出そうとした時、おじさんの左腕に両手を絡ませた。

 ユキさんのお墨付きだしね。たっぷり甘えちゃお。


「今年はサンタさんから何をプレゼントしてもらおっかなぁー」


 わざとらしい笑みを満面に浮かべて目をぱちぱちさせる。


「あー。事務所に来た時に聞くから」


 軽く右手を挙げて学校へと向かうおじさんへ、バイバイと手を振った。



―サンタを捕まえろ  終わり―

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