第10話 カワイイオキャクサン




「春休みの時期だからね。

もうちょっとしたら、かわいいお客さんを連れてやってくると思うよ。」





彼がそう言ったのは、ナカミチ サンがめずらしく朝一番に店にやってこないのを不思議に思って




ナカミチ サンは今日は来ないの?




と訴えかけたからだ。



今日は春の訪れを感じるぽかぽか陽気の日で、とにかく気持ちがよかった。

ナカミチ サンもこのぽかぽか陽気に誘われて、うたた寝でもしちゃったのかしら?そう思ったけど、どうやらそうではないらしい。





「みーちゃんも仲良くなれるといいね。」




そう彼はつけたして言うと、頭を優しくなでてくれる。

すでに香ばしい匂いをまとった彼のその手に、いつも以上の優しさを感じた。







「カワイイオキャクサン」とは、どんなニンゲンだろう?



ナカミチ サンの一件以来、他のニンゲンとも仲良くなれるようにはなったけど、普段は積極的に関わることはなく、いつもの窓辺の席からぼんやり眺めるだけ。

近づいてくるニンゲンを拒みはしないけど、なでてくれるニンゲンは、彼とナカミチ サンが居ればそれでいいと思っていた。



でも、大好きなナカミチ サンが連れてくるニンゲンとなれば話しは別だ。


「カワイイオキャクサン」がどんなニンゲンなのか想像はつかないけど、絶対に仲良くなりたいし、仲良くなれるはず…



そう思ったからなのか、

はたまた春の陽気に誘われただけなのか、

うきうきした気持ちが溢れでた私は、いつもはしないのに、店を訪れるお客さんに挨拶をして回っていた。







―・―・―・―・―

まさか、仲良くなれるはずもない「幼い女のニンゲン」をナカミチ サンが連れてくるとは、このときは知るよしもなかった。




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