我々は糞を食わされている?
そんなぶっ飛んだ話は、翌日の朝、突然起きた。
平日の朝、同期の家で同期の家族と混ざって朝ごはんを食うってだけでも俺にとっちゃぶっとんでるのに、なんでそんな汚らしい話が出て来たのか。理由は、朝ごはんにあった。
いや、なんてことはない洋朝食。バターを塗りたくったパンに、ベーコンエッグとサラダ。典型的なレシピかもしれないけど、これをアド夫妻やその子供達をひとつのデカい卓を囲いながら食べるとなると、一味違ってくる。
――のだけれど、
「そのパンとバターとベーコンはやめてくれって言ったよね!? だって、その中、うんこ入ってるんでしょ!?」
う、うんこ!?
アドの長男、達也・ロベルト・コルテスがいきなりそんなの言うもんだから、俺はたった今口に含もうとしていた牛乳を噴き出しそうになってしまった。
「おい、達也! いきなり何を言ってるんだ! こんな朝っぱらから、しかもお客さんまでいるのに、汚いことを言うんじゃない!」
当然ながら、父親から怒られる達也。けど、達也は引き下がらない。
「言うなってなんだよ! 俺はパパ達みんなのことを思って言ってるんだ!」
そう言って達也が指差したのは、バターのパッケージに記されたマークだった。『C2S』と書かれた文字が、ひとつの〇の中に体よく収まっている。
「C2S? なんだ、それか」
俺は、達也の言わんとするのがなんとなく分かった。
C2Sは、
知った時は、俺は仰天したもんだよ。だって、C2Sのおかげで、この国には化石資源が云々とかいう資源問題もほぼ解決されているのだから! このシステムを応用すれば、極端な話、生ゴミやプリント基板から化石燃料が作れる。棄てた衣料品とかでも、炭素原子レベルにまで破砕した後、たんぱく質みたいな生体性高分子に組み替えちまえば、人工の肉とかも作れてしまうのだ。ゴミから飯作れるとか、もうこれ完全に魔法でしょ。
C2Sは今、巨大なグループ会社によって運営されている。『セフィアリソース』っていう採掘事業も兼ねる化学企業なんだけど、そこの研究機関と大学が共同でC2Sを開発したらしいのよ。全く、頭の良い人間ってのは、とんでもないものまで作っちゃうんだね。
ちなみに、C2Sの開発にはホワイトテンプルも関わっていたようで、関係者の名簿の中にアレクとレオーネが入っていた。ほんとになんでも出来るんだな、あの二人。よくそんな雲の上のような人々と、俺は普通に関われているもんだ。
――てなわけで、C2Sが何なのか分かっていた俺には、達也が可愛い勘違いをしているようにしか思えなかった。
「大丈夫だよ。C2Sの商品には、汚らしいものなんか入っていない。全て炭素原子になってからバターとか肉とかの別のものに組み変わるってだけで、排せつ物の類が商品に入るとか、そういうのはありえないから」
だから、俺は達也に反論した。だけど、俺が否定した途端、彼は小学生とは思えないほど鋭い目つきで俺を睨んだ。
「嘘だ! おじさんも知らないんだな? C2Sがご飯の材料としてミンスキー地下納骨堂から死体や汚いものを沢山運んでいることを! それらを食べ物にして、俺達に売ってるのがC2Sなんだぞ! C2Sは汚いものを俺達に食わせようとしている悪い会社なんだ!」
「それは初めて聞くけど、ミンスキー地下納骨堂から死体や汚物を持ってくることの何が問題なんだ? それらは炭素原子になっちまえば、死体でも汚物でも何でもない、ただの原子の粒になる。それらを集めて、俺達が食べるバターになったとしても、何の問題もないよ。だって、元は炭素原子なんだからね」
「おじさんは頭がおかしいよ。いくらその『たんそげんし』になったからって、元はうんこかもしれないんだよ? どうして、平気で食べられるの?」
「……あのさ、『炭素原子』って、うんこにもあるし、俺達の身体にもあるし、生き物なら必ずあるものだよ? うんこを分解した所から出来た炭素も、牛の乳のなかにあるのも同じ炭素だよ。いちど原子の粒になってしまえば、もともとが何であれ関係ないさ」
ここで、俺は周りの子供達が首を傾げ始めていることに気が付いた。しまった! 相手は小学生。原子の話したって通じるわけないじゃないか! そもそも、俺だって原子だの分子だのについて学んだのは、中学生の時だった!
