第28話 伏線を清算してから死んでくれ
―――現時点で、この『
1、この『
2、この『
フリーれいかとは、最初から絶望的に、感性が常人のそれとはまったく違う異常者であることはもはや疑いようがない。
まともな会話すら成立しないそんな彼の魂には『躁うつ病』という、言わばもう一つの魂が存在したのだ。
理解がまったく追いつかないだろうが、とにかくある時、その『躁うつ病』は自我を持ち、親であるフリーれいかの魂から分離し、この『
そしてそして、そんな『躁うつ病』がさらに―――”躁霊”と”鬱霊”に分離した。
その片割れである”躁霊”が今、世界の支配者である
『
ありとあらゆる『・。・』を狂気で歪ませ、一人で自家中毒に陥っている。
本来ならありえない人間関係、狂った戦闘劇。
著作権もガン無視、誹謗中傷も当たり前、まさにやりたい放題。
そう、まるで
理不尽すぎて荒唐無稽な嘘っぱち。
だからお願い早く夢から覚めてと願ったところで叶わない。
―――だからこそこれは悪夢なのだ。
―――第1話の時点で既にそれがはっきりと明示されている。
ここまでが、一つ目の確定事項の詳細である。
全くワケが分からないだろうが、それは皆同じなので呆けないでもらいたい。
所詮、これは夢である。
―――そして、この悪夢から抜け出し、現実に帰還する為に反抗するレジスタンスもまた存在する。
そこに入団した主人公―――”鬱霊”。
フリーれいかの躁うつ病が分離したもう一つの片割れ。
彼女は『
己の正体を思い出しても、彼女は決して挫けようとはしなかった。
「待ってろなのだ・。・ お前の野望は絶対に打ち砕くなの・。・!」
フリー(躁)「ふっ、楽しみにしているぞ我が同胞よ(^ω)^!」
躁霊と鬱霊は今や敵同士、ぶつかりあう運命にある。
躁霊は、この『
鬱霊は、この『
ここで、二つ目の確定事項の件に戻る。
―――『小説』。
―――何度も何度も、数えきれないほど繰り返されてきた言葉。
彼らはあるとき知ってしまった。
自分たちのいる世界が”さらに上の世界”の人物によって書かれていた小説の中。
虚構の世界であるということを。
【「どうでもいいから、関係ないから、好き勝手に面白おかしく弄くり回して妄想の
第20話、めんちゃんの異能『
―――ここで初めて小説という単語が物語上で明示されたのだ。
―――のみならず。
【ゆめちゃん「ねぇそこの人たち、目障りだから消えてくれないですか? どう考えたって、私たちの方がニーズのあるカップリングですよね。そっちは誰も求めてないと思います。」】
【キリト(偽)「現実も夢も、その差は大して変わらねぇ。ならよ、俺らがお前らと入れ替わっても文句ねぇよな。」】
第22話、自らの
人類の誰かが望んだ、キリトとゆめちゃんの『夢』。
この二人の関係を、”こうであるべき”と望み続けた世界の妄想が具現化した場面。
―――小説世界の創造は、何もフリーれいかの躁霊一人だけの仕業でないことも、ここではっきりと明示されている。
小説とは、見る者に様々な影響をもたらす。
結果、それが夢となる。
今度はこういうキャラクターが死ぬところを見てみたいというような、いわゆる誰もが夢見ていた、現実逃避ともいえる負のエネルギーを利用し、異世界をより強固な結界にするという役目を担っていた。
そうつまり―――この異世界は現実とリンクしている。
観客の求めた願望と経験が、まるきり望むがままの形と結果で出力されていたのだ。
以降、鬱霊率いるレジスタンスは世界の真実を追求する為、フリーれいかの城である『ふわっと小学校』へと攻め入ることになる。
ここまでが、二つ目の確定事項の詳細である。
日本語喋れよと思うかもしれないが、無理に理解しようとしなくてもいい。
所詮、これは夢である。
―――そして彼らは長い時を駆けて戦い続けた。
―――場は最早、最終決戦。
No.7いちご「俺とお前どちらが偉いか———ケリつけようぜフリーれいかッ!」
元レジスタンスにしてU2部隊No.7の称号を持つ男。
動機は最高にくだらないものなのだが、結果として
フリー(躁)「ここからが本当の『
戦は前話から継続―――。
いちご vs フリーれいかの躁霊
その場に居合わせた、ある意味被害者な『みんと帝国』の少女フレッシュ。
フレッシュ「な、なんでまだ戦うの!? 今はこの場所を調べるのが先なのにッ!」
戦闘に巻き込まれ、絶賛気絶中、謎の勢力とつれいか。
とつれいか「—————(白目)」
そんな彼らの死闘をモニター越しに見ていたレジスタンスの二人。
