第16話 多分とか、かもしれないとか。


「おーらい、おーらい」


左腕を大きく上げ、フライを捕球。審判にしっかりとキャッチしたのを確認させ、グラブを外して、左腕でボールを取ってホームへ送球。


「キャッチ、タイムは?」

「捕球から送球までに3秒、送球からホームまでストライク送球で8秒。計11秒です」

「うーん、あと1秒の壁がでかいねぇ」


石川、鬼道との3人での送球練習。

小中6年間と夏の甲子園外野を守っていた石川のアドバイスと、捕球とフライ打ち担当の鬼道、そして、完治まで残り2か月(予定)の俺。


「いや、ノーバンでホームまで届いてストライク送球ならよすぎるくらいだよ」

「あ、わりい嫌味に聞こえたか」

「ううん、僕なんかより全然すごいからさ」

「もっとこう、素早く外してから投げれねーかな、捕球から送球までで1秒短縮したいんだが」

「もう少し低い位置から投げてみるのはどうかな、取って、キャッチアピールしながら走って、手を抜いてから取って。さっきより早く投げる」

「低く勢いつけて投げる、かぁ。やってみるか」


「鬼道くーん! もっかい!!」


グラブをはめ直し大きくホームに向かって手を振る。


「高くとって、そのまま審判にボールを見せるようにして」

「大丈夫、そのまま!」

「右手の親指と人差し指だけでグラブを外して、抜いたときにボールを拾って、そのままの姿勢をギリギリまで低く保って。ホームへ放る!」


さっきまでよりポイントの低くそれでいて速度の出たボールは、一直線にホームへと刺さった。


「キャッチ、タイム!」

「すごい、すごいよ辻本君。2秒も短縮されてるよ!」

「石川のアドバイスがいいおかげだよ、おかげでいいルートが見つかった」

「そんなことないよ、僕が居なくても辻本君なら思いついてたよ」

「でも、今日中には無理だったろうからな。はー、疲れたそろそろ暗いし今日は終わりにしよう」

「そうだね、大会前に見つけられてよかった」


といっても、地区大会のオーダーはもうほぼ確定で。

1番石川センター

2番鹿島レフト

3番和田野セカンド

4番俺ショート

5番鬼道キャッチャー

6番桐生ファースト

7番瀬良サード

8番桜屋ライト

9番山下ピッチャー


といった感じなわけで。

上位陣を一新し、3番までにワンヒット打てれば五分で1点が入る機動力重視のオーダーになっていた。

チャンスどうこう以前に打てていないキャプテンが考えたオーダーなのだが、そもそも、プレッシャーにまけてるんだよなぁ、新キャップは。


「ま、大会自体は何とでもなるでしょ」

「大丈夫かな、瀬良先輩」

「へーきへーき、勝負は時の運。女神がほほ笑んだ方に分があるもんだから」



「ただいま」

「お帰りなさい、お兄ちゃん」


帰宅後、いつものように万遍の笑みで迎えてくれた輝石の頭を撫でる。

もっとも今日退院したばかりであまり気は抜けないが。


「毎日毎日出迎えしてくれてありがとうな、輝石」

「私が好きでやってるんだから大丈夫だよ」


輝石にバックを取られリビングの方に向かった。


「あら、お帰りなさい」

「翡翠、医者はなんだって?」

「良好ですって」

「そうか、ならいいんだが」

「あなたが心配することでもないでしょう?」

「俺は一応、お前らの保護者なんだよ。それにかわいい妹を心配すんのは当たり前だろう」

「えへへ、可愛いって言われちゃった」


照れる、輝石を横目に部屋の中をあちこち見回ると、琥珀が家にいないことに気が付く。


「琥珀の奴は?」

「今日はピアノよ」

「あ、なるほど。器用だな」

「私は弓道、輝石はバイオリン、琥珀はピアノ」

「お前だけ毛色が違うんだよ、殺意が高い」


