老人、卵から生まれる

幾分か掛けて落ち着きを取り戻した老人


自身が入っていたのは最初、牢屋かなにかだと思っていたのだが


「卵…じゃったとは…」


両手両足を縛られていた感覚は?

卵にある膜が行動を制御していた為に、自由に動かすことが出来なかったのだ


重りだと思っていたのは膜であったのだろうと、毛むくじゃらの老人は思えた


「儂、どんな格好じゃろ?」


水辺があれば反射して顔を確認できるが、地面に溜まるは血の池だ


濁りすぎて反射どころではない


とりあえず老人は、視界から身体を認識していく


毛むくじゃらなのは相変わらず、二本脚で立ち、足の指先は前に三本、後ろに1本と少し太めの鳥のような形をしていた


そこから発達した脚の筋肉があり、異常にでかいイチモツ、割れたシックスパック、筋肉で盛り上がる胸部、ラグビー選手御用達の太い首


背中を見ると、黒いコウモリのような羽が小さく2つと、悪魔のようなしっぽが確認できた


頭部を触って確かめてみる

彫りの深い顔らしく、触れば触るほどヨーロッパ系30代を思わせるような顔つきだとわかった


だが、頭から生えた角だけは、ここが異世界だと認識せざるを得なかった


異様にねじれ曲った太い角が、人外であることを認識させられた老人にとって、まず初めに出た言葉が


「儂じゃないじゃん!!」




────────────────────


肉塊に溢れた血の池を散歩していた老人は、この世界がどのような環境なのかを推測し始める


「太陽は見えるのじゃが……何故ふたつあるんじゃろ?そぃで、周りを見渡すと、じゃ…地面は舗装されておらず…真っ赤じゃな。赤土だと思いたいのじゃが、所々に骨が見えるところ血で染ったんじゃろなぁ……」


地面に関しては兼兼正解であり、この土地周辺では頻繁に、魔物と人間たちの戦争が繰り広げられていたのだった


それも知る由もなく、老人は歩き続け、転機が訪れるのを待った





そして、機会が訪れた

も訪れた


「な、なんじゃありゃ!?儂の知っとるとはかけ離れとるぞ!?」


赤い地面を掘り起こすように、大蛇のような機械は老人のいる場所から離れたところで掘り進んでいた


大蛇機械はそのまま老人の前に来た


「儂、食われてお陀仏か」


そう呟いた時、大蛇機械は止まり、老人を見つめる


「ナンダ、オ前?」


「いやこっちのセリフじゃろ、何をどうすればそんなかっこいい姿になれるんじゃ」


老人のセンスは子供感覚であった

超巨大合体ロボや、宇宙に浮かぶ戦艦などを見ていると興奮するタイプてある


それを聞いた大蛇機械が気を良くしたのか、嬉嬉として自身のボディについて説明しだす


「あんたには分かるのか!?他の連中は俺のこのかっこよさがわかってなくてよ…それでこの頭部から説明するとよ────」


流暢に話し始めた大蛇機械の話は数刻消し去った



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「あのおじいちゃんと連絡を…いやいや!座標すら掴めてないのに!」


