第4話 訪問!冒険者ギルド2

「リンターさん、マスターから冒険者ギルドでこの異常気象について調査隊を結成すると聞いてきたんですが俺達も参加させてもらえませんかね?」

セッカ達のぷにぷにとした手のひらを触って機嫌が戻ったらしいリンターさんに俺たちが来た目的を伝える。

「なんであのハゲ知ってんだよ。外にまで募集出してねえぞ。まあいいや、確かに結成中だよ、ってかさっきまで上でその話をしていたところなんだが」

それをほっぽって俺達に絡みに来たのか。つまり今も上では放置されたメンバーがいると、申し訳ないな。リンターさんにはもっと組織の長としてしっかりして欲しいものだが。これでギルドは機能してるんだから良いか……。

「あのーそもそもなんですが異常気象って今年はたまたまってことはないんですか?何か原因があるってわかってるんです?」

「それは俺も疑問だったんですが、なんか確証があるんですか?」

「まあもっともだな。キャルフ嬢、森の中とこの街どっちが暑かった?」

「そりゃ断然森ですよ。森は蒸し暑いったらありゃしない、巨大蟲も大量に沸いてるし」

コート着てた俺が言えたことじゃないが暑いならせめてそのマフラー外したら良いのではないだろうか。俺はもう脱いだ、どうせ防御術式は壊されたし着てる意味ないからな。

「だよな?ちなみに森から離れれば離れるほど涼しくなって森の中心に行くほど暑くなるんだ。これは森の中に何かあるって思うだろ?ちなみに一応気象台に問い合わせてみたが特に例年と違う気象ではないそうだ」

リンターさんがきちんと下調べをしている!?感でなんかあるとクエスト発行するような人間が気象台に確認までしている!?この暑さで頭いかれたのか!?

「……なんでコーネリアは私をそんな変な顔してみてるの?」

「いえ、これは個人で調査した方が良いかもなとか思っただけです」

「それはどういう意味だ?あ”?怒らないから言ってみろ?」

怒りながら言っても説得力がねえ。

「いえ、なんでも。お気になさらず話を続けてください」

「まあいいや。さっきキャルフ嬢も言ってたが今巨大蟲が大量発生してるんだ。いくら暑いって言っても今年だけでそんな大量に沸けるわけがない。んで調査してたら森の中心に行くほど暑さも湿気も上がることがわかったんだ」

「ということは今回は調査というより解決するためにメンバー集めたと?」

原因の位置がおおよそわかっているならそれを排除すれば良いからな。

「おう、ってより中心が怪しいってとこまで調べてくれてた奴らが連絡取れなくなってな。まあー多分死んだかなーって、紫等級の2人に頼んでたんだが結構危ない物がいるっぽくてな。だから青以上の奴らで調査隊を新しく組むことにしたんだ!」

なんで紫等級に調査させたって思わないでもないが、冒険者ギルドに加入する時クエスト中への死亡について承認してるはずだしな。ギルドは金をケチって受けたやつらは己の力量を過信したんだろ。

「青以上が条件なら俺らも参加できますよね?」

「キャルフ嬢はいいけどよ。コーネリアは大丈夫なのか?あとこいつら黄色だろ?ダメだぞ?」

セッカ達の参加は承諾されなかった。そういえば黄等級だったな、おまえら。

リンターさんに未だに手のひらをぷにぷにされながら絶望した顔をこちらへと向ける犬人族二人。そんな顔されてもなぁ、黄色だしおまえら。

「俺はこいつの面倒見る代わりに魔力分けてもらえることになってるんで何の心配も要りませんがセッカたちどうすっかな。留守番か?」

「いっそ今からジノとセッカを青まで上げてくれれば良いのでは?その子たち私には程遠いですが強いですよ?青等級くらいはなんとかありますって。私だって最初赤スタートでしたし飛び級しても良いでしょ?」

「は?赤?」

こいつが化け物級に強いのはわかっているがギルドにそんな特例あったのか?規約に飛び級は禁止とか書いてなかったか?いや、ギルド作った本人のリンターさんとか最初から白らしいけど。

