調味料大戦争

岩月 敬一

第1話調味料大戦争

「くらえ! マヨマヨビーム!」


「へっ、くらうかよ! ケチャの渦!」


 マヨラーのトップ、マヨリニスト謙也けんやとケチャラーのトップ、ケチャップ星人透の戦いは終盤に差し掛かっていた。


 謙也が手に持っているマヨネーズを容器から飛ばした瞬間、透は回避は無理だと考え、残り少ない手持ちのケチャップでなんとか謙也の攻撃を防いだ。


「謙也落ち着いて! 相手に単調な攻撃は通じない! もっとマヨネーズだからこそできる攻撃をしないと!」


 謙也の幼馴染で、同じマヨラーである柚月ゆづきは、ケチャラーのナンバー2であるれんと戦いながら謙也にそう忠告する。


「おいおい、よそ見していていいのか嬢ちゃん。今から君の体を、ケチャップで真っ赤に染めてあげるよ! ケチャップウィンド!」


 見た感じ十代の青年な謙也達に対し、蓮はいかにも婚期を逃した三十代後半のおじさんという感じだった。


「うわぁーー!」


 蓮の攻撃をまともにくらった柚月はケチャップで体を赤く染められたままその場で倒れてしまう。


「この独特な酸味、甘味、そしてケチャップ特有のトマト感。それに合わさって来る塩味。ダメ、ホットドッグが食べたくて食べたくて仕方が……ない」


「柚月! おいっ、大丈夫か!」


 柚月がやられたのを見た瞬間、謙也は透の事などすっかり忘れて、気付いたら倒れた柚月を抱きかかえていた。


「へへっ……ごめんね謙也……私、ドジ踏んじゃった」


「そんな事どうでもいい! 早くマヨネーズを飲んで回復しろ!」


 謙也は手持ちのマヨネーズを開けて柚月に飲ませようとするが、その手を柚月は止めた。


「ダメ……だよ謙也、もうマヨネーズも残り少ないんでしょ? 私はもう……ダメだから……それは……あいつらを倒すために……使って。あっ……そういえば一つ言うの忘れてた……私、マヨネーズに対して……まっすぐに取り掛かる謙也のこと……割と……好きだった……よ」


 そういい残し、柚月は気を失った。


「将来有望な若い子を殺める(死んでません)のは心苦しい事だが、これもケチャップの未来のためだ。残る調味料はお前らマヨラーのみ、ここで倒させてもらうぞ!」


 蓮の台詞を聞いた謙也は徐に立ち上がり、マヨネーズを静かに透達に向けた。


「ケチャップの未来のため? 知るか、この戦争を始めたのはお前らケチャラーだろ。それでどれだけの人が犠牲になったと思っている(誰も死んでません)。寿司のぜったいのお供、醤油を愛するショウラー、コロッケなど揚げ物といえばこれ、ソースを愛するソーラー、日本の象徴、味噌を愛するミソラー、ラーメンを辛くしたい時に使う、ラー油を愛するラーラー、しょっぱさと言ったらやっぱりこれ、塩を愛するシオラー、そして甘さの権化、砂糖を愛するサトラー。確かにこの中には俺らマヨラーが倒した奴もいる。だが、この戦争はもともとはお前らが引き起こしたポン酢を愛するポンラー暗殺事件が事の発端だろ!(ポンラー、死んでません) それまで俺たちはただそれぞれの派閥でそれぞれの調味料の良さを語りあっていただけだ! それをお前らは、……よくもっ!」