「まあ、要するに、君は心配しなくていいってことさ。そんな疑問は、学校行って学べば解決するんだからさ」
ここで、アドがこっち側についてきた。
「そうだぞ、達也。馬鹿なことは言わないで、早く席に戻るんだ。朝飯食って学校行ってこい」
が、達也はその場を動こうとしない。
「嫌だね。学校なんか行くもんか! 学校は、俺達に間違ったことを植え付けて洗脳する悪い奴等のいるところだ! 絶対に行くもんか!」
おいおい、学校は洗脳する場所って……。そもそも、間違ったか間違ってないが判断つく年齢じゃないのに、学校行ったらへんなもん植え付けられるとかよく思えるな。中二病を患うには早すぎるぞ。
「おい待て!」
アドが叫ぶも、怒った達也はダイニングを飛び出してしまった。そして、聞こえてきたのは、階段を駆け上がる音。
「あいつはもう、どうしちまったんだ。能男、飯食い終わったら先に出発しててくれ。俺は、達也をどうにかしてくるから」
「お、おう。そうする」
というわけで、アドも席を立ち、達也の後を追って行った。残ったのは、アドの奥さんと俺と子供達のみ。なんだろうな、残された俺達の微妙な空気は。
「ねえ、おじさん」
と、ここで隣の席にいたジュリウスが、俺の腕をつついてきた。
「C2Sの噂、もし幻想月影だったらどうするのかな?」
一瞬、俺だったらどうするのか? と、問われた気がした。いや違う。ただの気のせいだ。ここにいる人達は、誰も幻想月影の正体が俺だとは知らない。考えすぎるな、俺。あくまで、幻想月影だったらどうするのかって問いだ。俺も、幻想月影に思いを馳せる誰かの一人を装えばいいんだ。
「そうだね、まずはその噂が本当かどうか調べてみて、本当だったらC2Sを叩く。そうじゃなかったら、場合によっては、そのデタラメを広めた奴を叩くだろうね」
幻想月影っていうか俺の正直な意見としては、後者の方をしたいけどね。C2Sなんて夢のようなシステムが、糞を食わされるとか適当なデタラメで潰されるとかたまるかってんだ。
出社するにおいて制服の問題があったのだが、それはマンションに駐在するコンシェルジュアンドロイドがシェアリングカーに俺の服を乗せて持ってきてくれたから解決した。着替えは車の中でやったんだけど、ゲンロクとコンシェルジュアンドロイドの二人に見られながら着替えるのはなかなか変な気分だったよ。
さて、出勤してなんだけど、例の嘔吐事件の影響で、俺は生産応援を悪い意味で免除されちゃってんだよね。だから、代わりに――テンプル美術館の視聴覚室へ行けば、C2Sに関するデマ情報とか手に入るかな?