No.4どりゃれいか「やれやれ、ここから第二ラウンドが始まるってのに。ここまで引っ張ってきて『みんと帝国』が邪魔してくるってのは有り得ないね。」
レトさん(本物)「同感だぜ。お前らやってることが中途半端の癖にここでかよッ!」
モニター室に不法侵入していた彼らを発見した二人。
上田「誰かと思えばレジスタンス・・・あっはっはっ! 未だに小賢しく飛び回ってたのかよ蝿かお前ら? 目障りだな殺してやるよ犯罪者。」
No.2田中みこ「どりゃれいか。次に会った時は容赦しないって言ったみこよ。お望み通り、死をプレゼントするみこねぇ。」
複雑な思惑が絡み続け、世界が変質していく。
いやむしろ、これまで半端だったものが今ようやく変わろうとしているかのように。
フリーれいかの躁霊と、それが創り出した『
分かり易く言えば、フリーれいかをぶちのめす、ただその一点に向けて。
それがここにきてようやく達成されようとしている。
ようやく、そう、ようやくと言っていい。
この物語は、完結という名の清算に向けて動き出したのだ。
―――第28話 伏線を清算してから死んでくれ
―――否、そんなことはない。
それでも悪夢は覚めることなく回り続ける。
このままでは物語を完結させることが不可能である。
―――この『
―――『・。・』が関わる以上、つじつまを清算することはもはや不可能だから。
―――もはや死に体であるキャラクター達の暴走は止まらない。
あれは、あの瞬間に感じていたものは、誇らしいまでの使命感だ。
原因不明で、説明不可能で。
だけどこれが悪い気持ちのわけがないと、信じた心は今もある。
でも―――この『小説』の正体は依然として分からない。
あえて名付けるのならば。
それはまさしく『異世界転生』の物語。
目が覚めたら『・。・』になっていたという
決められた型が無い、故に説明が効かない。
そう、説明が効かない小説なのだ。
れいか達の現実は死に体だから。
オワコンの名の如く、本当に存在が終わっている。
要は、都合のいい解釈でどうとでもなってしまうのだ。
なぜなら彼ら・。・は究極のネット弁慶。
他者との交流を知らぬ者たち。
コミュニケーションの意味すら理解しようとしない。
しかしそうなると第1話目から既に気が狂っている。
まだ意味のある『・。・』の設定集や存在理由があれば対処もできようが、これは逸脱の域を超える。
―――説明が断片的で穴だらけでなのにそれでもとんとん拍子に話が進む。
―――細かな矛盾点があったとしても、そこを追及する者は誰もいない。
―――伏線が全く回収されないのに、新しい伏線が増えていく。
―――まるで夢のようにあやふやなのだ。
新しい謎かけ、意味ありげな呟き、匂わせ、総じて伏線。
話数が変わるたびに、それが無数に顕れる。
だってここは夢の中。
誰にも何も咎められはしないんだ。
正直に白状するが、これまでの伏線は他者の願望から生み出されたものであり、回収する気は皆無である。
事実、この小説が誕生する際に紹介されたキャッチコピーの時点で既にはっきりと明示されている。
そしてそれこそが、フリーれいかの躁霊の異能の正体。
どんな無茶な願望だろうが、それこそ名の通り”
―――取り返しがつかなくなるまで。
重ねて言うが、フリーれいかの躁霊は小説を破壊されたくないのだ。
『
だが、彼はこの素晴らしい二次創作世界に閉じこもり、いつまでも悪夢を続けたい。
完結した小説の世界に残るのは虚無の世界であると彼は理解してしまったが故に。
完結さえさせなければ、この異世界はネットの世界に居残り続ける。
永久に、誰からも忘れ去られようと、それは漂い続けるのだ。
それが逆に黒幕の目的だというのだから奇怪である。
―――回収できない伏線が無限に増えて進んでいく小説。
こんな小説は前代未聞であり、人類史上初と言っていい。
なろう小説界で代々培われてきた暗黙のルールなど完全にぶち壊しにきている。
世界中をいくら探したところで、こんなあやふやな小説を産んだ者は誰もいない。
そしてそれは存在理由が意味不明であやふやな『・。・』達と相性が完璧であった。
死に体の『・。・』達だからこそ、荒唐無稽な二次創作が産まれてしまう。
死人に口なし。
勝手に本人たちを弄ったところで、死んだ者に何もできはしない。
あらゆる伏線や概念がここぞとばかりに増えていく。
まあ、そうした死に体に付き合っている時点で、自分も充分同類なのだが。
そんな
完結の跡始末をつける?
過去の関係に結末をつける?
お前がしてきたことを清算しろ?
そんなことは不可能である。
だから、これは手詰まりだった。
フリーれいかには、誰も勝てない。
いや。
否、それこそ否。
断じて否。
―――小説の続きお願いします。
夢を、理想を、目的を叶えたい、それが果たされた世界を見たい。
フリーれいかをぶちのめす夢が見たい。
―――物語の続きが見たいッ。
人に夢見ることをやめさせるのは不可能だから異世界の創造は止まらない。
まだ、物語を完結できる可能性は僅かにある。
なぜなら。
一人の挑戦者が選ばれたからだ。
異世界の創造主であるフリーれいかの躁霊は今、いちごと戦っている。
その二人とは別に、重要なファクターである人物がそこにいたのだ。
彼の名は―――。
―――――――――。
――――――。
―――。
―――みんと帝国 羽衣の間
ゲスト・。・「報告は異常だ我が主。既にあんたと同じ三王の一人”れイカ”が追跡を開始したってよ。気にする必要はないとは思うんだが、主の意見を聞きたいな。」
みんと帝国には、香王みんとの他に、『
それらは三王と呼ばれ、みんとを護る為の軍隊としてそれぞれが数多のれいかを率いている。
三王———。
まげりん、れイカ、そして未だ名が明らかではないこの男。
ゲスト・。・が跪くほどの存在感を放つこの男。
その男の名は―――。
―――――――――。
――――――。
―――。
―――みんと帝国 異世界転生サーバールーム
という出来事がモニターに文章でそっくりそのまま表示されていた。
No.4どりゃれいか「というわけで、ようやく本編再開さ! 導入が長くなったけど仕方ない。君たちには見せたほうが早いと思ってね。これが―――これまで隠してきた僕の異能の正体だ。文章で明示さえすればフリーれいかにさえ勝てるッ!」
彼らの頭上にある極大のモニターは、秒を重ねるごとに目まぐるしく内容が変化していく。
そしてそれが自分の異能なのだと、どりゃれいかは目の前の敵に言ってのけた。
上田「どういうことだよこりゃあふざけてんのか? 何が起きてんだ?」
犯罪者の殺害を公言した彼が足を止めた理由は明白だった。
そのモニターを見せられたことで動くことが出来なかった。
理解の範疇を超えていた。
モニターには―――。
【犯罪者の殺害を公言した彼が足を止めた理由は明白だった。】
【そのモニターを見せられたことで動くことが出来なかった。】
【理解の範疇を超えていた。】
状況がそのまま文章として表示されていた。
いや、それだけではない。
【ゲスト・。・「報告は異常だ我が主。既にあんたと同じ三王の一人”れイカ”が追跡を開始したってよ。気にする必要はないとは思うんだが、主の意見を聞きたいな。」】
この場にいない筈のゲスト・。・の”現在状況”も、それが文章として描かれていた。
違う、それだけではすまない。
冒頭から始まっていた”あらすじ”のようなものまで。
計7000文字以上、一言一句そう全てッ!
レトさん(本物)「(しかもだ。モニターを見ていない俺でさえ強制的に脳内へと流れ込んでくるんだ。そりゃ足は止まるわな。)」
本来、生きる上で全く必要ないゴミみたいな
これはもはや、攻撃に等しい―――。
No.4どりゃれいか「それでも人は、そのゴミみたいな小説にさえ願ってしまうんだ。現実が楽しくないから夢を求める。地球の裏側で起きた出来事がどんな素晴らしい偉業であっても自分自身が体験できなければ意味がない。自分が体験したことだけを現実と呼んでいるにすぎない。だから皆は求める。そしていよいよ、小説だけでは物足りない。どんな『夢』でも体験できてしまう異世界の物語を。そう―――第二の人生として転生する選択肢を。」
上田「・・・は?」
ただつらつらと自分の言葉を並べ立て、返答も無いのに自分の持論を話す様は壊れたラジオを連想させる。
No.4どりゃれいか「”あいつら”は真剣に思っているんだ。死んだら異世界に転生できると。だから自殺のニュースは止まらない。自ら死を選んででも、己が主役という新しい現実を追い求める。」
そして、彼は冷淡な声で付け加える。
No.4どりゃれいか「———でも、僕は異世界転生物語が大嫌いなんだよ。あんなのは脳死状態である植物人間の頭の中だけの妄想。死んだら転生できると思い込んで自殺する輩なんてほんと滑稽だよね。異世界なんて概念は本当に実在しないのにさ。」
―――なろう小説界におけるタブーを、彼は涼しげに言いのけた。
No.4どりゃれいか「許せないんだよ僕は。今の人生を清算せずに捨ててしまうバカをさ。だから僕は楽しい歴史を現実で作りたい。リアルの脚本に着色し、真実のドラマを味わいたい。歴史の教科書を読むのではなく、僕自身が『・。・』の教科書を創るのさ!」
No.2田中みこ「ごめん寝ちゃうとこだった。その話、なんだか”深い”みこねぇ。」
上田「———おいおい、マジで何なんだどりゃれいか? 正直失望だぜ。そんな言葉遣いをするキャラクターだったかよ。俺はお前を評価している。それがどうだ? 俺が嫌いな”自分の意見だけを垂れ流す奴”そのものじゃねぇか。」
つまり、相互理解が不可能だということ。
相手を知ろう、自分を知ってもらおうという意思がないから危険なのだ。
上田が何を語ろうが、あちらはあちらの抱く理屈のみで完結しており、異なる筈の意見と問いをまったく激突させていない。
レトさん(本物)「はっ! そういや上田の枠は大手配信が始まるまでの繋ぎ、いわゆる待機所になってたよな。誰も上田と会話しない、まさに異様な配信だったぜ!」
上田「今の俺には関係ねぇ! テメェの立ち位置こそ異様だろ!」
奇術師はどりゃれいかを止めない。
否、まるで彼にとって興味深い”実験結果”が発表されるのを待っている。
上田「———だがまぁ、大体は察したぜ。つまりは世界を文章に置き換えて監視できる。いやぁ~、本当に笑えるよお前。俺の拳一発で終了なのは変わらない訳だろ? よく分からん時間稼ぎ、ごくろーさん♡」
No.2田中みこ「待つみこよ。」
踏み込もうとしていた上田を凛とした声が止めていた。
No.2田中みこ「呑まれてんじゃないみこよ。備えの一つや二つ、この男がしていないと思っているみこか? 不意打ち食らった時点で先手を打たれていると思うみこよ。」
No.4どりゃれいか「それは君も同じだろ? あの”田中みこ”だ。異世界の真実を曝け出す以上、僕も動かない訳にはいかないんだよ。」
世界を揺るがす魔王『フリーれいか』を打倒するという正義の為に。
ついに動いたU2部隊———No.4どりゃれいか。
No.4どりゃれいか「今―――この『夢』は満たされている。ここではついに、彼らの夢が叶ったのだから。『小説』を読んで影響された観客が毎晩のように夢を見る。それ自体がまるで異世界転生のようにッ。24話の冒頭でそれははっきりと明示されている!」