3人ともその手の業界では有名な人物で、知らない物はほとんどいない大物若手として有名である。


「明日の試合、私見に行くね」

「どの道俺は朝早くから出ていくけどな」

「また配達のバイト? 大変ねあんたも」

「そういうもんだ、俺も元々1人暮らししてたわけだしな。バイトしないと生活できないし」

「えっ、私達は毎月仕送り来てるけど、、、」


毎日毎日、バイトのフリをして和田野の店の手伝いをしてるのはいまだに言っていないのだが。まあこう、朝早く出て行って、夜には菜月の練習に付き合って夜遅く帰ってきて。

なんか、俺の生活ってブラック企業勤めのサラリーマンみたいだな。


「あっ、いやな。俺も仕送りは来てるけど野球道具の方に消えちゃうんだよ」

「グラブとか、バットとか。そんなにコロコロ変わってるイメージないんだけど」

「いや、甲子園でな。大分バット折っちゃったし」

「木製ってそんなに高いものなの?」

「いやぁ、1本あたり数十万とかするの使ってるしな」


つい最近、200万くらい散財した覚えあるけど、義父おやじ名義のカードで。


「ま、そんな気にすんなって。俺は風呂入って寝るから先に失礼するわ」

「うん、お休みお兄ちゃん」

「おやすみ」



「いよっ日本一」

「うるせぇ」


3回までに5失点、こっちは3点取って2点差のまま試合は進んでいる。


「キャプテン、代える?」

「いや、このまま山下で行こう」

「了解、じゃあキャッチャーだけ代わってもいい?」

「別にいいが、誰とだ?」

「俺、俺」

「待て待て、別にいいが経験あるのか?」

「サード以外はバッチ問題ナッシング」


グっと親指を立ててアピールすると、キャプテン瀬良は小さく頷いた。


「そうだな、捕手交代で。桐生はショート、鬼道はファーストで行こう」

「はい!!」


4回の表、先攻のうちの打順は6番の桐生から。


「いやー、久しぶりだなぁ。防具着けるの」

「はぁ、正捕手はずっと取れると思ってたんだがな」

「リードがいまいちかなぁ、俺は自分の好きに投げるタイプだからあれだけど。

いまは捕球よりリードの方が難ありだから、そっちの勉強だね。経験はないわけだから」

「まぁ、ほとんど高校入ってからの初心者だからな」

「ステータスが捕球と打撃寄り過ぎるのだよ君は、キャッチャー得能は絶対取ろうね捕手諸君!!」

「誰に言ってんだ」

「どっちかっていうとファーストから捕手転校して、赤得になってそう」

「だから何の話だ!!」

「1試合1試合、それ毎に力を付ければいいんだよ鬼道くんは、まだあと2年も、大会計算なら3回もあるんだから」

「あぁ、そうかい」


「ストライー、バッターアウト! チェンジ」


「今は何より、あの投手を攻略する方に集中してください」


試合始まっての北斎の3得点は初回にヒットを打った和田野を俺がホームランで帰した2点と、第2打席のソロホームランのみで。

下位上位共に打席が振るわない状態になっていた。

TASさんか俺は。


「審判! 守備交代。ファースト鬼道、ショート桐生、そしてキャッチャー辻本に交代で」


こうしてマスクを付けるのは何年ぶりだろうか、まだ治りかけの右腕にグローブをはめ、球審の前に立つ。


「内外野下がって下がってー、多分打たせて取るからねー」

「多分てなんだ! 多分て!」


だって、今の山下くんの出来がわからないんだものしょうがないじゃない。

頑張れ! 軟投派剛腕ピッチャー!。


あっちの打線は投手力重視で、4番でエースのなんとか君以外は警戒する必要がそんなにないのだが。

フォアボールの連発で失点を重ね5失点、相方に運がない山下には悪いが、ご愁傷さまです。

防御率は秋大会も5点台キープかな(ほっこり)。


