第四話 ストーカー退治
えっ、わたしにストーカー!? いきなり過ぎるよ、ユキさん。
そんな心当たりはないし……気づいていないだけだったのかな。
「一度自転車を盗んで帰ってから、朋華ちゃんの行く先を知るためにGPSを取り付けて返したのかもしれない」
そう言われてみると、消えた自転車がまた置かれていたことの理由としては説得力がある――いやいや、そんなはずはない。可愛くもないわたしがストーカーされるはずないもの。
「朋華ちゃん、心当たりは?」
ユウキちゃんに聞かれてぶんぶんと首を振った。
「高校生になってきれいになったし、電車通学だから色々な人がどこで見ているか分からないよ」
もぉユキさん、脅かさないでよ。ただでさえ、家に一人でいると怖いときがあるのに。このままだと本当に怖くなっちゃうから、何か妄想して気分転換しよう。
もしも本当にストーカーがいたとして、どうしたらいいかな。
犯人を捕まえるのが一番手っ取り早いか。
GPSが付けられてるならそれを逆手にとって犯人をおびき出す、ってのはどう?
塾が終わったくらいの時間にわざと遠回りして河川敷の公園に行くの。
でも実際に自転車に乗っているのはおじさん。自転車を停めて、外灯が届かないベンチに腰を下ろしてじっと待つ。
そうとは知らずにGPSを頼りに暗闇の中へ現れた犯人。足音を忍ばせて自転車へ近づいていく。もうすぐベンチに……というところで、隠れていたわたしとユウキちゃんが一斉に懐中電灯の光を当てる。
「う、うわっ! ちきしょう、だましやがったな!」
眩しそうに手で光を遮る犯人をおじさんが柔道の技みたいに投げ飛ばして確保! すぐに警察へ連絡して一件落着――いいんじゃない、これ。
「ユキさん、心配する気持ちは分かるけれどあんまり朋華を脅かさない方が良いですよ」
現実に戻ったら、おじさんがやんわりと言ってくれた。
「通学のときも駅までは歩いて行っていて、普段もあまり自転車に乗らないのにGPSをつける意味がないでしょう」
ほぉ、そういう考えも一理あるね。
「そうだな。まぁ気をつけるのに越したことはないから」
おじさんに目で促され、「はーい、気をつけます」とユキさんへ答えた。
「そもそも、この事件で一番のポイントは自転車の鍵だよ」
「そっか、カギを掛けたまま動かすのは大変だもんね」
「そういうこと。鍵はつけたままだったの?」
ユウキちゃんへ向けていた体の向きを変え、おじさんが訊ねる。
「ううん、カギを掛けたことは覚えてる。日曜日に見つけたときもカギが掛かってたし」
「カギを掛けたけれど、自転車に鍵を差したままだったってことは?」
「それもない。見つけてすぐに駐輪場へ入れたから。その時は家から鍵を取って来たもん」
「カギが壊されたってことはなさそう?」
続いてユウキちゃんからの質問。
「うーん、どうかなぁ。ぱっと見は壊されてないと思うけど……」
「朋華の自転車はリングロックと呼ばれるタイプのカギだから、壊すのは簡単じゃないよ。見た目で違和感がないなら大丈夫だよ」
「壊さずにカギを開ける方法ってあるの?」
今度はわたしからおじさんに聞いてみた。
「ちょっとした道具があれば出来るらしい。でも、それを用意するのは自転車泥棒だけだよ。泥棒が盗んだ自転車をわざわざ返しに来ることはないでしょ」
「確かにぃ」
「納得ぅ」
ということは……どういうこと?
「もう一つ確認しておきたいんだけれど」
「なに?」
もうおじさんには答えが推理できているみたい。なんか面白くないなぁ。
「お母さんは金曜日に出張へ行ったんでしょ? 朝早く出掛けたの?」
「ううん。飛行機の時間がお昼頃だからって、ゆっくりしてたよ」
「やっぱりそうか」
一人で納得してあごひげを撫でている。やっぱムカつく。
ここは一発お見舞いしておこう。
「ぇげっ! なんだよいきなり。何も言ってないだろ!?」
「いま、俺は分かったってドヤ顔してたでしょ」
右の
もにょもにょと口ごもっているということは、ドヤ顔を認めるってことね。
「で。自転車が消えて、また戻った理由は何?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます