最強剣士の異世界転生~追放されたり恋人を寝取られたり色々不幸だったので魔王を殺して自殺した……、んだけど何か神様が転生させてくれました~
五味葛粉
プロローグ
今日はまさに人生最悪の日だ。
三年間一緒に旅をした仲間達。
そのリーダー格、勇者が一人の男を連れてきたところから俺の最悪は始まった。
そいつは何でも出来た。攻撃魔法も回復魔法も使えて、剣の腕も立つ。
片や俺は剣しか出来ない。いくら勇者やこの男より強いと言っても魔法無しの剣術だけ。
人間を軽く越えた身体能力を持つ魔物に対抗するには魔法強化が必要だ。
つまり魔王討伐の旅において剣しか取り柄の無い俺よりも、そこそこに剣と魔法が使えるこの男の方が優れている訳だ。
同じ村出身という理由で旅を続けて来たが、薄々は気づいていた。
皆もう俺を斬り捨てたいと思っていると。
ついにその時が来た。
ただそれだけだ。
村に帰ってのんびり暮らそう。
なんて考えていたんだがな………。
「ははは」
まさかその男、ジョニィと恋人のカスミが浮気、それも妊娠していたとはね。
村に帰った俺はその事実を知り、再びかつての仲間の元に戻った。
その男はマトモじゃないと教えるために、彼女を寝取ったクソ野郎にせめて腕の一本でも切り落とすために。
しかし、それは叶わなかった。
誰も俺の言葉を信じなかった、訳じゃない。
そもそも知っていたんだ。
「はははは」
激昂した俺は奴らに斬りかかったが多勢に無勢、その上魔法まで使ってきやがった。
これまでの鬱憤を晴らすように拳と言葉の暴力が俺を襲った。
気がついた時には村に、自分の家にいた。ご丁寧に回復魔法をかけて。
そう言えば今日は国民的幼女アイドル『カツミちゃん』のライブが全国放送されるんだ。
傷ついた心を癒すためにテレビをつける。
画面に文字が踊る。
大スクープ!!
あの国民的幼女アイドル『カツミちゃん』が援交!?
経験人数は4け
「ははははは」
スパン!とテレビを叩き斬った。
もう死のうか、と剣を見つめていると、居間から声が飛んで来た。
「タケシー!!今月の仕送りまだなの!?」
「兄さん、俺事故に合っちゃってさぁ、百万必要なんだ」
「兄ちゃん、ジ◯ンプ買ってきてー!!」
「はははははは」
家の奴らは全員ニートだ。
もういいや、と切っ先を首に突きつけようとした時、
「魔物だー!!魔物の大群が攻めて来たぞー!!!!」
と外から青年の大声が聞こえてきた。
うちの村に魔物と戦えるような強者はいない。
俺を含めて。
だが、どうせ死ぬんだ。自殺よりは魔物と戦って死んだ方が剣士としてマシだろう。
そう思って家を飛び出した。
「ははは」
村の外には笑ってしまうくらい大量の魔物がいた。
もう考えるのも疲れた、ここで終わろう。
「強化」
と、俺が唯一使える、最低ランク、無いよりはあった方がいいレベルの強化魔法を唱え、奇怪な叫びを上げる魔物の群れに突っ込んだ。
「ウォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
今日の怒りを全て乗せて斬りかかる。
剣の型など関係無い、ただただ怒りに任せて叩きつける。
しかし、まぁ群れ対個人に勝機無し、数秒後には囲まれていた。
その間、五体程斬ったか、自分にしては改心の出来だ。
今俺を囲んでいるのは『ピコハン君』と呼ばれる魔物だ。
見た目通りの可愛らしい名前とは裏腹に攻撃した相手を混乱させる厄介な魔物だ。
混乱しているとその間の記憶は飛ぶ、それに痛みも感じない。
最後の最後、ラッキーだったな、楽に死ねる。
そんな事を考えている頭にピコっ!
とハンマーが振り下ろされた。
―――――――――――――――――
ここは地獄だろうか?
気がついた時、最初にそう思った。
回りには軽く千匹は越えそうな魔物の死体が山になり、ぐちゃぐちゃとひび割れた地面を赤く染め上げていた。
時刻は夜。不気味な程巨大な満月が空に穴が空いたように浮かんでいる。
顔を動かすと見渡す限りの更地。
しかし、ふと後ろを見ると、明らかに俺の村だった物の残骸がある。
人の死体が見当たらないところを見ると皆逃げられたようだ。
となると、これは幻覚?夢?
「グルルル」
と獣の唸り声が聞こえた。
再び前を見ると
俺の五倍はあろうかという巨大な熊がこちらを睨み付けていた。
『ウルトラベアー』と呼ばれる強力な魔物だ。
間違っても俺に敵う相手では無かった筈なのだが、
「グガァァァァアアアア!!!!」
四本足でガッチリと大地を噛み、巨大な顎が向かってくる。
なんだろうこの感覚。
負ける気がしない。
「グガァァァァアアアア!!!!」
と再び咆哮した大口が俺を噛み砕く、
寸前
スパン!
と居合い気味に放った一刀が熊の体を両断した。
「はは」
「ははははは」
「ははははははははははははははは!!!!!」
そして気づいた、力の正体に。
この力があれば……。
――――――――――――――――――――
「クックックよくぞここまで来たな、しかも"一人で"とは。」
好きで一人な訳じゃない。
「人間にしておくには惜しい男だ。どうだ?我と共に世界を手に入れてみないか?」
黙れ魔族のくせに。
「それだけの力を持ちながら一人なのは周りの人間に妬まれているからだろう?魔族は力が全てだ。貴様なら欲しい物は何でも手に入る。」
妬まれる?分かってないな、むしろ逆・だよ。
「悪いな魔王。俺が欲しいモノは魔族じゃ手に入らない。一緒に死んでくれ。」
それだけ言って俺は魔王の元に駆ける。
入り口から玉座まで一瞬で距離を詰め。
「なっ!?」
驚愕する魔王の
首をはねた。
……。呆気ない。あまりにも。
だがこれで安心して死ねる。
もし生まれ変われるのなら……。
いや考えるのはよそう、これで終わりなんだ。
血の雨に打たれながら俺は自らの首に剣を突き立てた。
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