第11話 ライバル
怪我の巧妙かその後のピッチングは危なげもなく三者三振に打ち取った。
「どんまい辻本」
「すいません、ただでさえ厳しいのに」
4回裏で4点差、返せない点差じゃない。
「たく、二刀流も大概にしとけよ」
※
5回の表、桐生から始まった攻撃は、トップバッターの桐生がセーフティを決めノーアウト1塁と、運良くいい場面を迎えられた。
「打球反応は3角っと」
「何書いてんだ」
「いやね、少しでも情報を集めようと」
「もうどうしようもないと思うがな」
「ここでゲッツーにさえならなきゃ俺に回ってくる、少しくらいならチャンスはあるでしょ」
「桜屋、鹿島にバントさせるか?」
「いや下位打線で警戒されてるだろうから、2人とも打たせるよ。2人とも打てない選手じゃないし、あっちも俺には回させたくないはず、、、」
「フォアボール!!」
「歩かされたわね」
「しかも、鹿島も歩かせそうだぞ」
「てことは、俺との勝負に??」
「ランナーが居る時の打率は高い2人だしな」
「まいいか、最悪バントか犠牲フライで」
「さあ、蓮舫は桜屋、鹿島を歩かせ、ノーアウト満塁のピンチ、バッターは先ほどホームランを打たれた辻本君に回ります」
打てば同点、三振しなきゃ最低で1点。
「お兄さんと初戦の終わりに話してたんだって?」
「なんでそんなこと知ってんだ」
「哲人が言ってたんだよ、何言われてたのか知らないけど、対決することになったら全力で潰すって」
「穏やかじゃないねえ、でも、俺も負ける気はないよ」
「プレイ!」
満塁でランナーは気にしなくていい、本気で来るならセットポジションじゃ投げてこない。
初球、モーションを起こして1球目、ど真ん中のストレート、バットを振って上手く合わせて。
「ファール!!」
バックネットにボールが当たり、ファールになった。
「タイム」
ベンチに戻り、替えの木製バットに変え、再び打席へ。
「すいません、バットにヒビが入っちゃって」
「構わないよ、木製ならよくあることだしね」
1球目は芯にあてたはずなのに後ろに飛んでヒビまで入れられた、相当の球威と伸びだなこりゃあ。
2球目、内角への高速スライダーを空振りし、ノーツー。
3球目のチェンジアップをうまく打たされ、センターへの犠牲フライになりワンナウト1.2塁、点差は3点になった。
「何がしたかったんだろうな向こうさんは」
「本気の勝負を楽しみたかったんでしょうね」
「結果は負けに近い勝ちか」
「間違いなく負けですよ、俺は2点も取られてますし」
続く和田野がツーベースを放つも、1人しか帰れずワンナウト2.3塁、後の2人が三振し、チェンジになった。
「鬼道くん、交代行ける?」
「あぁ、行けるが」
「もう限界っぽいから」
「わかった」
「どういうこと?」
「1回目の暴投で怪我をこじらせたのがいるみたいで」
「ま、まだ大丈夫だよ!!」
「いや、俺も本気であいつと戦いたいんで、お願いします先輩」
「う、ごめん」
「気にしないでください、勝ちますから、絶対に」
※
キャッチャーを交代し、何事もなく試合は進んだ、次に相手バッテリーとの勝負になったのは6回の裏、ワンナウトの場面だった。
「あの2人の時はフォーム変えるからね」
「なんでまた」
「1発限りで確実に抑えられる方法があるから」
「なにで投げるんだ?」
「右のアンダー」
「あー、あれか、わかった」
「プレイ!!」
1球目、2回目の対戦になる成宮に、アンダースローからのインハイへの直球。
球速は140程度だが、コースぎりぎりを見逃してワンストライク。
2球目はボール球のスローカーブを見られワンワンの平行カウント。
「便利ですね、お宅のエースは」
「それだけ無駄な場数踏んで、怪我して。大事な試合でも万全で迎えられないあほだけどな」
「万全じゃない??」
「1試合目のデッドボール、相当悪いらしくてな」
「それは本人が?」
「いわねーよあいつは、でもな、あんたもそうかもしれないがい次回期間でも、見てればわかるんだよ、そういうのって」
「止めないんですか?」
「止めれないだろ、こんだけ頑張ってんだ、背中押すくらいじゃないとな」
「そうですか、でも、僕と彼は、リトル時代からの付き合いですから」
「そうかい」
よし、握りは完璧。粉も付けたし、暴投はない。なんかあっちで話してるけど歓声で聞こえないし。
気にしなくていいか。
「これが渾身の隠し玉、アンダーフォークじゃい」
