第18話
春のバドミントン大会。
これはインハイ予選のシード権が決まる大会である。
今年は埼玉けやき高校は遠征などの影響によりこの大会に不参加。そもそも埼玉けやきはすでに第一シード枠を手にいれている。
そしてこの大会に優勝すれば第二シード枠。つまり埼玉けやきとは反対側の山からスタート出来る。初戦から埼玉けやきと戦うということを避けることが出来るのだ。
その面ではこの大会も重要なものだといえるだろう。
もっとも全国大会に出場するなら最終的に埼玉けやき高校を倒さないといけないのだが。
さて私たち、籠原南高校は去年この大会第三位で関東大会に出場した。
埼玉けやき高校が出場しない今なら優勝だって狙える。
「おい、お前第一試合見に行くぞ」
私たちはこの大会ではシード。
第一試合勝ち上がったチームと対戦することになる。
そんなことで私は原島さんに誘われた。
「なんで私と?」
あれだけ喧嘩とか色々したのに……
「お前には色々な試合をみて勉強してほしいからな」
「はぁ……」
とはいえ、特に断る理由などなかった。
私は彼女と二人で試合を観戦することに。
第一試合。
上尾本町高校VS小渕高校。
正直いえばどちらの高校も無名。聞いたことのない高校。
だからこそ、相手は私たちに比べたら低レベルの試合をしているように思えた。
シャトルは浮いているし、フットワークは遅いし。攻め方も滅茶苦茶。取り合えずスマッシュさえ打ち込めばいいと思っている。
多分、私は大原さんや瀬南さん、そして原島さんのような強い選手に目が慣れてしまったのだ。
隣で原島さんは大きな欠伸をしている。
誘っておきながら。でも……確かにその気持ちは分かる。
「お前が求めていたお気楽バドミントンはこれか? 楽しく和気藹々バドミントンはこれか?」
などと言われた。それを言われると首をかしげる。
なんか違う。
私はこのようなバドミントンがしたいわけじゃない。確かに勝ち狙うだけのバドミントンは嫌なのかもしれないけど……
だからと言って弱いのも嫌だ。弱いとシャトルを打ち返すことできない。美しいスマッシュを打つことができない。
私はそれを打っている瞬間が楽しいのに。
……あれ? と私は思う。
私が求めているのは決して部室で和気藹々恋ばなをしながら緩く練習することではない。むしろきっちり練習をして素晴らしい技を本番で決める練習を求めている。
周囲からみたら私も原島さんも考え方が一緒になるのではないのだろうか。
いやいや。いくらなんでも原島さんは共謀すぎる。彼女の考え方はまた違う……はずだ。
結果は小渕が第一ダブルス、第二ダブルス、第一シングルスをとって3-0で勝利。
「退屈な試合だった」
と彼女はもしかしたら選手にも聞こえるかもしれない大きな声でそういった。
ちょっと……なんて思ったけど私もそう思っていた。
続いてトーナメント反対側の試合もみることに。
蒼大本庄VS騎西学園高校
蒼大本庄は県大会でも毎年上位に現れる。
騎西学園高校は、体育科などがあり近年スポーツに力をいれている。特にサッカー部は去年初の全国大会を手にいれた。
つまりどちらも強い。
「特に蒼大本庄の塩ノ谷は私でも倒せるか怪しい」
などと言う。
彼女がそういうのだから塩ノ谷さんという選手はかなり強いのだろう。
そして試合が始まる。第一ダブルスは蒼大、第二ダブルスは騎西が奪う。
そのあと第一シングルス。塩ノ谷。
大きい。
まずそれだけ。本当に高校生なのだろうか。身長は180センチぐらいはあるのだろう。そこら辺の男子よりも高い。
そんな大きな身長から打ち出されるスマッシュというのはかなり鋭いものだ。
槍だ。当たったら痛そう。
あれは生半可な人間が受けることができないだろう。
戦いたい。この人と。私の鳥肌が勝手に立つ。
もう蒼大の塩ノ谷を止めることなど騎西はできるわけもなく……21-7、21-8で圧勝。そのまま勢いにのった蒼大本庄が二回戦へ駒を進めた。
そして私たちの試合の順番が回ってくる。
小渕高校VS籠原南高校。
前評判でも籠原南が圧勝するだろうという評価だった。その前評判通り、第一ダブルス、第二ダブルス、第一シングルス全員ストレートでとり圧勝。
特に原島さんは小渕の第一シングルスに対して21-0 21-0という完封試合を果たした。
どうして彼女は中学時代に全国大会に出場しなかったのだろうか。そう思われるぐらいの強さだ。
本当に私は籠原南でよかった。
小渕高校だったら私の求めているバドミントンなどできなかった。
続く三回戦。
籠原南高校VS駒形高校。
第一ダブルスとる。しかし第二ダブルスは相手にとられてしまった。
それでも私たちに焦りなどなかった。
どうせ第一シングルスがゲームをとってくれる。それは圧倒的な試合をしていた彼女をみれば分かる。
そう。そのはずだった。
第一ゲームは21-9と今まで通りの試合を見せた。
しかし続く第二試合。11-5の折り返し地点のところ……事件は起きる。
相手がラインギリギリにスマッシュを打っている時だった。原島さんがそれを踵からしっかりと踏み入れてとろうとする。
その瞬間。
プチン。
はっきりとその音が聞こえた。何かが切れる音。足だろうか。
一瞬で私のからだから全身冷や汗がでた。
そのまま原島さんはコートの上で倒れ混んだ。
原島さんは動かない。びくともしない。
一瞬でメンバーの呼吸が止まる。
何ということだろうか。最悪なことが起きてしまった。
「原島!」
石塚先生は声をあげる。
しかし原島はそれに反応することはない。
「ねぇ、原井さんは知っている?」
私の隣に座っている瀬南さんは言う。その表情にいつもよりも真剣だ。
「どうして彼女が全国大会に出場できなかったのか」
実力は十分。それでも全国大会に出場できなかった。もう考えられる可能性はただ一つしかない。
その理由など知りたくない。
籠原南高校に関東大会出場のランプが黄色に点った瞬間だった。
上位5位が関東大会出場。
つまり4回戦突破が最低ライン。
その4回戦の相手はさいたま東高校ということが決まっていた。
さいたま東高校は去年のインハイ予選第二位4年連続で関東大会に出場している強豪校だ。
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