やっぱり、この国は楽園だ
楽しい時というのは、本当に早く流れちまう。気が付いた時には、アクアフェスティバルの会場を華やかに照らす明りが、日の光から外灯や電飾へと徐々に移り変わっていく時間帯になっちまった。
これは、まだマルセル崖岸へ向かう途中の出来事なんだが、全く知らない人に声を掛けられた。水着姿の夫婦だったが、着ている衣装や雰囲気からして労働者階級っぽかった。そんな人たちから、こう言われたんだ。
『あなたが、ゲンロクちゃん? なんて可愛らしいのかしら』
『ゲンロクさんと一緒にいるということは、あなたが『よぞらのかがみ』さんですか?』
『私達、あなた達のウェブログをいつも楽しみしているんです。よかったら、私達にサインと記念写真をお願いしてもらえないですか?』
俺は驚いたよ。もちろん快諾したけど、サインなんて初めてだった。ゲンロクがその場で良いデザインを提案してくれたから対応できたけど、俺一人ではどうすることも出来なかった。
幻想月影でなくとも、どうやら生身の俺は俺でそれなりの知名度を得ていたらしい。まあ、それなりにPVは稼いでいたし、オフラインで声を掛けられるケースも今まで全くなかったってわけではない。だけど、まさか労働者階級にまで認知されていたとは思わなんだ。
サインと記念写真を得て満足そうに帰る夫婦の背中を眺めながら、俺は不思議な気分になっていた。住んでいる世界が変わっただけで、俺は何一つ変わってない。なのに、こっちの俺はあっちの俺と世界と全然違う。本当に、全然違う。
これは、アクアフェスティバルだけじゃなくて、どこかへお出かけしている時に誰かから大体の確率で訊かれるんだけど、俺がゲンロクといつも一緒にいるのには理由がある。そりゃ、はじめは可愛いゲンロクと二人で歩いて初めてのデート気分を味わいたいっていう下心くらいしかなかったんだけど、だんだん別の理由が主になってきた。
ゲンロクは、この世界にしかいないからだ。
ゲンロクはあっちの世界にはいない。ゲンロクという高性能なアンドロイドなんていないし、ゲンロクのような可愛い彼女だっていないし、ゲンロクのような献身的なパートナーもいなかった。ゲンロクが隣にいることそのものが、あっちの世界じゃありえない。
ここは、あっちの世界じゃない。働かないと生きていけないのに働くのが上手く出来ないから生きずらい――そんな生き地獄のような世界じゃない。働かなくとも、ただ秩序を維持して……極端な話、ただ生きてさえいれば国からも世間からも存在を認められる世界に俺はいる。そんな楽園にいるんだって、ゲンロクが証明してくれている。
だから、俺はゲンロクが傍にいると安心する。安心するから、俺はいつも彼女と一緒にいるんだ。そもそも、俺はこの世界じゃ天涯孤独の身でもあるんだしね。
夜になると、アクアフェスティバルはこれまた違った表情を見せる。浮遊する鮮やかなイルミネーションが会場を照らし、辺りは幻想的でムーディーな空気を醸し出していた。
この雰囲気は、あっちの世界で例えるならナイトプールだ。俺は行ったことないし、行くことは生涯ないだろうなって思ってたから、イメージの範疇でしか形容出来ないんだけど、多分、そんな感じ。
本会場であるリーヒ教会の敷地は、城壁のような高い壁と水を湛えた堀で囲まれており、橋の架かった構内への入り口には既に人の往来が。本来ならば俺も彼らの流れに乗るべきなんだけど、あれは早く会場入りしたい人向けの入り口。構内への入り口は他にもある。
教会の堀と繋がった大きなプールの上に浮かぶ大型のフロート。ゴムボートのようなシルエットに中央にはテーブルがあり、それをぐるっと囲うようにベンチの椅子が備え付けられている。四隅には安定化させるための浮きが備え付けられており、先頭には水棲の馬を模した装飾が施されていた。