★★★
めぼしい成果は得られなかった。けど、ニュースサイトを探ってみると、とある動画がC2Sを中傷しているらしい。検索の結果、見付けた動画が、これ。
『ハァイ! いい子のみんな、見てる? サワガのサイコーにクールなチャンネルの始まりだ』
動画配信サイトにありがちな華やかな演出と同時に、若い男が姿を現した。頭部の片方にえぐい剃り込みが入ってるのを除けば、至って好青年な雰囲気の眉目秀麗な男。服装も言うて奇抜ではない。俺がいた世界でも、都市を歩けば見かけるような、ごく普通のシティボーイといった風格だ。
動画の内容も、向こうの世界にある人気動画と同じような感じ。冗長的な箇所は極力カットして、尚且つ動画全体のストーリーとしての緩急はきっちりつけている――徹底して視聴者を楽しませることに拘った内容だ。だから、動画としては普通に面白いし、デマをばらまく悪質そうなチャンネルには見えなかった。
……動画の所々で、妙な宣伝が挟まってくるのを除けば。
「てなわけで、取り寄せてきたぜ。これだな?」
動画の視聴中、レオーネが取り出してきたのは、板状の黒っぽい何か。サワガのチャンネルで嫌というほど見かける宣伝で取り上げられていた商品だ。
今、俺達はレオーネのラボにいる。出席者は、話題出した人が俺なだけに少なめ。といっても、レオーネ、アレク、メイナルドという豪華すぎる布陣。いや、メイナルドってこの会社の一番偉い人じゃないか。よく来てくれたわ。
C2Sへの悪口っていうか噂そのものは、労働者達も知っていたようだ。けど、世俗においてくだらない噂なんて付きもの。あまり大事とは捉えていなかったみたい。まあ、俺もそうなんだけどね。
レオーネが板状の何かを端末につなぐと、瞬く間に何かがダウンロードされた。内容は、問題集のようだ。小学生から高校生レベルのものまで幅広く収録されているみたい。
「この世界の問題集ってデータになってるんだね。紙の冊子の問題集の世話になってた俺とは偉い違うなあ」
なんて感嘆する俺だったが、労働者達の着眼点は違った。
「……なるほどな。問題集なら、子供が欲しがったとしても大抵の親は拒まないだろう。むしろ、学習への関心を持ってくれたと喜んで買うかもしれんな」
「え? なんかこれ、問題あるの?」
アレクの呟きについて俺が訊くと、代わりに答えたのはレオーネ。
「どうもこの問題集、入れてすぐ気づいたんだけど、特定のダークウェブへアクセスするためのソフトが仕込まれてるみたいなんだ。おまけに、アクセス出来るようにさせてるだけで、端末の動作には極力影響が出ないよう丁寧に作られてる。おかげで、あたし達以外じゃ気付けなかったんだ」
ダークウェブという言葉なら俺も知ってる。俺達が日常で使ってるのを
って、一般市民じゃ気付かんもんが、端末に差し込んだ瞬間に分かるとか、何度も突っ込んでる気するけど、あんたらどんだけ優秀なの?
で、レオーネが再び端末を操作して、問題のダークウェブへとアクセスする。
画面の雰囲気が一気に変わった。さっきまで明るい色彩だったのに、突然、黒地にどぎついマゼンタカラーの文字があちこちに散りばめられた異様な空間になったのだ。まるで、治安の悪い裏路地のよう。てか、この色彩といい、マゼンタカラーの文字といい、どっからどうみてもこのサイトって……。
「cLazy Noizy Machineのホームページじゃないか! こんなヤバいもんが、子供も簡単にアクセスできるところに隠されてたなんて! よく、周りの大人達も気付けなかったもんだよ」
思わず声が出ちゃった俺だけど、本当に問題だったのはアクセスした先にある動画だった。
動画に映っていたのは、先程と同じサワガと名乗っていた男。薄暗い部屋の中でマゼンタカラーの照明を浴びながらボロいソファに座っているという姿だけでも充分異様で不気味なのに、服装もどこかパンクな色彩のシャツに変わっている。
この時点で子供達は存分に味わうんだろうな。とんでもない世界に踏み入れてしまったという恐怖や不安、そしてそれらを遥かに上回る好奇心や高揚感を。
『良い子の皆。よくぞ、俺達のホーム。cLazy Noizy Machineの特別チャンネルに来てくれた。ここに来てくれたお前達と俺達との友好として、気軽にLNMと呼んでくれ』
