第6話 思い出甲子園


「登坂一成! プロ入り後6度目の完全試合達成! 2年目にして6度、この左腕は誰も止められないのかぁ!」


 合宿所にてナイター試合を観戦していると、東京ロイヤルスターズのスーパールーキー登坂一成が完全試合をやっていた。


「あーはっはっは、日本ておかしい」

「そうね、でもいつまでも投高打低が続くとも限らないわよ」

「しても金の猛者球団と言われる同じ東京の板金モーターズをボコっちゃうとはなぁ、才能は金で買えないってこったな」


 昨シーズン、セ・リーグ覇者のモーターズは今シーズンエースの怪我、そして打撃不振に陥り現在6位、一方昨シーズン2位で0.5ゲーム差惜しくも首位を逃したスターズは今シーズン首位独走、2位と10ゲーム差と絶好調を見せつけている。


「さーて、寝よ寝よ、開会式後の1試合目に強豪と当たるなんてツイテナイヨナー」

「ごめん、抽選で外しちゃって」

「負けなきゃいいんすよ負けなきゃ、先輩の最後の年思い出にしましょうよ」

「大丈夫よ、地区大会は絶好調だったんだから。それに、この子が本気を出せばね」


 そう言って和田野は俺の頭をゴシゴシと撫で回す、痛いって。


「そうそう、俺の地区大会の絶好調を知ってるでしょ! 6試合でわずか82失点」

「私たちの88得点がなかったら負けてるわよ? 馬鹿なの?」

「オマケに全国の地区大会成績下から1位、俺とのバッテリー防御率を下げやがって、3年あっても取り戻せる気がしねーわ」

「それはだね、毎回ジャンケンに負けてきて手抜き癖を習得させる主将が悪い」

「ごめん」

「私たちが点を取る度にその分取り返されて9回裏だけ3者3球3振なんて、手抜き癖にも程があるわよ」

「勝ち越し回数ゼロ回は褒めて」

「「今度それやったらぶん殴るかんな」」


 怖っ、このチームワークですよ。


 ※


 開会式が終わり、恒例のジャンケンに主将が負けて戻ってきた、だがしかし、後攻が回ってきたのは不思議だった。


「俺ら舐められてね?」

「だいぶな」

「さ、投球練習しようか。今日は本気出しちゃうぞー」


 軽い投球練習をしていると、敵側のベンチから声が聞こえてきた。


「ギャハハハ、なんだよあの球、小学生みたいな球投げるな相手のピッチャー」

「おいおい笑ってやるなよ、思い出に甲子園に来れたんだからいいじゃねえか、ダハハハ」


 うるせぇうるせぇ、甲子園の大歓声の中で聞こえるような馬鹿でかい声と笑い声響かせてんじゃねーよ運動部。


「三重の橘学園だっけ? 8年連続17回目だっけ」

「最近の強豪だ」


 鬱陶しい目でベンチをみていると投球練習しながらボール回しをしていた鬼道がマウンドへきた。


「ほれ、ノックやるから」

「器用だよねぇ鬼道くん、腕4本あるやろ」

「ねーよタコ」


「皆さんこんにちは、阪神甲子園球場から実況川田雅也、そしてゲストに昨日完全試合を達成した登坂一成さんを緊急でお迎えし、お送り致します。

 登坂さん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「昨日見事完全試合をしましたね、おめでとうございます。シーズン中に来て下さるなんて、異例の事で少し驚いています、特に登坂選手は二刀流登録で、4番を打っているピッチャーですから」