俺とゲンロクはそれに乗っていた。これ、安定感が想像以上に高くて、端っこに二人で座るのはもちろん、二人で立って歩いている程度でも転覆そうな素振りすら見せない。このフロート、リゾートとかで華やかに遊んでるような人種が乗るものであり、俺には一生縁がないもんだと思っていた。それを、あろうことか俺はゲンロクという可愛らしい女性と共に乗っている。現実とは思えない感覚だよ。
俺とゲンロクを乗せたフロートは、あらかじめプールに備え付けられていた流れに乗り、教会周りの堀へと向かう。途中、フロートが橋の下をくぐったんだけど、橋の上を歩いていた人達のうち、何人かが俺とゲンロクを指さしていた。何を言ってるのか俺にはよく聞こえなかったんだが、ゲンロクが言うには『よぞらのかがみ』と呼んでいたらしい。
やがてフロートは、堀から教会構内への入口へと吸い込まれるように流されていく。壁を越えてすぐ構内の外気に触れるわけではなく、内部は曲がりくねったトンネルのようになっていた。
侵入して早々、辺りは真っ暗な静寂に包まれる。
何も見えない。フェスティバルの静寂も届かない。感じられるのは、暗闇を流れる水の音と、鼻腔をかすめる水のにおいと、フロートのゴムのような感触だけ。
ふと、何か暖かくて柔らかいものがこちらに寄ってきて俺は驚いた。ゲンロクだった。ゲンロクがこっちに身を委ねてきたのだ。
ゲンロクはアンドロイドだ。けど、これはテンプル美術館の展示品で知ったんだけど、ホワイトテンプル製のアンドロイドは特殊な皮下循環剤が使われているため、第四世代辺りから人体と変わらない体温を有するようになったらしい。だから、彼女には無機質でひんやりとした温度はない。人と変わらぬ、血の通ったぬくもりが第六世代の彼女にはあるんだ。
そして、二の腕あたりから感じられるやけに柔らかな感触は……いかんいかん。いくら暗闇の中とてここは公共の場だ。あまり反応してはならぬ……。
刹那、頭上で何かが光った。
流れ星? いや、違う。ここは屋内だ。あれは――。
次の瞬間、俺の周囲で何かが光った。蛍光ランプのような仄かな光を周囲に放つそれは、発光する巨大なキノコ――じゃない。キノコを模した照明だ。
気付いた時には、辺りは幻想的な明かりに包まれていた。この雰囲気は、まさにあれだ。かつて俺がいた世界にもあった、某『夢の国』にある某『ちいさなせかい』! 流石に詳細は全然違うけど、全体的な雰囲気はまさにそれだ。幼少期に家族に連れられて行ったきり、もう行く機会なんて二度と無いだろうと思っていたあの世界だ。
発行するキノコに混じって、一人の男が歩いているのが見える。いつの間にか流れていたファンシーながらどこか陰鬱なBGMに合わせて姿を現した彼は、おそらく若かりし頃のヨハン・メイナルドだろう。
これから語られるのは、この国に住む人間なら誰もが知っている神話――ヨハン・メイナルドによる幻想国創立の物語だ。
グローバル経済連合が世界を一色に染め上げていた時代、AIの発達によって社会は高い次元にまで引き上げられたものの、その恩恵を受けたのは有能な富裕層だけであり、ほとんどの人間は雇用を奪われるなど貧しい生活を余儀なくされていた。
悲惨なまでの格差社会に心を痛めたメイナルドは、祖国から遠く離れた地にて出逢った仲間達と共に『一本の樹』を植えた。同志の一人、ウォシッキーが経営する農場で借りたガレージの中で生み出した大樹の名は――
今でもその納屋は現存していて、幻想国首都セントケイネスにあるウォシッキー大聖堂の敷地内で厳重に保存されているんだよな。嗚呼、機会があったら行ってみたいな。まだ行ってないんだよな。
ホログラムのメイナルドが仲間達と共に大樹を植えたところで、俺達のフロートはゲートのような小さなトンネルをくぐる。一幕が終わったってことか。ちなみに、セフィアの地名のほとんどは当時共にいた仲間達の名前から取ったものだそうだ。まあ、デクスター検問所とか確かにそうかもしれないね。
