第2話 頭のねじが飛んでいる

「なので私たち現在お金がないのです。弁償を要求されてもいつ払えるかわからないのです。できることならもういっそ水にでも流して欲しいのですけど」

犬人族二人に薬草をすりつぶしてから流し込み、キャルフが起きるのを待ってから弁償の話し合い(話し合うとは言ってない)が始まった。

「ええ、ええ。あなたが街で大暴れして修繕費や慰謝料なんかで借金まみれ、あなた自身を売り飛ばそうにも奴隷の首輪や魔術が意味なさず売れないこととか事情はよーく知ってるのよ。他にも小さな借金がそこそこ積もってるとかも知ってるのよ。私にはそういう情報が集まってくるから。でもね、私からしたらだからなに?って話なのよ」

「話聞くに自業自得だしな」

どうやら酔った勢いで街で暴れた以外にも遺跡調査やモンスター討伐の依頼でも要らぬ被害を出していたようで稼いでも借金返済に当てられる日々が続いてるらしい。

「でも、でも……」

「でもじゃないでしょ?やったことの責任は取らなきゃ。ね?」

子供をあやす親みたいだな。あっ、このおっさん一応育児経験者か。

「じゃあ、ここにサインしようか」

やっぱ親って言うより高利貸しとかそっち方面だな。あれにサインしたら海に沈められそうなそんな予感が過る笑顔だ。いや、怖っ、笑顔の圧力怖っ!

「……」

キャルフがこちらに助けを求めるような視線を向けてくる。しょうがない。

「マスター、すまんがちょっと明細を見せてくれ」

「あら、なに?減額してあげるの?コーネリアちゃんってそんな優しかったっけ?」

「そんなわけないだろ……これで良しほらよ」

マスターから渡された明細書に修正を施して返す。

「あら、額が増えてる……慰謝料の項目が増えてるわね。あなた怪我してたの?」

「商品ほぼ全壊された俺の心の慰謝料と、この後心労が重なりそうだからそこの部分も」

「あんたらの血は何色だよ!?酷い、酷すぎる!こんなのあんまりだぁああ!これが人間のやることかよぉおお!」

「そう思うなら扉蹴破らずに普通に開けて入れば良かっただろ。酒に酔ってたのか?それとも何か禁制の品でも使ってたのか?」

「貧乏は薬とかの依存性高いって言うしねぇ。負の借金スパイラルってやつよね」

「ボロクソ言いますね!あんたら!」

「まあまあ。私もまともに働いたらいつ返ってくるかもわからない借金とか嫌だしね。そんなあなたに提案があるのよ。」

「借金がチャラに、いやもうこの際減額でも良いので私にやれることならやりますよ。やってやりますよ」

マスターの笑顔が絶えないのに俺はすごく嫌な予感がするんだが……。

「良いお返事ね。」

そういってマスターがこの場を離れようとしていた俺の手をとる。おい、待て。なんでそこで俺の手をとる。なっ、う、動けない……手が鉄で固定化されたかのように微動だにしない!?

「いででででで、もげる!放せ!万力みたいに力をどんどん加えるのやめろ!わかった、もう抵抗しないから!!」

なんとか腕を外そうともがくとミシミシと拘束する手に力が込められていく。無言の圧力どころか無言の暴力だ。

「このコーネリアちゃんと一緒に旅をするっていうのはどう?そうすればとりあえず私があなたの借金に関して私が口利いてあげても良いわよ」

「は?」

「さらにコーネリアちゃんについてけば衣食住の心配もないし依頼全額返済に当てれるわよ」

「おいちょっと待て」

「なるほど、色仕掛けで私がコーネリアさんを落とせばそこの借金もチャラになるわけでお得と。最悪物理で落としてしまえば」

「おいこら、待て」

「そうそう、でも物理的に落とさないでねー。コーネリアちゃんいないといろいろと困るのよー。ハートを落とすのもそう簡単じゃないと思うけど、そこは頑張ってね」

「当事者無視して話を進めないでくれますかね!?」

「……」

「……」

二人揃って無言でこちらを「今大切な話してんだから黙ってろ」みたいな視線を送ってくる。おかしいこの話間違いなく俺が関わってる話なのだが、むしろ俺が損を一身に受けるレベルなのだが。挫けるな俺、例え睨み付けてるのがゴリラ二匹でもここで屈したらダメだ。

「いや、なんで俺がそいつと旅するんだよ。俺も被害者なんだが!?」

「あら、あなた今さっきこれからの心労何て言うからわかってるのかと」

「てっきり私も迷惑かけるの承知なんだなーと」

「ちげぇから!今みたいな状況想定しての心労だからな!予想あっちまってるじゃねえか、こんな予想外れてほしいわ!!」

「商品の仕入れは失敗するのにね」

「喧しい!余計なお世話だ!」

「まあまあ、コーネリアちゃんも落ち着いて。ほら、キャルフちゃんって緑等級の冒険者じゃない?コーネリアちゃんが入れない地域や受けれない依頼も受けれるようになって、さらにさらに規制されてるものも採りに行けちゃう。何て素晴らしいんでしょう。コーネリアちゃんも規制区域に入りたいとかぼやいてたし一石二鳥!」

「まあ、待て。そもそも俺は今回の依頼を達成したら三年間は商人ギルドの依頼は優先して行う義務から解放されるんじゃなかったか?」

「そうね、じゃあ私個人の依頼ってことにしてあげるわね」

「あんた最初から義務は免除させる気なかったな!?畜生!」

「やぁねぇ。私達信用で生きてる者達にとって契約は絶対よ。つまり断ったら酷い目にあうだけで別に義務でも何でもないわけ」

「信用の欠片もねえ!ただの脅迫じゃねえか!やってられっか!」

「待ってください!ではこうしましょう。私が依頼を受けてそれをコーネリアさんに手伝ってもらう依頼を出せば、これは実質そこのマッチョさんからの依頼ではないことに」

「それこそ実質マスターからの依頼だよ!頭大丈夫か!?」

「頭は大丈夫です。親にも姉妹にも強度は褒められた自慢の頭です!でも顔が痛いです。主に目と鼻がヒリヒリします」

「催涙スプレーあんだけ食らえばそりゃ痛いだろうな!ってそうじゃねえよ!」

「なんなんですか。せっかく話が上手くまとまりそうだったのに。何が不満なんですか」

「不満しかないんだが!?えっ?俺がおかしいの!?」

「よく考えてコーネリアちゃんも私も今までやりたかったことけどできなかったことができる。キャルフちゃんは借金の返済を待ってもらえる。Win-Win-Winの関係じゃない。どこに不満があるのよ」

そう言いながらマスターはさらさらと何かを書いている。契約書か何かだろうか。

「俺の意志が無視されていることとこいつと旅をすることだよ!俺は一般人だぞ、死ぬわ!!」

「安心してください。嫌でも鍛えられます」

「何を安心しろと!?」

自信満々の顔をしながらふざけたことを抜かすこの女をどうしてくれようか。また催涙スプレーぶっかけてやろうか。今身動き取れないし抵抗できんだろ。

「しょうがない、コーネリアちゃんちょっと来なさい。キャルフちゃんは少しの間大人しく待ってるのよ。逃げたら指名手配しちゃうからね」

キャルフにウィンクをしてその場を離れようとする。

「なんだ、締め落として勝手に契約結ぶ気か。マスター、あんたそこまで堕ちたか」

「あなたも大概失礼ね!良いから早く来なさいよ」

「いでででででで!!もげる!肩から腕が引っこ抜ける!!」

店の裏方、酒や食品を保存しておくスペースまで腕を引っ張られる。あまりの腕力に抵抗などできるはずもなく容赦なく連行された。

「コーネリアちゃん。さっきも言ったけどあの娘との旅はあなたにとっても悪い話じゃないのよ」

マスターが声がキャルフに聞こえないようにか小声で語り掛けてくる。

「危険地域に入れるってやつか?それこそ金払ってもっとまともにコミュニケーションの取れる奴らを雇っていくわ」

「違うわよ。あれは建前。コーネリアちゃん、一応聞いておくんだけどあなた機人アノイドについてどこまで知ってる?」

マスターは真剣な表情でこちらの返答を待っている。

「どこまでって……一般知識程度しか知らないぞ。神魔大戦時代に人によって神や魔を殺すために神ではなくて人によって生み出された種族だろ。大戦後も便利な労働力として物のように生産し扱われていたのを自我を持った個体が反乱を起こして、それに混ざって奴隷や弱小種族も反乱起こして全種族平等の協定が結ばれた程度の知識。」

「それは機人の歴史よ。確かにそれも大切ではあるけど。私が話してるの機人について、その能力や特徴、出生の話よ」

「機人のそういう話に関しては種族外に漏れないように秘匿されてるんじゃなかったか?せいぜい生まれ持って優れた身体能力と知識を有してる種族で体のどこかしらに核と言われる部位があってそこへのダメージ以外は致命傷にならない程度だな知ってるのは」

「そうね、確かにあまり世間では知られてないことではあるわね。下手に調べようとすると消される可能性もある情報だし知らなくても無理はないわ」

元は奴隷のように使われるために作られた種族。それも当初の目的は人に及ばないものを討つための兵器だ。確かにそんなもののことを知ろうとしたらいろんな奴らに命を狙われるだろうな。

「待て、この雰囲気だとあんたそれを今から俺に話す気だな。そんなヤバイ情報を俺に話してどうするつもりだ」

「どうするもこうするも説得するために必要なことってところかしら。それにあなたのその体質についても無関係じゃないのよ」

「……なんだと?」

俺の体質、そう言われて左手を左目にへと持っていく。サングラスの下にある目は右目と同じ目ではなく無機質な義眼である。この義眼がなければ今こうやって生きてることも難しいだろう。この体質を独自に調べてきたが何もわからなかった。その情報が手に入るのなら……。

「聞く気になったかしら?それじゃあ、話すわね」

「ああ、話してくれ」

「そうね、まず機人っていうのはさっきも言ってた通り私たち基人ヒュノイドやあの犬人族コボルト達みたいに神によって神に奉仕するために作られた種族じゃないわ。人が神を討つために作られた種族、人が自由を掴むために生み出した兵器。そんな機人を産み出してるのは神の死骸なのよ。」

「神の死骸?」

「そう。鍛人ドワーフの造物主である造神リィトの死骸を使って作られた生成機に核になるものと素材を入れて作られているの。」

「造神リィトってのはあれか?神々の武器を作ってたが故に真っ先に魔族から狙われて死んだって言われてる」

「そうそう。その創造の能力を持つ神様の体を生き残った鍛人達が加工して作り上げたのが機人を作る機械。"造神の胎"って言われてるものよ」

「そんな何千年も前の物がよく今でも動いてるな」

「まあ元は不滅の神の肉体だしね。それでも戦いで破壊されたり盗まれたりで稼働できるもので所在が分かってるのは10基もないらしいけどね。」

「10基……それがなくなった時は種族的に滅びるのか?」

「うーん、それについては本人たちに聞いてみると良いんじゃない?あえて私からは話さないでおくわ。さて、話の続きだけど機人の核ってのはね。私たちの脳や心臓みたいなものなのだけどそういうものが実際あるわけじゃないの。」

「?どういうことだ?」

「機人の核ってのは個体によっていろいろなのよ。例えば水晶だったり魔物の牙や目だったりね。核に使われてるものによっては特殊な能力を持つ人もいるそうよ。」

そう言ってマスターはカウンターの方をちらりと見る。

「その特殊な能力持ってるってやつがあいつなのか?それでその能力なり核になってるものなりが俺のこの体質に関係してるってことか?」

「そうとも言えるしそうとも言えない。先に言っておくと例えあの娘の核を取り出したり捕えて能力を強制させてもあなたの体質が治るかはわからないわよ」

「どういうことだ?あいつが俺の体質に関係してるのだろう?」

「そうね。なんせあの娘の核に使われてるのは竜の心臓よ」

「竜の……心臓……」

竜……それは世界から生まれたもの。それは神魔大戦における勝者。それは非干渉を貫く支配者。それは世界の機構の一つ。

そして竜は植物が酸素を生み出すように魔力の元となる魔素を生み出す。竜の周囲はあまりの魔素濃度で呼吸すら困難だと聞く。その竜の体の一部、魔素生成能力を備えてる器官と言われている心臓であるなら俺のこの忌まわしい体質をどうにかできるかもしれない。

俺の体質は魔素を取り込む能力、魔力の蓄積許容量が並以下。世界中で見ても下の下。それに加えて問答無用で体内の魔力が漏れ出やがる。義眼をつけて漏れ出ることを防がなければ命を保つことすらできないクソったれな体質だ。義眼をしていても少しずつだが漏れ出る、今はなんとか生成量のが漏れる量より多いから良いが生成能力が落ちたり流出量が上がるようなことがあれば死んだっておかしくない。常に体内に死の爆弾抱えてるようなもんだ。体質ってよりもはや呪いや病気の類だ。

「それは本当なのか?それが本当なら俺のこの体質から解放される……」

「超のつくほどの秘匿情報よ~。それでも真実か嘘かわかってなかったんだけど。私って昔竜に会ったことあるの知ってる?さっきあの娘と拳交えた時にね、昔会った竜と同じものを感じたわ。でもね、やめときなさい。竜の一部、それも心臓なんて本来人どころか普通の"造神の胎"が耐えれるものじゃないわ。中身だけじゃなくて外も化け物なのよ、あの娘。造物主はさぞすごい知識と技術を持ってるんでしょうねぇ」

「はは、なるほどな」

こちらを見透かしたような目で見てくるマスター。魔工学と魔生物学の極点とも言える機人。それに竜の素材を使えるように"造神の胎"を改造できるほどの技術者ならこの体質を何とかする方法がわかるかもしれん。わからなくても義眼を完璧なものにすることは可能だろう。

「あのー!いい加減話をまとて私たちを解放して欲しいんですけど!!正座で足が痺れるんですけどぉ!」

待ちくたびれたらしく大声で呼ばれる。

「……本人も待ってるようだし、行きましょうか。どう?キャルフちゃんと旅する気になったでしょ?」

「ああ、こんな体質とはとっととおさらばしたいからな。胃にきつそうだがやってやる」



**

「で話はまとまったんですかね?まあ解放されたってことは一緒に旅してくれるってことなんでしょうけど。んーー」

解放された手足を伸ばしながらキャルフが尋ねてくる。動作が寝起きの猫みたいだな。

「ついでにキャルフちゃんの借金も肩代わりしてくれるってよ」

「言ってないんだが!?」

唇に指をあて、腰をくねらせながらふざけたことを抜かしやがるマッチョ。その無駄に膨張してる筋肉に筋萎縮材でも打ち込んでやろうか。

「えっ!?ほんとですか!?いやー、コーネリアさんカッコいいって思ってたんですよ~」

両手をこすり合わせながら擦り寄ってきたので、

「おぅいあっまぁああああ!!目がぁああああ!!鼻がぁあああ!!」

戻ってくるときついでに持ってきた催涙スプレーを浴びせてやった。

「ふっ」

「あんた仲良くする気あるの……ちょっとキャルフちゃん大丈夫?」

「おぅえっ!?ぅえっ!?」

吐きそうになってるキャルフの背をマスターがさすっている。量は少ないのにさっきの比じゃ無いくらい効いてるな……どんな匂いなんだ?

【超臭ハナマガル、腐った魚臭ー定着タイプー 鼻の利く種族の嫌がらせ・拷問に♪】

……使った俺が言うのもなんだがこのスプレー作ってるやつ頭おかしいんじゃないか。てかなんでマスターこんな種類揃えてんの!?

「おぉっぇえええ!!」

「ちょっと店の中で吐かないでくれる!?」

まあ腐った魚の匂いが鼻にこびりついたら吐くわな。

「あー、うん。すまない。こんなにえげつない嫌がらせ商品だとは思わなくてな」

「おっ、おぅいにぉおあんあぉおうあえぉおぅぇえっ!」(も、もう二度とこんなことしないでください、おえっ!)

「すまん、何言ってるかわからん」

「おほおひくびょおうぇっぇ!?」(このド畜生っぇ!?)

「汚いなぁ……大丈夫か?ほれ水、まずは顔洗った方が良いぞ」

「……あんた自分でやっといてそれはないわ」

俺も自分で若干そう思う。でもすごいなこのスプレー、いくつか買っていこう。水筒の水で顔を洗っているキャルフが恨めしそうにこちらを見てくる。

「さて、悪ふざけもこのくらいにしてだ。一緒に旅をするにあたって互いに自己紹介と行こう。改めてコーネリア・ラインヴァルト・アイゼンシュタットだ。コーネリアで良い。魔法は使えるがいろいろと事情があって腕には期待しないでくれ。まあよろしく頼む」

「あー、ひどい目にあった。この状態でも話進めるのがすごいと思いますよ。コーネリアさん。キャルフ・エメラルです。物理で解決できる内容ならお任せを。そこで伸びてるのが一応私の弟子で白いのがセッカ、黒いのがジノスケです。起きたら再度紹介します」

「旅には参加しないけど商人ギルドマスターのマーバ・メウチよ。あなたたちの旅を影ながら応援してるわぁ」

何故かマスターも自己紹介をしたが軽い挨拶を済ます。初対面からさっきまでは最悪の形に近い出会い方だろうからこれからどう良好な関係に持ってくか。

「さて気になってしまったので聞きますが、ずばりいろいろな事情とはなんですか?言えない、言いたくないってことなら深く追求はしませんが、一緒に旅をするって言うなら私としてはコーネリアさんの戦力を知っておきたいわけです。青等級の魔法使いの実力はあると思ってはいけない感じですかね?もしかして線が細いですが案外魔法が苦手で接近戦のが得意だったりするんです?こう、昔は騎士学校に通っていた!的な。わかりますよ、魔法の詠唱とか私もできませんもん、てかあんないくつも長い文章覚えられません」

なんの躊躇いもなく核心ついてきやがるな。もっと躊躇えよ。商売の時は近くにいさせない方が良いタイプだな。てかどんどん妄想膨らませてくな。

「あーいや、まあ単に俺の魔力が人並み以下で強力な魔法を使えないし、弱い魔法もそんな連発できないってことなんだが」

まあどうせしばらく一緒に過ごすならいつか話すことではあるから今話して絞まっても良いだろ。

「ふむ、それは質の問題ですか?それとも量ですか?もしかしてそもそも生成能力がクソザコナメクジだったりします?ならコーネリアさんの魔力許容量ってどのくらいですか?あっ、相性の悪い属性ってあります?」

「多い多い、質問が多い。ゆっくりと話せ。まあなんだ、魔素の吸収能力が元来低いのに加えて魔力はいくら作っても徐々に体外に漏れ出る体質なんだよ。だからろくに魔法は使えない、OK?魔水晶でも大量に用意できれば話は別だが」

「コーネリアちゃん基本属性に加えて無属性もきちんと修練してる秀才ちゃんだから属性問題は気にしなくても良いわよ」

何故かマスターが質問の

「なるほど、つまり何の問題もないですね」

「話聞いてた?どう考えたら問題がないんだ?」

「うーん……説明して理解してもらうの難しい気がするんですよね。私説明得意じゃないですし……とりあえず握手しましょう」

そう言って笑顔で手を差し出してくる。

「?まあなんだよろしく」

キャルフの差し出した手を握る。

「じゃあいきますよ!えいっ!!」

「はっ?」

キャルフから膨大な魔力が溢れる。その膨大な魔力がキャルフの腕を伝って俺の体に流れてくる。

「ちょっ!?おまえ何を!?」

これはヤバイ。俺の肉体が体験したことがないレベルの魔力量が流れてきている。

「やめろ!ストップ!はじける!俺の体がはじけ飛ぶ!!」

「まだ、まだいけますってもうちょっと頑張ってみましょう!大丈夫です、私の体じゃありませんから」

「俺の体だから!?おまえ借金のこと忘れてるだろ!?」

「Oh……忘れてました」

「いや、何がしたいんだよ!?」

「でもこれで魔力が満ちたんじゃないですか?気分はどうです?」

確かに今、体には体験したこともないほど魔力に満ちている感覚がある。漏れ出る量は一定で変わりないが、これなら魔法を行使してすぐにガス欠するようなこともないだろう。確かに本来難しい魔力の受け渡しをこんな簡単にしかも凄まじい量でできるのは素晴らしい能力ではあるのだが、

「そうだな……魔力酔いで最高に気分が悪い」

「ちょっと送り過ぎましたか!?すみません……でもこれで魔法使えない問題は解決ですね」

おい、こいつすげぇニヤついてやがる。さっきのスプレーの仕返しにわざとやりやがったな。いかん、気持ち悪い……体内で何か生き物でも暴れてるかのようだ。

「大丈夫ですか?あっ、洗面器要ります?背中さすりましょうか?」

「てめぇ……やってくれやがったな、これでも食らえ『パラライズ』」

「あがっ!?無詠唱はずるっ……」

せっかくたくさん魔力をもらったので消費魔力が激しいことで有名な非効率麻痺魔法をくれてやった。体内の魔力が減ったので魔力酔いも少し治まるしで一石二鳥。一回も撃てたことがなかったから知らなかったがこれ結構強力だな。そこだけ地震でも起きてるかのようにびくびくと痙攣してる。

「あんたら今からほんとに一緒に旅行くでいいのよね?」

「いやー、すごい能力だな。確かにこれは魔水晶なんてちんけなもん要らないわ。でも煽るならもうちょっと考えような、魔法使いに魔力上げて煽るとかさすがにないわ」

「……今度は体が破裂するまで魔力送ってあげましょうか?」

「なんでもう動ける!?そんな短時間で解けるものじゃないだろ!?」

撃つのも初めてだし喰らったやつを見るのも初めてだが確か並の人間なら半日は痺れてるはずだぞ。

「残念でしたね、私に毒や呪い系はあまり効きませんよ。私たち機人は元々高い耐性があるのにくわえて昔から毒も呪いも慣れるほど喰らってますし、そしてこの服は耐毒耐呪その他いろんな効果が付いてる魔道具です」

「よし、なんか規格からしておかしいってことはわかった。毒見や呪い除けには丁度良いな」

「あんた畜生過ぎない!?」

さっきからマスターがうるさいな。いい加減かまってやるか。

「だがマスター、何故かこの扱いがこいつには正しい気がする」

「あーなんかわかる気がしないでもないわね」

マスターと意見が一致する。やっぱなんか雑な扱いが正しいんだな。

「あなたたち酷くない!?このツッコミ何回目だよ!」

「あーまあ、とりあえずそれは置いといて。キャルフ、その手甲脚甲も魔道具だろ?しかも規格外に価値がある。そしてさっきの能力。なにもんだお前」

核に竜の心臓が使われているところといいどこかの国が極秘で作った最高機密が脱走したとかじゃないよな……。

「私の生い立ちが知りたいんです?私はただの冒険者ですよ、ちょっと借金まみれですけど。それで良いじゃないですか」

キャルフが放った殺気で空気が凍り付く。これ以上過去を聞くなら今度は冗談じゃなく本気で殺しにかかるって感じだな。

「あー、そうだな。言いたくないことを聞く気はない。誰にも言いたくないことの一つや二つはあるし、嫌な過去もある。俺にもあるしな。OK、互いに詮索無用ってことで行こう」

「それでよろしくお願いしますね。まあ興が乗ったら話すこともあるかもしれません。じゃあ初仕事に行きましょうか。何しに行きます?最初は手軽にこの暑さで大量発生してる巨大蟲達の討伐でも行きます?」

「手軽じゃねえよ!!依頼ならもうマスターから受けてある。あんた腕っぷしは問題はないと思うが隠密や諜報はできるのか」

「あー、大丈夫です。昔やってたことありますし、ばれたら全部殺ってしまえば完全隠密ですから」

「やめろ!物理で解決しようとするんじゃない!旅するの取り下げるぞ」

そんなんだから器物破損で賠償金の借金こさえるんだ。

「……一応気を付けます。で受けてる依頼ってのはなんです?」

「このくそ暑い原因の調査と冒険者ギルドの調査部隊の妨害だよ。てかこんだけ店ボロボロにされて妨害も何もあるのか?」

裏への被害はないから商品は無事だが表が悲惨で営業再開はしばらく無理だろう。机や椅子はいくつも砕けて、棚は8割は倒れて割れている。

「そうねぇ、商品の販売は諦めてキャルフちゃんに請求してるから良いとして、やっぱあいつに負かして悔しがってる姿を肴に一杯やりたいから、依頼内容を冒険者ギルドより早い原因調査と解決にしましょうか。ちゃんと内容をレポートにまとめてね。可能なら寒冷地法で一商売できるかもしれないわ」

「依頼は受けるが生態系が壊れるからやめろ!」

「まあ、私はどちらでもよいので基本武力が必要なら私たちが受け持ちますから。魔力不足も気にせずバンバン撃ってください。足りなくなったらまた分けてあげますから。それじゃさっさと行きますか、よっと」

伸びてるセッカとジノスケを両手に抱えてキャルフは店を出ていく。あいつらまだ目を覚まさないのか……こんだけ周囲がうるさいのに

「大変だろうけど頑張ってねコーネリアちゃん、報告楽しみにしてるわ」

「他人事だと思って、あんたって人は……はぁ、やれるだけやるよ。じゃあな。おい、待て!勝手にいくんじゃねえよ、おまえ借金抱えてる自覚あるのか!?」

店長に後ろ手で手を振り、逃げられる前にキャルフの後を追う。

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