「完全試合を達成したわがままと今日は試合のない日でしたから、監督に無理を言って昨日の夜直ぐに来ました。どうしても見ておきたい投手がいて」

「そうでしたか、投手というのは橘の神谷投手ですか?」

「いえ、北斎の辻本選手です」


「ほへー、実況って聞こえるんやな」

「試合前の選手紹介を兼ねてだろうな、試合中は流れねーから大丈夫だよ」


 実況席をまじまじと見つめる、登坂一成。

 俺がめざしてる相手、未来の日本球界トップエース、いまも実力は既にトップエースなんだけども。


「それでは北斎高校の選手の紹介をしていきましょう、登坂選手イチオシの辻本君詳しく後ほど紹介致しましょう。

 5番キャッチャー1年生の鬼道くん特にデータは無いですね、ファースト3番3年生の五十嵐今年最後の年に見事甲子園を勝ち取りました。

 2番セカンド2年生の和田野さん女性選手です、地区大会の打率は驚愕の10割チャンスを作る事に定評があります。

 4番サード2年生の瀬良くん、肩も強くチャンスでの打率がとても高い選手ですが、ランナーが居ない時の三振率は天下一品です。

 六番ショート2年生の桐生くん、守備が上手く二遊間の要になっています。

 9番ライト1年生の桜屋さん、高校に入ってから野球を始めたようですね、経験の少ない選手です。

 7番センター1年生の石川君、そして8番レフト1年生の鹿島くん」

「3年生は1人なんですね、ベンチメンバーも無し監督も居ない。北斎高校はそんなに選手層の薄い高校なんですか?」

「いえ、今年の登録選手は9名ですが、去年までは30名以上いた、公立では屈指の高校のはずです。まあ、今回が初出場の高校なんですが」

「そうなんですね、何があったのでしょうか」

「さて、橘高校の守備練習が始まりましたが、それではお待ちかね辻本選手の紹介をしていきましょう。

 1番ピッチャーの辻本くん、地区大会終了の時点では6試合完投、82失点と味方の援護に助けられて勝ち上がってきましたね。記録されてる時点では最高球速105キロ、今日は橘高校相手にどれだけやれるのでしょうか」

「105キロ? そんなはずは。彼は中学の時点で165キロ以上出てたはずですよ!?」

「えーと、そんな記録は」

「これ辻本選手の新しい情報です、地区大会終了時点から回ってたらしいんですが、ガセ情報だと思っていままで真に受けられてなかったそうなんですが」

「えーっと、たった今入った情報ですと、辻本くんは小中と社会人野球チームナックルズにて、鍛錬を積み。記録に残るような試合では登板しなかったものの、年間2試合登板し、毎回完全試合を達成。

