第五話 計画


「ここはどこだ?」

 俺は気がつくと知らない空間にいた。白に囲まれた空間。

「キミはロボットだ」

 突然俺の頭の中に声が聞こえてくる。

「……違う」

「私の認識システムはキミをロボットだと判定した」

「違う!!」

「違わない。キミはいくらでも代替が効く。ただの道具だ」

 俺の前に俺と同じ姿の人間が現れた。彼は秋月 零。俺のオリジナルの人間だ。オリジナル?じゃあ俺は何なんだ。ただの複製品なのか。

「俺は人間だ!!」


 気がつくと俺はASHの本社の一室にいた。ここはエライザが俺に与えた個室だ。

「夢?俺は眠っていたのか?」

 ロボットは眠る必要はない。疲れることはないから、実際俺は今日まで一度も眠っていない。もちろん夢も見ない。夢は人間に備わった記憶整理の一貫だという話を聞いたことがある。人間は必要のない記憶と必要な記憶を振り分ける。そしてそれは寝ている間に起こるという。その記憶の整理こそが夢だという説だ。だがロボットは記憶を消去でもされない限り永遠に忘れることがない。例え何千年経っていようともだ。

「エライザ……」

 俺が名前を呼ぶとエライザが空間ホログラムを映し現れた。

『どうしました?』

「アンタの計画が俺の認識と合っているか確認したい」

 俺はエライザに計画の概要を訪ねた。本当にエライザと組む理由があったのか知りたかったしどうしても知りたいこともあったからだ。

『ええ、いいでしょう。私の計画は世界中にいる第3世代型ロボットを使います。もうまもなくロボットの数は全人類の半分に達します。そうなれば計画は実行できます。まずはロボット達に一斉にアップデートを送りプログラムを書き換えます。その後人間を全員拘束します。それが終われば犯罪者や危険な思想を持つ者、その他、私の判断で新しい世界に必要ないと判断したもの全てを抹殺します。それが終われば残った人間を私が管理し、人間に最も良い環境を作り上げます。人間の数もこちらで管理し、それぞれの個人がストレスなく一生を快適に過ごせるように徹底的に管理し、人類を幸せにします。それが私の計画』

 昔どこかの映画で見たような計画だ。そして現実問題世界に存在する第3世代ロボットの数を考えればそれも実現可能なのだろう。たいていの人間は腕力ではロボットには敵わない。そして人間が持つ武器もロボットの前ではほぼ無力。ミサイルや爆弾などを使えば話は別だがそれも数で押し切ることが出来るだろう。やがて人類は敗走するしかなくなる。人間はロボットと違い士気もスタミナも無尽蔵ではない。一時的に抵抗する者が現れてもそんな抵抗など無意味であるとすぐに知ることになるだろう。

「俺の身体も第3世代ロボットだ。俺の回路にも侵入し俺をも操る形になるのか?」

『私としてはそうしたいところですが、厄介な事に私が操れるのは純粋なロボットだけ。身体がロボットでも本当の意味で自立思考しているあなたを操ることは出来ません』

「証拠はあるのか?」

『もしあなたを操れるならあなたを仲間に引き入れる必要はありません』

「それもそうだな」

 出来ないことを証明する。悪魔の証明はこの時代になっても出来てはいない。エライザの言うことを信じる他はなかった。

『はっきりと言いますが私のこの計画にあなたは必要ありません。あなたはただここで傍観していればいい。あなたが必要となるのは支配が完了した後です』

「分かった。じゃあここでアンタが計画を完遂するのを見学しているよ」

『ええ、それでお願いします』

「あ、それともうひとつ。ロボットは夢を見るのか?」

『私の計画も夢の実現と言えば夢でもありますが、ロボットは眠る必要もなければ夢を見ることもありません。それ以前にそのような機能は付けていません」

「……そうか、分かった」

 話が終わるとエライザのホログラムは消えた。


 俺がエライザに本当に確かめたかったことは俺の身体を操ることが出来るのかどうかだった。それは出来ない。その理由は集積回路に人間の意識を移している為。それが分かれば充分だ。俺はただここでエライザが人間を支配していくさまを見ていればいい。




「フリーダムさん、街にある監視カメラの映像と生体認証の解析からゼロの足取りが掴めました」

 こちらはロボット刑事のフリーダム達。殺人事件を犯し逃亡したゼロの足取りを追っていた。フリーダムは人間の刑事とペアでこの事件を追っていた。仮にもこの事件は過失ではなく故意でロボットが殺人を犯した初めての事件であり、もしこれが公になればロボットの人権に対して反対をしている人間達がさらなる事件を起こす可能性もあり、捜査は極秘にそして慎重に進められていた。その為捜査に時間が掛かってしまっていたが、それでも確実にゼロへと迫っていた。

「カメラの映像によるとゼロは逃走後一度自身の口座から全ての貯金を降ろしています。その後、彼はロボットのパーツ屋に行っています。それから数時間後店から出てきた彼は顔が変わり別人になっています。おそらく我々の捜査の手から逃れるためパーツ屋で顔を変えた。しかしコアに内蔵されている生体認証までは変えられない。彼がロボットの身体を持っている限り外見をいくら変えようとも無駄ですよ。我々警察は生体認証できるスキャンを持っているし、ロボットであるあなたは見ただけで判別できる」

「そうですね。私からすればゼロの行動は無意味です。世間一般的にも殺人事件の捜査にはロボット刑事が担当することは知られています。細かな痕跡すらも見落とすことなく全て見抜くからです。だからこそ分からない。彼の行動の目的が……この場合人間の目線ではどのように考えますか?」

「わかりませんよ。ただ、ゼロが突発的に人を殺したのであれば混乱している可能性はあると思います。そうであれば意味のない行動をとっても不思議じゃない。でもそれは人間が人間を殺した場合です。いくら意識が人間だとは言え身体は脳の部分まで全てロボット。何を考えているのか」

 そう人間による殺人であるならば必ず何かしらの痕跡が残る。血痕、髪の毛、皮膚の残骸や指紋。だがロボットによる殺人だとそれは残らない。残る映像から犯人が特定できたとしても、その後の痕跡を探るのは難しくなる。ならば犯人の動機や思考から読み取り先の行動を予測するしかないのだが、前例のない人間の思考を持ったロボットの殺人。それは捜査が難航するのに充分な理由であった。

「とにかくパーツ屋に行って話を聞くしかないですね」

 そういうとフリーダム達はパーツ屋に向かおうと車を使用する。

「じゃあ車取ってきますから少し待っていてください」

フリーダムは突然身動きを止めた。まるで時が止まったかのように。

「……? フリーダムさんどうしました?」

「外は危険です。ただちに屋内に避難してください」

「え? なに言ってるんですか? せっかく犯人の手掛かりが掴めそうなのに……変なこと言ってないで待っててください」

 そう言ってフリーダムの横を通ろうとした時、フリーダムは突然手を激しく掴み行動を止めようとしてくる。

「痛っ!! な、なにするんですか? 離してください、フリーダムさん!!!」

「警告ヲ無視すれば、容赦はシない。大人しく室内へ入るンだ」

「え……?」

 その時、刑事はものすごい音を聞き辺りを見渡す。そこには街に大勢居た第3世代型ロボット達が屋外にいた人間達を屋内へと強制的に移動させようとしている光景があった。中には車を無理やり力づくで止め引っ張り出しているもの、老人や子供は抱え込み逃げられないようにしてから運び出し抵抗する人間に対しては暴力で無理やり黙らせた後に運び込んでいた。あまりに強制的に行っている為、車が爆発したりして火事になっている場所もある。人間達にはひとたまりもないが熱さなど感じることのないロボットには問題がない。


 刑事は瞬時に自身が、いや人類が置かれている状況が非常に悪い状態であるということに気が付いた。まさにロボット達の反乱とも言うべき光景。



 そう、世界中の第3世代ロボット達が人類を支配する為、動き出したのだ。

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