第5話 悲しき炎の子 後
陽が落ちたころ、俺達は元祭壇に訪れていた。言わずもがな、黙祷を捧げるために。俺達以外にも被害者の兄弟や両親も、黙祷に訪れている。
子供たちを殺した実感が込み上げてきたのか、コトネの頬に涙が伝う。
「私達のやったことは正しいことだったのかな、陽登」
「どうだろう。人道的に言えば最悪で、人の命を守ったと考えれば正しいことなんじゃないかな。どうしたって、個が全に害を成すのであればそれは切除すべき災厄の種になってしまうから」
「・・・・・・」
「でも、彼らはその害ではなかった。この事件の元凶があの炎だったのだろうが、子供を燃やしていたのは彼ら自身の望みそのものだ。彼らはきっと、生き残った自分の家族を守る力が欲しかったんだろうな。魂になって、朽ち果てることのないものになれば永遠に守護することができるし、何よりも神としての権能が働くだろうから、絶対的な力で守護を実行できる。究極的なところ、彼らの望んだものは家族が幸せに生きてくれればいい、というこの世界への諦めなんだ。死は甘え、目の前にある現実を受け入れられない人間が採る行動に他ならない。
正しい。その行動そのものは悪意のない純粋な行いだ。それを否定することは失礼に値するだろう。だけど、死という選択肢を採ることは、何よりも愚かだ。その生き方を、理想を馬鹿にされたって、俺達はそれを証明する為に生きている。生き抜いて、悔いのないように最期を迎えるんだ。人間ていうのはそういうものだから」
死んでしまっては、元も子も無いんだ。消えた命だけは魔術でも戻せない。その行動原理がどれだけ正しくても、死ぬなんて選択をするのは愚かなんだ。
「だからコトネ。君は最後まで生きるんだ。過去のしがらみなんて忘れて、今を生きていれば楽しいことなんていくらでもある。過去を切り離すのが難しいことは、良く分かってるつもりだ。それでも、生きなければならない。お姉さんの為よりも、まずは自分の為に」
俺は、未だに過去を斬り捨てられないから、誰かにこんなことを言う権利なんて無い。だがそれでも、この娘には生きてほしい。
「本当に変わってる人」
格好つけたかのような発言を聞いたコトネが訝しむような視線を向けてきた。
なんだか照れくさくなって、祭壇からの帰り道はほとんど無言で歩いた。
アパートが見えてきた、食事はどうしようかと考えていた矢先、コトネが思わぬことを口にする。
「ねえ。料理を教えてもっらても、いいかな?」
「え?どうしたの突然」
いいから、とコトネが制服の袖を引っ張っる。料理を教えるのは全く問題無いけれど、一体何をするつもりだろうか。
「・・・・・・うん、何から教えようか」
なんとも、新鮮な感覚だ。女の子に料理を教える時がこようとは。
「えと、じゃあ卵焼きが、いい」
この時初めて、彼女が自分の意思を表に出した。
悲しき炎の子 了
神滅のディストピア 慌然 充 @kanikama0214
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