第2話 「彼」


カラン、コロン



よく陽の当たる窓辺でうたた寝をしていると、心地のいい鐘の音が鳴った。




ここは、彼が営んでいる喫茶店なるものだ。


ニンゲンの出入りは多くなく、だいたい見たことのあるニンゲンが毎日やってくる。

8人もニンゲンが入れば私の居場所がなくなってしまうくらいの大きさ。

でも、8人もニンゲンが同時にやってくることはほとんどなくて、


ときどき鳴るカラン、コロンの音と、

ときどき聞こえる彼の声、

珈琲を入れる音、香り、

新聞の擦れる音、

ときどき思い出したかのように小さな声でしゃべるニンゲン、


すべてがほどよくて、家に帰ると訪れる彼との二人だけの時間も好きだが、この喫茶店で過ごす時間が大好きだった。




彼はこの店では他のニンゲンから「マスター」とか「ご主人」とか呼ばれている。

どうやら彼にも2つの名前があるらしい。


彼は私に勝手に「みーちゃん」という名前をつけたくせに、自分の名前は名乗らなかったから、どちらが母親からもらった名前なのか、気に入っている名前なのかはわからなかった。


それでも、どちらで呼ばれても彼は少し嬉しそうにするので、彼を呼ぶ声が聞こえると、私も少し嬉しくなった。

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