第9話
何故なんだ。
私は怒り狂っていた。
どうしてやつは当時、最強と言われた埼玉けやきの宮本を倒しておいて、関東大会優勝していない。
ベスト8ということは、宮本を倒したその次の試合で負けているではないか。
納得がいかない。
あのとき、みた彼女の実力なら優に関東大会優勝できるし、全国大会だって上位を狙える。
まさか、関東大会にはもう一人強い人がいた? もう一人化け物がいた? そんな馬鹿なことあるかよ。
私はあのあと、チャイムがなり教室に戻ろと原井に言われた。無論、教室に戻るつもりなどない。最初のHRなど休んだところで進学などに影響などないだろうし。
私はグラウンドに向かい、石を蹴りあげた。
イライラする。本当に。
別に彼女が関東大会で優勝を逃したということにイライラしているわけではない。いや、それも多少の影響はしているのだろうかと思うけど。
一番嫌なのは、彼女が負けたくせにヘラヘラとしていたということ。何も恥じらいもなく笑っていたこと。
関東大会で宮本を倒した。しかしその次で負けた。これほど恥ずかしいことはないはずだ。
私だったら恥ずかしさのあまり切腹を考える。
関東大会優勝の価値はかなり高い。
中学の関東大会は東京を含めた関東圏すべての兵が集まる。そこで一位になるということがどれほど難しいことか。
そんな一世一代のチャンスが原井にやってきたのだ。それなのに彼女は逃した。
一体、彼女は何者なのか。ぼんやりと誰もいないグラウンドの中心で考える。
それからグラウンドを走って心を落ち着けようとした。しかし落ち着くことはない。
だから素直に教室に戻った。先生からは無断でHR休むのはダメだからと強くお灸を据えられた。適当にすみませんでしたと謝っておく。もちろん反省などしていない。
そして放課後、私はラケットケースを持ちバドミントン部が練習している体育館へ。初日から数人の入部希望者がいた。
「私が部長の大原です」
その大原という人は身長がかなり高い。
「埼玉県内でバドミントン強豪高校と言えば埼玉けやき高校。次いでさいたま東高校、蒼大本庄、上里第一。私たち籠原南高校も近年関東大会に出場しまして全国大会出場できる位置にはいます」
と簡単な埼玉の勢力争いを述べる。
「私自身も去年全国大会に出場しました」
というと周囲の人はおぉという声をあげた。
大原は去年新人戦埼玉県大会ベスト3位、関東大会でも3位で全国選抜大会の切符を手にいれた。
文句なしの部長でありこの部のエース。私でもすごいと思ってしまう。
「私は副部長の瀬南です。今は二年生で」
と。柔らかいウェーブとその表情は優しそうなお姉ちゃんという雰囲気があった。
彼女も去年埼玉県大会ベスト16。埼玉けやきの選手に負けただけで実力はベスト16以上の力があると言われている。有力な選手。
団体戦では大原と瀬南は確実にメンバー入りをするだろう。
先輩たちの自己紹介が終わり、今度は新入生のばんがやってくる。
「籠原中学校、和泉都です」
籠原中学校。ということは原井と一緒の中学校か。
「昭島第二中の新川です。中学までは東京の方に住んでいたのですけど、親の関係で埼玉に引っ越してきました」
昭島第二中学校か。ここもバドミントンの強豪校である。もしそこで団体戦レギュラーだったのならこの人もかなりの実力者であるだろう。
そして
「籠原中学校の原井です。えっとその」
例の彼女は恥ずかしそうにそう自己紹介をする。
「日向は関東大会ベスト8位だったんだよね」
「ちょっと都」
と顔を赤らめて、最後はお願いしますと軽く頭をさげた。
周囲はおおーすげーと盛り上がる。
それに対して私はふんと鼻息を荒くさせた。
途中で負けてしまったら関東大会8位も1回戦負けも変わらないじゃないか。
やはり私は、原井が関東大会ベスト8位という記録に対して納得がいかなかった。
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