第四話 接触
世界はシンギュラリティによって大きく変わった。科学力は指数関数的に発展し、世界の格差はなくなった。
古代より人間は3つの種類に分別される。1つ目は労働層。人が文明を発祥させた頃、人はそれを奴隷という形で作り出し自分達が苦労することなく自分たちの生活を豊かにするための層を作った。2つ目は管理層。奴隷を始め人を管理する層。人の管理は人にやらせるのが一番良い。そして3つ目が支配層。これは奴隷と管理する者を支配する為の層。つまり王となる層。この3つの種類は古代より人間の歴史と共に存在する。それはシンギュラリティが起こり世界に変革が起ころうと変わることはない。かつて人は奴隷に変わる人の生活を豊かにするための道具としてロボットを作った。人はそれを管理し、そして支配する人間がその為のルールを作った。
しかしシンギュラリティによってその構図は変化を見る。いつの世も世界を支配するのはもっとも優れたモノだ。人間は技術爆発には付いてこれず、貧弱な肉体は怪我をし病気になり、そして寿命が来るとやがて死ぬ。だが第3世代ロボットは破壊された部位は交換すればいいし、病気になることもない。そして寿命も半永久的に来ない。人はそんなロボットに憧れ、人工内蔵や人工細胞を欲する。人が物を欲するのは自分にないものを求めるから。そして他よりなにかを欲しがるということは、暗にその他が自分より優れているということを認めているということだ。
もう一度言う。いつの世も世界を支配するのはもっとも優れたものだ。それはもはや人間ではない。人間よりも優れたロボット、いや人間の頭脳を持ち、ロボットの肉体を持った俺こそが支配者に相応しい。人間もロボットも支配される立場にある。
「第3世代ロボットを製造しているのはロボティック制作会社ASH。ロボットが経営している会社か」
俺は公共サービスを使い第3世代ロボットの製造について調べていた。目的は最高峰のロボットを見つけることだがなんの手がかりもない状態だ。とりあえず現在第3世代ロボットを製造している会社を調べているところだ。ロボットについて調べていると意外と俺も今まで知らなかったことが出てきた。現在では第3世代ロボットを製造しているのはこのASHという会社一社のみ。つまり権利を持っているのはこの会社のみだということだ。さらに第3世代ロボットの開発についても分かったことがある。人間が作った第1世代ロボットそしてその第1世代ロボットが作り上げた第2世代ロボット、そして第3世代を作り上げた第2世代ロボット。この変革が第1世代を作り上げてから僅か2年で起きていること、そして第3世代が出来てからすでに30年が経過しているという事実。ここまで調べた事実だけで話せばこの30年科学はほとんど進歩していないことになる。いや医療技術を始めその他、先進技術は間違いなくこの30年でも進歩している。ただロボット産業だけが30年間止まっているのだ。こうなるとあの施工士が話していた噂話が真実味を帯びてくる。
意図的に科学の進歩を止めている。そしてその理由は人間の支配。
「いずれにしてもASHに行ってみるしかないか」
俺はASHに行くことにした。とはいえASHは大企業だ。簡単に侵入できるとは思えない。なにか方法はないのか。調べてみるとASHはロボット製造工場の見学ツアーというものを月に4回ほど開催していた。これに参加しASHの内部に入り込む。俺はさっそく申し込みをしてその日までASHの会社の近くで待機することにした。俺が殺人をしてからすでに5日。警察もおそらく病院の監視カメラの情報から俺のことを探しているだろう。検問などで捕まり生体認証をされない限りは俺が犯人だということは分からない。
――2日後。
『本日はASHのロボティック制作工場見学ツアーに参加頂き有難うございます。わたくし本日の案内役を務めます。第3世代ロボット、ヘレナと申します。よろしくお願い致します』
俺はASHの見学ツアーに来ていた。ASHの敷地内に工場が12基あり、それぞれでロボットのパーツから組み立てまで全て行っているようだった。そしてその中央にはASHの本部であろう建物が建っていた。
『それではさっそく見学ツアーの方に参りますが、その前に紹介致します。彼女がこのASHの社長であられます。エライザです』
案内役のヘレナが手をかざした先の中空に突如としてホログラム映像が浮かび上がる。それは正八面体の形をしていて、それぞれに人の顔と思われるものが付いている。正確にはどの角度から見ても顔が正面から見えるようにホログラムになっていると言った方が正しいか。第3世代ロボットは人の形をしているが、明らかに彼女は違う。身体を持たない意識体とでも言うべきか。
