第八話 レジスタンス

人類は近年大きな転換点を2度迎えた。1度目は2045年のシンギュラリティ。AIによる技術爆発が起き人類の科学は指数関数的に発展した。だが、それから僅か30年後、たった一人の青年により世界は2度目の転換点を迎えることになる。世界に充分に繁栄した第3世代型ロボット、それらを一斉に操り人類の半分以上を殺し自分が支配する世界を作った。人間が繁栄させてきた文明はロボットという新たな脅威によって滅ぼされた。そしてAIによる徹底的な支配、管理、統率。そこにはもはや人間的な感情は存在しない。あるのは合理的にただ家畜のように生かされている存在のみ。

「我々はこの世界を認めはしない。今こそロボットに反旗を示し人類を開放し我々の世界を取り戻そう」


 あの事件から5年。今は2080年。


 ロボットに対抗する為にレジスタンスを結成した生き残った人類は繁栄時に作っていた地下の核シェルターに拠点を置いていた。奇しくもそれは核よりも無慈悲なロボットから己の身を守るために活用されることとなった。地上はロボット達により支配され、あらゆる場所ではロボット達が巡回し逃げ延びている人間を探している。そんなロボットの支配から逃れるためには最早人間が隠れることが可能な場所は地下のみだった。この地下施設には運良く難を逃れることが出来た人間達が老若男女問わず約50人いた。彼らは地下で生活するために3つの部隊に分けていた。


 まずは物資補給部隊。地下には生き残るための資源はない。どうしても地上に出なければ食料は手に入れることが出来ない。物資補給部隊には体力的に秀でた者や足の早い者が選出された。万が一ロボットと遭遇した際に少しでも逃げ延びる可能性を上げるためだ。また彼らは万が一に備えて戦闘によっても生き残る可能性を上げるため戦闘の訓練も欠かせない。危険を承知で外で出てさらに地下で生きる人間全ての為に必ず生きて帰る必要がある重要な部隊だ。


 次に生活支援部隊。地下で生活しているのは子供から老人までいる。衛生面でも彼らが生き残るためには常に健康に気を使わなければならない。そんな彼らの生活を支えるのが生活支援部隊。医者や科学者などがおりまた各々の生活を支援する為の知識を持つものが選出されている。外で万が一怪我をした場合の治療なども行う。まさに生活の要となる部隊だ。


 最後に戦闘部隊。彼らはこの地下シェルター自体を守ることが主な任務でありロボットの襲撃にあった場合誰よりも率先してロボットと直接戦うための部隊である。戦闘のプロや銃などの火器の扱いに長けたものが選出された。また外で出る物資補給係と一緒に外に出ることも多い。もちろん万が一に備えてだが。


 各部隊ともそれぞれ6人ずつ。計18人が所属し各々の役割をこなして来た。そして彼らはそんな生活を4年も行ってきたのだ。時々見つかる生き残った人間を地下シェルターに案内しては人数を増やしてきた。そして半年前物資補給部隊が偶然見つけたのが桐生なつきであった。彼女は当時衰弱していたが、このシェルターで治療を受け今では元気を取り戻すことが出来た。

「私を戦闘部隊に入れてください!!」

 そうやって懇願するのは桐生なつきであった。なつきが必死に頼み込んでいるのは戦闘部隊の隊長を務めるウィリアム・ベルという男であった。彼はまだ世界が平和であった頃、軍隊に所属しており銃器の扱いに一番長けていた。かつ実際の戦闘経験もあったことで戦闘部隊の隊長へと推薦されその任に就いている。彼は実際にこのレジスタンスでも幾度となく活躍していた。補給部隊が外に出た際、ロボットに見つかった時があった。しかし彼の活躍により一人の犠牲者も出すことなく無事に帰還も果たしたのだ。そんな彼は同じ戦闘部隊のみならず他の部隊からの信頼も厚い。

「何度言ってきても駄目だ。キミを戦闘部隊に入れることは出来ない」

「お願いします!」

 なつきはここ数週間ずっとウィリアムに同じことを懇願している。過去の出来事もありなつきはどうしても戦闘部隊に入りたかったのだ。

「何度も言うがキミはまだ若い。戦闘部隊も物資補給部隊も直接外に出る。奴らに見つかれば命を失うことだってある非常に危険な仕事だ。そんな危険な仕事をキミに任せることは出来ない」

「……それならせめて私に戦い方を教えてください。こんな言い方失礼になるのは分かってるけど、もしあなた達が奴らに殺された挙げ句、ここが見つかってしまったら戦わなきゃならない。そんな時戦い方も分からず殺されてしまうなんて嫌なんです。お願いします。戦い方を教えて下さい。戦い方を私に教えてその上で見込みがないと隊長が思うなら戦闘部隊は諦めます!」

