第二話 超能力⁉
「はじめのうちは、よかったのよ」
ごめん、ヒナちゃん。そうやって眉を八の字にして下唇を突き出すしぐさも、オバサンに見えてきちゃった。
まさかわたしがそんなことを考えているとは知らずに彼女が続ける。
「算数のプリントをやってる間は稲本先生が教室を歩きながら見て回っていたから、そんなにうるさくはなかったの。『ぜんぜん分かんねー』とか言うやつはいたけど」
「あーいるよね、そういう子。あとさ、『分かった!』って大きな声を出す子とか」
「声といっしょに立ち上がったり」
「そうそう!」
よかった、年の差ギャップがなくって。男の子って良くも悪くも自己中なところがあるからなぁ。
世代を超えた共感に浸っている間に大通りまでやって来た。ここの信号は青になるまでが長い。
「それでさ、問題はその後」
信号待ちの間に、教室で起きた事件というか謎をヒナちゃんが話してくれた。
🏫
「はい、もういいかな。それじゃプリント終わり。列の後ろの人、集めて前へ持ってきて」
話の途中でメガネのふちをくいっと持ち上げるのが稲本先生のくせ。三年生になってから少人数教室で教わっているときに発見した。
廊下から三列目の一番前があたしの席。目がわるいから黒板が見やすくていい。でも、いつも前の方だからたまには後ろの方の席になってみたい。
プリントを渡そうとふり返ったら、ソースケが集めたプリントをもって立っていた。
「はい」と差し出したら「ありがとう」と受けとる。こっちの方こそ、集めてくれてありがとうなのに。ほんとまじめなんだから。
プリントをぜんぶ集め終わると稲本先生が黒板のとなりにある教室の時計を見た。
「まだチャイムまで少し時間があるから、先生がこれから超能力を見せまぁす」
「うわー」「マジ!?」「何やるの?」
いっせいにあちこちでさわぎ始める。だって、いきなりなんだもの。
「はーい、静かに。今から黒板にチョークで三本の線を引きまぁす」
くせのあるしゃべり方だから、なんとなくのんびりした空気になる。
先生は黒板に向かうと白いチョークでタテに五十センチくらいの線を書いた。その右となりには赤いチョークで、左には青いチョークで同じような線を書いていく。
いったい何がはじまるんだろう。
「先生が後ろを見ている間に、誰かにこの三本の線の中から一つを選んでもらいまぁす。どれを選んだのか見事に当てて見せるからね」
「えーっ!?」「うっそだぁー」「本当に?」
またいっせいにみんなが声をあげた。あたしだってみんなと同じ気持ち、本当にそんなことできるの?
でもふだんからあまり笑わない稲本先生が少しニヤリとしているように見えた。
「それじゃ、最初は誰にやってもらおうかな。選んでみたい人……はい、松崎さん」
ミオちゃんがさされて黒板の前へとすすむ。
「先生が後ろを向くから、その間にみんなへ分かるようにどれを選んだのか指でさして教えてあげてくださぁい。君たちは声に出して言わないように」
最後はこちらを向いてみんなに注意をした。
そうして稲本先生は黒板に背中を向けたまま、「選んでいいよ」とミオちゃんに声をかける。
いっしゅん、教室がしずかになった。
ミオちゃんは少しまよってから赤い線を指さした。
「え、どれ? 赤?」
立ち上がって声をあげたのは、タカムネだ。
「あんた、バッカじゃないの? いま先生が声に出さないようにって言ったばっかりじゃない」
あきれたのと、ちょっとイラっとしたから思わず怒っちゃった。
「あ。いっけねー」
いっけねーじゃないわよ。あんたのせいでやりなおし!
「松崎さん、もう一度選んで」
こんどはすぐに白い線をさした。
あたしもすぐにタカムネの方をにらんでやる。
ミオちゃんが席にもどると、先生がゆっくりと黒板の方へふり返った。
しばらくだまって見たあとに両手を前に出して、線の上にかざしている。
「はい、分かりまぁした」
そう言うと、先生はまたあたしたちの方を向いた。
「松崎さんが選んだのは……白い線です」
え、当たった!
おぉー、すごーいという声があちこちから聞こえる。
「でも、たまたま当たっただけかもー」
すぐに疑いの目を向けたのは、カイト。
「その前に赤をさしてるからなー」
タカムネ、あんたが言うな。
ただ、カイトが疑う気持ちも分かる。たまたまじゃないんだろうけど、何か秘密があるはず……。
「それじゃ、次は高橋くんにやってもらおうか」
さされたカイトがイェーイと言いながら右手を上げて前に出てきた。
みんなに向かって人差し指を口に当てると、すぐに教室はまたしずかになる。
注目されながら選んだのは――赤い線だった。
ミオちゃんの時と同じように、カイトが席につくと先生は黒板に向かって両手をかざす。
そして振り返って一言。
「赤い線を選んだね、高橋くん」
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