「あー、コーネリア。嘘じゃねえよ。キャルフ嬢は登録時に一悶着やがってな……それ止めに入った赤等級の奴率いるパーティを一人で返り討ちにしたらしくてな。てかおまえそんなら昇級ついでにしないか?」

これからもこいつの起こした問題が行く先々で露呈していくんだろうなぁ。今から胃が痛い……。それと昇級か……確かに魔力枯渇の心配がない今の状態なら赤等級の昇級もできるかもしれない。キャルフいなくても大量の魔水晶持ち込めば良いんだがコストが重くて試したことなかったんだよな。

「そうですね、今回の問題が解決するまでには考えておきます。それにしても……はー……」

「その顔はなんですか!?すごくかわいそうなものを見てる感じがするんですが!?私は悪くないですよ、黄色のクエストの報酬がショボいからもっと良いの受けさせろってそしたらなんか髭面のおっさんが絡んできたんで伸してあげただけです!」

かわいそうなもの見てるからな!大人しく決まり事を守るくらいできんのか……。その行動の結果自分が損するのが分からんのか、野生児過ぎる!

「なあセッカ、ジノスケこれほんとなのか?」

記録に残ってるってことは事実なんだろうが認めたくなくてセッカ達に確認を取る。

「マジっすよ、俺ら直に見たわけじゃねえっすけど。伸びてたおっさんは見たっす」

「その日の宿取って姉さん迎えに行ったらギルドが騒然としてたからビックリしたのを覚えてますわ」

「そうか……」

わかっちゃいたが俺このトラブルメーカーとこれから上手くやってかないといけないんだよな……。今の借金よりもでかいのがそのうち来そうな気がするぞ。マスター分の借金だけでもとっとと返させてコンビ解消するか?あーでも魔力プライスレス……。

「どうしたんですか?コーネリアさんそんな遠くを見つめて」

「あー……なにこの先の人生を悲観しただけさ」

「どうしたんですか急に!?元気出してください、私がいますからね。知らない仲ではもうないんですから、他人事ではないので困ったことがあったらどんどん言ってください。借金返済した後も!」

「えっ?借金返済した後も付いてくるつもりなのか?」

「もちのロンです!コーネリアさんが行商人っていうのはありがたいです、私探し物のために世界回らないといけないのでついてった方が楽なんですよ!冒険者になったのもクエストこなしながら行くのが楽って聞いたからでっ、となんでもないです。今のは聞かなかったことに」

また過去に関する話だろうか?深く聞かないと約束したからこちらからは何も触れないでおこう。

「そうか……まあいてくれるなら魔力に困ることもないしな。ただ問題起こすのだけはこれからも借金返してからもやめてくれよ。でセッカ達をどうするかだが」

「流石に等級一日で2つ上げるのを通すのはきついかなぁ。強いって言っても犬人族だろ?おい、おまえら一人で倒せる一番強いやつはなんだ?」

「犬人族が弱いって言いたいんすか!?それ種族差別っすよ!」

「いやだって、おまえら最弱種族として有名な犬人族だろ?魔族で言う|小鬼族≪ゴブリン≫だろ?」

リンターさんがまだぷにぷにしながらセッカ達の地雷を踏む。いい加減やめろよ、ぷにぷに。後で俺もやらせてもらおうかな。

「あー!あんた今言っちゃいけないこと言いましたよ!それは俺ら犬人族に対する最大限の侮辱なんすよ!謝ってください!じゃないと酷い目に合わせますよ!」

小鬼族と同格と言われたのが気に障ったセッカがリンターさんに食って掛かる。ジノスケは虚空を見つめて聞いてないらしい、ぷにぷにされるのが好きじゃないのだろうか。

全ての獣人の奉仕種族として作られた犬人族は他の獣人種族に能力が勝らないように作られているからな。どんだけ鍛えても種族としての限界が低いのが犬人族だ。魔族の奴隷として作られた小鬼族を参考として作られたという話も残っているので彼らにとって小鬼族との比較は最大限の侮辱になるらしい。犬人族の中には小鬼族狩り専門にする連中がいるほど小鬼族との確執は深いらしい。