「…何を慌てている女神よ」


「うっさい死神!!いつも喋らないで帰っちゃうくせに!」


「いやな…私もあの老人が気にかかるのだ」


「気にかけるポイントなんてあった?」


「多数」


「あっそ、というよりおじいちゃんどこいったの!」


「…知らん、適当に世界に繋がる扉を開いた迄だ」


「そこんとこ本当、仕事が雑だよね死神さんとこは!」


「よく言われる」


「じゃあ治せー!」


「…わかった」


死神は女神に促され、繋げた世界側の、開いた扉の座標を検索し始める


「どれくらい?」


「…少し待て…、……、…出たぞ」


死神は女神に座標を示した


「…って!ちょっと!!ここ!私じゃおじいちゃんと会話できないエリアじゃん!」


「…堕ちれば可能では?」


「誰が堕ちるかバカー!!あーもう!聖典協会にリンク繋げて確保させる…?それじゃダメじゃん…身勝手な連中ばかりだから独断で殺してしまうし…あ、そうだ」


「?、何をする気だ女神?」


「成り立ての神の使徒ちゃんに、啓示として使命渡したら聖典協会も目を瞑るかなーって、まぁやるけど」


そして女神は、どこから出したのか壁に貼り付けるタイプの、天井の電灯を付けるようなスイッチを、下にスライドさせる


「“使徒よ…聞こえますか?私はアテン女神です…あなたに啓示を送ります“」


「啓司の無駄使いだな…」


死神の呟きに女神はキッと睨みつけ、話を続けた


「“魔物と人間の戦争が起きる場所、コンブス平野に現れた身長200cm、体重100kg、毛むくじゃらで筋肉マッチョの悪魔みたいなやつを確保、保護しなさい“」


「説明が威厳無さすぎて、神もクソももないな」


女神、二度目のキッ


「“その魔物みたいな男を保護したらすぐさま隠し、時が満ちるまで待ちなさい…そうすれば天から降る子が世界を救うでしょう“」


「…見事な謳い文句だな、世界なんざ救ったことの無いキャリアを持つ女神が」


「横からうっさいんじゃボケー!!」


啓示が終わった女神は、死神にドロップキックをかます


しかし、少女という背の低さ、容姿の小ささからか、死神は片手で女神両足を掴む


その衝撃波は死神を過ぎて床を崩壊させた


「良いドロップキックだ、光る暴力の女神と言われるだけはあるな」


「うっさいうっさい!!」


死神は片手を離し、女神は宙返りで地面に着地する


「しかし、だな…少女の姿が嫌だと思って、見た目身長体重容姿全てを変えるのは些かどうか」


「こんなツルペタチビロリボティなんて、神って言うより子供のままごとだと思われるでしょ?」


「…いつか反乱が起きかねんぞ」


「…前みたいに星諸共爆発させたら解決じゃない?」


「私たちの仕事を増やすのはやめろ」


話し込んでいる間に、崩壊した白い床は時間が戻るように修復された


「…便利な部屋だな、少し居座らせてもらおうか」


「ぶぶ漬けだすよ?」


「ご丁寧に飯まで食わせてもらえるとはな」


死神に日本の京都伝統である、『帰れ!』は通用しなかったようだ



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


悪魔の化け物の形をした老人は途方に暮れていた


「腹減ったー…飯ー…」


血の池は既に見えなくなるほど遠く、老人の体力だけを消耗し始めていた



「なぁーんで…儂はあのに運んでもらわんかったんじゃろうなぁ…」


大蛇機械との話は盛り上がり、老人はこの場所がなんであるか、どこに街があるかを聞き出したのだが、大蛇機械は別方向に行くと言ってその場で別れたのだ


「コンブス平原のぅ…少し行けば魔物が集う街があるとは言っておったが…」


その“少し“が長すぎたのだ


行けども行けども、血肉に染った赤土だらけ

街の“ま“の字すら出てこず、老人は心底くたびれていた



「どうやら…幻覚が見え始めたようじゃな…」


老人の視界には一筋の光が急接近しており、それを流れ星かなにかと勘違いしていた


「昼間でも星を見よった兵士たちはおったが…こんな感じなんじゃろうなぁ」


推測は違うが、実在はする


「なんじゃ、目の前に止まりおった」


「初めまして黒の悪魔よ、あなたを確保しに参りました、神アテンの使徒・宵月と申します」


「なんじゃその駆逐艦の名前、それに多分人違いじゃろ」


光の正体は女性だったようで、老人の返答を聞いて驚愕した


「……え、ええ!?そ、そんなこと言わないでくださいよ!聖典協会にバレずに確保してくださいって言われてここまで来たのに!」


「変な宗教に入ってるからそんなことになるんじゃぞ?しかし、じゃ…誰にそんなこと言われたのじゃ?」


