第3話 VS黒ドレス

光は音もなく一瞬で地に落ちる。

 神の身を覆い足元に広大な窪みを作る。

 そして轟く轟音。

 怒れる雷神が如く叫ぶ雷を、受け止めきれずに大地が泣き声を上げる。


「アナタ何言ってるの??」

 こちらを振り返る黒ドレス。


「あ、すみません。詩的表現ってやつです気にしないで下さい。」

 魔女っ子を膝枕でナデナデしながら言った。


 イナリ様が立っていた地面からはたもうもうと砂塵が舞い上がる。


「どうやら期待ハズレだったみたいね。」

 黒ドレスはつまらなそうに呟いた。


 が、

「はぐはぐはぐ。」


「なっ!?」


 何事も無かったかのように女神はみかんを口に運んでいる。


 さすが神様。まさかのノーダメージ。


「まさかあの魔法を受けきるとはね。ウフフでも次はどうかしら?」


 ―――――――――

 30分後


「パニ●シュ!」

 ドガッ


「ダー●ネス!!」

 ズガッ


「テン●スト!!!」

 バギッ


「ディ●スター!!!!」

 ドドンッ


「ジャ●ーノート!!!!!」

 ババンッ


「カタ●トロフ!!!!!!」

 ドッカーン


「カタ●リズム!!!!!!!」

 ピッカリーン


「サタ●クロス!!!!!!!!」

 テッテレテーン


「はぐはぐはぐ。」


 一体何連鎖させるのか普通ならとっくにばたんきゅ~な魔王級サタンさまの必殺魔法が次々に繰り出されるがイナリ様はまったくのガン無視。

 ただいま10個目のみかんである。


「ハァハァハァハァ。」

 黒ドレスは荒い息を吐き、がくりと膝を落とす。


「アナタ一体」


 テッテッテッ

 10個目のみかんを食べ終えたイナリ様は黒ドレスに目も向けずこちらに小走りして来た。


「飽きた。タケシ君そろそろ先に進もうよ~。」

 イナリ様が前屈みでそう言う。

 地面に座っている俺の目には女神の美しい顔


 ではなく膝に手を当てる事で腕に挟まれ強調された胸がっ!

 ま、眩しい!!


「うわっ!?鼻血出てるよハナジ!」


「ぐ、う、大丈夫ッス。気にしないで下さい。」


「ダメだよほらティッシュ、ティッシュ。」

 コン!と言うと女神の手にはティッシュ箱が表れ、俺の鼻に問答無用とばかりにちり紙を突っ込んでくる。


「ちょっ、イナリ様、自分で、自分で出来ますから!」


「まぁまぁ、いいからいいから。」


「……アナタ達本気で殺してあげるわ。」


 ズオッ

 と影が広がりイナリ様の後ろに黒ドレスが立っている。


 血管が浮き出て目を見開き、怒り絶頂の顔だ。

 これが漫画なら後ろにはドドドドドド!!!みたいな効果音がつく事だろう。


 例によってイナリ様は振り向きもしないが、俺は人間だし魔女っ子ちゃんもいる。

 さっきの魔法を見る限り魔王とはいかないまでも、かなりの魔力を持っていると見た。

 とりあえず二・段・まで上げておくか。

 魔女っ子を膝から下ろし立ち上がる。


「頑張ってね~。」

 イナリ様は魔女っ子を抱えて横に退いてくれた。


「強化」

 俺が使える唯一にして最・強・の魔法を唱える。


「アハハただの肉体強化それも最・低・ラ・ン・ク・の強化でこれが防げるかしら!!」


「突き殺せ黒影ダークシャドウ!!」

 声に合わせ、広がった影が人の上半身を形作る。

 黒ドレスの背後から伸びた巨大な影は右手の代わりに黒い槍と化したそれを猛然と振り下ろす。


 こいつスタ●ド使いか!!

 なんて馬鹿な事を考えてる場合では無い。


 腰に下げた剣を引抜き黒い槍を受け止めるべく刀身に左手を置き上向きに防御姿勢をとる。


 キィン!

 と甲高い音が鳴った。


 影に見えても触れるのか

 なら!


 ズバシッ!!

 柄を両手で握り斬り上げると、


 一直線に進む斬撃は影の右手を半分に割いた。


「そんなっ!?私の黒影ダークシャドウが!」


 自慢の攻撃だったみたいだ。

 これならどうとでもなるが、

 さて、どうするか。


―――――――――――――――――――――


「くっ!このっ!あぁくそ!!」


 影と剣が触れるたび

 キンキン

 と甲高い音が鳴る。


 影の右手を斬られてイラついた黒ドレスはさらに影の腕を四本増やし、その上右手も自動修復?そもそも影だから斬っても意味無いのか?


 とまぁ合計六本の腕で斬りかかってくる。


「ああもう!何で当たらないのよ!!」


 まるで駄々っ子のように怒る黒ドレス。

 せっかくの綺麗な顔が台無しである。


「はぐはぐ。タケシ君飽きた~。もう行こうよ~。」

 イナリ様のみかんは只今十五個目。恐らく一個三分ペースで食ってるから……俺と黒ドレスが戦い始めてから十五分くらい経っている訳か。


「いや~でもこの人の事放って置けないですし、一応魔女っ子ちゃんが起きるまで待ってないと。」


「魔法で眠らされてるから何しても一日は起きないよ?」


「え~?本当ですか。でも殺す訳にはいかないし……。」


「このっ!余所見をするなぁぁぁ!!!」


 いやいや単調過ぎてヌルゲーなんだもんしょうがないじゃないですか。


 でもまぁ黒ドレスからすれば変態に嘗めプされてる訳だから腹も立つか。


 俺はそんな事を考えつつ

 はぐはぐとみかんを食べるイナリ様とその膝で可愛い寝顔を見せる魔女っ子を観しょ……見守りながら、

 片手間で黒影の剣を捌く。


「チッ!いい加減に!シロオォォォォォォ!!!!」

 今までで一番の叫び声を上げる黒ドレス。


 チャンスの予感だ!


 予想通り怒り爆発の黒ドレスは影の腕を六本全部まとめて振り下ろす。


 触れる物全てを粉砕するまるで巨大な斧だ。


 でも残念。

 俺の方が早い!


 剣を鞘に戻し全力で地を蹴る。


「なっ!?」


 とワンパターンのびっくり顔を浮かべる黒ドレス。


 黒影の斧が何もない地面を砕く。


 下手に殺せない上に逃げづらい状況。こんな時の為の取って置きの必殺技がある。


 影が伸びきり無防備な黒ドレスはとっさに手を交差させて防御しようとするが無意味。


「喰らえ必殺!ラシン剣!!」


 すれ違い様に黒・ド・レ・ス・を着る。


「またつまらぬモノを斬ってしまった。」

 キンと剣を鞘に戻す。


 すると黒影の魔女が身に纏う黒ドレスがパラリと地に落ちる。


 つまり

「キャアアアァァァァァァァ!!!!」


 強制的に相手を真っ裸にする神業である。


「ウェヘヘヘいい尻ドバァッ!!」


 振り返って見ようとした所いきなりみかんが飛んできた。


「タケシ君さいてー。」

 冷たい目をしたイナリ様がまるで機械のように正確に俺の顔にみかんをぶつけてくる。


「ちょ!待っ!目が!目がぁぁぁぁ!!!」

 柑橘系の果汁が俺の視界を潰しにくる。


「この変態共!!覚えてなさいよ!!!」

 影に包まれた魔女は涙目で叫び、溶けるように消えた。


「はぐはぐはぐはぐ。」


「ぐぎゃああああ!!!目が潰れるうぅぅぅぅぅ!!!水、水を恵んでくれぇぇぇええええ!!!」

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