もう喋り口調も特別な雰囲気を醸し出しちゃってるよ。てか、カメラに向かって見せる笑顔もなんか違ってて、不気味さしか感じねえよ。
で、アップされている動画をラボのみんなで視聴するわけなんだけど、もうやっべえ情報の宝庫&宝庫! ホワイトテンプルの教会に落書きしているものからアンドロイドを寄って集って壊しているものまで……とにかく犯罪の一部始終がこれでもかと投稿されていた。
『動画投稿者の『グリザイユ』くん、おつかいアンドロイドから上手く財布だけをひったくるとはセンスがあるねえ。
サワガは動画投稿者達を褒め称え、もっと活躍するように煽ることばかり言ってる。コメントも更に煽るようなものばかりだ。あまつさえ、サワガが彼等の悪事をレビューする動画はどれもクォリティが高く、一介の視聴者に過ぎない俺ですら、悪事を働かない者こそ異端者だと錯覚させてしまうほどだった。
あぶねえ。働く者へのリスペクト精神とあっちの世界でのトラウマが無かったら、簡単に飲み込まれてしまう所だったぞ。
問題の動画にも、俺達はすぐに辿り着いた。
『良い子の皆に特別に教えてやろう。C2Sってあるよな? 炭素循環とか小難しいことホワイトテンプルの連中は抜かしてるが、実はあれらの中に入ってるのはクソだ。お前達のケツから出たもんを、お前達は食わされてるんだ」
セリフだけで見ると、なんてバカバカしいことを言ってるんだって思うだろ? けど、動画となると話は違う。
恐らく、地下納骨堂だろうか? そこから運ばれた『いかにも大便っぽいもの』がC2Sの工場へ運ばれ、作業者のアンドロイド達によって食品へと加工され、誰かの口の中へと運ばれていく一部始終が描かれている。わーお、なんて素晴らしい演出に満ちているんだ。何も知らない人間がC2Sの商品を食った後に観たら、間違いなく吐いてしまいそうな出来だよ。
『いいか。C2Sってのは、ホワイトテンプルも関わっている企業だ。ホワイトテンプルが、この国を裏で支配しているってのは知ってるよな? 国を牛耳ってる企業が困ることってなんだか知ってっか? 庶民が賢くなって、ホワイトテンプルを引きずり落とそうとしてくることだ』
また、すごいこと言いよるな、この人は。
『だから、ホワイトテンプルは考えた。庶民を皆バカにしちまえば、自分達を引きずり落とそうとはしてこねえ。その為に、ホワイトテンプルは自分の関わってるC2Sに、糞の入った食いもんを作らせて、お前達の頭を糞まみれのバカにしちまおうと企んだのさ』
となりでレオーネが苛立ってるのを感じる。そうだね。これどっからどう見ても、ホワイトテンプルをバカにしてるとしか思えないもんね。
『お前ら、ホワイトテンプルの術中にハマるんじゃねえ。C2Sの飯を食っちまったら、それでこそ奴等の思う壺だ。あと、学校も気を付けろよ。学校のありとあらゆる設備がホワイトテンプルと密接に関わってる。そんな場所で習うもんなんざ、どれもホワイトテンプルにとって都合のいいもんばかりに決まってら。お前らは気付かねえうちに、ホワイトテンプルにとって都合の良いオモチャにされようとしてんだ。そうなりたくねえよな? 俺だってお前達にそうなって欲しくはねえ。となれば、どうすればいいのか、分かるはずだ』
この時、今朝の光景が俺の脳裏を過ぎったのは言うまでもない。
「そうか……。達也は、この動画を真に受けていたんだ」
「ふざけやがって!!」
動画が終わるや否や、レオーネが溜まっていたものをぶちまけた。
「どっから突っ込めばいいのか分かんねえ! C2Sが糞を食わせてる!? ホワイトテンプルが国を支配するために、国民に糞を食わせて頭をおかしくさせてる!? 子供達をバカにするために学校にも都合の良いようにさせてる!? デタラメ抜かすのもいい加減にしろよ! こいつら、
いつも悪戯っぽい笑みを崩さないレオーネが、眼窩から零れ落ちんばかりに眼を見開いている。その怒りの凄まじさたるや、付き合いの長いであろうアレクすら引いている模様。恐らくアレクやメイナルドも共に怒りたいであろうに、かえって冷静になっちまうレベルだ。
さらに問題の動画が、この後見つかった。
時刻は既に夜の九時過ぎをまわっていた。LMNの上出来ながらふざけた動画の数々を観ていたらこんな時間になってしまった。家で待つゲンロクのことが気になったが、コンシェルジュアンドロイドもいるし、アンドロイドの彼女なら大丈夫だろう。
