第9話 ノー です
ナカミチ サンと仲良くできるようにする方法を探すことを決心した日から、私は毎日やってくるナカミチ サンを安心できる窓辺の位置からよく観察をした。
来る日も、来る日も、観察をした。
トンっ ザーーーー
トンっ ザーーーー
ナカミチ サンは必ず毎日一番に店にやってくる。どうやら彼と一緒で、早起きは得意らしい。そして、他のニンゲンがぽつりぽつりとやってくる頃には、ナカミチ サンは帰っていく。お陰でとても観察がしやすい。
ナカミチ サンは店に入るとまず、私に声をかけてくる。
「おはよう、みーちゃん。今日は暖かいね」とか、「おはよう、みーちゃん。今日は雨が降っているね」とか。
でも必ず声をかけるのは、私のいる窓辺の位置のすぐそばにある、席を挟んで向こう側からだけで、私のテリトリーには入ってこない。
それに気がついたその次の日から、耳だけ傾けて聞いていたその言葉を、無意識のうちに顔を向けて、ナカミチ サンの目を見て聞くようになっていた。
すると、もうひとつあることに気がつく。
ナカミチ サンの姿形は、どう見ても彼とは似ても似つかないが、その瞳の奥には彼と同じ、優しさがあることに。
そして、よく思い出してみると、瞳だけでなく、初めて声をかけられた日の声も、それからの毎日も、そこには確かに彼と同じやさしさがあった気がした。
あともうひとつ観察していてわかったことは、ナカミチ サンは私と同じく、彼のことが大好きだということだ。
毎日来ては、飽きることなく彼とおしゃべりを楽しみ、来たときよりも数倍元気になって帰る。
その証拠に、ナカミチ サンの鳴らす
トンっ ザーーーー
のリズムは、来たときよりも帰りの方が軽快だ。
これに気がついたとき、
私は何だかいてもたってもいられなくて。
彼とおしゃべりをしているナカミチ サンの膝の上に飛び乗っていた。
はたして、
ナカミチ サンと仲良くできると思ったのか、彼とのおしゃべりを邪魔してやろうと思ったのか、はたまた、そこに座り心地のよさそうな膝があったから飛び乗ったのか…。
今となっては定かでない。
ただ、そのときのナカミチ サンと彼の嬉しそうな顔と声、ナカミチ サンの膝の温もりは忘れないし、
このときからナカミチ サンと私は友達になった。
あと、ナカミチ サンが彼とのおしゃべりの最中に私の相手をしてくれたのは後にも先にも、このときだけだった。
こうしてナカミチ サンと仲良くなった後は、他のニンゲンとも仲良くできるようになっていった。
ナカミチ サンが、彼以外のニンゲンも怖くないということを教えてくれたから。
―・―・―・―・―
だがしかし、同じニンゲンでも色んなニンゲンがいるということを、これまたナカミチ サンを通して知ることになったのだ。
そう、今まさに目の前にいるこの幼い女のニンゲン。
ナカミチ サンがある日連れてきた幼い女のニンゲンだ。
私が彼にノーと言ったのは、このときがはじめてだった。
「みーー!」
(私はこのニンゲンとは仲良くできません。)
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