第3話 あったかい気持ち



いらっしゃいませ


と、彼の声。


それに答えるように、心地いい鐘の音を鳴らした男のニンゲンが「あったかいので」と言う。

するとその後ろからやって来た女のニンゲンが「今日はとっても暑いから、冷たいのにしようかしら」と言った。



どちらもニンゲンの世界で数えると45歳らしい彼よりも、さらに歳をとっているように見えるニンゲンだ。


二人はほとんど毎日やって来て、私のいる窓辺の近くの席に座って、男の方は新聞を読み、女の方は本を読む。



今日も同じようにこちらにやって来て、女のニンゲンが「おはよう。みーちゃん」と言って私の頭を撫でた。



あったかい。



彼よりも少し小さく、ガサガサした手だが、その温もりは彼と同じくらい心地よく、気持ちがよかった。


彼に喫茶店にはじめて連れてきてもらったときは、鬱陶しいと思っていたそれは、いつしか無くてはならない日常になっていた。



男の方のニンゲンは、目を合わせるだけだ。


一見すると無表情に見える顔だが、合わせたその目の奥は、かすかに微笑んでいるように見える。



ちょっと嬉しくなったので、少し伸びをしながら、小さく


「みー」


と、鳴いてみた。



すると手にあったかい珈琲と、冷たい珈琲を持って近づいてきた彼が「みーちゃん、お二人に会えて嬉しいみたいですよ」と、優しい眼差しをこちらに向けながらそう言った。




彼にはなぜだか、私の気持ちがわかってしまうようで。



少し恥ずかしくなった私は、彼とは反対側を向いて窓の外を見る。


その間も、彼とニンゲン2人が楽しそうな声で言葉を交わすのに耳を傾けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る