第10話忠告
夏至の晩に、青い道から外れてはいけない。森の中で声を出してはいけない。
それは村の子供が必ず教えられる言い伝えだ。
守らないと見つかってしまうよ。見つかったら連れていかれてしまうよ。森に住む神様と、そのお使いに。そうして二度と戻ってこれないよ。一生一人ぼっちで、森の中で暮らすんだよ。神官みたいに。
神官が道を外れたのか、それとも声を出したのか、知っているのはもう本人だけだ。
しかし、とにかく彼女は神様に見つかり、それからずっと森の中で暮らしている。人と交わることなく。
「嫌いですよ。大嫌いです。神官が贄を出そうと言って、村の守り神が僕らのお願いを無視して、あんたが家を選んで、川の神様に捧げたんですから。」
オビは一度言葉を切った。
「そうして高みの見物をしているのは、楽しいでしょうね」
村人からの悪意を一身に背負ってきたオビと違い、神官は変わらず輪の外にいる。
贄に選ばれることもなく、川に流されることもなく、周りから白い目で見られることもなく、変わらず森の中で暮らし、贄を捧げ続けている。
「僕はあんた達が嫌いです。でも、あんたのようになれたら、と思います」
「嫌いな奴の側にいたいのかい?」
「そうですね。僕はあんた達が嫌いですが、あんたや神様は、僕を責めてきませんし」
言いながら、オビは洞窟を見た。
あの世に繋がると言われている場所。数年前、入ろうとして神官に止められた場所。それよりずっと前、神官が生まれた場所。
神様に呼ばれた女の子は、夏至の晩に家から姿を消し、3日後に洞窟の前で眠っているのを見つかった。
彼女はそれから家に帰っていない。
喰われてしまったから。
女の子は喰われて、神官になったから。
「入りたければ入ればいいさ」
オビの視線の先、大きな口のような洞窟を見遣って、神官は言う。
「怪我をするかもしれないが、喰われることはないよ。今日も道が開いていないから。それでもいいなら、入るといい」
「夏至は森に住む神様の力が強まるといいますね。今日開かないなら、いつ開くんです?」
「ミサキがその気になった時に。以前は決まった日に開けていたけど、最近は気紛れだ。今日もどこかに出掛けたまま、戻ってこない」
オビが帰る際に、神官は言った。
「君が望むなら、必ず迎えは来るよ。でも気を付けるといい。それは、君が望むような結果はもたらさない」
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