 最高球速は、えーっとこれ見間違えっすよね? 中学生が? 170キロ?」


「ねーねー、鬼道くーん。個人情報晒されてるんですけどー、あの実況席に硬式ボールぶん投げていいですかー?」

「ネットがあるから無理だな諦めろ」


「この情報が本当かはともかく、まもなくプレイボールです」

「本当ですよ」


「だー。あのタコ余計なこといいやがって」

「知り合いなのか? 登坂選手と」

「ナックルズにいた時のなたまたま見に来てて、目付けられちったんだよ」


 マウンドに上がりサインの打ち合わせをしていたのだが場内で放送されている実況に苛立ち実況席を睨みつけた。


「な、なんでしょうか。辻本くんがこちらを睨みつけているような」

「多分素性をバラしたことを怒ってるんでしょうね、秘密にしてたようですから」


 シッシッっと鬼道をホームへと行かせると、右手にグローブを付けマウンドに上がった。


「プレイボール!」


 ※


「いやー、まいったまいった」

「下りるか?」

「馬鹿言えまだ16失点ツーアウト無塁だぞ、辞める必要なんかどこにある!」

「ならさっさと本気で投げろ」

「おけ、タイム取っといて、グローブ変えてくら」

「おう、審判タイム」

「さすがに限界だって?」

「そうみたいっすね」

「ごめんね鬼道くん、交代だね」

「うっす、任せました」

「任されました」


 グローブを変えてマウンドに戻ろうとすると鬼道と五十嵐がベンチへ来た。


「遅延行為すると怒られますよ?」

「悪いがな、今の俺じゃお前の球は取れないんでな」

「防御率カンストしたまんま交代か、どんまい鬼道くん」

「カンストなんかしてねーから、ツーアウト取ってるから!!」


 泣いてる鬼道を横目に一足先にグラウンドへ戻り主審の元へと向かった。


「キャッチャーとファースト交代、ファースト鬼道くんで、キャッチャー五十嵐」


 そう言い残しマウンドへ戻った、残念ながらマウンドから降りることを許されない俺の防御率は一向に下がらない。


「おいおい、お前はマウンドから降りないのかよ」

「降りますよー、左腕の俺はね」

「はぁ? 何寝ぼけたこと言ってんだ?」

「俺ねぇ、便利なことに両投げ両打ちなんすよ、なんでモテないんやろ」


「えー、辻本くんはベンチにグローブを変えに行き今度は左に着けていますね、どういうことでしょうか」

「見ていればわかりますよ」

「そして、ファースト五十嵐くんがキャッチャー鬼道くんと守備位置の交代があるようですね」


「んで、3人はなぜマウンドに集まってるんですか? 暇なんすか?」

「そりゃ暇でしょー、和田野ちゃんも瀬良ちゃんも試合始まってから中継しかしてないからねー」

「え、これから試合終わるまでずっとそうですけど、大丈夫そうですか?」

「ここからランナー1人も出さないつもり? さすがに無理よね」

「鉛バットマンが打てないのに打てるやつが日本にいるんすかね、楽しみ」

「世界が広いといいわね」


 防具の交換が終わり鬼道と五十嵐もグラウンドへ復帰した。


「サインは? どうする?」

「ジャンケン戦犯先輩の捕球力は宛にしてますから、要らないでしょ」

「ごめんね。でも、期待に応えてみせるよ」

「うっす」


 全員が守備位置に戻り、試合が再開されようとしていた。


「君! 投球練習はいいのかい」

「これから12球投げるんで大丈夫です」

「そうか、プレイ!」


 とは言っても3人敬遠するんだけどね、そういう意味の12球だし。


 ツーアウト満塁、だが。

 バッターはここまで1人でツーアウトを稼いでいる戦犯、橘の4番を新井。


「4番に回るまで敬遠するって、いくら打撃不振の新井さんだからってな」

「マヌケにも程があるぜ」

「マヌケか、かもね。俺は野球のルールとかセオリーとかしらないし、チームで誰が強いとか、誰に打順回しちゃ行けないかとかわからないけど、1つ心に決めてることは。

 絶対にお前らに、新井が悪いって名言言わせてやるかんな」


 一球目は外角低めギリギリいっぱいのストレート、球速は120キロ程。