 ウィリアムはなつきの眼を見る。彼女に宿る意思の強さを確認しているのだ。

「……分かった。クガ、彼女の訓練を頼めるか?」

「いいけど……いいのか?」

「ああ、ただし訓練で手は抜くな。俺たちが普段やっている訓練を彼女に。それでもし音を上げればそこで訓練は終わりだ」

「マジかよ。厳しいな、まぁ覚悟を見るにはちょうどいいか」

 ウィリアムにクガと呼ばれた男は同じく戦闘部隊の一人で名前を空閑 誠凛(クガ セイリン)と言う。彼は軍人ではないが初期からいるメンバーの一人で格闘技術に秀でていた。昔は補給部隊に居たがその戦闘センスを買われ戦闘部隊へと移動となった。長髪でいつも後ろで髪を束ねている。

「じゃあいこうか。なつきさん」

「はい!」

「まずは基礎訓練から始めるがその前に今の君の実力を見ておきたいから、今日はテストをやらせてもらうよ。ちなみに今まで銃を扱った経験は?」

「……ありません」

「……そう。じゃあまずはそこからだね」

 そう言うと空閑はなつきを戦闘部隊が保管している銃器が置いてある部屋へと案内した。そこには多くの銃器が揃えられていた……が。

「凄いこんなに……」

「まぁ量はそれなりにあるにはある。補給部隊が何年も掛けて集めたからね。でも問題もある。銃を扱ったことがないキミには分からないかもだけど」

「問題?」

「そうここにあるのはほとんどが旧式の装備なんだ」

 空閑が言うのはこういうことである。2045年のシンギュラリティーによる技術爆発。それによって多くの武器も開発された。昔のSFで言うところのレーザー銃や中性子爆弾。または破壊力を重視しさらに小型化した兵器。またはドローンによる自動識別装置など。ありとあらゆる武器が開発された。量子力学に基づいた汎用型AIにより扱い(計算)の難しい超遠距離の目標でさえも、捉えることが出来るほどの技術力。しかしそれらの武器がある施設や工場は初期にロボットにより、抑えられ新たに入手が不可能になるように破壊されたのである。ゆえにここにある武器のほとんどは2045年よりも以前に開発されたいわばアナログ武器。現代から見ると50年ほど前の武器ということである。

「つまり私達は……」

「そういうことだ。俺たちはこの旧式の武器で最新鋭の兵器に挑まなくてはならない、さらに俺たちが知っているのも精々75年までの武器や兵器。今はそれから5年も経っている。シンギュラリティーが起きてから僅か2年で第3世代ロボットが出てきたことを考えると、この5年という期間は下手すると俺達の知らない科学がさらに数千年進んでいるかも知れない」

 なつきはその話を聞いて唾を飲み込む。

「俺達は最初から圧倒的に不利な戦いをしようとしているんだ。この意味分かるな?」

 その言葉になつきは沈黙する。人数的な不利だけじゃない。技術力でもその他全てで人間は圧倒的に不利な立場にいる。もしかするとこうして見つからずに生き延びているだけでも奇跡的なのかも知れない。下手に動けば命を落とす。相手は心もない機械。戦いに負ければ慈悲などない。そこにあるのは効率という殺戮だけ。


 普通ならとても恐ろしくて怖くて一歩も動けないかも知れない。きっと昔の自分なら泣いていた。泣いて誰かが助けてくれるのを待っていた。なつきはそう思った。けど今は助けてくれる人なんかいない。殺らなければ殺られるだけ。それがこの世界なんだ。奴らから逃げて4年半。多くのことを犠牲にして生き延びてきた。全ては奴らに復讐するため。父親をダイナを殺したゼロ。奴への復讐だけがなつきの生きる動機。その為には泣いてなんかいられない。止まってなんかいられない。戦わなければ死ぬだけだ。

「どれだけ不利でも関係ない。ゼロを殺せるなら私はどんなことでもやります」

「勇ましいな。まぁその気迫はしっかりと受け止めるよ。訓練は厳しいがやり遂げてみせろ」

「はい!」

「まぁただ俺達もいつまでもやられっぱないではないさ。今隊長が練っている作戦が成功すれば光が見いだせるかも知れない」




「よし、クガ以外は全員集まったな。これより作戦会議を開始する」

 そこには戦闘部隊の残りのメンバー及び各部隊の隊長副隊長が集結していた。これから行われるのは敵への反撃の第一歩。この作戦の成功が今後の人間の運命を左右することになる。

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