「いやですから、女神アテンですよ黒の悪魔よ」


「その黒の悪魔とか言うのやめて貰えぬか?」


「では黒いの」


「違うわ、そうではない」


「まぁどうでもいいです、女神アテンによると身長200cm体重100kgの筋肉モリモリマッチョと申しておりましたが…」


「完全に人違いではないか、100kgなんぞ相当のデブではないといかんじゃろ」


「確かに…で、ですが!」


「ならその女神アテンとかいう、阿呆なことぬかす女の容姿はどんなじゃ?」


「あ、阿呆…え、ええとですね──」


神の使徒は女神アテンの容姿を説明する


「やっぱ違う奴じゃろ、諦めて帰りなさんな」


「そ、そんな…ですが、神の啓示は絶対なのです!もういいです!あなたでいいです!」


「ちょっと強引すぎではないかの?」


「有無は言わさせません!強制連行します!」


「最初と言っとること違うではないか」


「問答無用!抵抗すればそれ相応の覚悟をしてください!!」


「わかった抵抗はせん、暴力は何も産まんぞい」


「悪魔にそんなこと言われると、なんだかこちらが悪い気がしてきます」


「なんなんじゃお前さんは」




老人は無抵抗のまま真っ白の石のような手錠を付けさせられ、神の使徒について行く


「あぁ…街の様子も見たかったものじゃ」


「あ、なら行きます?すぐそこですし」


と、神の使徒は老人の向かう先とはまた別方向を指さした


「……」


「あなた、至上まれに見ない究極の方向音痴でしょう?」


「何も言い返せんがの、言い過ぎではないか?」


「いえ、絶対そうですあなたは究極の方向音痴です」


「勘弁してくれんかの…」


「至上まれに見ない究極の方向音痴黒い悪魔物」


「変なあだ名みたいにするのやめんか阿呆」


「あー!いまアホって言いましたね!聞こえましたよ!強そうな見た目の分際でおじいちゃん言葉使って!」


「何を言うか若もんが!こんなもん飾りに過ぎんわ!」


「えぇ…鍛え上げた筋肉を飾り物扱いする人初めて見ました」


老人が生まれた時から付属していた筋肉おまけなので、老人にしてみれば飾り同然に過ぎないのは確かか


「のぅ、そういえばお主は人間じゃろ?魔物の街なんぞに出向いても良いのか?」


「私は大丈夫なのです、神の使徒と名乗れば9割は襲ってきますが、1割は物分りの良い襲撃が来る程度なので」



「結局襲ってくるんじゃの」


「ですからあなたが守ってください」


「嫌じゃ、面倒な」


「じゃあ頼りません、姿かたち変えてあなたについて行きます」


「…今の会話必要じゃったかの?」


「今から変身しますので、あまり見すぎると痛い目にあいますよ?」


「《なちゅらる》に無視するでない」


老人の言葉を無視して神の使徒は輝き始める


「ギャァァアア!目がァァ!!」


「だから見てるとダメですよと言ったではないですか」


「お主の変身が早いんじゃ!」


「目を塞ぐのが遅いあなたが悪いんです」


「なんとも理不尽な…終わったかの?」


老人は光でホワイトアウトした視界を、別の方向を見ながら徐々に慣らしていく


「いいですよ」


「うむ、わかっ……ギャァァアア!眩しいんじゃー!」


「ふふー!引っかかりましたね黒の悪魔よ!ざまぁ!」


「こ…んのクソガキめ!こちらが下手に出たら好き放題しおって!堪忍の緒が切れたわ!そこへ直れぃ!」


「ひゃ、ひゃい!」


神の使徒は老人の叱咤に驚き、光りながら姿勢を正す


「ちょ、ま、待たんか、光るのをやめんか!」


「あと数分かかりますね」


「一体なんの魔物になろうとしておるんじゃ!?」


「大蛇の機械あたりを…」


「でじゃぶじゃ!数刻前にそんなやつに会ったぞい!?」


「あ、じゃあ変えます。あなたも見たことない魔物なら私だと間違えることは無いでしょう?」


「もうなんでも良いから!眩しいのを止めんか!」


「ちなみに光の発行時間の長さによって強さが変わりますので」


「さっきのは数分と言っておたのー…強いのか?」


老人は目を瞑りながら、発光し続ける神の使徒を待つ


「いえ、下の上当たりですね」


「お主が弱いのが原因ではないかの?」


「…では変身終わりますねー」


「唐突な話題変えは図星じゃぞ?」


光が消えゆくのがわかり、老人は目を見開く


「おー、角以外は普通の白馬じゃの」


「ユニコーンですよ?ご存知無いのですか?」


「前居た職場の若いもんから聞いたことあるのじゃが、多分違うのぅ」


「ほほう、そいつはどんな姿してましたか?」


「ろぼっとじゃったな、手のひらサイズの」


「なんですかそれ」