 2球目も同じ所に同じスピードの球を1つ、2球とも振ることすらしていない。


「打たなくていいんですか?」

「悔しいが、今の俺では打てる気がしない、俺が打たなくても勝ちは決まったようなものだしな」

「思い出甲子園バンザイ」


 腕を頭の上に上げセットポジションではなく、思い切り振り上げトルネードのモーションを起こす、これが今の本気の投球。


「体ネジ切れるまでぶん投げるから覚悟しとけよ」


 リリースの直後、ミットにボールが当たる音が甲子園球場中に響き渡り、そして、歓声は鳴りやんだ。


「ストライック! バッターアウト!!」


 リリースと同時にベンチへ戻った俺とミットに捕球された音を聞いて戻ったチーム内の全員。

 その姿に、球場は再び完成に飲まれた。


「脅威の球速! 表示スピードはなんと! なんと! 175キロ、日本どころじゃありません世界最速、そして史上最速です!!」


「「ナイスピッチ」」


 ベンチに戻るなり全員に背中を叩かれた、16点差だというのに、闘志は折れていないらしい。


「ワイルドピッチにならなくて良かったよ、あんなの人に当たったら一溜りもないしな」

「そりゃな」

「相手の神谷ってピッチャー、気をつけるものは?」

「去年の成績だけなら気にすることは無いだろうけど、左腕の割に早いストレートとタイミングずらしのスローカーブとチェンジアップだけ気をつければ平気だろ」

「ここ数ヶ月、あなたの球を打ってたのだもの、ストレートに絞れば私たちは打てるわね」

「あんたらはね、俺は自分の球打つ訳に行かないし」


 ヘルメットを被りながらグランドへ出た、バットを頭の上で振り回しながら。


「うわっ、あいつやってら」

「なにを?」

「あいつが頭の上でバット振る時って大体1人で点とる時なんすよね、ホームランとか内野安打からのホームスチールとか」

「そういえばそうね」

「あいつならバントでホームランもやりそうだしなぁ、さすが努力の意味を間違えた凡才型の野球好き高校生」


「よろしくお願いしまーす」


 ぺこりとメットを外してバッターボックスで頭を下げる、と言ってもなぜか相手は意気消沈しているのだが。

 16点差あって負けるとかないよね? 4試合で総合成績33-4くらいないよね??。


「(今度は実力を見誤って点を取られないようにしないといけない、神谷! ここは歩かせてもいいからまともに勝負するな!)」


 サイン合わせが終わったのか、相手投手がコクリと頷いて見せる、なんだろ、四球か死球か本塁打かな?。


「ファッ」


 投手がモーションを起こしてボールを投げた時、インハイに直球のストレートが飛んできた。


「ボール」


 あまりにもギリギリで驚いて見せているが、怖っ、死んじゃう死んじゃうあんなの当たったら俺は地底探索員みたいに耐久度低いから死んじゃう。


 2球目もインコース高めに、力んでいるのかなんなのかたどり着く前にボールだとわかる玉は、スライダーのような横変化をしストライクゾーンを越えてから更にくいこみ運悪く右腕に直撃した。


「デッドボール!!」

「避け無かったからボールですよ」

「無理無理無理! スライダー持ってるなんて聞いてないもん」

「君、1塁に行きなさい」


「神谷くんはさっきの辻本くんの球速を見て力んでいるのでしょうか」

「どうでしょうね、あのスライダーの変化とコース明らかに振らせる為に投げたようには見えなかったんですが」

「辻本くんは変化に気がついて前に体を倒しながら避けようとしたみたいですが、それが運悪く右腕に当たってしまいましたね、次の守備に響かなければいいのですが」

「最悪彼はまだ左腕が残ってますから、大丈夫だと思いますよ」


 1塁に着くとコーチャーボックス(1塁3塁のプロだとコーチがいるとこ、よくファールボール体で止めるポジション)に桜屋がいた。


「帰れ帰れ、おらぁ走るのに邪魔になるプロテクターなんて付けてねーかんなぁ」

「大丈夫? 腕」

「ちゃんと衝撃は逃してるよ、ただあの変化球だけ、データにない上にカッターや普通のスライダーってよりは後にキレる、よく曲がるカッターって思うようにしろってベンチに伝えとけ」

「え、カッター? スライダー? キレ?」

「あー、もういい」


 和田野が左打席に立ったのを確認して、2球目ヒットエンドランのサインを出す、ヒットを打つだけなら定評のあるノーパワーチャンスメーカー。


「ピッチャー神谷、辻本をデッドボールのランナーで背負いノーアウト1塁、ここは足を使って攻めくるか、登坂さんどう思いますか?」

「走攻守そして投、全ての揃った選手ですから、ここはもちろん走ってくるでしょうね」

「さあ、ここはお互いにどう攻めてくるか、さあ神谷、セットポジションから、第1球。

 おーーーっと!? ランナー辻本走った!? まだモーションを起こしていないぞ!?」


 ピッチャーが2塁へ送球する前に2塁に到着、これは忍者辻本、ここまで通算98失点の投手辻本とは全くの別人。


「凄まじい瞬足! 1球も投げさずに盗塁成功!!」


 これはオリンピックで金メダル取れますね。


「さあ、気を取り直して第1球、神谷モーションを起こして!」


 投球モーションが始まった瞬間に3塁へ、キャッチャーは送球することもなく悠々3塁はセーフ。

 はいはい、忍者忍者。


「初球アウトハイにギリギリ1杯ストライク、辻本は3塁へ、ピッチャーとは思えない俊足」

「投げるつもりでの外角への投球だったのでしょうが、ダメでしたね」

「そうですね、球速は152キロを計測しております、通常の盗塁だったらキャッチャーの肩次第ですが通常なら刺されているでしょうね」


 ピッチャーが2球目の投球モーションを起こす、それと同時にホームへ走りホームスチールを開始する。


「ピッチャー3塁ランナー無警戒のまま2球目、おっと!? 辻本走った! ホームスチールか!?!?」


 流石にそんな足はないから打たせてるんですけどね。


「バッター和田野バットに当ててボールはライン際走っている辻本に向かってライナー性の打球が飛ぶ!」


「はい!?」


 一直線に飛んできた打球をスレスレでよけホームベースを踏んだ、あと一瞬タイミングが遅ければ頭部に直撃していそうだった。


「サード取れずにレフトが取って、北斎は1点を取りノーアウトランナー1塁、ピッチャー辻本の好走のおかげで16対1となっています」

「北斎は地区大会で1番の得点を挙げていますからね、打撃力に好評があると言ってもいいと思います」

「そうですねぇ、そして次のバッター五十嵐は何やら辻本くんと話していますね」


「俺が当てられた2球目、データにないボールだった、もしかしたら流し打ち対策の玉かも知れない」

「ストレート固め打ちした方がいい?」

「いや、最悪バントでもいいんで、2塁に」

「わかった」


「監督も不在の北斎高校、監督兼エースの辻本くんとキャプテンの打ち合わせ、ここは一波乱あるのでしょうか。北斎はここから3.4.5.番と上位打線が続きます」


 監督ね、消息不明なんだよね、どこいったんだろっ。


「そういえば選手兼任監督というとここ、甲子園球場を本拠地にしている阪神タイニャースの去年のドラフト1位ルーキー江本選手もそうでしたね、今年既に数回対戦のあった登坂選手からしてみて、彼はどうですか?」

「そうですね、個人的にはリードがとても上手く打撃力と肩が強い選手ですから、相手にしたくない選手ですね」

「タイニャースといえば今経営不信を理由にほとんどの選手を自由契約に放出、余ったお金を新人の育成に回すなど勝負に出ているチームですね、来年には監督もクビになり江本選手が選手兼任監督になる、なんて噂もあるそうですね」

「今年のタイニャースは首位独走、現在2位の僕のチームのロイヤルスターズと10ゲーム差もありますからね、投手5人制にしてはすごいチームだと思います」

「さあ、試合は進んでノーアウト1.2塁、五十嵐がバントからのフィルダースチョイスでチャンスを広げました、そして4番の瀬良が打席に入ります。得点圏打率は8割9分5厘、長打力100%の男が嫌な場面に回ってきます」

「ここは敬遠する場面でしょうね、3塁は空いてますし1塁ランナーは今の走塁を見る限り足にも自信がありそうですしね」


「ここは敬遠以外なら球数投げさせてもらいたいんだけど打者がなぁ」

「初球打ちばっかりだから気づかれないが追い込まれたときの三振率おかしいからな」

「ノーボール作戦とか昔なんかの漫画で見たなぁ、まあボールは与えないのが得策だか。

 そういいながら打席のほうにホームランのサインを出す、ほら普通じゃ見れない光景やぞ。


「そのサイン本当に使うんだな」

「できないことは言いませんよーっと」

「ボテボテ併殺マンってあの人のこと名付けてたのは誰だっけか」

「そんな奴がいるのか!! ランナー1塁の時併殺率100パーセントなんて俺は知らんぞ」

「時稀に1塁にランナーが居る時ならいつでもやってるけどな」

「全部トイレいってて見てないかな、今のも聞いてないから俺は知らーん」


「瀬良空振り三振!!」


「ほら、出来なかった」

「確率の問題だから、10割打つバッターなんてあんまいないし!」

「俺の真横にいるがな」


 ※


「7回終わって16対8、北斎追いつくことが出来るのか!」


「ふー、いい試合だったなぁ」

「過去形かよ」

「あと8点でしょ、無理無理。体暑くってもうしんどいし」

「高校球児のセリフじゃねーな」

「自慢じゃないけど、もうベストピッチは無理」

「肩痛むのか?」

「いや、暑いだけ」

「そうか」


 足を上げて1球目、手から離れたボールは球威も球速も下がり棒球に近く、その球はバットの芯を食い、ライトのポールへと直撃した。


「4番新井ポール直撃のホームラン! 帳尻合わせのいっぱーつ!」

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