社内で夜の九時を迎えるのは、俺にとっては珍しい経験じゃない。むしろ、あっちの世界ではそれ以上会社にいたこともザラだった。てか、あの時間までいないとむしろ人として間違ってるような空気だった。いや、あの時間までいようがいまいが、俺が出来ない人間だったことは変わりなかったのだけれど。今思い返すと、狂った場所にいたんだろうな。
で、こういう時間帯になってくると、動画投稿サイトで定番なのが、人気配信者による公開生放送だ。それはこの世界でも一緒のようで、LNMのサイトでも今まさに放送されるところだった。せっかくなので観てやろう。万が一真に受けてしまっても、傍にいる労働者の皆がサポートしてくれるだろうし。
始まり方は他の動画と一緒。例のサワガが中央にいる。けど、投稿動画と一目で分かる違いが――放送している場所が違う。天板を乗せて作った舞台の上に、サワガが立っている。そして、サワガ以外のLNMの構成員が山ほどいるのか、声援のようなのがあちこちから聞こえている。
『カメラの向こうの良い子の皆ぁ! LNMの生放送にようこそ! 今、1万人のリスナーが俺のことを見ているぜ! みんな、ありがとうな!」
盛るなあ。そもそも、セフィアの総人口って何人だっけ? まして、配信している動画は大手動画投稿サイトじゃなくて、よそ者は簡単にアクセスできない裏サイトにあるもんだろ? そうそう1万人も見れるかいな。
なんて突っ込んでる間にも、サワガの配信は続く。
『さてさて、まずはメンバーの皆の活動報告を見ていこう! おおー、チーム『ブラックドラゴン』君、宝石強盗で1億
そして、湧き上がる歓声。ブラックドラゴンとやらがどこにいるのか知らんが、生放送で犯罪を煽るとか本当にどうしようもない集団だな。
で、しばらくの間、メンバーの活動報告とかのやり取りが続き、その後、持ち前のトーク力を活かした雑談配信へ。この実力を犯罪以外に活かせんのかねーなんてうっすら思ってた時、聞き捨てならない言葉がサワガの口から飛び出した。
『さて、放送ももうすぐ終わる頃なんで、重大発表だ! 俺達はサンダーバニーのクリアストリーム地区に続き、新たなビックゲームを企画している! 場所は、ミルトンステップのセフィアリソースC2S本部! ルールは単純にして明快! ぶっ壊せ! 一番派手にぶっ壊した奴が、新たに
動画内にいる聴衆やコメントは沸き立っていたが、こっちも別の意味でざわついていた。これやばいな。クリアストリーム地区でどれほどの被害が起きたか、俺が知らないわけがない。アレクだって黙ってはいられなかった。
「クリアストリームで起きたのと同様の惨禍がC2Sで起きたら、我が国の資源事情は滅茶苦茶になる。奴等の狂瀾ごときで壊されるとか、たまったもんじゃないぞ!」
これには俺も同意だ。なんとかしなきゃいけない。
けど、画面のサワガは、更にとんでもないことを口にした。
『それと、今度はビックゲストもいるぜ。
「はあ? 俺、マークされてんの!?」
俺は思わず叫んでしまった。
「人気になれて良かったじゃねえか、能男! 敵に目を付けられてるってことは、それだけビビらせてるってことなんだからよ! だから、やっちまえよ、あんな奴等。いつも通りにコテンパンにしてやればいいんだ!」
そんな俺を、いつの間にか機嫌を直したレオーネがフォローする。
「しかし、この配信が本当なら、次の襲撃地点もあらかじめ備えることが出来るな。この情報を警察に出して、俺達も可能な限り協力しよう」
アレクも乗り気だ。
「……分かった。俺も、せっかく幻想月影の力を持ってるのに、何も出来ないままでいるわけにはいかないよね。やるよ」
やるよ。だなんて、後で考えてみても、よく言えたよな。って思うよ。でも、アレク達の言う通りなのは事実だ。ここで俺達が動かなかったら、この国が滅茶苦茶になってしまうかもしれない。簡単に言ってるけど、これめっちゃデカい案件だぞ。
やがて、このなかで唯一沈黙を貫いていたメイナルドが、とうとう口を開いた。
「特別な出張を、大梨能男に命じよう」
俺もレオーネもアレクも、きょとんとした顔でメイナルドを見ていた気がする。
もうやるしかない。次にやるべきことは、決まってしまったのだ。
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