「話を聞くとそのろぼっとは、宇宙を駆け巡り敵を殺していくとか言っておったぞ」


「ユニコーンはそんなこと出来ませんからね!?」


「んな事儂の知ったことじゃない、そぃで?その馬で、宇宙とは行かず空から行くのかの?」


「羽生えてるユニコーンもいますけど…この平野は上空より、地面にいる魔物の方が弱いので突っ走りますよ」


「うむ、わかった…乗せてくれんのか?」


老人の疑問に、神の使徒は馬面のまま嫌そうな顔をする


「初対面でぇ…阿呆と言った老人言葉喋る至上まれに見ない究極の方向音痴黒魔物さんを背中に乗せるとか有り得ます?」


「おっけーということじゃな!?」


「ダメって言ってるんですよ!純情な乙女の背中に乗るとか頭おかしいんじゃないですか!?」


「じゃからユニコーンなのか!?」


「そうで…ば!何言わせる気ですか!私は処女じゃありませんからね!」


「言っておるのではないか」


「はっ!これがいわゆる誘導尋問と言うやつですか!」


「知らん、はよぅ乗せんか」


「えぇ…まだ粘ります?一般的な紳士男性なら普通気を使って歩くとかしますけどね」


「わしは年寄りじゃぞ、いたわらんか馬面」


「馬面って!あ、そういえば馬でしたね」


神の使徒兼、処女馬ユニコーンは渋々ながらも老人を背中に乗せる


「私の初めてをこんな変な人なんかに…!」


「良かったのぅ儂で」


「どこかです!?」


「お主のまなこから反射して儂の姿を確認したが、なかなかイケてたじゃろ?白馬の王子というものじゃ、外観悪くなかろう」


「ぐぬぬ…意義は唱えませんが悔しいですね」


「思ってはおるんじゃの」


「当たり前です!何が楽しくて年寄りの介護みたいなこと、しなければならないんですか!」


「なっ、年寄りじゃとぉ!?これでも昔はモテてハレームしておったんじゃからな!」


「ハレームってなんですか!ハーレムでしょう!しかもそれだと女をとっかえひっかえしてる様にも聞こえますが!?」


「……儂のタイプじゃなかった」


「それいう人、大概ろくでなしですよ?」


「…えぇい黙らんか!さっさと走れぇい!」


老人は両足を処女馬の横腹に蹴りを入れる


「んぎぃ!痛いじゃないですか!」


「馬はこれで走るのじゃ!」


「確かにそうですけど!?私は元々人間ですからね?!」


「はよぅ走らんか!また蹴るぞぃ!!」


「横暴な騎手は振り落としますよ!」


「フンッ!」


またもや横腹に蹴りを入れる老人


「ンギャッ!もー怒りました!!街に着いたらすぐ下ろさせます!!」


「あ、乗せてってはくれるんじゃな」


「確保、保護が私の務めですから!行きますよ!」


神の使徒兼処女馬は屈撓し、1馬力の速度で走った



「馬だけに、1馬力と」


「黙ってないと舌噛みますよ!私が!あなたに!」


「物騒なことを言うおなごじゃな」


────────────────────


待につき、振り落とされた老人は体の状態を確認する


「いちち…やってくれおったな処女馬め」


処女馬兼神の使徒は姿を変え、獣の耳が生えた正体の姿をとる


「その言い方だと私が処女みたいなのでやめてくれません?」


「事実処女じゃろ」


「う〜っ!処女処女うるさいんですよ!童貞よりましです!こちらには希少価値があるんですよ!」


「童貞の雄にレイプされないよう気をつけるんじゃぞ〜!」


「何両手振って逃げようとしてるんですか、街を案内しますから、終わったら私の家に来てもらいますよ!」


老人が逃げたところで手錠を外せるとは到底思えないが、保険として手錠の間に繋いだ鎖を引っ張る獣耳少女兼処女馬兼神の使徒(笑)


「私の肩書き長く感じました」


「なんの話しじゃ?」


「…とにかく行きましょう、まずは役所ですね」


「目の前にあるのがそうなのかぃ?」


街の出入口にある付近に役所があった


「…なぜこんなとこにあるんじゃ?」


「そりゃ防衛目的もありますからね」


「…いやおかしくないかの!?普通じゃったら街の中心部にあるもんじゃろ!攻められて機能せんかったらどうするんじゃ?!」


「何言ってるんですか、こんな平和な街にそんなことあるわけないでしょう?やだもーおかしいなぁ」


「街の入口と悪さするヤツらがうようよするような境界にある方がおかしいんじゃ!」


「え〜…?あなたどんなとこに住んで────」


ドガン!

と響き渡り、音のする方向を見た老人と獣耳少女は唖然とした


魔物が役所を崩壊する途中だった

火薬を用いて

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