第14話 "もふもふ"



「はー、やっと終わったよー。」







そういうと彼はそのままその場に座り込んでしまった。

いつもなら、最後のニンゲンを見送り店の表の鍵を閉めたあとは、てきぱきと片付けを済ませ家へ帰るのに、今日はエプロンすらつけたままだ。


そんなめずらしい彼の姿に、先ほどまでの苛立ちをすっかり忘れ、ただただ彼が心配で近くまで駆け寄る。

すると、彼は深いため息をつきながら無言で私の身体を"もふもふ"しはじめた。


いつもなら、スッと彼の手を華麗にすり抜け、彼の"もふもふ"行為を簡単には許さないのがお決まりだが、今日ばかりは素直に"もふもふ"を許すことにした。


先ほどまでの体制と同じように、身体をどてっと投げ出し、彼が"もふもふ"しやすいようにすると、顔だけは彼が見えるように傾ける。

彼はそんな私の様子をみると、疲れきった表情をしていた顔をふっとゆるませ、顔を私に近づけてきた。

そして、たしかに疲れはみえるが、いつものような優しい笑顔で




「みーちゃん、ありがとう」




そう、そっとささやくと、両手で私を抱きかかえ、頬を"すりすり"してきた。

これもいつもなら1度は身軽にかわすところだが、今日は特別に許して、おとなしく彼の腕の中に収まることにする。


だって、今日1日相手をしてもらえなかった分をしっかり返してもらわないと。

いつもなら楽しい攻防の時間も惜しいぐらい、私も彼を感じていたかった。





ちゃんと、"もふもふ"してね





そう小さく「みー」と鳴くと、彼はちゃんとわかってくれたようで、私を抱えたまま椅子に腰掛け、心地いい強さで私を"もふもふ"してくれた。

嬉しくなってもう一度小さく「みー」と鳴く。




香ばしい薫りの中に、彼のにおいと彼の温もりを感じられるこの時間が永遠に続いたら良いのにと、そう思いながらぼんやり彼の顔を眺めていた。






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「ネコ」の みーちゃん 高遠 そら @nebosuke_

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