第十話 弱点
突如シェルター付近に現れた第3世代ロボットを破壊したのは桐生なつきであった。結果から言うと彼女がロボットを破壊出来たのは偶然である。見つけた隊員を連れ去るために隊員の腕を持ち進行方向へ向かう為、ロボットは身体を前に捻っていた。そのためなつきが降りた目の前にはロボットの後頭部が見えていたのである。なつきにしても後頭部を狙ったわけでもなく、ただ本能的に頭を狙っただけ。そしてその頭がたまたま後頭部であり、なつきよりも身長の高いロボットの頭を狙う際に偶然にも頚椎に銃弾が打ち込まれただけである。一言で言えば運が良かっただけであるが、なつきの復讐に燃える精神がその運を引き寄せたのかも知れない。
「本当に大丈夫なのか?」
そう聞くのは空閑である。
「確信はない。だが我々が知っている知識で考えるなら発信機は付いていない」
そう答えるのは生活支援部隊に所属している陣暁斗(じん あきと)という男だった。彼はロボットに支配される前の世界でロボット相手に商売をしていた施工士であった。ここにいる人間の中で最もロボットに詳しかった為、科学担当としてロボットの研究をしていた。今回ウィリアムがやろうとしていたロボットの捕縛作戦を提言した人物である。
「まぁ俺達は知識もないし先生を信じるしかないからな。それで何か分かったことはあるのか?」
なつきが破壊したロボットはその場で発信機やその他通信機がないか確認された後、シェルター内の研究室へと持ち帰られた。支配される前からの知識から考えられる上での発信機の類はなく、シェルターに持ち帰ったとしてもこの場所が敵に知られるはないだろうとの判断だ。そして持ち帰ったロボットを陣が徹底的に調べ上げていた。
「ああ、いろいろ分かったよ。まず正面から銃弾が効かなかった理由だが表面の人工皮膚にメルト合金が使われている」
「メルト合金?」
「世界がこうなる少し前から出回っていた特殊合金だ。通常の人工皮膚に比べて耐久力が数十倍に跳ね上がる代物だ。普通の銃なんかじゃ簡単に弾かれてしまう」
「数十倍?ちょっと待て支配される前からってそれはロボット整備法的に違法だったんじゃないのか?」
「その通りだ。だから私の店ではやっていなかったが、仕入れに対しての利益率の高さもあって施工士の中にはやってる奴もいただろうな。しかしこの合金は確かに耐久力を向上させることが出来るがデメリットもある」
「デメリット?」
「昔、中世時代人間も甲冑を来て戦っていただろう?その時に人間の構造上どうしても鎧を覆えない箇所があった。足首、膝、股関節、手首、肘、肩……そして頸だ」
「あ、そうか。こいつらも同じ。いくら外側を強力な合金で固めようと人型である以上関節を稼働させる為にはそこを覆えない」
「その通りだ。だが膝や手首を狙っても意味はない。俺達が狙うべきは頸。正確に言うと後頭部の頸と頭を連結している頚椎。その一点。今回なつきくんが破壊したロボットを見てみると、ちょうど人間で言うところの脳に当たる部分にロボットの集積回路が存在する。他の部位に邪魔されることなく集積回路を破壊できる箇所は一点のみ。人間に例えると第一頸髄から頭頂に向けて斜め45度で打ち込めば、他の部位に邪魔されることなく回路を破壊できる」
「なるほど……だが止まっている相手にならともかく、動いている相手のこの一点だけを狙うというのは至難の技だな。なにか効率的にそこを狙える武器でもあればいいんだが……」
「武器……か」
「なにか心当たりがあるのか?」
「いや……ところでこいつを破壊したなつきくんはどうしてるんだ?」
「ああ彼女なら……」
今回なつきが独断で動き上手くいったのは偶然である。本来なら独断専行は許されない。それはこのシェルターに住む全員の命を危険に晒しかねないからだ。今回隊員が見つかり連れて行かれそうな状況にあってもウィリアムはシェルターを守ることを選んだ。一人の命を見捨ててでも。しかしなつきの独断が結果的に一人の命を救い、さらに敵の情報を得る機会をも与えることになった。そのこともありウィリアムはなつきに強く言うことができなかった。ウィリアムも隊員の見殺しという苦汁を飲まされずに済んだことは否めないからだ。
「とにかく今後はこういう勝手な行動はしないでくれ」
「すいません」
「……だがまぁ、結果的には助かった。ありがとう」
ウィリアムはなつきに礼を言うと後ろを振り向いた。
「戦闘部隊配属の件だが……認めよう。キミの勇気ある行動が結果的に好転をもたらしたのは変わりない。あの場では誰もが見つからないように怯えていた。でもキミは誰よりも先に動き敵を討った。この行動力と勇気はこれからの戦いに必要だ。しかし戦闘に置いて素人のキミはクリアしなければならない課題もたくさんある。俺の部隊に入ったからには厳しく行くぞ。覚悟しろ」
「……はい」
「どうした?いつもの元気がないな」
「……こんなこと言うのは甘いと言われるかも知れませんが、ロボット達はゼロに操られているだけだと思うんです。だって私の知っている第3世代ロボットは……ダイナは優しかった。私の家族だったんです」
なつきの目には涙が浮かんでいる。
「……私はこの世界が変わってしまってからずっと復讐の機会を狙っていました。きっとここにいるみんなも同じだと思うんですけど大切な人をロボットに殺され行き場のない怒りと虚しさを味わってきた。私の目的はロボットを破壊すること……いや、ロボットを支配しているゼロを殺すことです。その為なら私は出来ることを何でもやる。だから教えてください!戦い方もこの世界で生き残る方法も。私は全力でやります!」
なつきの目からはいつのまにか涙は消えていた。彼女は決意したのだ。この世界で戦い抜き、いつかゼロを殺すことを。
――次の日。
「準備は出来たか?」
「ああ、大丈夫だ」
昨日の会議で話の出た物資を補給する為、物資補給部隊は準備を整えていた。
「今回も数日間の遠征になる。みんな気を抜くなよ」
そう支持するのは物資補給部隊の隊長である栗栖 悠斗(くりす ゆうと)。
「ところで今回の遠征には俺達の部隊の他にもう一人追加で連れて行くことになった。彼だ」
栗栖に紹介され出てきたのはウィリアムであった。
「彼のことは知っているものも多いだろう。戦闘部隊隊長ウィリアム・ベル。彼は以前軍隊に所属していた戦闘のプロだ。もし行く先々でロボットと出くわしたとき彼の力はきっと役に立つ。今回は昨日のこともありすでに敵の殺し方も分かっている。万が一の時は戦闘も覚悟して置いてくれ」
そうみんなに告げると今度はウィリアムに向かって小声で話を始めた。
「ウィリアムこんな感じでいいか?」
「ああ、ありがとう」
ウィリアムは昨晩のことを思い出していた。
『え? 明日の遠征にお前も?』
『そうだ。今日のこともあり敵の殺し方は分かった。今度は実際に殺せるのか。つまり他のロボットも同じ構造なのか知らなければならない。かと言ってこの場所で迎え撃つわけにはいかない。だから遠征場所で万が一敵と出くわし戦わなければならない場合に俺が戦い実際に殺せるのか試してみる』
『それなら他の奴らでもいいんじゃないのか?』
『いや、一番戦闘の経験があるのは俺だ。それに万が一こちらの見立てが間違っていた場合、最悪死ぬことになる。そんな危険な任務を他の者には任せられないさ』
ウィリアムは今後レジスタンスが反旗を翻すときに全員が戦うことが出来るように作戦を練らなかればならない。その為に自身が出来る最大限のことをしていた。ウィリアムが昨日のことを思い出している時も栗栖はメンバーに話を続けていた。
「今回は俺とウィリアム、そしてハオと大和この4人で行く。後の3人は今回は待機だ」
栗栖に名指しされたのはハオ・シュェンという名前の中国人。それと大城大和という日本人だ。
彼ら4人はこのシェルターでの生活を維持するため危険の待つ外へ物資を探しに出ていく。
インフェルノ・コード 結城陸空 @yuuki-rikuu
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