ゲートをくぐった先は、大樹のホログラムが見下ろす中庭だった。屋根の代わりに夜空を覆わんばかりに枝葉を伸ばしたセフィロスの元で、人や動植物のホログラムが幸せそうに行き来している。
いや、人間のホログラムかと思ったら生身の人間もいるわ。どうやら、あの橋から渡ってきた人達とこの中庭で合流するらしい。でも、歩行者のルートと川のルートは全然違うから、ぶつかることはない。曲がりくねったルートをフロートに乗って漂いながら、俺は地上の楽園を模した光景をひたすら眺めていた。
ここは、このセフィアを模した楽園だ。大樹のもたらす無限大の恩恵を受けて、動植物や機械が平和に暮らしている楽園だ。ある者はアンドロイドやロボットと手を取りながら暮らし、またある者は能力を遺憾なく発揮してより大きな住処を自ら築き上げる。
大樹から実る果実を取っても咎める者はいない。なぜなら、幾人が実をしこたまくすねた程度では、大樹からひとりでに実る果実が無くなることはないとみんな知っているから。
何もせず大樹にぶら下がって過ごす者を咎める者もいない。なぜなら、それを支えるのは大樹の役目であり、彼が大樹にぶら下がっていることが楽園の秩序維持につながることだと分かっているから。
ふと、フロートが中盤辺りまで差し掛かった時、楽園が暗転したかと思いきや、真っ赤な炎――を模したホログラムが中庭を地獄の業火よろしく照らした。炎をばらまいているのは、黒地にどぎつい身なりをしたいかにも悪者っぽい身なりの集団。そいつらは、木々に火をつけ、機械を傷つけ、動植物を追い回している。
これらが何を暗示しているのかは分かっている。デストリューマー。この世界の恩恵すら自覚せず、国に仇なす愚かな無法者集団。デストリューマーは己の快楽に導かれるままに、楽園の平穏を片っ端から壊し、焼き尽くして回る。
しかし、その地獄も長くは続かない。突然、大樹の一部がライトアップされたかと思いきや、そこに姿を現したのは三色のスカーフを靡かせた人影。横一文字のバイザーに月の紋章を左胸に装着した彼は、誰がどう見ても幻想月影だ。
幻想月影はデストリューマーの前に颯爽と着地すると、機械や動植物をいびっていた悪党たちに次々と制裁を加える。瞬く間に悪党たちは御用となり、大樹の見下ろす楽園は普段の穏やかな世界を再び取り戻した。
大樹に
教会でも度々耳にするフレーズだ。大樹の恵み――
おまけに、最近はこんなフレーズが付属するようになった。
さもなくば、幻想国の月影が天より参りて汝の愚かな行いに裁きを下すであろう。
働かなくったって、代わりにAIやアンドロイドが生活に必要なモノやサービスを生産供給してくれる――この奇跡のような世の中に感謝しなさい。それを弁えずに傲慢に振舞いすぎると、国のヒーローである幻想月影から厳しい制裁を食らうよって話だ。これ、最近は教会だけでなく各種メディアでも当たり前に聞くようになったなあ。
本当に幻想月影は人気になったもんだ。教会然り、この中庭で起きたヒーローショー然り。
「ホログラムの演出のおかげかもしれないけど、結構迫力あるんだね」
フロートに座りながらそんな感想を述べていると、隣のゲンロクが呟く。
「あのヒーロー、まるでマスターみたいでしたね」
「まさか!? 冗談はよしてくれよ。本物の俺はそんなにかっこいいもんじゃない」
俺は否定するものの、ゲンロクは「そうですかね?」と言わんばかりの笑みを浮かべている。……全く、第六世代のアンドロイドってのは『からかう』機能まで実装されているほど高性能だから困るよ。
中庭を通るルートも残りわずかとなった。フロートに寄り掛かりながら、改めてゲンロクとこの中庭の光景を見る。こんな経験、あっちの世界じゃ絶対にありえなかった。働かなくても、秩序の維持さえ出来れば――ただつましく生きてさえいればいい。そんな世界が存在するだなんて、あっちの世界じゃちっとも考えられなかった。
