第12話

 勝負、勝負って……そんなに勝ち負けが大事なのか。これは私が小学生の頃からずっと思っていること。


 小学生の頃。ただ勝ちだけを目標にして戦ってきた。その結果、待っていたのは戦犯探しという悲劇。そして結局私のやっていた野球チームのメンバーとは仲悪くなり疎遠に。


 もし勝ちとかそんなのがない世界だったら。もし、ただ野球をすることだけを楽しんでいたら……私はあのときの野球メンバーと今でも仲良くできたし、そのままそれを楽しく続けることができた。


 第一、最後に勝って終われる高校生なんて日本で一年に一人……全国大会優勝者しかいないじゃないか。その優勝者だってどこかの年で負けているかもしれない。


 人間どこかで絶対に負けるときがくる。それなのにどうして勝ち続けることを目標にしないといけないのか。甚だ疑問だ。


 私の野球チームだって、あのまま勝ち進んでも、仮に全国大会に行ったとしてもどこかで負けたら戦犯探しをして同じ未来を辿っていたかもしれない。全国優勝以外にハッピーエンドなんて存在していなかったかもしれない。

 それなら最初から勝ち負けを意識せずお気楽クラブでお遊び感覚で楽しんだ方がお得であろう。


 ……そういえば初めてバドミントンに勝った時はどんな気持ちだったっけ。

 初めてバドミントンをしたときはどんな気持ちだったっけ。


 多分そんなことはどうでもいい。


「ただいまー」


 私はその後、籠原の方へ歩き実家へ帰宅。


「お帰り。やけに遅かったね」


 と母。籠原南高校からここまで徒歩10分でつく。そして部活が終わるのが19時。

 でも帰宅したのは20時。約50分遅れの帰宅。


「うん。今日はバドミントン部の最初の練習でミーティングとか色々あったからね」


 と何故か私は嘘をついてしまった。

 机の上にでは熱々のグラタン。今日の夕飯だろう。


「バドミントン部で新しい友達できた?」


「うん……まぁ」


 私は曖昧な返事をした。

 果たして私は原島さんと友達になれたのだろうか。あの様子だと彼女は一方的に私を嫌っている。そのようにも思える。


 正直言えば、明日原島さんに会うのが怖い。これ以上彼女との距離を縮めるのが難しそうな気がするからだ。


「そう。それはよかったわね。これから一緒に戦う相手だから仲良くしないと」


「一緒に戦う相手……ねぇ」


 私は椅子に座る。そして天井を見上げる。


「私はバドミントン部で戦わないといけないのかな」


「当たり前でしょ。なんの為にバドミントン部に入ったの」


「そこには勝ち負けがあるのかな」


「あるに決まっているでしょ」


「勝たないとダメ?」


「負け続けている人に何の魅力があると思っているの」


「勝ったら格好いいとか負けたら惨めとかそんなの一体誰が決めたんだろうね」


「人間でしょ。負けたら土地も金も名誉もなくなる。だから勝つ。戦に勝ち続けようとする。そうやって歴史は今まで続いていったことだし」


「でも今は平和だよー戦争に勝たなくても生きていける。そもそも争いなんて起きない。だから勝つ必要なんて」


「それは無理だわ。この世界は思った以上に不平等なのだから」


 そうなのかなー。


「でも部活ぐらいは……せめてお遊びとしてのんびりやりたいよ」


 と私は思ったことを口に出したら母は口許を緩めた。

 私はそんなおかしいことをいったのだろうか。


「日向はもし今までにないぐらい最高なスマッシュを打てるようになったらどうしたい?」


「それは……相手に対して打ってみたかな」


「それはどうしてかな?」


「だって気持ちいいもん」


「うん。そういうことだよ」


 私は母の言っている意味が分からなかった。

 そのあと、私は母の作ってくれた熱々のグラタンを口に含んだ。


「それが日向のバドミントン。その気持ちを大切にすればいつか答えが見えてくるよ」


 なんて途中母が言ってきた。

 見えてくる? 一体何が?

 分からない。


 そもそも私のバドミントンって何だろうね?


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