第三話 ユウタ君の疑問
試験休みになったけれど、今朝も登校班と一緒。
区役所の売店で初めてのバイトを始めたのだ。
川沿いの道はさえぎるものがなくて北風が通り抜ける。そろそろマフラーが欲しい。
「この前のハロウィン、ぼくもいきたかったなー」
ユウタ君、また言ってる。もう十二月だよ。
「来年もやるつもりだから、また誘うね」
「ほんと? ぜったいやる?」
「うん。絶対やるよ」
ここまでが、何度か繰り返されたお決まりのパターン。
おじさんの事務所でやったハロウィンパーティー、ユウタ君は千葉のおじいちゃんの家へ行く用事があって来れなかった。それをとっても残念がってくれているのはうれしいけれど……意外と、来年の夏ごろには忘れてそう。
「おねえちゃん、クッキーやいてくれるんでしょ? たべたいなぁ」
もぉ、そんなうれしいことを言ってくれちゃって。可愛いヤツめ。
もこもこに重ね着をして、手袋までした彼が斜め後ろを振り返った。
「ねぇ先生、サンタクロースって見たことある?」
おっと出ました、小学校低学年あるある『いきなり話が飛ぶ攻撃』。
わたしのクッキーの話はもうお終い?
どんなクッキーを焼くか、聞いてくれないの?
しかも、返事に戸惑うようなところを突いてきたね。
質問された先生――おじさんを横目で見る。
「いや、見たことないなぁ」
自転車を押しながら、いかにも自分にも分かりませんというような顔をしている。
まぁ無難な答えだよね。
「ぼく、サンタさんのしょうたいがきになるんだ」
サンタの正体!? 思わずおじさんと顔を見合わせる。
ユウタ君、大人にとってさらに痛いところを突いてきた。
これは慎重に答えないと後で色々な問題が……。
返事に困っているわたしたちにお構いなく、彼は話を進める。
「サンタさんって、オバケじゃないかなー」
正体って、そういうことか。ちょっと安心した。
「どうして?」
「だって、ずっとずっと前からみんなにプレゼントをくばっているんでしょ? 千年とか生きてるんじゃない? なんかオバケみたいだよ」
なるほど、年を取らないし死なないから、ってことね。
確かにオバケ――化け物みたいなものか。
化け物がサンタクロース♪
冬の夜は静かだ。
生き物たちが冬眠するかのように、音までもが姿を潜めているかのよう。
昨夜から降り積もった雪が、街から
このモノクロームの世界にただ一人、色をまとったものがいる。まだ踏み固められていない雪の上を静かに、ゆっくりと歩いていく。
その大きな体は少しくすんだ赤に覆われていた。
もしもこのとき目の前で見たならば、その色が服ではなく、月明かりを浴びて妖しく光る体毛であることに気がついただろう。
そう、
なんか、いいんじゃない? この設定で物語が書けそうだもん。
「そっかー。でもお化けなら見えないんじゃないかな。ユウタ君もサンタさんがどんな格好をしているか、知ってるでしょ?」
せっかく妄想の世界で楽しんでいたのに、おじさんが現実に引き戻す。
「うん。赤いふくをきて、白いひげがある」
そうよ。でもね、それは服じゃなくて体毛なの。
白いひげは――かき分けるとあごに第三の目を持つ、ってのはどうかな。化け物っぽいよね。
わたしは引き戻されまいと心の中で必死に抵抗した。
「きっと誰か見たことがあるんだよ。だからサンタさんの格好が分かるんじゃないかな」
「やっぱり見たことがある人、いるんだ。ふーん、オバケじゃないのかぁ」
あー、ユウタ君も納得しちゃった。
サンタさんオバケ説、終了。
ん、待って。いいこと思いついちゃった。
思わず笑いがこみあげてくる。
「ねえねえ、サンタさんを捕まえちゃえばいいんじゃない?」
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