パーンと少し軽めのミット音が響き、空振り三振に打ち取った。
「しゃあっ」
今まで甲子園で戦った連中には悪いが今1つ確信したことがある、俺は今、最高に試合を楽しめている。
最高の相手に出会えたことが、最高の試合ができてることが楽しい、これから3年間こんな奴と甲子園で戦えるなんて。
ピシっ、。
「いてっ」
「どうかしたか」
「いや、何も」
思い切り投げすぎて肘に限界が来たのか?、体に違和感はないが、なんだ、これ以上なげちゃいけない気がする。
「投げれるか?」
「うん。でも、作戦を変えよう。哲人はオーバーで、本気で戦いたいから。そんでもって次回からは左にしよう、それがいいと思う」
自分の声に生気がないように思った、まあ、まだ大丈夫。
「プレイ!!」
足の先から指先まで、神経を研ぎ澄まして、オーバーでボールを思いっきり放る。
「ストライッ!」
「辻本! エンジンが掛かってきたのかここで球速170を記録!!」
「175」
「あ、なんの事だ」
「今の球の初速、集中するために測っててな」
「冗談言えよ、メーターは170だぜ?」
「未完成の方のフォームが完成した? いや、でもな」
「早く返球してやれよ」
「ん、あぁ悪い」
170か、ここに来て本当に肩があったまって来たのかな。
まあ、いいや。なんか気分いいし、このままストレート投げよ。
「振りかぶって第2球目、投げました!。
ストライク! カウントノーツー。気になる球速は!? 176キロ! 辻本、1回戦の自己ベストを超えての最高球速更新です!」
「いまのは初速何キロだったんだ?」
「180か、それ以上。初速なんてそこまで測ったことがなくてね」
「相当無茶してんじゃないのか」
「さぁな、バッテリーっても家族じゃない。大事なことでも隠して隠されてが大半さ」
「勇敢と無謀は違うんだぜ」
「あいつがやってんのは、誰が見てもかっこいい行為じゃなく、自己満足の為の野球だよ」
3球目、元々の作戦に乗っとって、3球目は落とす球を使う。
ここは、決め球に近いナックルで。
「3球目、投げた! 落ちた、これはナックルか!? キャッチャー鬼道、しっかり取って空振り三振!! 落差60キロ! 魔球ナックルで3つ目のアウトを取って、チェンジ、今度は辻本対哲人バッテリーの勝負になります!」
「ナイスキャッチ、鬼道くん」
「そっちこそ、今までで1番の出来じゃねーか」
「うん、肩があったまってきたんだと思う」
「ならよかったわ、心配なかったな」
※
「桜屋! ナイスバッチ!! 鹿島続けよ!!」
7回の表、桜屋がうまく押っ付けてヒットを打ち、ノーアウト1塁も続く鹿島が三振、ランナーは変わらず1塁。
「辻本!! ここで同点にしとけぇ!!」
「まーかせんしゃい」
打席にバットを回しながら歩き、軽く頭を下げ、右打席に入る。
「打つ気満々ですね」
「自分で取られたぶんは自分で取り返す。そっちは日本一が見えてきて絶好調だろうけど、こちとら浮かれてる時間はないもんでね」
「それはお互い様ですよ」
「詭弁はいいから、さっさと来いよ」
「勝利の女神の微笑むままに、だね」
「そういう物言いは好きけど。まあ、神頼みは性にあわないんでね」
そらもう、先制したら全力で雨乞いはさせてもらいますけど。
追加点の可能性のあるランナーがでている場面での打席。
勝負での1球目、外に逃げる外角低めのスライダーにバットを軽く振り下ろすと、手に感触が残らないままボールを弾き、ボール消えた。
「あ、やべ、打ち損じた。そしてボールどこいった?」
「な、ナイスバッティング」
「はい?」
打った直後にボールが飛んでった方向を見ると、ライトの選手がスタンドの方を向き、唖然としている姿が見える。
その奥にはうっすらとスタンドでボールを掴んでいる人影が見えるような、見えないような。
「え、主審、これ判定は?」
「紛れもなくホームランだが?」
「ビデオ判定していいですか?」
「だめだ、さっさとホームを一周したまえ」
「あっはい」
「辻本! ここで鋭い打球がライトスタンドへ一直線! 打たれたバッテリーより、打った本人が、え? っという表情!」
歓声が湧く甲子園球場に、なぜか納得いかないまま、ホームを1周する俺。
なにしてんの本当に、日本一って割と近いんかな。
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