ゲンロクの美貌とセフィアを模した楽園を網膜に焼き付けながら、俺は呟く。
「やっぱり、この国は楽園だ」
そりゃ、ジェリーさんのようや単純消費者のように豊かに暮らせていない人だっている。デストリューマーの中にも、カマビスのように生きづらさを抱えた上で悪い人に煽られてどうしようもない存在に成り果ててしまった者もいるかもしれない。
あぶれる人が出るのは悲しいけど、それはこの国を否定する理由にはならない。この国が無くなったら、ほとんどの人が生きていけなくなる。それは俺も同じ。住んでいる人が弱いからじゃない。国の枠組みから抜けられるほど、人はみんな強くない。それだけの話。
これは、セフィアで暮らすようになってからより強く思うようになったことなんだけど、セフィアのような国が『強い国』っていうんだろう。軍事力が強いとか、外交が強いとか、領土が広いとか、そういうのだけじゃダメなんだ。どんな人でも豊かに幸せに暮らすことが出来る国ってのが『強い国』なんだ。
まあ、俺から見たら、セフィアは強い国というより、チートな国かもしれないな。幻想月影の力もチートだけど、この国そのものの方がずっとチートだ。
セフィアには感謝しかない。俺を受け入れてくれたホワイトテンプルにも、俺の日々を支えてくれるゲンロクにも、そして――
「あのヒーローにも感謝しかないな」
大樹の陰へと去っていくヒーローの背中に感謝して、フロートは中庭のエリアを抜けていく。
★★★
御大層な城壁に堀、そして豪華な中庭まで有するリーヒ教会だけど、実際の建物はとても小さい。
イメージするなら、浜辺をバックにした結婚式場。二階の部分には鐘しかなく、屋根が覆っているのは神父が立ってそうな場所くらいしかない。参列者が座るベンチは雨曝しとなっており、収容人数もさして多くはない。そんなこじんまりとした建物。
けど、リーヒ教会の場合、その手前に池のような広大なプールが広がっている。中庭を抜けた俺達のフロートもそこへ流れ着いたわけだが、別のルートから流れてきたのだろうか、俺達のよりもずっと多人数向けのフロートも既に浮かんでいる。後方へ目を見やると、海賊船の風船とも形容すべき超巨大なフロートまで浮かんでいた。
広大なプール。目の前には、リーヒ教会。そして、プールを左右から挟むように建っているのは、スタジアムのような観客席——既にたくさんの人たちが座っていけど、彼らの視線が向く先は、プールのフロートに乗っている人たちと同じ――リーヒ教会。
この教会で一体何が行われるんだって? 決まってるだろ。
「みんなああああ! 集まってくれて、ありがとおおおおおおおお!」
大規模な音楽祭に決まってんだろ。
アイドル衣装に身を包んだ彼女がマイク片手に声を張り上げた途端、プールに浮かぶフロートや観客席から歓声が盛大に湧き起こった。
プラネッタ。俺の世代を含めた現代の若者に大人気のアイドルだ。明朗な雰囲気と高い歌唱力に定評があり、俺もネット配信で曲を聴いたのがきっかけで知ったんだが、気付いた時には既にアルバム購入に手を出していた。『ひと聴き惚れ』ってやつだ。
もう一曲目から大盛り上がりだ。俺も良く聞いてた曲だ。聴く者の気分を高揚させるには充分な曲だ。わがままを言わせてもらうなら、幻想月影の登場曲にしてほしいほどの。
余談だが、プラネッタは生身の人間だ。AI技術の進歩により人並み以上の歌を自動的に作れるようになったご時世において、彼女はマシンを凌駕するほど魅力的な歌声を出せる。つまり、プラネッタも労働者階級の人間ってわけだ。すんごいエリートの歌声を生で、しかも水着姿の美女を隣に乗せてフロートの上で聴けちゃうんだからね。こんな経験、味わえると思わなかったよ。