打順良く1番から始まった4回裏の守り。

3巡目の先頭打者はそろそろ打球に目がなれる頃合いだろうか。


「あっ、サイン決めてない」


1球目真ん中低めに構えると、その位置に山下はそのままスライダーを放った。


「ストライック!」


毎回思う、どうしてこう高校野球の球審はテンション高いの。

2球目、ど真ん中に構えると、今度は真ん中から低めに落ちるフォークが飛んできた。


「ストライクツー!」


そして最後はインハイギリギリに構え、投げる方の判断はストレート。


「セカンッ!」


バットの根本鈍い金属の音を立てて、バットに当たったボールはセカンド前方へふらふらと上がり、和田野がしっかりと取ってワンナウト。


「くはっ、これはキャッチャーってしんどいわ、腰と精神面が」


キャッチャーマスクは結構蒸れるし、夏はやりたくないなぁここのポジション。


「ワンナウトワンナウト! しまってこー」


あと、普段やらないこういう声出しがめんどくさい、鬼道くんは普段からこういうことやってないからなぁ、士気も下がるよなぁ。

まぁでも、なんでか知らないけど、山下くんはカーブは使ってないからなぁ、なんでなんだろ、肩の事気にしてなら一番負担がかかるのはフォークだし。


「ストライク、バッターアウト。チェンジ!」

「あっ、考え事してたら終わった」


「お兄ちゃーん、頑張って!」

「おう、暇そうで何より」


輝石は体調の問題で甲子園は球場観戦ではなく、宿泊していたホテルで観戦していたそうだが、秋大会は夏より涼しいおかげか、退院直後だが直に見に行けると本人は喜んでいた。


「また入院とかしなきゃいいんだがな」

「輝石ちゃん?」

「えぇ、なんか最近体調悪そうなんすよね、いまは元気だけど」

「まぁ、今は試合に集中しなさい、守備の方は何とかなりそうなんだから」

「ですね、早くあっちの投手攻略しないと」

「流石に名門は違うわね」

「いやいや、甲子園優勝校が言っても皮肉にしかならないですよ」


地区大会1回戦は相手が悪く、関東地区最強と名高い神奈川中央高校。

先発右腕の内川が投げる変化球スライダーとチェンジアップ、そしてスラーブとカーブの斜め2球種と、アンダースローというくせ者に手玉に取られていた。


「ストレートは130後半程度なんですけどね」

「何より変化球の方が厄介ね」

「山下君ちょっとちょっと」

「なんだ」

「打つならストレートかチェンジアップね」

「あほか、プロ野球の投手並みの打撃力の俺に言うな」

「外野前に打つくらいなら出来んでしょ」

「期待はすんなよ」


中学時代は打撃の方もよかったはずの山下は夏の甲子園から凡退続きで、10打席2安打のみ。


「どうして打つならストレートとチェンジアップなのかしら?」

「知ってます? あの先発の変化球キレがいいですよね」

「だからこそ、いま私たちが苦労してるんじゃない」

「じゃあ、そのキレのいい変化球のストライク率と、決め球に使ってくる確率は?」

「えっ?」

「俺がホームラン打った2打席打った球種知ってます?」

「1打席目は2塁にいたからわかるけど、ストレートだったわね」


そう、2打席両方ともツーストライクまで追い込まれ際どい変化球はカットし、ツースリーからはボール球にも手を出し、両方とも10球以上投げさせた打席だった。

そして、最後の1球、バッテリーも苦渋の決断だったであろうストレートを完璧にとらえ、2打席ともにホームランになった。

付け加えていうなら他連中は追い込まれてから変化球を試すように投げられそのまま三振したものもいれば、俺がホームランを打ったツースリーの場面から何が来るか迷った末に直球又はチェンジアップによって仕留められていた。


「そっ、2球目も直球。他の連中もほとんどそうですよ。和田野先輩は内野ゴロでしたけど」

「私は甘めの変化球を捉えてそのまま持ってけただけよ」

「そう、それが効いたおかげで奴らは更にストライクゾーンに変化球を入れずらくなった」

「2打席目はもっと楽だったってこと?」

「そうですね、まあ、変化球はサクッと打てるんで甘めの奴を思いっきり振ってもいいんですけど。相手の短所は治るまでつついてやらないとね」


そう言った瞬間、金属バットの音が球場へ響き、グラウンドを見るとボールはライト前へのヒットになった。


「いい銃は使い手を選ぶ、野球でもそうですよ、身の丈に合わない獲物は手に余る」

「つまり、全くつかいこなせてないわけね彼は」

「ですです、今日はこのまま行っちゃいましょ」

「そうね、上手くいけばいいけど」


しかし、続く石川のセンターフライ、鹿島がサードゴロのゲッツー逃れで凡退。和田野がフォアボールで出塁し、ランナー1.2塁。


3度目の打席が回って来た時点で、ヒットは和田野の2本と俺の本塁打2本の計4本。

他は出塁してもフォアボールで後が続かず。


「タイム!」


いざ打席に立とうという場面で、相手チームよキャッチャーがタイムを出しマウンドへ向かう。


「なーんか、今気がついたけどフォアボール連発同士のクソ試合になってる、もっともあっちは抑えられてるんだけど」


まだ切り札も、出てきてないみたいだし?。


「内川、こいつ相手だ。3打席も連発されたんじゃ野手陣と監督に面目が立たん。あれをやるぞ」

「っ、はい」


覚悟を決めたような表情で捕手が戻ってくる、これ打ったらいよいよ見れるかなぁ切り札。


「待たせて悪かったな、ここからは本気で行きたいそうだ」

「ふーん、まぁ見たかったしちょうどいいかな」


「神奈川中央には変化球型のサイドスローの1年生がいるぞ」と有名スカウトの大瀬良さんが言っていたのだが、誰なんだろうか。

今日のオーダーには1年生は投手の内川と内野にいる小島とのみ、これあれか、小島君は二刀流なのか。


「プレイ」


プレイの合図が聞こえるも、ぼけっとしていたため内川が投球動作に入っていることに気が付いていなかったのだが、次の瞬間、度肝を抜かれるほどの球が内角を突いてきた。


「ストライク!」

「あ、今もしかしてサイドスローでした?」


140程度だろうか、内角に鋭く食い込む高速シュートに思わず身をのけ反らせてしまった。


「シュート? まぁデータにはなかったけど打てない球ではないな。シュート回転の160に比べればなんとか、いやでもそれ以前にこれ以上の隠し玉がないことを祈って」


「来た球にただ合わせる!」


カンッと鈍い木製バットの音を響かせ、ボールはバックネットへ一直線。


「うし、目で追えてるからあとは打つのみ」


3球目は実際問題何の球が来てもいい、初見の球だろうが160キロの直球だろうが。


「俺には止まって見える、かもしれない」


3球目は140後半のストレート、それを完璧に捉え。

ボールはそのままスコアボードに直撃した。


「イエーイ、アイアムアダムダン!」


このスリーランホームランが決勝点になりその後の山下が7回まで完璧に抑え、8回9回をともに左腕で投げた俺が抑え。

実りの多く、そして反省点の多い試合になった。



「辻本、少しいいか」

「なんすかキャプテン」

「その、キャプテンの件なんだが。変わってもらえないだろうか」

「はぁ!?」

「元々こういうのは向いてないんだ、今日のお前みたいに冷静な判断も分析もできない」

「何言ってんすか、北斎の4番で打率1割9分2厘でチャンスにしか打てない俺らのキャプテンは瀬良さんしかいないでしょ!?」

「いや、そのの4番も今日はお前が立ってた訳だし、毎回の凡打のせいで打率はとうとう1割を切ったし。なんのフォローにもなってない気が」

「ったく、威勢がいいのは初登場の時だけか!? いろんなシリーズの書きすぎのせいでキャラ付け忘れちまったんじゃねーのか? うちの作者は」


(※忘れました、だって、瀬良さん影薄いし、また新作書き始めてるし。1話から読み直しても当時どんなキャラで作ってたか忘れたし。3日以上前の事覚えてない人に1年前の事なんて覚えてるわけないし?)


