第25話

 私たちは準々決勝で負けた。

 その原因の一つに私がいるのは間違いない。いや、そもそも主たる原因は私である。


 あの試合後、瀬南が何か言いたげな顔で私を見ていた。でも私はそれに対して逃げた。本当に情けないと思う。自分は惨めだと思う。こんな態度しか出来ないなんて。


 確かに圏央第一高校のあの選手は強かった。絶好調の私でも勝てるかどうかは危うい。

 しかしあんな最低な試合になることはなかったのだろう。


 一応いうが私は手を抜いていたというわけではない。私はこんなことをするわけない。


 その試合の後、部内で打ち上げをするらしいが私は断った。とてもじゃないが保護者などに今の私の顔をみせることなどできないからだ。


「大丈夫、みんな気にしていないよ」


 と、原井が言っていたがそう言うこと自体が私のことを気にしているということだ。


 部内で私は一人になった。

 何故か寂しさが出てしまった。いつもならこんなことを感じたことなかったのに。


 またいつもの公園にいく。

 そこには一人の少女が相変わらず練習をしていた。一体彼女は何の為に練習をするのだろうか。何を目指しているのだろうか。

 直接聞いてみようか。いいや。

 どうせ、直接聞いたところで答えなど教えてくれない。

 私が彼女と同じくらいの時も何を目指していたのか明確にはわからなかったのだから。


 私はふとポケットのスマホを取り出した。

 それを触れる。

 私自身SNSもやらない、友達と連絡を取り合ったりしない。そんな性格をしているのだからスマホは新品とほとんど変わらない。


 そんな私が珍しく電話帳を開いた。

 そして電話をする。


 出るかな。

 いや、出るでしょ。今は日曜日の夕暮れだ。


「もしもし」


 でた。姉だ。


「どうしたの? お金なくなったの」


 私の方から彼女に電話をすることないから非常に驚いたような声だった。


「今日……関東大会だったんだよ」


「そうだったんだね」


 といった後に会話が止まる。

 姉はその後何も言わない。彼女は何かを察したのだろうか。

 流れる沈黙。自分から惨めな試合をして負けたということを告げようか。


 そもそも私はどうして電話をしたのだろうか? 姉にこの結果を知ってほしくて?

 いいや。それはないはずだ。こんな惨めな結果。わざわざ自分の口から出す必要などあるはずがない。


 それじゃ、どうして?

 私は姉に慰めてほしかった? 

 ……そうなのか? そうなの?

 私は……私は。そこまで心が弱かったのか。そこまでみっともない女だったのか。

 これじゃ、このままじゃ家に帰っても母に見せる顔がないや。


「私、家に帰りたくないや」


「そうなんだね」


 またもや理由を聞いてくれない。こんな姉の態度に私は少しイライラする。


「私ね、今日みっともない試合をして。もし、その結果を知ったらお母さんに怒られる」


「樋春はお母さんの為にバドミントンをしているの?」


「いや、そのはずはないんだけど」


 電話越しからふっという息が漏れた音がする。電話越しで彼女は笑っているのだろう。


「だけど家に帰りたくない。今だけは。今だけでいいから」


「もし家出したくなったら東京に来てよ」


「東京?」


「そう。私の家に。そして一緒に住もう」


「姉ちゃんと同棲? やめてよね。気持ち悪い」


「そんなこと言って。昔はあれだけ一緒の布団に寝てたのに」


 そういえばそんなことがあったな。夜、幽霊が怖いから無理矢理姉ちゃんのベッドに入ってそこでモゾモゾと。

 そんな可愛い時期も成長して今はこんなんだけど。


「私と二人っきりが嫌だったら別に友達をつれてもいいし」


「友達?」


 私にそんなものはいない。玉井というやつもいるけどあいつは下僕だ。もし玉井が私たち友達だよねとか訳の分からんことをいってきたら秩父の山の中に捨ててやる。

 それ以外の友達と言えば……

 ふと原井の顔が浮かんできたがそれはすぐに消す。あいつは友達じゃない。あんな酷い扱いをしたのだから。


「いなかったら別に一人でもいいよ」


「いるし、馬鹿にするな!」


 ブチン。あまりにもムカついたのでうっかり電話を切ってしまった。

 そして立ち上がる。このままここにいてもしょうがない。私は家に帰るんだ。


 目の前の少女はまだ練習をしている。彼女は一体何を得るのだろうか。

 私は一体何を得るのだろうか。

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