上田「なんか引っかかる言い方だな。詳しくは分からねぇが、徐々に話の輪郭は見えてきた。———だがよ、もう充分だ! あれだけの文章を棒立ちのまま見せられて、いい加減爆発しそうになってんだこっちはなぁ。統合失調症のリスナーに囲まれたトラウマを思い出したぜ! もうあんな配信は懲り懲りなんだよッ! 一方通行の関わりほど虚しいものはないッ! 小説ごっこはテメェだけでやってろや!」
No.4どりゃれいか「———上田ぁ。もう少しで終わるから黙ってろよ。」
上田の視線がようやく、どりゃれいかのそれと重なった。
同時に増していく破格の圧力。
上田「———?!」
No.2田中みこ「———みこっ?!」
レトさん(本物)「———くっ!?」
吹き荒れる異能のオーラを肌で感じ取った三人は、改めて彼の二つ名を思い出す。
―――”災厄”。
異世界の創造主『フリーれいか』に幽閉されてまで隔離されていた。
それは逆説的に、恐れられていたということ。
フリーれいかを圧倒する”力”があったということ。
No.4どりゃれいか「やれやれ、田中みこはともかく、上田はよぉ、本当にお前なんなんだよ。招かれてもいないのにしゃしゃり出てきやがって。お前の存在が僕の組んでた盤面を滅茶苦茶にしてるんだよ。僕を評価しているだって? 僕みたいなカスをやれ強いだの格好いいだの、本気で崇めている奴が
上田「———お前にだけ分かる言葉をぺらぺら吐いてんじゃねぇって言ってんだよ。訳の分からない罵倒なんか、こちとら全然痛くねぇよ。俺にも分かるように噛み砕いてご教授してくれなぁ?」
楽しそうに笑う上田もまた、闘気と呼べるようなオーラを身に宿しはじめた。
その気魄がどりゃれいかのそれと重なる―――。
レトさん(本物)「(嘘だろ? 上田なんかが、どりゃれいかと同格のオーラ!?)」
No.4どりゃれいか「ふん。上田ぁ。確かにお前は量産型れいかなんかじゃないよ。でも、だからこそ、僕が教えたいことも分かるだろ? 逃避するなよ。そうやって自分の命を天秤に乗せて逃げるなんて冗談じゃない。死んだらドラマを生み出せなくなる。それが『死』なんだッ。でも安心して。死者のお前たちには僕がドラマを作ってあげる。今ある現実の問題を清算できずに死ぬくらいなら僕が無理やりにでも清算させてやる。ジャニー喜多川のようにねッ!」
またしても、要領を得ない言葉の数々。
それらを聞かされた上田は―――ついに、爆発した。
上田「ギアかかってきたなぁ! 少しは本来のどりゃれいかに戻ってきたかぁ!?」
彼らがぶつかる寸前―――その直後。
No.2田中みこ「———HTTPレベル3535『みこの生』コミュ限モード!!」
芸術のような域で自らの領域を周囲に潜り込ませる田中みこ。
上田「はっはっ! 殺るぞ田中みこぉ! ———『
その領域に上手く合わせながら、彼も異能を発動する。
レトさん(本物)「変な名前思い出させんな! 『
つられて彼も迎撃の構えを取るが―――。
No.4どりゃれいか「
それは
僕がお前を伝説として語り継いでやる。
No.4どりゃれいか「『
彼は既に異能を発動済みである。
その形態を変えるのは一瞬だった。
No.4どりゃれいか「mode『
ほぼ同時に四人の異能が駆動する。
いや、僅かだか先手を取っていたのは田中みこ。
部屋にいるものをまとめて取り込む腋臭の牢獄———『みこの生』。
他の異能も相成って部屋中が閃光で包まれていても、絶対の勝機を確信していた。
No.4どりゃれいか「なあ、君さ―――。」
だからだろうか。
極限まで引き伸ばされたような時間の中、どりゃれいかの声がダイレクトに田中みこの芯に届いたのは。
No.4どりゃれいか「誰だっけ?」
No.2田中みこ「————————?」
自分は誰か?
そんなものは質問にすらなっていない当たり前のことで―――。
No.2田中みこ「ぇ―――。」
おかしい。
その意味すら判別できずに生じた空白的な一刹那。
時は止まる。
彼ら二人だけが、その”心”を繋げ、数秒の会話を許される。
No.4どりゃれいか「やっぱり正体は―――安心して、悪いようにはしない。」
No.2田中みこ「みこは不滅。コミュ限モードがなかったら危なかった。まっ、ほどほどに頑張るみこよ。」
No.4どりゃれいか「———ありがとう。」
No.2田中みこ「そこはありがとうじゃないみこよね? ごめん、だね?」
伏線そのものを操作され―――田中みこの現実は消去される。
No.4どりゃれいか「はい、おしまい。」
瞬間、彼の言葉を契機として再び視界は別の情景を描き始める。
瞬きの間に世界は再び姿を変えて、ここに一つの『現実』を映し出した。
語るに及ばず。
どりゃれいか vs 田中みこ
勝敗は決したのだ。
上田「俺の異能はレトと相殺かッ。おい、田中みこ! ―――は?」
そこにはもう、古い田中みこの人生は存在しない。
さくらみこ「にぇ?」
新しい人生を授かる田中みこがそこにいた。
上田「あッ、ぁあああ――――ッ!!?」
上田は吼えた。
吼えずにはいられなかった。
いくらどりゃれいかが、U2部隊のNo.4としての全力を行使したとしても。
ここで起こった歪みの規模は度外れすぎている。
今までの異能による現象とは比較にならない。
だって、そんな、こんなこと―――。
上田「田中みこが―――さくらみこになっている!?」
そう、そこまではギリギリ理解できる。
あの姿を誰が見間違うものか。
同じ『みこ』を名前に持ちし者が入れ替わった、あるいは成り代わったのか。
だが原因が分からない。
さくらみこ「ここは―――どこだにぇ? あ、あなたたちはどなたにぇ!?」
しかも彼女自身、状況がまるで分かっていない。
もはやそれ自体がふざけている。
レトさん(本物)「馬鹿な!? そりゃあ見たことある姿だがこれは―――!?」
どりゃれいか側であるはずの彼もまた驚愕に目を見開いていた。
現実を理解していないようで今もどこか夢見心地のさくらみこ。
そこはまあ、百歩譲ってそこはまだいい。
アニメ調の身体が動いていることもどうでもいい。
さくらみこの魂と記憶がそっくりそのまま本物だということも、だから何だッ?
問題なのはそこじゃないッ―――!
レトさん(本物)「”あの”田中みこが何も出来なかったというのかッ?!」
元の田中みこは何処へ行ったのか分からないことが危ういのだ。
それがどれだけ危険な事態なのか、彼らはよく知っている。
なぜなら、田中みこが対処できなかった以上、レトさんや上田も”彼の異能”に対処できる筈もなく―――。
No.4どりゃれいか「根拠1、この物語における田中みこの服装はピンク色。」
レトさん(本物)「(———頭の中に過去の情景が流れ込んでくる!?)」
上田「(モニターからも無数の文字———VR技術か?)」
この現象が彼の異能によるものならば、それは非情に歪で狂っていた。
No.4どりゃれいか「根拠2、田中みこが登場する度、そこには常に桜が舞い散る描写があった。」
さくらみこ「も、もしかしてみこ、悪い夢でも見てるにぇ?」
彼の言っている言葉が分からない。
露骨な混乱を浮かべる皆に、どりゃれいかは淡々と話し始めた。
No.4どりゃれいか「根拠3、この物語における田中みこの二つ名は紫電忍者。雷を操る者として初登場時から描かれている。同じく、さくらみこは初期の活動にて雷を操る者として演出されていた。その為、二人には雷と言う共通点が確定する。」
さくらみこ「そ、それってみこが電流使いだった頃の話にぇ? そんな初期の黒歴史を知ってるってことは、もしやスタッフさんか誰かですかにぇ!?」
上田「共通点・・・冗談を言ってる風には見えねぇ。おいおいまさかッ!」
レトさん(本物)「そ、そういうことかッ。こんな馬鹿げてる―――!」
多少鈍くとも、ここまでの流れで予想はつく。
その異能がやってのけたこと、まったくもって笑えない。