「別にいいじゃないですか、打てなくったって守れなくったって。五十嵐先輩に選ばれたのは俺でも和田野先輩でも桐生先輩でもなく、あんたなんすから」

「いやそれじゃあ、お前はよくても他の連中が納得しないだろう。なにより、お前の方が皆が納得するだろう」

「あぁ、納得はするだろうね。でも、それであんたは満足しても五十嵐先輩のメンツはどうなる。ただ荷が重いから辞めるなんて今以上にあんた自身がここに居づらくなるだけなんじゃないのか」

「もちろんそれは覚悟して―—」

「そんなくだらねぇ覚悟じゃねぇだろうがあんたがしなくちゃいけない覚悟は!!」


自分でも驚くくらい声が出た、それだけ俺からすればくだらない話だということだが。


「あんたは名目だけでも肩書だけでも甲子園優勝校北斎高校のキャプテンだろうが!! 自分に足りないもんがあるって自覚してんならそれを直す努力を少しはしろよ!。少なくとも実戦経験の少ない俺と鬼道はそうしてんだ、いい加減腹くくれよ!」

「俺は、それでもキャプテンには向いてないと思う」

「あぁ、もう。あんたには何言っても無駄か? 今この状況下で、1人でもあんたに不満を言うやつがいるかよ!。和田野先輩のとこでも行って一発殴られて来い、バカは死んでも治んねーから。

あぁーあほらし。俺は死んでもキャプテンなんぞやらん、3年になろうが何だろうがな。あーめんどくさメンヘラ気質な先輩とかやめて欲しいわ、馬に蹴られて死ねばいいのに」


そう言い放ってその場からそそくさと逃げるように去る、だって輝石をまたせてる

しぃ。野球より妹ラブだから輝石は大きくなったら俺と結婚してくれるから多分。


「ん、なんだ?」


球場から出ると外には人混みが出来ていた。


「ちょっと、誰か救急車呼んであげなよ」

「いや、大丈夫でしょ。中学生っぽいし近くに親とかいるでしょ」


「中学生?」


その言葉を聞いた時にはもう、バックを放り投げ人混みの中に飛び込んでいた。


「どいて!!」


いやな予感はいつも的中するもので、輪の中には最悪の光景が見えてしまった。


「輝石、おい、しっかりしろ! くそ、誰か輝石が倒れてどれくらいかわかる奴は?」

「えーっと、かれこれ10分くらい、、、」

「救急車は」

「呼んでません、誰も」

「クソが!!」


力いっぱいの拳を地面にたたきつけた。周囲にいた数人はビクついていたが、いまはたたきつけた拳よりも何よりも、この状況にどうしようもなく腹が立っていた。


「西野さん! 車」


輝石を担ぎ上げ、四六時中そばにいるドライバーに合図を出す、携帯は持ってなくてもなんとなく呼べば来る、それが今は果てしなく頼もしくも感じた。


すぐに来た車のドアを開け、輝石を後部座席に横に寝かせ助手席に乗り込む。


「出来るだけ急いで近くの病院に、安全運転で頼む!」

「はいっす」


「クソ、ほんとにどいつもこいつも。ふざけんなよ」

「輝石ちゃん今日は1人だったんすか?」

「それがわかんねーんだよ、なんで退院直後の輝石を1人にしやがったんだあいつら」

「いまは言ってもしかたないっす、というか。救急車居なかったんすか?」

「わからん、もうなんもわかんねーし。もう何も聞かんでくれ西野さん」

「はいっす、、」


収まらない苛立ちは、病院へ向かうまでの短い時間の中で最悪の結果ばかりを思い浮かばせる、最悪のケース。

そんなものはもう2度と経験したくない。

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