第6話拒絶
その家は何故か、村の守り神に嫌われているようだった。あるいは、川の神に好かれていたといえるかもしれない。
他の家と何も変わらない、どこにでもある家だった。
家族は6人。祖父母は既に亡くなり、父と母、それに4人の子供がいる。
女の子が3人と、男の子が1人。
小さいながらも畑を持ち、作物を育て、山や川から様々なものをとって暮らしている。
夏至の晩には家族揃って社へお参りに行くし、村の役が回ってくればきちんとこなす。そんな、何の問題もない家だった。
ある年、その家がクジで贄を出す役に選ばれた。年に一度、誰かに回ってくることだ。
幸運ととるか不運ととるかはその家次第だが、ここは不運ととった。
しかし嘆いたところで何が変わるわけでもない。女の子が産まれたなら、覚悟しなければいけない可能性だったし、他の家が選ばれた際には、監視役として参加したのだ。
自分の際だけ拒絶できることではないし、そんなことは許されない。
一番上の娘が贄に出た。
しかし、あくる年もまた同じ家が選ばれた。夫婦はクジに不正があったのではないかと疑ったが、クジに参加した男達はそれを否定した。
クジは厳正に行われている。神前を行うはずがないと。
夫婦はやり直しを求めたが、拒絶された。結果は絶対であり、やり直しを認めていたら、いつまで経っても決まらない。
それにこれまでも、同じ家が連続で選ばれたことも、数は少ないがあった。
そうして2番目の娘が捧げられた。
その年、夫婦は何度か子供を連れて森の社へお参りに行った。
どうか次は選ばれませんようにと。
彼らが選ばれないということは、別の誰かが選ばれるということだが、それで構わなかった。村には一度も選ばれないまま、全ての娘が無事に縁付く家もあるのだから。
二度も選ばれた理由を神官に尋ねもしたが、神官は何も言わず、夫婦に一瞥をくれただけだった。
そうして3年目、前日にも社でお願いした上で、運命の日を迎えた。
今度は父親もクジに同席した。前回不正を疑っていたためである。
本来参加できる立場ではなかったから、周りからは出過ぎた真似を、と渋い顔をされたが、引かなかった。
不正が行われた様子はない。にもかかわらず、神官が壺から取り出した紙には、またもや同じ名前が書かれていた。
3年連続で同じ家が選ばれるのは前代未聞である。さすがに可哀想ではないかと言う人もいた。
そう言ったのは未婚の子供がいない家だった。
あの家は川の神に好かれているのだと言う人もいた。
しかし大部分の村人は、余計なことは言わずに普段と同じように接した。
だが当の一家は普段と同じようには振る舞わなかった。監視のために来る人も、慰めのために来る人も、全てを拒絶して一歩も家に入れない。それどころか、娘を差し出すことを拒絶した。
これには村人も驚き、なんとか夫婦を説得しようとした。
水が出れば村全体が困ることになる。贄の儀式は古来からの伝統である。夫婦には他にも子供がいる。それも男の子だから、贄に選ばれることはない。
しかし夫婦も引かなかった。贄を捧げても水が出た年はあった。こんなものに意味はない。古くさいだけで意味のない伝統だ。
もし無理に捧げるというのなら、その前に自分たちで娘を殺してやる。そうしたら贄にはできないから、新しく選ばなければならなくなる。
村中が紛糾する中で1人冷静だったのは、意外にも神官だった。
村人は彼女が最も反対すると思っていたのだが。神官は選ばれた一家が反対していると聞いても、特に反応を示さず、我関せずといった様子だった。
ギリギリまで縺れたが、結局夫婦の言い分が通った。村人は皆とんでもないことだと言っていたが、内心ほっとしている者もいたに違いない。
儀式に嫌気がさしていた人も、実際多かったのだ。
そうして、その年は人間の代わりに、選ばれた家から立派な家畜が捧げられた。
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