「うるさい!」


 謙也の台詞を、透が途中で遮る。その顔には、明らかな憤りが見られた。


「この世界には調味料が多すぎるんだ! おいっ、謙也! ラー油と言えば何だ!」


「ラーメン」


「ポン酢!」


「すき焼き」


「醤油!」


「寿司」


「マヨネーズ!」


「サラダ」


「じゃあケチャップは!」


「えっ、ホットドッグ」


「そうだケチャップといえばホットドッグだ!」


「それの何が悪い!」


 謙也には透の言いたい事が分からなかった。だからこそこんな意味の無い戦いを始めたケチャラーに、より憤りを感じた。


「悪いに決まってるだろ! いいか、ホットドッグっていうのはな、マスタードとケチャップを一緒につけて食べるんだよ! ほかの調味料はそれ単体でメインの料理を味わえる。それに対してケチャップは何だ! マスタードとセットだと? ふざけるな! 俺はそれが憎くて憎くてたまらない! だからこの世界の調味料を無くそうと思ったんだ、ケチャップ以外な! そうすればケチャップは色んな料理のメインを張れる。ラーメンはケチャップ。すき焼きもケチャップ。寿司もケチャップ。サラダもケチャップ。どの料理でもケチャップが使われる。それこそが俺の描く理想郷だ!」


「ふざけるな! サラダにケチャップだと……マヨネーズだからこそあの味のハーモニーが味わえるんだ! サラダはマヨネーズ以外ありえん!」


「何だとっ…………まあ、いい。話し合いは終わりだ。トドメを指してやる。あの世でお仲間にでも会うんだな(誰も死んでません)。くらえ、ケチャケチャ大津波」


 透がそう言った瞬間、ケチャップで出来た赤い津波が謙也の方へと押し寄せる。


(くそっ、あいつの残りのケチャップの量からしてあれが最後の攻撃だろう。だが、俺の手持ちのマヨネーズだけで防げるのか? くっ、仕方ない。あとで呑むために取っておいたマヨネーズも使おうこれなら!)


「マヨマヨ大壁!」


 謙也は残った全てのマヨネーズを使ってなんとか透の攻撃を食い止める。そのおかげかなんとかケチャケチャ大津波をギリギリで防ぐ事が出来た。


「透、援護するぞ。ケチャケチャ大津波!」


 しかし、その均衡はすぐに崩れた。蓮の援護によってケチャケチャ大津波が息を吹き返したのだ。


「くそっ、このままじゃ!」


 透と蓮のケチャケチャ大津波に耐えられなくなった謙也はもうダメだと諦めた、その瞬間、


「ポンポンウォール!」


 突如現れたポン酢の壁により迫り来ていたケチャケチャ大津波は防がれた。


「なっ、誰だ!」


「ふっ、誰だとはひどいじゃないか。僕達を殺そうとしていたくせに」


「なっ、お前は!」


 透が見た先、そこに立っていたのはそう、ポンラーのトップ、ザ・ポン酢聖也とその仲間のポンラー達だ。


「お前らは俺らが殺したはずだ! 何故生きている!」


「残念ながら死んでねえんだよな、これが。(ケチャップをかけられただけなので、そりゃ死にません)マヨリニスト謙也、安心しな、来たのは俺らだけじゃねえぜ」


 聖也がそう言ったのと同時に、大量の人影が周りに現れた。それに透と蓮、そして他のマヨラー達と戦っていたケチャラーは言葉を失い、謙也は喜びの声を上げた。


「寿司のぜったいのお供、醤油を愛するショウラー、コロッケなど揚げ物といえばこれ、ソースを愛するソーラー、日本の象徴、味噌を愛するミソラー、ラーメンを辛くしたい時に使うラー油を愛するラーラー、しょっぱさと言ったらやっぱりこれ、塩を愛するシオラー、そして甘さの権化、砂糖を愛するサトラー。お前ら、何で!」


「へっ、一度は憎み合った仲だけどよ。お前のマヨネーズへの愛にやられちまったぜ、これからは味方同士だ。一緒にケチャラーをぶっ倒すぞ。それと安心しな、そこにいるお前の幼馴染、まだ死んじゃいねえぜ、気ぃ失ってるだけだ」


「それは本当かサトイアンてつ!」


「ああ、本当だ」


「ふっ、みんなありがとな。……それじゃあ行くぞ、ケチャラーをぶっ倒せ!」


「「「おおーー!」」」


 調味料への愛、そして他の調味料への理解。それらを持ったマヨリニスト謙也達は見事ケチャラー達を打ち倒す事に成功した。





 

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