第6話 「彼」の大事な場所 ー 2
しばらく喫茶店をうろうろしてみる。
店はそんなに大きくなく、隅々まで歩き回るのに苦労はしなかった。
窓が大きく、全体的に陽が入る店内は、家よりもずいぶん開放的で外の様子も見え、飽きるには時間が掛かりそうだと、そう思った。
不思議なことにこの店内は彼の匂いと違う他のニンゲンの匂いがした。家では彼を訪ねてくる人も滅多になく、彼以外のニンゲンの匂いがすることはない。
でも、今のところ他のニンゲンの気配は匂いそれだけで、姿を見かけることはなかった。
あとはなんだか香ばしい薫りがする。
この匂いはよく知っていた。彼が「ただいま、みーちゃん。おまたせ」と帰ってくるときにつけている匂いだ。
だからかわからないが、この匂いはとても私を落ち着かせて、幸せな気持ちにさせてくれた。
何周か店内を行き来したところで、ちょっと休憩がしたくなった私は、よく陽の当たる窓辺の位置でうたた寝をすることにした。
ぽかぽかするその場所は、外の様子も見え、店内も見渡せる。
それに何より、いい香りをさせながら作業をしている、彼の姿がよく見える。
この場所がとても気に入った。
彼はうたた寝を始めようとするそんな私の姿を見て、嬉しそうな声で
みーちゃんも気に入ってくれたかい?
ここは僕の大切な場所なんだ。
大切な場所を、
大切なみーちゃんに気に入ってもらえたなら
僕はそれだけでとっても嬉しいよ。
ありがとう。
明日からは毎日一緒にここに来ようね。
そう言って、満面の笑みを私に見せた。
彼の言っている言葉、全部は理解できなかったけど、なんだか嬉しそうな彼の声と顔、そして何より毎日ずっと一緒にいられることが嬉しくて。それを彼に伝えたくて。
いつもより大きく、何回も
「みー」
と鳴いてみせた。
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