気持ちはわからないでもないがリンターさんに喧嘩売っても治療費がかさむだけなので勘弁してほしい。

「おい、やめろ。リンターさんに喧嘩売ったって勝てるわけがねえんだ。人間止めましたって自分で公言してるような人だぞ」

セッカの両脇に手を入れをリンターさんから取り上げる。そしてそのままキャルフに大人しくさせるようにアイコンタクトを送り、セッカを渡す。

「おい、コーネリア。もうちょっと言い方考えろ?私も傷つくんだぞ?女性に対してせめてもうちょっと柔らかい表現使う優しさとかないのかおまえは」

「俺は男女差別はしない主義なので。まあその中でもリンターさんは特別優しくしませんがつけ上がってめんどくさいので」

「おまえあのハゲに何か言われてないか!?」

「フフッ、いえ特に何も」

含みのある笑いで返しておく。いや実際マスターからいくつか弱みやらなんやら教わってはいるのだが。

「まあそれは置いておいて、ジノスケお前らの実力ってどんなもんなんだ?マスターからもらった資料にはお前らのこと書いてなくてな」

キャルフのこなしたクエストや討伐した魔物ならざっくりと書いてあったけど犬人族に関することは書いてなかったな。わざとだろうし聞いたら絶対追加で仕事寄こされただろうけど。

「俺らの実力ですかい?一人で無理なくやれるとしたらスパイクキャットとかジャイアントシザーとかですかね、二人がかりで良いならアーマーベアとかキャノンタートルでも余裕ですわ」

「アーマーベアやれるのか?おまえらあれに襲われて死にかけたんじゃなかったっけ?」

てかなんで例に出すのが棘鋼猫、要塞蟹の子供、鎧熊、砲亀と外殻が堅い系ばかりなんだろうか。

「そんな駆け出しの時のままじゃねえですよ!?俺らだって成長してますわ!」

「そうか。でも青等級はアーマーベア相当を一人でが基準点でやはり今回はすまんが留守番でもしててくれ。ほれこれやるから」

「なんです、これ……"冒険者ギルド公式 等級別過去試験問題集 紫"」

「勉強しておけ。登録時に説明受けたと思うが等級上げたきゃ手柄を立てるか地道に試験だ。恐らく手柄だけで上げた奴がおまえらの師匠だがそこは学ばなくて良いからな」

どうせ試験やっても受からないだろうけどな。まあ冒険者には珍しくないが試験なし、むしろ試験受けて上がる奴の方が少ないんじゃないか?

「酷い言われようですね!?私だって馬鹿じゃないんですからね!」

「「「「えっ?」」」」

「酷い‼」

初対面のリンターさんや出会って短い俺だけじゃなくて弟子二人にも馬鹿と思われてるのか……哀れな。

「言うてコーネリアも青への昇級試験受けてないけどな」

リンターさんが口を挟んでくる。余計なことを、また本題から話題が反れる!にやにやしながらこっちを見てくるキャルフがうざい。

「それはあんたが勝手に上げたんでしょ!クエスト報告に来たらいきなり拘束されてタグの交換とよくわからん称号まで渡しやがって!」

「いでででででやめっタイム!ごめんなさいって!」

にやけ面のキャルフの頭頂部を指の関節でぐりぐりと押してやる。この依頼終わっていろいろ回収に行くときになんかキャルフ用に用意するかな。

「そりゃおまえの作った魔法理論や魔道具にはみんな助かってるからな、たまにクソみたいなゴミも混じってるが。おまえの等級が紫なのはおかしいって意見がそこそこあってな。本音はとっとといろんな魔道具開発素材取って来いよだけどな、ハハハ。ちなみに赤にあげようって意見もあったが赤にして死なれても嫌だしな。でも魔力の心配要らなくなったみたいだし、等級上げない?やって欲しい依頼あるんだよ」

