第3話氷の国の闘い

慎太郎は、宗幸と小太郎の到着を待っている。

自分だけでも、確実に倒せる相手ではあるが、闘いの最中に、逃げ出す雑魚魔が、必ず出ると考えている。

その雑魚魔共を取り逃がしてはいけない。

禍根を残さないための万全の布陣を敷きたかった。

魔将軍ヒトデナシなど、慎太郎の敵ではない。

しかし、ヒトデナシと8体の妖魔との闘いで、その他の雑魚魔までとなると、どうしても撃ちもらしが出るという計算。

『宗さん小太さん、

 その雑魚魔をすべて、ご両

 所にお任せしたいのですが。』

宗幸と小太郎、これまでの闘いでも、そうしてきた実績がある。

もちろんのこと否やはない。

『ただ今回は、10万雑魚魔を超える大軍団と思って差し支えないでしょう。』

慎太郎の言葉にも、宗幸の眉がピクリと動いただけであった。

宗幸と小太郎にとっては、少し遣り甲斐が増えたという程度のことなのだ。

翌日、慎太郎・宗幸・小太郎の3人は、日本忍軍を率いてミールダルスヨークトル氷河に向かった。

『慎太郎殿・・・

 なんとも、ヘンテコリンな火

 山ですなぁ。』

たしかに、日本人にとっては、山体が見えていない火山は珍しい。

慎太郎が、真言を唱え始めると、雑魚魔が見えてきた。

すでに、かなりの数の雑魚魔がうろついている。

今回戦うのは、慎太郎と宗幸と小太郎の3人だけである。

これは、慎太郎の判断。

魔将軍ヒトデナシ及び8体の妖魔については、慎太郎1人でこと足りるが、戦闘の荒れた状況下で逃げ出す雑魚魔に対応仕切れる数ではない予想。

どうやら、その慎太郎の予想が適中したようだ。

戦闘前から火山の中から溢れ出ている雑魚魔までいるとは、慎太郎の予想より多い。

慎太郎達3人の後ろにいた雅が、羽織っている羽衣をフワリと振ると、とてつもない光が辺りを包み、光が和らいだ時にはすべての雑魚魔が、消滅していた。

雅の光、かなりのパワー。

霧隠慎太郎に嫁いで、霧隠雅となった、紛れもない日本忍者の棟梁の妻、奥方様である。

そぬ技を使えるのは、容易に想像がつく。

たしかに、想像はつくのだが、

宗幸と小太郎にしてみれば、雅の技は、あまりにも強力過ぎるのだ。

いくら霧隠の名前を名乗っていても、雅は女の子なのである。

まだ16歳になったばかりの女の子なのだ。

『はからずも、4人になっちゃ

 いましたが。』

そう、いくらなんでも雅を帰国させるわけにはいかない。

ただ、慎太郎としては、雅を危険に晒したくはないと同時に、雅の荒々しい戦闘モードの姿を見たくない。

『あまり強くなられると、先々、尻に敷かれる立場としてはなぁ。』

かなり馬鹿な心配をしている。

戦闘に入ると、実際には雑魚魔に対して、雅の羽衣が振り捲られて、10万匹の雑魚魔があっという間に消滅していく。

8体の妖魔は、宗幸と小太郎が4体づつ倒したため、慎太郎は悪魔将軍ヒトデナシとの一騎討ちになってしまった。

当然ながら、宗幸と小太郎と雅は、悪魔将軍ヒトデナシの断末魔の咆哮しか聞いていない。

慎太郎は、人差し指を少し動かしただけだ。

4人と悪魔将軍の軍団との戦闘は、数秒で終わってしまった。

『慎太郎殿は、何かされましたか。』

宗幸と小太郎が気付けないほどの早業だったということと思っているが。

実際は、慎太郎は1歩も動いてないので、気付くわけはない。

『ちゃんと動かしましたよ。

人差し指。』

と答えた慎太郎に、宗幸と小太郎と雅までもが呆れてしまった。

悪魔将軍と言えば、悪魔軍団のトップクラスに君臨するはずの実力であると思われる。

それを、人差し指を少し動かしただけで消滅させてしまった。

まったく、慎太郎殿はどこまで進化するのでしょうねぇ。

皆の共通の疑問となっている。

慎太郎にしてみれば、進化しているわけではなく、大日如来の力を少しずつ出しているだけのことなのだが。

『何はともあれ、帰りましょう、我々の龍門館へ、』

雅の言葉に頷く慎太郎と宗幸と小太郎。

まるで雅が。この4人のリーダーのようになっている。

慎太郎が。天空に向かって真言を唱えて虹の架け橋を作った。

時を同じくして雅が羽衣をフワっと翻した。

いつものゴンドラが虹の架け橋に準備された。

数分後、4人を乗せたゴンドラは、虹の架け橋を渡って龍門館の城門に着いた。

天守の前では、いつものように戸澤白雲斎が待っている。

しばらくは、平和な日々になりそうだった。

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霧隠慎太郎 氷の国 近衛源二郎 @Tanukioyaji

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