第7話 ナカミチ サン
トンっ ザーーーー
トンっ ザーーーー
トンっ ザーーーー
いつものように窓辺でうたた寝をしていると、カラン、コロンの鐘の音の後に、
ゆっくりしたテンポで奏でられるこの音が聞こえた。
一定のリズムを鳴らすこの音。私はこの音をよく知っていた。
彼の次くらいに好きな
ニンゲンが鳴らす音だ。
すぐにでもそのニンゲンに駆け寄りたくて、今まで閉じたり開いたりしていた目をパッチリ開け、駆け出す姿勢をとる。
…と同時に彼も口を開いた。
「中道さんじゃないですかっ!
お久しぶりです。退院されたんですね!」
いつもより大きな声で、早口でしゃべる彼。
その顔は、見なくてもわかる、満面の笑みだ。
「おう、おう。
しばらくぶりだね、マスター。
入院中もマスターの入れた珈琲が飲みたくて飲みたくてね。
退院したばかりだけど来てしまったぞ。」
そう言いながら、杖に身体を預けながらゆっくりと、いつもの席に向かう。
彼の目の前の席に。
彼と、低くしゃがれてはいるが、はっきりと聞き取れるナカミチ サンの言葉のやりとりを懐かしく感じ、そのやりとりに気をとられていた私は、駆け出す前の姿勢のまま固まるかたちになっていた。
しまった、出遅れた。
ナカミチ サンは席に一度着くと、珈琲と玉子サンドと、彼とのおしゃべりに夢中で、私の相手はしてくれなくなってしまう。
たとえ膝の上に無理矢理お邪魔しても、それに変わりがないのは経験済みだった。
しまった。
そう思っていると、ナカミチ サンは
「そうそう、」
と言ってこちらを向き
「もちろん、
みーちゃんにも会いに来たんだよ」
と、皺のたくさん入った顔を、さらにしわくちゃにさせた。
身体が重いからか、こちらには来ようとはしないが、手だけは差しのべているナカミチ サン。
それがとっても、とっても、
うれしくて、うれしくて、
今度こそ駆け出す…というよりは飛び跳ねるようにして身体を動かした。
…と、これもまたほとんど同時だったと思う。
カラン、コロンと鐘の音がして、
その後すぐ
タッタッタッタッタ
ナカミチ サンとは真逆な軽快な音と
「おじいちゃん、まってよー」
という、幼い女のニンゲンの声がした。
これは、
波乱の予感である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます