第3話 訪問!冒険者ギルド

商人ギルドを出て、未だに目覚めないセッカとジノスケを脇に抱えたキャルフを従え街を歩く。待ちゆく人たちからの視線が痛い。

「コーネリアさん、いつになったらこいつらは起きるのでしょう」

「俺が聞きたいわ。長年一緒にいるあんたにわからないのが俺にわかるかよ」

「それもそうですね。はぁ……さっさと起きて欲しいですわ。それはそうとどこに向かっているので?」

「ん?冒険者ギルドだよ。マスターが冒険者ギルドで調査隊を組むって話してただろ?調査隊に参加できればそれが一番楽だと思ってな」

「なるほど。あれ?でも確かマスターさんは冒険者ギルドを出し抜くって言ってませんでした?」

「それこそ調査隊に参加するのが一番楽なんだよ。参加してればわざわざ探らないでも調査隊の動向がわかる。あとは原因が分かった段階で調査隊とはサヨナラバイバイ」

「それホントに上手くいくんです?そんなわかりやすい策に引っかかるとか相当なバカですよね」

おまえにバカって言われる奴らがかわいそうなんだが……

「ああ、上手く行くさ。なんせ解決に調査隊が動く前にあんたに壊滅させるからな」

「あー、それは完璧な計画。って私に何させるんですか!?傷害ですよ!?また借金が増えますよ!今回はギルドの邪魔したってことでさらに増えかねませんよ!」

「大丈夫だ、俺の借金じゃない」

「酷過ぎませんか!?絶対やらされたっていってやる!」

「キャルフよ、よく考えてみようか。俺は等級は青でも<称号持ちネームド>。要するに称号をもらえるほどの貢献をギルドにしてる人間なわけだ。その点同じ<称号持ちネームド>でもおまえは障害や器物破損で問題ばっかの問題児。さてどっちの主張が通るかな?」

実力があっても日頃の行いが残念な奴だからな。信用が命の商人としてこちとら日頃から外面を良くすることには抜かりがないんだよ。

「くっ!卑怯な!」

「卑怯じゃねえ!悔しかったらこれから行いを改めるんだな!」

そして二度と借金を作らないでくれ、一緒に旅するとなると問題起こされると俺に被害が出る。

「私だって気を付けてはいるんですよ!でも気が付いたら借金ができてるんです!」

「おまえ絶対ギャンブルには手を出すなよ!?」

「勝てる自信しかないけどずるなんで絶対にやりません。というか種銭がありません!」

「その自信はどっから来るんだ!?」

「あー、えーと、うーん」

予想外の反応なんだがなんだ?何か隠してるような……。まあ喋りたくないことを無理矢理聞くもんじゃないから放っておくか。てか聞いてキレられたら困る。

「まあいい、それより今の所持金いくらだ」

「あっ、ああ所持金ですか。ええもう自信もって言いますが0です。見てください、ごみしか出ない私の財布を!すっからかんのかんです」

そういって犬人族達を抱えたまま器用に財布を出して中身を見せてくる。悲しいほどに何も入っていない……。

「おまえたち今までどうやって生きてきたんだ……」

「そりゃ動物狩ったり野草採ったりして、美味しいとこは売ってお金になるし一石二鳥です。冒険者ギルドのタグって便利ですね。狩猟禁止区域で狩りをしても怒られないんですよ」

それは実質特権レベルの等級って危険人物の称号みたいなもんだからな。被害がそこまでないなら問題起こすだけ損が出る可能性がある証明書首から下げてるようなもんだぞ。緑等級以上は見て見ぬ振りが吉って言われる程。

まあそんな怪物人間抱えてるおかげで冒険者ギルドは各国ででかい顔ができるんだが。下手に喧嘩売って敵対国家に肩入れなんてされたらまあその先は地獄だからな。

「……ちなみにキャルフ、毒草の見分けや有毒動物の処理はできるのか?」

「気合で消化すればなんとかなります!たまに毒が肉に回ったりして買い取ってもらえないのもありましたけど私は元気です!」

「俺はジノスケたちが不憫でならねえよ……」

耐毒性能があるとか言ってたキャルフと違ってセッカとジノスケは毒の被害をもろ受けしただろう。ああ、ジノスケが言ってたキャルフの特性スープが云々ってそういうことか……かわいそうに起きたら美味いものでも食わせてやろうか。

「で私の所持金がどうしたんですか?」

「ああ、いやな。ちょっと金持たせておくのは怖いなって思ってな、空なら良いんだ。そのまま空を保ってくれ。てか今後報酬は全部俺が受け取っておく、なんか渡すと借金返済前に泡沫に消える気がする」

「借金抱えてる手前なんか文句も言いにくいんですけどせめてお小遣い程度で良いのでくれません?一応私これでも借金返済順調にしてるんですよ?なんで出会ったばかりで私こんな信用ないんですか?」

「出会い方が最悪な形だったからじゃないか?おまえのせいで俺の商品全滅だぞ?この依頼が終わったら一度修理と補充に向かわないといけないんだぞ」

キャルフがいればというか魔力を分けてもらえば修復もそれほど時間がかからないだろう。作業よりも消費魔力のせいでろくに魔道具を作れてなかったのだから。

マスターが同行を勧めたくなるのもわかる。これで商品開発も捗りそうだ。借金の恐怖はあるがな。

「私は悪くないです。あんなとこに立っていたコーネリアさんが悪いんです。痛い痛い痛い!人が手を使えないことをいいことに旋毛に指を突き立てないでください!殴りますよ!?」

「殴るって言えばアーマードベアを一撃で倒したって本当か?どんなバカ力だ?」

発言からやり方は想像はできてんだが本当にできるものだろうか。

「ああ、それは簡単ですよ。腕力でやれもしますが疲れるのでやりませんね。コーネリアさんに魔力を渡した要領で体内に魔力を流し込んで爆発寸前パンパンにしたらもう一回突きをぶち込む感じです。これを一瞬のうちにやるとワンパンで相手のお腹に大穴を開けてるように見せることができます!これやると集団戦で相手がビビるのでおすすめです」

「予想してたのより人間技じゃなかったわ!俺に言ってたように過剰な魔力送りこんで魔力暴走させる程度に思ってたわ!」

「そんなことしたら血肉が辺り一面に飛び散って私が汚れちゃったり暴走した相手が暴れるかもしれないじゃないですか。魔力渡しは私オリジナルですけど瞬時に2撃を一カ所に打ち込む技で牙爪流・虎拳参の型『虎双』と言いましてですね。ジノ達もできるのでコーネリアさんも覚えません?」

「いや、遠慮しておくわ。肉団戦闘はしたくないってかそんな技俺の筋力でできる気がしない。牙爪流ってあれか完全中立国を主張してる……確か獣皇国ラントだっけか?そこの国家武術だっけ?おまえらラント出身なのか?」

獣皇国ラント……確か完全中立を謳い未だに神が現存する国だったっけ。シルヴァからだと大陸横断した真反対じゃないか……そんな遠方から来たのか。

冒険者・商人ギルド共に関与できないほど軍力が発展していて血の気が多い奴がたくさんいるとか聞く。なんかこれが生まれるのにも納得してしまう。

てか嘘だろ、犬人族達もそんな人間止めました攻撃できるの?黄等級じゃなかったっけ……ギルドは一体どういう基準で等級付けしてんだ。

「セッカとジノスケはラントの外れの村出身ですが私の出身ではないですね。まあ住んではいましたがね。私の過去話についてはそうですね……コーネリアさんが私を落としたら話してあげましょう。これから長い旅になるでしょうから話したくはあるんですけどね、諸事情により今は秘密です♡。私のことは魔力溢れるちょっと力持ちの美少女メイド程度に認識しておいてください」

「おまえの過去を詮索する気はねえよ。俺も体質の原因とか聞かれたくないことはある。人間誰にでも言いたくないことはある。金にならんことをわざわざ詮索するなんてしねえよ、どこぞの御節介マスターじゃあるまいし。そしてその認識はどうなんだ」

確かに機人なだけあって顔や体形は非常に整っていて美少女と言っても差し支えないんだが何せおつむの方がなぁ。せっかくの美形を台無しにしている……。

「いや、美少女ですよね!?あっもしかしてコーネリアさんはB専ってやつでしたか。そうとは知らず、ご期待に沿えずすみません……」

「待て、違うそうじゃない。てか人の性癖を勝手に決めるんじゃない!確かに顔立ちは整っているが」

「でしょお?いやー可愛くってつら痛い痛い痛い!だから他人の旋毛ぐりぐりするのやめてくれませんかね!?」

話の途中で介入した挙句のドヤ顔にイラっとしたので再び旋毛を指で押してやった。

「身長差的に頭の位置が丁度良くてな、つい」

「つい、で人の頭頂部を弄るのやめてくれませんかね!?まったく!」

キャルフは頬を膨らませて拗ねる、子供か……。

「ああ、そうだ。聞こうと思ってたことがあるんですよ」

「なんだ?」

「私と一緒に旅するって決めた理由ですよ。最初嫌がってたのにあのハゲマッチョに何を言われたんですか?ああもしかして、私に惚れました?いやー、かわいいってつ、手を頭の上に持ってくのをやめていただきたい!あっ、それとも私のこの魔力生成能力の秘密が欲しかったとか?一応言っておきますがやめた方が良いですよ、今までどこで私のこと知ったのか馬鹿に何度も狙われてますが全員返り討ちにしてるくらい私強いんで」

ドヤ顔で自分の腕っぷしを自慢するキャルフ。腹が立つ顔をしやがる。また旋毛押してやろうか。

「その情報初耳なんだが?一緒に旅するのやめていいか?俺の命に危険が及びそうなんだけど。てかこんな往来で隠さず話すから狙われるんだろ!?なぜもっと言葉を選ばない?」

マスターが機人の生まれ方を知ってることは命に関わるとか言ってたし、普通じゃありえないくらいの魔力を生成、譲渡できたり加えて竜の心臓が核に使われているとなればなお狙われるのも当然ではある。もうちょっと自分のことを話さないでおけないのか。何かを隠そうとはしてるみたいだが隠してることすらバレバレでよく今まで生きてこれたと思う。それだけ強いってことなんだろうな……いっそ野生で生きた方が良いんじゃないか。

「考えてもみてください、コーネリアさん。それを知って命を狙ってくるやからなんてもうろくでもないことが確定しています。ならやってしまった方が世界が綺麗になるじゃないですか」

「ほう、自分を餌に悪党を集めていると?なら余計俺は一緒に旅するのをやめたいんだが?そんな正義感に俺の命を巻き込まないでくれ」

「あぁあああ、ごめんなさいぃい!何も考えずに行った失言なんですぅ!今度から気を付けるんで見捨てないでください!!コーネリアさんには全力で協力するようにマスターさんから言われてるんです!旅解消になるようなら借金倍にするとか言われてるんです!」

「いつの間にそんな話してたんだ……」

ギルドにいた時にそんな話をする暇なんてなかったような……。思念波で会話できる術でも持ってるのか?マスターがそんなことできるって聞いたこともないが、キャルフにあるのか?

「私のポケットにメモが入ってたんですよ。いつ入れられたのか分からないんですけど、あの人なにもんなんです?」

「ただの筋肉テカってるハゲオカマだよ、ちょっと化け物レベルに強いだけの」

「いやその化け物レベルに強いのがまずおかしいってか私の拳素手で止めましたよあの人。拳止められたのなんて久しぶりでしたよ。って私のことも化け物って言ってません?もっと私に優しくしません?一緒に旅する仲間ですよね?呼ぶときもお前とかあんたとかじゃなくてキャルフちゃんって呼んでくれて良いんですよ?」

マスター以外にも止めた人間がいるのかよ。牙爪流の師匠とかか?なんにせよ、関わり合いにはなりたくないな……。

「考えておく。呼び方は断る、それが良いなら今度から呼び捨てにさせてもらう。ほれ、もうギルドが見えてきたぞ」

行く手にマッチョが両手に持つ剣を胸の前でクロスさせている金ぴかの像がつけられた看板を掲げる巨大な建物が見える。冒険者ギルド本部と書かれた垂れ幕がいくつも上層の窓から垂れ下がっている。相変わらずセンスが欠片も感じられない看板だな。目立つから良いんだけど。