盛り上がりも少し落ち着いてきたところで、フロートに仕込まれている端末を起動。ホログラム映像に移されたメニューをタッチすると、程なくして席に備え付けられたカップホルダーから飲み物が飛び出した。瞬達されたコーラを飲みながら、俺はプラネッタのコンサートを引き続き嗜む。
プラネッタが衣装を変えるために舞台を降りたあたりで、俺のフロートが観客席側に移動し始めた。フロートを降りてすぐ近くの場所に御手洗いが見える。フロートに備え付けられたバイタル測定機能が、俺がトイレに近いのをあらかじめ察知してフロートを移動させてくれたようだ。
なんて素晴らしきテクノロジーによる気遣いか。それとも、絶対にこのプールに用を足させない教会の気概か。なんにせよありがたい。俺はフロートから降り、トイレへ向かう。
トイレには窓があり、そこから教会を囲っていた城壁の外の景色が一望できた。セントパトリック労働者街の夜景が見える。あの労働者街には、俺の想像すら及ばないほど優秀な人達が、俺の想像すら及ばないほど優雅な暮らしをしているんだろうな。自分には遠すぎて見えなかった世界が、俺の視界に入っている。なんか不思議な気分だ。
なんて、小便の真っ最中に窓の外を眺めながら感嘆していた時、俺は見てしまった。
「……?」
なんかの見間違いだと思った。
煙が立ち込めているのだ。
アクアフェスティバルの裏側で、そういう祭でもやってんのかな? と思ったんだけど、なんか様子がおかしい。サイレンのような妙に甲高い音が耳朶に触れたからだ。もしかして、わりと物騒なことが起きている?
胸騒ぎがして、フロートに戻った俺は、プラネッタのライブが再開されているにも関わらず、端末を操作して付近で起きている事件を検索していた。
「やっぱりか……」
案の定、会場から離れたビルで火災が起きていた。しかも、奇妙なことに、本来ならすぐに現場へ急行しているはずの消防車やら救助隊やらが全くそこにいない。
理由は、現場を映しているカメラで分かった。
素性の分からぬ数人のグループが、救助隊の乗り物やらアンドロイドやらを片っ端から破壊して回っていたのだ。そいつら、どうも強さがおかしい。彼らを無力化させるために警察部隊も向かっているみたいだけど、悉く返り討ちにしている。警察の精鋭部隊でも呼ばないと、彼らを止めることは出来なさそう。さもなくば、あの火事から逃げ遅れた人を救えない。
「やばいな、これ。幻想月影が行かないとダメなんじゃないのか?」
俺も、そのカメラに対する匿名の数々コメントも、同じことを呟いていた。そして俺のつぶやきは、ゲンロクに聞こえていた。
「よろしいのですか? マスターの活動はあくまで任意によるものです」
——あなたが楽しみにしていたアクアフェスティバルは、まだ終わっていないのですよ? ゲンロクが言いたいことはすぐに分かった。俺もそう思う。この日を俺はどれだけ待ったことか。水着姿のゲンロクとプールでライブを聞くこの瞬間を、俺はどれだけ楽しみにしていたのか。それを、謎の集団に邪魔される義理なんてない。だけど……俺の視線は会場の出口に向かっていた。
「いや、行くよ。なに、アクアフェスティバルは来年もあるんだ。それに、今までもこれからも二度と味わうはずのない幸福をたっぷり味わっちまったせいで、今の俺は食あたり気味になってんだよね。今年は、ここで中断するくらいが丁度いいんだよ」
そう答えて、俺は自嘲気味に笑った。ゲンロクに途中退出の手続きを頼み、俺達はリーヒ教会を出る。
ひとけの無い場所で姿を変える。横一文字のバイザーと三色のスカーフを靡かせた黒き戦士へと変身し、炎の方角へと俺は走った。
俺が俺を救うためには、やはり放っておくわけにはいかないんだ。
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