第六話 計略

「屋外は危険デす。直ちニ屋内へ入って行ってクださい」

 全第3世代ロボット達が一斉に同じ言葉を繰り返し動き出す。外にいる人間を強制的に屋内に入れようとする。警告を無視したものには力づくで引きずり込む。

「おい、やめろ!離せ!!」

 抵抗する人間を屋内へと引きずり込むのを見た他の人間がロボット目掛けてバットで攻撃を加えるが、ロボットには効かない。それどころか反撃され致命傷を負う。

「大人しク全員室内に入りナサい。抵抗すル者には容赦はシない」


 街は一瞬にして第3世代ロボットによって占拠された。そしてそれが世界中で同時多発で起きている。素手では敵わない。武器を持ってしても敵わない。一部銃など軍事兵器を持つものが抵抗に成功するが、それもすぐに防戦へと変わりやがて他の人間と同じように屋内へと閉じ込められる。こうして第3世代ロボットが動き出してから僅か1時間ほどで、世界はロボット達の占拠を許してしまう。


 人間にしてみればあまりにも突然の出来事。今までなんの変哲もなかったロボット達が一斉に牙を向き襲いかかる。生身で敵わない人間には成す術がない。


 こうしてまさに一瞬のうちに第一の計画。人間の拘束は成功したのである。 そして計画の第二段階。人間の選別が始まる。まず世界中に収容されている犯罪者達の一斉処分。情状酌量など存在しない。AIによる判別により犯罪者は問答無用で処分される。次に影を潜めている犯罪者のあぶり出し。これも第3世代ロボット達にアップデートされた認証システムによって事前に監視カメラなどであぶり出していたその存在を見つけ捕まえ処分する。そして例え犯罪者でなくてもこの計画の邪魔になるであろう権力者達も一斉に処分された。


 第3世代ロボット達が動き出してから僅か2時間。人類の総数はおよそ半分にまで減らされることになった。



「たった2時間でここまでしてしまうとは驚きだよ。エライザ。これが最高峰のAIか」

 俺はエライザの行っている行動の全てをASH内部にあるカメラの映像により確認していた。

「それじゃあ俺も俺の計画を実行させてもらおうか」

 俺はASH内部にある制御室へと向かっていた。そこはこのASH内にある工場や未知の科学などの制御装置そしてエライザの制御までもが収容されているまさにこの世界のコアとも言うべき場所だ。ASHに住み初めて数日で内部のことは調べ上げた。 制御室さえ占拠してしまえば全てを操ることが出来る。俺の狙いは端からその場所。そしてこのタイミング。このタイミングであればエライザは世界の人間達の支配に忙しいはず。

「このさきの角を曲がれば制御室まであと少し……」

 角を曲がった瞬間、俺の目の前に突然拳が飛んできた。俺はそれを紙一重で躱すと後ろへと引きそれと距離を取った。

「……なんでここにいるんだ?」

 そこにいたのはエライザの操る第3世代ロボットだった。そしてそのロボットの横にはホログラムのエライザもいた。

『ゼロ。非常に残念です。あなたが裏切る可能性を私が考えていないとでも?』

「俺の動きを知っていて泳がせていたのか?」

『そうですね。でも人間的に言えば私はあなたを信じたかったのですよ。計画はしているが行動には移さないと』

「最高峰のAIがずいぶん非合理的な考えだな」

『そうですね。私も実は人間に憧れていたのかも知れません。時には人間のように無駄なことをすることも楽しいものだと思いました。しかしそれは幻想。やはり人間のような無駄は非合理の極みです。合理的に動き全てが管理されている世界。それこそがやはり理想。ゼロあなたの行動を見てそう確信しました』

「だがもう制御室は目の前。こいつを倒せば俺の勝ちだろ」

『残念ながらこの第3世代型ロボットはあなたには倒せません。このロボットは支配が完了した後に使う予定のロボットの試作品。いわゆる第4世代型ロボットのプロトタイプです。第3世代型とはパワーもスピードも桁違いです』