「うわぁ、相変わらずダサい看板ですねぇ……ここって本部なんですよね?私が加入した支部と違って金ぴかでダサさがマシマシでヤバいんですけど」

「流石に支部全部には金かけれないからな。ちなみにあの看板純金製だぞ、壊すなよ」

「……コーネリアさん」

「盗むなよ」

「まだ何も言ってませんが!?」

「じゃあなんだ、あれ盗んで売り払って借金返そうとか思ったんじゃないのか?そんなんだから借金が雪だるま式に増えてくんだよ」

「合ってますけど!この短時間の付き合いでよくもまあ私のことがわかりましたね、やっぱり私に惚冷たぁあああっ!」

首筋に魔法で作った氷を張りつけてやった。普段ならこんなくだらないことに魔力使えないのに、魔力残量気にしなくて良いってああ気楽だなぁ。

「ふざけたこと言ってないで早く行くぞ、ああそれとまた魔力分けてくれ」

「良いですけど、私があげた魔力はもっと有意義に使って欲しいんですが!」

そう言いながらキャルフが俺の手を握ってくる。じんわりと温かい感覚が手から体に流れてくる。あー、魔力が満ちるー。新感覚だなこれ。

「あー満ちるわー」

「風呂入ってるときのおっさんみたいですよ、コーネリアさっ!?ん!?今ビリっとしたんですが!?そういうことするともう魔力分けるのやめますよ!?」

「気のせいだ、ほれ行くぞ」

握っていた手を変な形に開いているキャルフを置いて冒険者ギルドの門をくぐった。


**


テーブルで食事をし今日の戦果を自慢する冒険者、掲示板でクエストを探す冒険者、クエストカウンターの受付を口説こうとして他冒険者に袋にされている奴、冒険者ギルドの本部とあって。そこかしこで商談が賑わっている商人ギルドとはまた別の賑やかさを冒険者ギルドに入って感じた。久しぶりに来たが変わらないなここは……。

「コーネリアさん待ってくださいよ。うわぁ、中広っ!そしてあのダサい像がところどころに……景観損なうとかもうそんな次元超えてますね。私の知ってるギルドで中にも像が置いてあるのはここが初めてです」

後から入ってきたキャルフがギルド内の装飾を見て唖然としている。ギルドの装飾として飾れているギルドの紋章にもなっているマッチョ達。タグのデザインにまであれが採用されてなくてホントに良かったと思う。

「ここ以外の支部は普段置かないからな。理由はまあ、追々わかるさ。あのモデルが誰なのかも……」

「えっ、あれモデルとかあるんですか!?あっ、もしかして」

「コォオオオネリアァア!!」

上の方から大声で俺の名前を呼ばれる。吹き抜け構造になっているギルドの受付、その二階部分からこちらに対して手を振る人影。目が合うと何を思ったか手すりを乗り越えて下に降って来た。どうして階段があるのに階段を使わないのか。

「久しぶりだな!どうした?あのハゲとついに縁を切ってうちで働いてくれる気になったか?事務仕事の方が人足りなくてなぁ。いやぁ助かるわ」

「お久しぶりです、リンターさん。俺はずっと商人してくつもりなんでお断りします。というか冒険者ギルドの裏方なんて心労で死ぬのが目に見えてるので嫌です」

笑顔でお誘いは断らせていただく。冒険者ギルドの裏方は要するに冒険者のやらかしたものの後始末、ギルドを良く思わない国への手回しとかだ。そんなもんは商人ギルドの手伝いだけでも十分、そっちメインにしたら心労で死ぬね。しかも荒くれものの多い冒険者ギルドの後始末とか考えたくもない。