「だからそれは考えておきますってか別の人に頼めば良いじゃないですか」

なんで俺に回すんだよ。もっと有能な人材いっぱいいるだろ。面倒ごと処理担当に認識されてんのかやめていただきたい。

「ちょっと訳ありでよ、詳細は受ける奴にしか話せねえんだが報酬もちょっと盛るから頼むよ」

「考えておきます、それより今は目先の異常気象問題です。俺らが調査隊に参加するのは問題ないんですね?もちろん、そこの犬人族二匹は置いていきますんで」」

悲しそうな目でこっちを見るな。雨の日に捨てられた子犬みたいな顔で見やがって罪悪感があるだろ。

「ジノ、セッカ。そんなわけで大人しく待っててね。今回は修行なしってことで」

キャルフが2人の頭をわしゃわしゃと撫でているがめちゃくちゃ嫌そうな顔してるな。せめて手甲外したらどうなんだ、痛いだろそれ。

「ああ、それはさっきも言ったが問題ないよ。キャルフもコーネリアも戦闘能力に関しちゃ問題ないだろ。問題あって死んでもうちらに責任はないって契約書には書いてあるしな!」

腰に両手を当て、無い胸張って威張るリンターさん。

「俺はその契約もどうかと思いますけどね。みんな結構何も言わずサインしてますけど」

「まあ深く考えるなって考えたって変わるこたないんだから。ほれ付いてきな。他の調査隊のメンバーの紹介とブリーフィングの続きをするから」

そういうとリンターさんは二階へ向かって大きく跳んで行った。だからなんで階段あるのに階段使わないんだよ。真似して跳んで行きそうだったキャルフのマフラーを掴む。

「ぐえぇっ!?何すんですか!?下手したら死にますよ!?」

「あんなの真似しなくて良いから。普通に階段使えよ!馬鹿が増えたって思われるだろ!」

「おい、コーネリア聞こえてんぞ!誰が馬鹿だって!?」

階上からリンターさんの苦情が聞こえる。まずい、つい本音が漏れ出てしまった。

「あー気のせいです。それは多分空耳ですよ、ハハハー」

「コーネリアさんがリンげぇっ!?何すんですか!?」

余計なことを喋ろうとしたキャルフのマフラーをぐいっと引っ張ってそれを阻止する。

「ちょっと黙ろう。この依頼が終わり次第美味い物でも食わしてやるから」

金欠でろくな食事をしてないとか言ってたし食い物で釣れるだろ。

「なんでもないでーす!私がちょっと馬鹿なことしただけでーす」

うわっ、チョロいなこいつ。俺が言っておいてなんだがほんといろいろと心配になるレベルだぞ。

「セッカとジノスケは勉強しながら待っててくれ。ほれ、これ飯代と宿代。帰るのいつかわからんからとりあえず3日分で渡しておく。こんだけあれば足りるだろ」

小さな布袋にシル銀貨を20枚ほど入れて投げ渡す。

「「ありがとうございます」」

受け取って中身を見た二人が頭を下げてお礼を言ってきた。

「コーネリアさん太っ腹ですね!」

横からスッとキャルフが手のひらをこちらに出してきた。

「なんだその手は」

「私へのお小遣いは?」

「馬鹿言ってないで行くぞ、借金メイド。あとあの金はお前の取り分から引くから」

「この服には事情があるんです‼それはご勘弁を‼セッカ、ジノそれ無駄遣いしないようにしなさい!良い?絶対無駄遣いしないで倹約に努めること!修行として取り組みなさい!いっそ野宿でも」

自分の金だとわかるとセッカ達に可能な限り使わせないように指示を出し始めた。わかりやすい奴だな、ほんと。

「いいから行くぞ」

「待っ、わかりました!わかりましたからマフラー引っ張らないでください、生地が伸びちゃう‼」

放っておくとしばらく続きそうだったのとせっかく渡した金を使われないのもあれなので掴んでたマフラーを引っ張って二階への階段へと向かう。名前のわりに軽いのな機人って。

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