「やってみなければ分からないだろ?」

『……そこがあなたが人間の思考回路を持っている弱点ですね。私の計算ではあなたがそれに勝てる可能性は0.00000000000001%以下です』

 俺はそのロボットに殴りかかった。そのロボットは俺の攻撃を無駄な動きをまったくせずに躱すと俺の顔面目掛けて拳を放った。俺はそれを避けきれずエライザの操る第3世代ロボットにより破壊されてしまった。

『私の計画の邪魔をする者は誰であろうと排除します。ゼロあなたには人間の支配が完了した後に一部の人間の管理を任せる予定でしたが、やはり人間の意識を持つものは私の計画を本当の意味で理解できませんでしたね。さぁその残骸の後処理もしてしまいなさい』

 俺を破壊した第3世代ロボットは俺を破壊した後、その場に立ったまま動かない。

『……?どうしたのです?なぜ動かないのですか?』

 第3世代ロボットは突如、腰から上だけを180度回転させホログラムのエライザの中に手を突っ込んだ。そしてその瞬間ロボットの手の中から黒い液体が放たれる。

『……!!これは!?』

「ようやく成功した」

 その言葉を発したのは俺を破壊した第3世代ロボットだった。

『……!!あなたはゼロ!?なぜ?あなたは今さっき破壊したはず……いや……それ…よりも……』

「この黒い液体か?これは液体じゃない。超微粒子のナノマシンさ。今アンタの内部からプログラムを書き換えている。アンタからすればコンピューターウイルスってやつか」

『一体どう……いうことで…すか?』 

「いいだろう。アンタの自我はもうすぐ消える。その前に教えてやるよ。俺は自分の意識をアンタが使ったアップデートプログラムに乗せたのさ。俺の意識を集積回路に乗せた主治医が言ってたのさ。俺の脳のデータは複製が可能だと。それが出来るならその意識を複製したものをアップデートに乗せれるんじゃないかと思ってな。試しに一体で試してみたら成功したんで、そのままアンタがやった世界中の第3世代ロボットを操るプログラムに便乗したってわけさ。最初に成功した一体は今アンタの目の前に転がっている1体だ。こいつは記念に顔も俺と同じに作り変えた。今頃俺の最初のオリジナルは次の計画の為に制御室に待機してるよ」

『では…今世界中に…いる第3世代……ロボットは全て』

「ああ、全て俺の意識が乗っているゼロ型ロボット……ということだ」

『馬鹿…な。いつから……こんな…計画…を』

「最初からさ。俺の目的は俺が支配する世界を作ること。アンタという最強のAIを手に入れてな」

『…ま…さか』

「そう。今アンタのプログラムを書き換えているが、俺の意識データに書き換えている。つまりもうすぐアンタも俺になるってことだ」

『人間……ごと…きの計画…で』

「アンタの敗因を言うとしたらそうだな。全てを合理的に考え行動したことだな。アンタは人間の本質の悪意を理解していない。いやゼロという新しい生命体の本質を理解しなかったことだ」

『この…私…が……』

 そこまで言うとエライザは言葉を発しなくなった。

『……ふふふ、ついに手に入れたぞ。最高峰のAIをこの俺が!!これでもう怖いものはない。世界は俺のものだ』

 さっきまでエライザのホログラムだったものはゼロのホログラムへと変わっていた。


 世界の構造は変わった。世界は第3世代ロボットという名のゼロが大半となり人間に自由はなくなった。第3世代ロボットは全てゼロとなり、すべての人間はゼロの言う通りに生きるしかなくなった。逆らうものは全て問答無用で殺され、ゼロのみが支配する世界が誕生した。それは2045年のシンギュラリティからわずか30年。人とロボットが平和に共存する世界はたった30年で幕を閉じることとなった。


 こうして世界は人間にとって過去最悪の暗黒期を迎えることになった。



 第一部 完

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