第三話 朋華、探偵してみる

 よし、ちょっと探偵になったつもりでわたしも犯人を考えてみよう。

 いざとなったらおじさんがついてるし、もし分からなくても話しか聞いていないんだから仕方ないもん。

 まず何からやればいいのかな。テレビドラマだと――。


「この六人の中で怪しい人物はいる?」


 やっぱり当事者への聞き込みが最初だよね。

 二人の方へグイっと身を乗り出した。


「うーん、誰かなぁ」


 カンナちゃんとリンちゃんが顔を見合わせている。


「あやしいって言うか、やっちゃいそうなのはタケシだよね」

「そうかも。タケシって、体も大きくて力が強いし、ちょっとおっちょこちょいな感じなの」

「自分では箱をつぶしたつもりがなくても、机の横を走って通ってつぶしちゃったとか」

「ありそう、ありそう」

「もう少しやせればいいのにね」

「でも、ドッジボールのときは頼りになるよ。すごい球を投げるもん」


「おじさん、メモ用紙とペン貸して」


 話が逸れ始めたところで、おじさんの方へ手を伸ばした。

 聞き込みで得た情報はメモしておかないと。

 ん? これって刑事のやり方?

 ま、細かいことは気にしないでいこう。


「タケシ君はカンナちゃんの机の近くにいたという証言もあるから、重要参考人ね。過失の疑いもあり、と」

 なんかいい感じじゃない、わたし。


「他の男の子たちもどんな感じの子か、教えて」


 ほんとはホワイトボードに写真を貼って、そこに色々と書き込んでいきたい!

 さすがに、この事務所ではそこまで出来ないから、我慢。


「えーっと、リョウはオタクっぽい感じ」

「そうかなぁ」

「だってアニメとかメチャ詳しいよ。全然泳げないし」


 リンちゃんも軽くうなずいて納得しちゃった。泳げないのは関係ないんじゃないの? ま、いいか。


「ハヤテ君はどう? 席が隣なんでしょ」

「ちょっと落ち着かない感じ。いつも慌ててる気がする」


 隣の席で何かに慌ててつぶしちゃった、ってのもありかもしれない。


「ケンタは頭が良くて運動神経もいい」

「それと垂れ目ね」


 リンちゃんがクールな微笑と共に付け足した。


「サワトは優しいよね」「怒ったのを見たことない」

「ヒカルは……何?」


 カンナちゃんが隣りへ助けを求める。


「カン子のクラスでしょ!」

「んー、ヒカルくんとはあまりしゃべったことないんだよね。女子と話しているの、見たことないかも」

「そういう子、いるよね。人見知りというか、シャイというか」


 ここまで聞きながらメモしているのを、おじさんは黙って見てる。


「こんな感じでどうよ」

「いいんじゃないか。朋華の思うようにやってみなよ」

「ちゃんとおじさんも考えてあげてよ」

「もちろん、俺なりに考えてるから」


「次は動機かな。言いにくいかもしれないけれど、カンナちゃんに意地悪する子とかいる?」


 プレゼントの箱をつぶすって、どっちかっていうと男の子よりも女の子がやりそうなんだよね。

 カンナちゃんって学芸会でも主役をやるくらいだし、本人が気づかないうちに嫉妬されていてもおかしくない。そんな女の子が男子に頼んでという線は?


「意地悪されたことはないよ。うちのクラス、いじめとかないし」

「そっか。それじゃ、カンナちゃんのことを好きな男の子は?」


 動機として一番ありそうなのはやきもちだと思うんだよなぁ。 

 自分がチョコをもらえないと思って……。


「えーっ! そんなの分かんないよ」

「カン子さん、モテるからね」


 リンちゃんがからかうように言う。

 確かにモテそう。目鼻立ちがはっきりした美人だし、明るくて華があるし。


「そんなことないよぉ」

「この中なら……ハヤテかな。カンナと仲良いよね」

「リンだってハヤテと仲いいじゃん」

「じゃぁ、強いて言えばハヤテくん、って感じね。ちょっと動機としては弱いかな……」


 メモを取りながら考え込んでしまう。


 有力なのはタケシ君が自分でも気づかないうちにやっちゃった説かな。

 机の近くにいたという証言もあるし、リンちゃんが言う通り、走って通った時につぶしちゃったのなら筋は通る。

 あとはハヤテ君か。

 隣の席で仲が良いなら、カンナちゃんのことが気になっていてバッグの中を覗いた時につぶしちゃった、とか。

 どっちにしても、わざと意地悪してやった感じはしないなぁ。


「んー、決め手に欠けるー」

 両手を上に伸ばし、ソファーの背にもたれ掛かった。


 あ、そうだ。


「ねぇ、最後まで残っていたのって――ヒカル君だっけ。彼が出て行ってから教室に入った人はいないの?」

「それは分からないの」

「みんな校庭で遊んだり図書室に行ったりしてたからね」

「昼休みが終わって教室に帰ってきたときは、豊田先生しかいなかった」

「えっ! まさか先生が……」


 いやいやリンちゃん、あの豊田先生おとよに限ってそんなことはしない。

 わたしの担任だった先生で今も残っているのはおとよだけ。気さくなお姉さんみたいで大好きだった。

 それに、そもそも先生がそんなことをするはずがないっしょ。


「うーん。最後に一人で教室にいたヒカル君も怪しいけれど、やっぱりタケシ君かハヤテ君のどちらかって気がするな」


 カンナちゃんたちの話を聞いただけじゃ、一人には絞り込めない。


「おじぃはどうなの?」

「だからぁ、いつも言うように――」

「ハイハイ、そのくだりはもういいから」


 おじさんの不平は強制終了。


「で、どうなのよ」

 三人の視線が集まった。



「一人だけ嘘をついている、だと思うよ」

「ほんと!? おじさん分かったの?」

「おじぃ、教えてよ」


 嘘をついてる? なんでそんなことが分かるの?


「なんで嘘だと分かるかっていうと、先月に学校公開へ行ったばかりだからね」


 わたしが聞こうとしていたことを先回りされた。

 それに、学校公開に行ったことが何で関係するのか、意味わかんない。


「何かムカつくぅ。またドヤ顔してるしぃ」


 テーブルに頬杖をついて、横目でおじさんを見上げる。


「それじゃ、ヒントを出すから最後まで朋華が解いてみなよ」


 椅子に座ったまま、わたしたち三人の方へおじさんがキャスターを滑らせて来た。

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