第2話 魔女っ子ちゃん&黒ドレス登場

気がつくと俺は森の中にいた。

 わけだが。


「えい!えい!えい!」

 ボオッ!ボオッ!ボオッ!


 少し先で少女がスライムをいじめていた。

 ………なんだこれ?浦島太郎的な展開なんだろうか。


「はぐはぐはぐ。」

 隣ではイナリ様が無言でみかんを食べている。

 今は赤いはんてんでは無く巫女っぽい服を着ている。


「あのイナリ様、あれ何やってるんでしょう?」

 少女の方を指差し尋ねてみるも


「しゃあ?」

 分からないようだ。飲み込んでから答えろよ。後、みかんって立って食べる物じゃないと思う。


「えい!えい!えい!」

 少女の魔法は止まらない。何故かスライムの周りに炎を放つ。


 何だろうこの世界ではこうゆう遊びが流行ってるんだろうか?


「………。取り敢えず声かけてみますね。」

 そう言って少女に近づく、

 黒いローブを着ているので体型ははっきり分からないが身長は俺の腰くらいで綺麗な赤髪が放たれる炎でゆらゆら揺れている。


「あの、すみません。」

 脅かさないように出来るだけやさしそうな声で話かけてみる。


「ふえ?何ですか??」

 振り返った少女はきょとんと首を傾ける。


 髪の長さと声で女の子だと思っていたが間違いないようだ。

 将来間違いなく美人になるだろうと思わせる幼いながらもとても可愛い顔をしている。

 言っておくが俺はロリコンでは無い。


「何してるのの??」

 腰を屈めて目線を合わせ優しい笑顔で問いかけると


「子供扱いしないで下さい。私これでも20なんですけど。」

 少女は子供らしい可愛い声でそんなおませな発言をした。


「そっか~。すごいね~。お嬢ちゃんは将来魔法使いになりたいの?」


「だ~か~ら~!子供じゃないの!私もう魔法使いだし!」

 地団駄踏みながらそんな事言われても子供にしか見えないんだが。


「そっか~。でもスライムをいじめるのは駄目だよ。こうゆう事はちゃんと魔法が使えるようになってからね。」


「信じないなら見せてあげます!えい!フレイム!」

 少女が俺に向かって杖を振る。

 ボオッ


 と音を立てて隣の草が燃えた。


「………。」

「えい!えい!えい!」


 連続して放たれる魔法は俺の周りを囲んでいく。


 これは……。


「えい!えい!えい!あ~もう何で当たらないの!!」


 0距離で魔法が当たらないなんて事あるんだ………。


 ―――――――――――――――――――――

「そっか~。悪い魔女に呪いをかけられて小さくなっちゃった、と。」


 どうにか落ち着かせて話を聞いてみたものの………。


「そうなんです。魔力自体は変わらないんですが体が小さいせいで上手く魔法を使えなくて。」


「大変だね~。お父さんとお母さんは?この近くに住んでいるの?」


「だ~か~ら~!言っておきますけど私が元の姿に戻ったらあなたなんて一瞬で消炭に出来るんですからね!?」


 さっきからずっとこの調子で話にならない。こんなに小さいのに中二病にかかってしまったのだろうか。

 可哀想に。


「ウガー!!そんな目で見るなー!!!」


 ポカポカポカ


 そんなつもりは無かったがどうやら哀れみの視線に見えたようで、激昂した少女が杖を高々と掲げ、屈んだ俺の頭をまるで木魚のように連打する。


 あぁ、ポカポカって効果音実際に発生するんだ。

 涙目で怒るなんて、可愛いなぁ。

 あ、俺はロリコンじゃありませんよ?


「ニヤニヤするなへんたい!!」


 ポカポカポカポカ


「…………。」

 イナリ様が冷たい目で見ているが全然気にならない。


 転生して初っぱなからこんなご褒美展開があるなんて

 自殺して良かった~♥️


 後から思い返すとこの時の俺は頭おかしいと思う。

 でも、精神的に色々つらかった時期だししょうがないですよね?


 ………しかしそんなご褒美展開が長続きする事は無く。


「ウガー!!!ん?」


 少女が手を止めて目線を俺の後ろに向ける。


「どうしたの?」


「あ、あ、あ」

 少女は震えている。


 魔物の集団でも出たのかと思い、俺も後ろを振り向く。


 何の変哲も無い林道が黒く塗りつぶされている。

 大きな影の中心に立つそれは漆黒のドレスを身に纏った女性だった。


 ものすごい美人だがあの、影………。

 せっかくの魔力を無駄使いして、

 勘だけどこの人

 自分大好きさんだな。


「あんたは!私の体を元に戻せーーー!!!」


「あ、ちょっ!」

 止める間もなく少女が駆ける。


 しかし、

「アハハまだこんな所にいたのね。悪いけど貴方はもう用済みなの。」


「ボルケ」

「スリープ」


 少女が唱えるより一瞬早く黒ドレスの魔法が少女を襲う。


 黒い霧のような物に包まれた少女が膝を折り、そのままパタリと地面に倒れた。


「ああ、魔女っ子ちゃん!」

 慌てて駆け寄るも


 スースースー


 少女が可愛い寝息を立てている。


「……可愛いなぁ。」

 ナデナデ


 あまりの可愛さに思わず撫でてしまう、顔もニヤけている事だろう。


「ウェヘヘヘ。」


「……。」

 黒ドレスはそんな俺にゴミでも見るような目を向けた後、俺に用は無いとばかりにイナリ様の方に歩き出す。


「とてつもない力を感じて来たけどアナタ一体何者?」


「はぐはぐはぐ。」

 返事が無いただのみかん中毒者ジャンキーのようだ。


「……答える気は無いようね。いいわ無理矢理喋らせてあげる!」


 黒ドレスが杖を掲げると足元に巨大な魔方陣が浮かぶ。


「さぁ何かしないと死ぬわよ!」


 魔方陣が光を増すのに対し

 イナリ様のみかんを食べるスピードは変わらない。


 助けたほうがいいのかと振り返って見るとまったくの無反応だったので俺は魔女っ子を愛でる作業に戻った。


「痛いじゃ済まないわよ?喰らえジャッジメント!!」

 黒ドレスが魔方を唱えると、イナリ様の頭上に極太の雷が降り注いだ。


「はぐはぐはぐ。」

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