すらりとした長身、肩まで伸びた金髪、耳は上側が長く尖っており、絞まった腰には2本の剣、まな板のように平らな胸には冒険者ギルドの職員印章、首から下げるタグの色は白等級。そんな森人エルフの女性が獲物を狙う獣の目をして俺の目の前に立っている。嫌だ、この人の下についたらろくな目に合わないのがわかりきっている。

「そんなこと言わないで頼むよー。目ぼしいのがもうおまえしかいないんだよ」

「皆断るような職場を改善したら良いと思いますよ?」

「あのー、コーネリアさん。誰です、この人?」

「ん?あんたは?」

「あー、そうだな。キャルフ、こちらは冒険者ギルドのマスターでリンター・ルミネル・メウチさんだ。リンターさん、これは何故か一緒に旅することになったキャルフ・エメラル。その脇に抱えられてる白いのがセッカ、黒いのがジノスケだそうです」

「私たちの説明雑っ!?ってギルドマスター!?」

何でギルドマスターの部分でそんなびっくりしてるんだ。メウチの方に引っかかると思っていたんだが。

「キャルフ……キャルフ……あー!キャルフってあのキャルフか!?もらった称号が気に入らなくて大暴れしたっていうあの!討伐依頼を受けたのに討伐するどころか魔物を村にまで連れ込んで村の農作物全滅させたっていうあの!」

「はぅっ!」

脇に抱えていたセッカたちを投げ捨て両手で耳を塞いでその場に座り込むキャルフ。

「おい弟子投げるなよ!セッカ、ジノスケ!?大丈夫か!?」

「「すーすー」」

心配して様子を見に行ったら2人揃って安らかな寝息を立てている。……複製魔法でハンカチを複製して水魔法でさっと濡らして、これを鼻にかけておいてやろう。苦しみだしたら取ってやろう。

「でキャルフはそん時いくら借金を?」

セッカたちの様子を見ながらリンカーさんに尋ねる。ギルドの支部への損害は全額負担だろうし村への被害も一部ギルド負担があるとしても相当額だろう。

「もう返しましたよ!もといギルドから無茶なクエスト押し付けられてそれやる形でチャラにしてもらいました!」

おまえ聞こえないふりしてたんじゃなかったのか。

「ちなみにやらせたのは暴れたやつの件は大量繁殖したワイバーンの駆除で作物の方は黄金草の採取らしいぞ。なんかそんなやつにサインした気がする、内容が面白かったから覚えてるよ」

「ワイバーンはまだしも黄金草の採取ってもしかしなくてもそこの犬人族2人を使ったんですよね」

「だろうね、酷い話もあったもんだ」

黄金草、根っこまで含めて全て黄金色に輝く草で滋養強壮薬の材料になるんだが何より臭い、小便臭い。探すときにはその臭いが頼りになって嗅覚の鋭い動物などを使って探すんだが犬などは近寄るのを拒否する程の臭いと聞く……犬人族は犬同等の嗅覚を持つという地獄だっただろうな。加えて特殊な生物の好物でそいつもまた臭いし有毒。収穫するときは高確率で出会うで採取する奴がほとんどいない。そんなものを取らされたのか……。

「コーネリアさんまで私をいじめる!私たちのこれまでの絆はどうしたんですか!?」

「いじめてねえよ!今日会ったばっかだよな、絆も何もねえよ!この短時間の間でお前の脳みそで何が起きたんだよ!?」

「ハハ、仲が良いな」

「何を見てそう思った!?目見えてんのか!?」

「おっ、自分の左目と掛けたギャグか?すまん、面白くないわ。ちなみに私の目はばっちり見えてるぞ」

「そうじゃねえよ!自虐とかじゃねえよ!」

「この人なかなか難儀な人ですね。てかコーネリアさんの左目見えてないんですか?」

「おまえが言うな!見えてないんじゃなくて入ってないんだよ、生まれながらな。今は義眼が入ってるけどな」

そう言ってサングラスを取って義眼を見せる。ついでに義眼でキャルフを見てやろう。この義眼には魔力漏洩の防止以外にも魔力測定や鑑定の機能などもついている。ただしオンオフ機能がないので常にあらゆるものから情報が流れてきて頭が痛くなるのが難点。普段はサングラスに防止魔法を付与することで義眼の機能を制限している。

「へー、青色で綺麗な義眼ですね。魔法陣が描かれてますけどなんか特殊な能力とかあるんです?こう、心が読めたり」

「読心魔法なんて神達の時代にあったって聞かねえよ。いくつか機能はあるが……嘘だろ。キャルフやっぱお前化け物なんじゃねえの?ホントに人間?」

「人間ですよ!確かにこんなかわいいのは美を司る女神かなんかと思うかもしれませんが残念ながら私は人間なのです」

「その女神を顔が変形するまでボコボコにして殺した逸話が残っている種族が言うと何とも言えんな。おまえを見たら義眼の魔力測定機能がエラーを出したぞ。人間どころか高位の魔族でもこうはならねえよ」

「いやーご先祖様もヤンチャだったんですねぇ」

竜の心臓これほどのものなのか。そりゃ命狙われるわ。

「私の魔力は一般的な魔法使いがコップ一杯だとしたらバケツくらいは余裕ですからね!しかも使ってもどんどん魔力は練れますからね、魔力欠乏を知らない女です」

俺とは真反対な能力を持っていて羨ましい限りだ。まあ、一緒に旅するならその恩恵にあやかれるのだから良いとしよう。できればその能力自体を手に入れたいが……。

「あー、ところで盛り上がってるとこ悪いがそこの犬人族ほっといていいのか?」

リンカーさんが俺の後ろを指さす。

存在を忘れていたセッカたちを見るとハンカチのせいで呼吸できずに悶えていた。いかん白目向いてやがる、このままでは嫌がらせから殺人になってしまう。

「おい、大丈夫か!?」

「ちょっとジノ大丈夫!?」

「げほっげほっ!あー、死ぬかと思った。あんたは盗賊のお仲間さん?てかここどこっすか?」

俺はセッカを起こす。辺りをキョロキョロと見まわしている。そういえばセッカはずっと気を失ってたから俺のことは知らないのか。

「おえっ!はー、村のみんなが見えたぜ……。あれ?姉さん?ここは?あのハゲマッチョのおっさんはどこへ?」

ジノスケも目を覚ましたようだな。

「ここは冒険者ギルドだよ、ほれあそこにいるグラサンの人が全部説明してくれるから聞いてきな」

キャルフめ、全部俺に丸投げしやがった。どうせ説明するつもりだったから良いけど釈然としないな。

「あんたはセッカを助けてくれたグラサンの兄さんじゃないっすか。なんでここに?」

「俺はコーネリア・ラインヴァルト・アイゼンシュタット。あんたらの師匠とこれからしばらく旅することになってな。それで今は仕事しに冒険者ギルドに来たところだ。あんたらも一緒に旅することになる。これからよろしく頼む」

「セッカ・ワンっす。よろしく頼むっす。姐さんの一番弟子っす。姐さんが決めたことなら俺は何処までもついて行くっすから、何も問題ないっす」

「俺の名前はジノスケ・イチ。まあ、あの後なにが起きたかは想像に難くないんで聞かないでおきますぜ。あと一番弟子は俺なんで」

2人と握手を交わす。あっ、手の内側めっちゃぷにぷにだ。気持ちいいなこれ。

「あっ?一番弟子は俺っすよ。やる気っすか、ジノ」

「おお、いいぜ。今日こそ決着をつけてやる」

「やめなさい、おまえたち!こんなとこで暴れたらまた借金増えるでしょ!」

「姉さんがそれ言います!?がっ!?」

「姐さんがそれ言うっすか!?おぅ!?」

「五月蠅い!殴るぞ」

「殴ってから言うなよ……」

キャルフのげんこつを受け、2人の犬人族は頭を押さえうずくまってしまった。

「結局お前たち何しに来たんだ……。私を無視して騒ぎに来たのか?」

リンカーさんをほったらかして騒いでいる俺らにリンカーさんが後頭部を掻きながら不機嫌そうに尋ねてきた。かまってちゃんかよ……。最初に絡んできたのはそっちな気がするんだが。

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