第8話 ハジメマシテ
どうやら、人見知りするみたいですね…。
彼がちょっと困ったような、寂しいような声でそう言ったのを今でも覚えている。
でも、その時どんな顔をしていたかは知らない。
なぜなら、彼の方を見られなかったからだ。
彼と、彼の喫茶店に来てから初めて会ったニンゲンがナカミチ サンだった。
―・―・―・―・―・―
「この一年、
ほとんど僕としかいなかったからかなあ」
続いて言葉を発した彼の声は、相変わらず晴れない。
今まで家に帰ってくると疲れたような声をしているときはあったけれど、こんな悲しそうな声は初めて聞いた。
それが私のせいだと思うと
何とも言えない苦しい気持ちになった。
どうやら彼は、この、
彼とはとても似つかないしわくちゃな顔で、
彼とは真逆のずんぐりむっくりで、
片手には彼が持っているところを見たことがない固そうな棒を持っていて、
彼とは違った色の白い毛を生やした頭で、
彼とは違う低くしゃがれた声で、
「みーちゃんというのかい。
はじめまして。マスターの珈琲が大好きな、ナカミチだよ」
と、これまた彼とは違うしわしわな手を差しのべてきた「ナカミチ」とかいう名前のニンゲンと仲良くして欲しかったようだ。
「まあ、仕方がないさ。やさしそうな子だから、そのうち慣れてみんなと仲良くできるようになるさ」
そうナカミチ サンは言って、
トンっ ザーーーー
トンっ ザーーーー
と、音をたてる。
その音を聞いた私は、縮こまっていた身体を少し緩め、音の去った方へ顔だけを向けてみる。するとナカミチ サンは、私のいる窓辺とは離れた、彼の立っている近くの席に座った。
そして、彼と楽しそうにおしゃべりをはじめる。
ナカミチ サンと言葉を交わす彼の顔はとてもにこやかだった。そして、聞こえてくる声も先程とは違い、とても明るい音だ。
そんな彼を見ていると、
よかったと思う嬉しさと同時に、何だか寂しいような、悲しいような、不思議なもやもやした気持ちになって。
ナカミチ サンと仲良くできるようにする方法を探すことを決心した。
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