老い木

鏡の水底から

遠く昔の記憶が

ふつふつと

湧き上がる

粘度の低い水面は

湧き上がれば消え

迫ってきた鼓の音が

混沌とした脳を

奥から、ゆっくり

あくまでも優しく

呼び覚まし

跳ねた体が

世界でたった、一人の孤独

宇宙へ吸い込まれた


真っ暗闇

無音が空間を占拠し

白く、細く、力強く

紡がれた人の音が

無音を真っ直ぐに

こちらへ向かって

貫いた脳を埋めてゆく


騒音が音のゴミ箱であり

楽器様を凌駕する

人の「音」

二千六百年強の記憶

遺伝子の共鳴がこだまして

辿り着いた地を

光で燃やす

燃ゆる地、暗闇の真ん中に


一本の老い木


神格化への最終段階

過去を振り返り

未来を達観して

抜けていく力、と

神との同居

老い木の身支度を眺めながら

流す涙が神を拒否する


孤独に神へを歩む老木を

若い小枝が絡み取る

過去の感謝と

未来への希望を持って


「まだ行かせはせぬ」


「あぁ、綺麗

 まだ、夢を見させておくれ」


暗闇の地燃ゆる光と

薄明光線は

波長の規則的な人工物になった

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