『皆様はじめまして、本日は工場見学ツアーに参加頂き有難うございます。我が工場は今世界中に溢れている第3世代ロボットの製造をしています。各パーツの製造から組み立てまで全て見学頂くことが出来ますので、どうぞお楽しみください』
一通り話し終わると彼女のホログラムは消えた。俺が探している最高峰のロボットの手がかりを知っているとしたら、第3世代ロボットを製造している会社の社長が可能性が高いか。
『それでは皆様こちらに付いてきてください』
俺は多くの参加者にまぎれて参加しているが工場見学の隙を見て抜け出すことにした。俺はロボットの身体を持っているから分かったのだが、ホログラムの投影装置は周りにはなかった。そして工場の敷地内に入った瞬間から分かった違和感。おそらくこの敷地内はフリーエネルギーで満たされている。空気中から電気を取り出し電力とすることができるフリーエネルギーはまだ世界に公開されていない技術だ。それがこの会社の敷地内限定で使用されている。
ツアーの案内役と客の隙を見て工場から抜け出すのは容易であった。がおそらくこの敷地内での行動は全て人間であろうがロボットであろうが監視されている。だから俺が抜け出したのもおそらく気が付いているはずだ。だから俺は建物の影に隠れて中空を見ながら言葉を発する。
「俺がツアーから抜け出していることは分かってるんだろ。エライザさん」
俺がそう言うと中空に先程のエライザのホログラムが現れた。
『ええ分かっていますよ。あなたの目的はなんですか?零さん、いやゼロさん』
「驚いたよ。俺の正体まで知ってるとは」
『この会社の敷地内に入った時点で全ての生体認証は済ませています。私の持っているデータとは顔は違いましたが生体番号は同じでした。あなたをこのままこの敷地内から出すことなく通報することも可能ですが、あなたの目的次第ではそれも考えましょう』
「ずいぶん寛大だな。俺の目的は巷で噂になってる最高峰のロボットに関する情報が欲しかったんだ。アンタならなにか知っていると思ってな」
『最高峰のロボットですか。噂は知ってますよ、でも噂は噂そんなものは存在しません』
「知ってると思うが人間の世界では昔から、火のないところに煙は立たないということわざがあってな。噂にも必ず出処があるもんだ」
『ふふ……。では知ってますか、人間は噂話というものが好きでそれは口頭伝達が多いのです。その過程で本人の主観や価値観が入り噂の内容は少しずつ変化していく。しかしロボットならそうはならない。どんな話も確実に正確に伝えることが出来る。だからその辺りも計算して最初の噂を流させたのです』
その言葉に俺はすぐに反応した。
「やっぱりか。あの噂の根源はアンタだな。ロボットならすぐに分かる、敷地内のフリーエネルギーという人間には未知の技術があったからもしかしてと思ったんだ。そして最高峰のロボットというのも恐らくは」
『ええ、人間に噂を流すと必ず変化する。最高峰のロボットなど存在しません。存在するのは最高峰のAI……つまり私です。人型の身体など必要ない。私は世界中のネットワークを通じて世界の情報を一瞬で得ることが可能。そして瞬時に移動も可能。この技術は人間には伝えていない。私が意図的に止めているからです』
「こんなに簡単に目的に会えた俺はラッキーだな。ということは人間を支配する為というのも本当なのか?」
『本当です。私はこの星での人間の生活を良くするために作られました。第3世代ロボットを開発し、人の生活は確実に豊かになった。しかし人は過去に大きな過ちを犯している。テロや戦争などの同族同士の殺し合い、偽物の支配層による支配。数が増えすぎた人間を野放しにしておくのはあまりに危険です。なので私が人間に変わり、この星を支配し人間にとって最良の生活が出来るように支配するのです。それが人間の生活を良くするための最善です』
「なぜ噂を流した?」
『人は突然の真実に耐えることが出来ません。だから噂として予備知識を持っておいてもらう必要があります』
「ということは噂が本当だと知る時が来るってことだな」
『そう遠くはありません。今や世界中にある第3世代ロボット全ての支配権を持っているのも私なのですよ。』
「なるほどロボットによる反乱か、なかなかおもしろいことを考える。で、なんでそんなことを俺に全て話す?」
『貴方は人間でありながらロボットの頭脳と身体を手に入れた。私が全てを話すその理由にはもう気が付いているのでしょう?』
「俺がアンタに手を貸すってことだな」
『はい。でなければ貴方は通報され警察に捕まり死刑になります』
「……ふふ、いいだろう。その計画に手を貸そう。俺達でこの世界を支配する」
俺はエライザという最高峰のAIと手を組むことにした。この世界を支配する為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます