第2話泊まり
胸がはち切れそうな期待を固唾を飲みながら質すと、ヤスミは潤んだ眼で頼子の目をじっと見つめた。驚くほどに綺麗な切れ長の一重瞼に長い睫毛。
この時になって、頼子はヤスミの瞳が普通の子より僅かに小さいのに気が付いた。白目がちな小さな瞳が彼女の妖しい美しさを際立たせていたのか……。
艶やかな髪が無言で頷く。
ふいに突き出た桃色の舌先で自ら潤した唇が夕陽にテラリと輝いて、また頼子の唇に重なる。
私もしたい。早く連れて行って……お願い。早く……!
頼子の舌を撫でるようにからみつくヤスミの凄く甘い舌が言葉よりハッキリと同意を示すのが解る。
「じゃあ、街道でタクシー捕まえよう! 私、連泊も出来る綺麗なホテル知ってるから。……ヤスミ、泊まりOKだよね?」
たったこれだけいうにも期待と興奮で吐息混じりの自分の声にまで艶味を感じてしまう。
「もちろん大丈夫。ううん。泊まりじゃなきゃイヤ」
「寝かせないよ。いいの?」
「その為の泊まりでしょ? いいよ。寝なくても」
嬉しいヤスミの返事に思わず谷間が濡れる。
頼子は自ら湧出させた愛蜜が脚をつたう感触に軽い目眩すら覚えた。
ヤスミ。この可愛い子を一晩自由にできる!
もう一度、唇を重ね合わせると、ふたりは手を繋ぎ歩く歩調を早めて街道への坂道を下った。
ここからは少し記憶が跳んでいる。
気がついたときには、もう、ふたりとも全裸になっていて、頼子は両ひざ立ちになり、自分の両手で小さくて形の良い胸を掴み、揉みしだきながら微かに背筋を反らして喘ぐヤスミの上半身を見上げ、下腹部の薄い繁みに唇を擦り付け、充分に濡らした舌でヤスミの花弁を何度も舐めあげていた。
湿った音を聞きながら、頼子は両手にホールドしたヤスミのくびれた腰から片方の手を放し、指先を自分に悦びをくれる谷間を愛撫するために使った。
普段なら、最初の数分は「すりすり」とも「しゅるしゅる」とも聞こえる悦楽の音は一瞬で湿りを含んだ「クチュクチュ」と聞こえる愛慾の音になり、同時に頼子の喉から吐息まじりに絞りだす悦びの声が自然に漏れた。
……ハウッ…… アッ! アッ! アッ! ああッ!
苦痛にも似た快感がジワジワと下半身から上半身に這い登ってくる。
ああ。いいっ! このままイッても……。
歯で唇を軽く噛みながら、頼子は悩ましくくねるヤスミの肢体を仰ぎ見て自分の花弁に滑り込ませかけた指の動きを止めた。今、頼子はタイトロープの上に立っている。大きな嬌声をあげて頭を激しく左右に振れば快感は一気に沸騰して全身を駆け巡り、心臓と脳を裂くような快楽の大波に包まれるだろう。
……でも。
頼子はそれをあえて我慢する事で、最初の絶頂を見送った。おそらく、ヤスミもまた自分と同じぐらいの高い崖の上に立って、煮え滾る快楽の沼に身を投げ、全身が溶け落ちる快感を味わいたい衝動に追い詰められているはずだ。
だから前戯で最高に達しては勿体ない。
頼子には、ヤスミもそう思っているのが解った。
……この子、私と同じぐらいの淫乱だ。毎晩三回ぐらいはオナニーしないと安眠出来ないタイプ。この子、ヤスミとなら、今までで一番のSEXを……ううん、初めて淫乱の壁を破って、ほんとうの『けもの』になれるかもしれない。そうよ、きっと、そう!
頼子にとって淫乱は蔑みの言葉ではない。性の女神に選ばれた快楽の天使にのみ与えられる誉れの称号。
女性同士だからこそ得られる何の束縛も無い快楽の追及。ひとつでも多くの快感を探して骨まで愛し合える。
これが頼子の愛し方。
どうにもならない高揚に肩で息をしながら頼子はヤスミに言った。
「ヤスミ。獣に変身なさい」
「……え?」
「獣に変身……するのよっ!」
言い終えるより早く、頼子は自分の蜜に濡れそぼった人差指と中指をヤスミの中へ滑り込ませると、柔らかに起伏した暖かい肉壁の感触を楽しみながらその指をクルリと反転させた。
雷にうたれたような快感にヤスミは両目を見開き、まさに獣じみた嬌声をあげた。
「いやあああああ! いいっ! イイッ! いいいいいっ!」
ヤスミの両脚がぶるぶると震える。あまりの衝撃に噴出した暖かい飛沫が薄暗い部屋の照明に反射して宝石みたいにキラキラと輝きながら胸に肩に降り注ぐのを感じて、頼子も呻くように悦びの声を囁いた。
「ああ……温かい。ヤスミの身体の中で溶けて透き通った宝石。ヤスミの中に涌いた泉の水」
頼子は自分の身体を濡らして流れ落ちようとする飛沫を手のひらで素肌に摺り込み、淫靡なため息をつきながら、愛し気に濡れた手のひらを舐めてみせる。
「……おいしい。今度出るときは私の口に。ね? ぜんぶ飲んであげる」
「いやぁ……。そんな……きたないヨ」
脱力して、膝まづくようにしなりと床に付したヤスミの身体が倍速映像のようにゆっくりと仰向けに横たわる。まだ興奮が抜けきれないのか、美しくわれた腹筋がピクリピクリと蠢くさまは砂浜に打ち上げられた虹色の魚のようだ。
頼子は自分の涎に濡れた唇を舐めてからヤスミに告げた。
「あんたの身体から出たものがどうして汚いわけ? 私が欲しいの。私たちが一緒に獣になるのに必要なのよ!」
ほんの少し咎めるような口調。それでも甘い声で促すと、ヤスミは側っ方を向いたままコクリと頷き、独り言のように小さな、震える声で答えた。
「…………それじゃ、頼子さんのもちょうだい。私の身体にも一杯かけて……私も、同じコト……されたいから」
笑顔で頷き、頼子はヤスミの美しさを讃えた。
「ヤスミ。あんた、人魚姫みたいよ」
「は……恥ずかしい……」
裸体をさらしたまま、両手で顔を覆うヤスミの手首をにぎり開かせ、口中にためた愛の唾液をキスと一緒にヤスミの口に注ぐと、頼子はヤスミの身体を丁寧に抱き上げた。細長いヤスミの腕が頼子の頸にまわってふたりの裸が密着する数秒の間にも何度も唇が重ねられた。
そして頼子は抱きかかえたヤスミを、ふかふかなベッドに放り出す。
「きゃん」
微かな笑いが混じったヤスミの可愛らしい声と表情に、頼子の欲望は再び高まった。
…………かわいい。……かわいい! こんなにかわいい子、初めて…………!
短期の火遊び、気軽に終わっていい恋の冒険。
そんな、最初の思惑は、今の時点で全て白紙撤回だった。この恋は本物の愛に育つ。もう手離せない! 頼子の中で打算も理性も粉々になり、激し過ぎる愛欲の炎が我が身を焼き始めている。
――我慢できない! ヤスミは誰にも渡さない!
歓喜に心臓が踊り、胸が苦しい。硬くなった乳首を頂く胸を自分の手でゆっくりともみほぐしていく様子を横たわったヤスミに見せつけてから、頼子は彼女の身体に覆いかぶさった。さっき掴んだ細い両手首を、今度は少しだけ乱暴にヤスミの頭が乗った枕の左右に固定する。まるでレイプのような体位だけれど、両腕を開かれ自由を封じられてあらわにになった胸の美しさは理性もモラルも吹き飛ばすほどの魅力に満ちて、硬さを増した乳房の先端を口に含むとヤスミの身匂と甘酸っぱい汗が混じって強い甘味に顎の付け根が痛くなる感覚を覚える。
食べてあげる……。あんたを、ぜんぶ。
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