第五話 謎を解くカギは鍵!?
「さっきも言ったとおり、この謎を解くポイントは自転車の鍵なんだよ」
「だからどーゆうことよ。カギは壊されてなかったんでしょ?」
「あのさ、ちょっと気になったんだけど……さっきからおじさんが言っている鍵とわたし達が言ってるカギとは違うことなんじゃない?」
はぁー? ユウキちゃん、何言ってるの。カギはカギでしょ――ん、待って。ひょっとしておじさんが言っているのは、キーホルダーについている鍵のこと!?
「話してるだけだと分かりづらいから、まず整理しよう」
おじさんがメモ用紙を持ってきて自転車の絵を描いた。
「自転車についているのは正確には錠、英語で言う
さっき言ってたリングロックっぽい絵を自転車に書き足した。
「その錠を開けるのが鍵、英語だと
そう言いながら、鍵の絵とリングロックに向けて矢印を描いていく。
「つまり、わたしの自転車の錠は壊されてなかったし、鍵は家に保管されてたってことね」
「朋華の話を聞くと、そうなるね」
「鍵が家にあったなら、朋華ちゃんを驚かそうとしてお母さんが自転車をこっそり隠したとか? あ、でもその日はお母さんがいなかったのか……」
ユウキちゃんは口をへの字にして、うーんと唸っている。
そう、確かにママはいなかった。
でも……なんかモヤモヤしてきた。
「自転車が消えてしまった間、鍵はどこにあったんだろう」
「何言ってんのおじさん。いま、鍵は家にあったって言ったばかりじゃない」
「本当にあった? 確かめてはいないよね」
「え……」
思わず固まってしまった。
「自転車がないんだから乗ろうとは思わない。当然、鍵が家にあったかどうかなんて確認していないでしょ」
「……うん」
「自転車が消えていた間、鍵も朋華の家にはなかった可能性がある」
「それって――」
おじさんがにっこり笑いながら手を広げてさえぎったので、このまま黙って聞くことにした。
「難しく考えないで、単純にアリバイを考えてみよう。まず、自転車の存在が確認されていたのは、朋華の証言だと金曜の朝までだよね」
黙ったままうなずく。
「そして日曜の朝には再び置いてあったことを確認した。つまり、犯行時間は金曜の昼頃から土曜の夜までと考えられる」
「うん、それで」ユウキちゃんが身を乗り出す。
「関係者の中で、その時間にアリバイがないのは……」
「……ママだ」
大きく息を吸ってからため息をついた。
「そもそも鍵を使えるのは、朋華の他にはお母さんしかいないからね。自転車が動かされたとなれば、お母さんしか考えられないよ」
「でも、朋華ちゃんのお母さんは出張でいなかったんでしょ?」
ママが自転車を動かしたのは間違いないとしても、その理由というかどうしてそうなったのかが分からない。
「それも仮説を考えてあ――ぁがっ!」
「もったいぶらないでさっさと説明するっ!」
「もぉ。もう少し優しくいたわってくれてもいいのに」
お腹をさすりながら不満を言うおじさんを二人で急かす。
「お母さんが乗る飛行機はお昼ごろの便だから、それに合わせて出掛ける予定にしていたんだよね」
「そう言ってた」
「ここからは推測だけど、ちょっと支度に時間が掛かってしまって、駅まで自転車で行こうと思ったんじゃないかな。お母さんも自転車を持ってるでしょ」
「うん、普段は駅までの通勤に使ってる」
駅近くの駐輪場と契約していて、そこに停めてから電車に乗り換えてるはず。
「出張なら荷物もあるから、駅までは歩いていくつもりだったのかもしれない。それが遅くなっちゃって慌てていたんだろうね。間違えて朋華の鍵を持ってきちゃったんだよ、きっと」
ママなら、やりそう……。
「部屋まで取りに帰るのも面倒くさい。時間ももったいないし。確か朋華の部屋は十階だったよね」
「うん。ママも面倒くさがりだから……」
「しょうがないさ。そこは親子だから似てるんだよ。朋華の自転車が外に停めてあるのは聞いていたから、それを使っちゃえ、と駅まで行き、駐輪場に停めて空港へ向かった」
「だから金曜日に朋華ちゃんが帰ってきたときには自転車がなかったんだ」
「わたしが使うと思わなかったのかなぁ」
「普段からあまり乗っていないのは、お母さんならよく知ってたはずだぞ」
そう言われりゃその通り。
「帰ってきた土曜日も夜遅くなったし、面倒だから外に停めた……真相は、こんな感じだと思うよ」
あーあ、わかっちゃうとつまんない。
きっとおじさんの言う通りなんだろうな。
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