第1話 イナリ様登場

「お疲れ様~!カッコ良かったよ!」


「………。」


「いや~私も女神になってそれなりに経つけど、まさか一人で、しかも一撃で魔王を倒す人が現れるとは思いもしなかったよ。」


 なんだこの人……女神?

 いやそれより俺は死んだはずじゃ。


 俺は真っ白な部屋に立っていた。目の前にはコタツに入ってこちらを見上げる美女が一人。


 綺麗な金色の髪の上からキツネのような尖った耳が生えている。

 澄んだ赤い瞳は見ていると吸い込まれそうな程美しく

 真っ赤なはんてんを着た胸元ははち切れそうな程膨らんでいる。


 分かりやすく言うと

 キツネ耳の巨乳美人だ。


 しかし、女神と言ったのかこの人。

 コタツの上にはみかんとお茶、さらにはんてんまで着て正直まったく威厳が無い。


「あの、あなたは?それに俺は死んだはずじゃないんですか?」


「ん~?私はイナリ、教会で私の像とか見た事無い?」


「え?イナリってあ・の・イナリ様ですか!?」

 イナリ教、俺のいた星の国教で元はニホンと言う国の宗教だったらしい。

 しかし、教会にあるイナリ像は人では無く巨大なキツネそのものだった気がするけど……。


「そうそう、そのイナリ様。そして君は私に選ばれて転生する権利を得た訳だ。ちなみに私の像がキツネなのはこの姿だとやらしい事考えちゃう人がいっぱいいるから。」


「転生ってどういう事ですか!?」


「おっとやらしいは無視か、まぁいいや。実は今とっても困っててね。はぐはぐ。」

 みかんを食べながら、まったく困ってなさそうにイナリ様は言った。


「困ってる?」


「ずずーー、はぁ。取り敢えず座ったら?」

 お茶を飲み、一息。


「え?いや、」

「いいからいいから、ほらお茶も出して上げよう。コン!」


 イナリ様が手をかざすとお茶とみかんが表れた。


「あ、ありがとうございます。」

 取り敢えずコタツに入り、正座した。


「はいはい。で、困ってる話だけど実は最近異動があって、私の受け持つ星が少し増えちゃったんだよね。」


「はあ。」

 女神って異動とかあるんだ。


「その星が厄介でさ。強い人はいっぱいいるんだけど、勇者の証を持つ人が後10年は生まれない予定なんだよね~。」


「勇者の証?」


「うん。聞いた事無い?勇者の証ってつまり運命って言うか才能って言うか………分かりやすく言うと魔王を倒せる人の事。」


「そんな物があるんですか……。」


「そうそう。だからこれを持ってる人がいないと人間が減りすぎちゃって管理が面倒なんだよ。」


「はあ。」


「そこで君の出番ってわけだ!」


「は?何がですか??」


「も~鈍いな~。証を持つ人が生まれないなら別の世界から送っちゃえって話。」


「証って、俺にそんなのあるんですか?」


「いやいや君魔王倒したじゃん!しかもその後自殺するんだもん。すごいベストタイミングだよ。どうやって殺そうかずっと考え………ごほん、あ、みかんもう一個食べる??」


「……まだ一つも食べてませんよ。」


「あはは、冗談だからね?ジョーダン。」


 まったく冗談に聞こえなかったし、誤魔化そうとしてただろ。

 けど元々死ぬつもりだったし、自殺より女神に選ばれて殺されたって方がマシだよな。


「そうですか。で、自分は転生して魔王を殺してくればいいわけですか?」


「お!分かってくれたか。でも、ちょっと違うんだよね。」


「?何ですか??」


「う~ん。説明するの面倒だから簡単に言うけど後5年は今の魔王に生きててもらわないといけないんだよね。」


「何か理由があるんですか?」


「まぁちょっとね。神にも色々あるからさ。でも、だからこそ君に来て欲しかったんだ。」


「俺に?」


「うん。私の受け持ちになってから初めての勇者だからさ。本当はいけないんだけど何か贈り物をしてあげたくて………。」


「贈り物……。」


「そう。君、中々恵まれてなかったみたいだからさ、だから別の世界で幸せになって欲しくて。」


 あぁ、女神って本当にいたのか。

 泣きそう。


「どうかな?今の状態で転生するかわりに5年後に魔王を倒してくれない?」


「はい!任せて下さい。」


「いい返事だ。じゃあ行こう!」

 イナリ様はたちあがって拳を突き上げる。


「あの、イナリ様。」


「ん、何?」


「ありがとうございます。」

 天板に触れる程頭を下げる。


「あはは、勇者を助けるのは女神のつとめだからね。」

 惚れてしまいそうな程眩しい笑顔を浮かべるイナリ様。


 その美貌に見蕩れる暇無く、俺の視界は白く染まった。

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