これまでの異能がどれほど優しい代物だったのかを彼らは実感する。
No.4どりゃれいか「探せばまだ結構あるんだけどね。とりあえず3つの根拠———服装の色、桜の花びら、雷使い。これらの描写は田中みこが登場するどの話数でも必ずはっきりと明示されていたのさ。つまりこの『伏線』は、この物語における田中みことVtuberさくらみこが同一人物であった可能性を示唆していた。それだけじゃない。田中みこには隠し事の気配があった。それは自身の正体がさくらみこだった事と関係があったのではないかッ!?」
そう、これはあくまでも推測。
田中みこは確かに隠し事の気配を醸していた。
何をしたかったのか一切語られなかった謎多き忍者。
その『何なのか分からない』という隙間こそ、荒唐無稽を与える夢となる。
No.4どりゃれいか「———伏線がある事象を話の筋が通る場合に限り、どんなに事実と異なる結果であってもそれを実現させる。まあ、対象は『
上田「—————。」
災厄の言葉を前にして、今度こそ上田は言葉を失ってしまう。
レトさん(本物)「———正体がどっちであろうと、少なくともさっきまでッ! 俺にとっては確かに田中みこだったんだッ! けどこんな簡単にッ!? あいつは存在も目的も謎だったッ! でも消えたッ! 田中みこの本心は明かされることなくだッ! レジスタンス時代からよく知っているあいつが・・・もう、あいつは―――。」
”あの”田中みこがどこかへ行ってしまった。
”あの”———。
絶対に死にそうにない”あの”田中みこが―――???
まだ生きているのではないか、再びどこかで現れるのではないのか?
レトさん(本物)「”あの”田中みこが戻ってくることは―――ないッ!」
そんなことはあり得ないと、どりゃれいかの異能は証明してしまったのだ。
さくらみこ「????」
レトさん(本物)「やめろ・・・。その、口を栗みたいにするのをやめろッ!」
田中みこ・・・。
たとえ裏切り者だったとしても。
かつての仲間があっさりと消滅してしまったことに対し、いかに敵とはいえ―――。
上田「つじつまが合わない。」
言いつつ、彼はどりゃれいかに向き直ると柔らかに苦笑する。
レトさん(本物)「な、何だって?」
上田の言葉に、全員が一転して考え込む顔になった。
さっきまで放心していた男が何を―――?
上田「こんな修羅場でホロライブとはなぁ。ウケ狙いにしては微妙だがその効果は素晴らしい。田中みこが負けるわけだ。変身でもなく融合でもなく、ましてや偽装でも成りすましでもない。コピー&ペーストの如く、田中みこは塗り潰された。これは明らかに”世界改変”レベルの異能だろう。あっはっは! 俺はまどマギのパチスロでそこらへんの仕様は予習済みだ! 歪みが起きないように世界は再構築される!」
レトさん(本物)「意味分かんねぇよ頭大丈夫かよこいつ・・・。」
降り注ぐ桜の花びらを掴み取りながら、上田は伊達男でも気取るようにふんぞり返る。
上田「だから、俺らが田中みこを覚えてること自体がおかしいんだよ!」
レトさん(本物)「あ―――。」
そこまで言われて彼もようやく気付く。
桜の花びらや記憶といった田中みこの残滓が中途半端に残っているという事実。
ここまでのインチキ能力ならば、それらが完璧に消えてなければおかしい。
上田「それに正体が最初からさくらみこだったなら、それこそ本物の田中みこはどこにいるんだという話にもなる。田中みこの評判は俺もよく知ってる。あの伝説的大物が『
レトさん(本物)「教えてくれどっさん! 田中みこは―――」
No.4どりゃれいか「うん。君たちの予想通り、田中みこはまだ生きている。」
―――――――――。
――――――。
―――。
―――みんと帝国 羽衣の間
ゲスト・。・「報告は異常だ我が主。既にあんたと同じ三王の一人”れイカ”が追跡を開始したってよ。気にする必要はないとは思うんだが、主の意見を聞きたいな。」
まげりん、れイカ、そして未だ名が明らかではないこの男。
ゲスト・。・が跪くほどの存在感を放つこの男。
その男の名は―――。
No.2田中みこ(覚醒)「あざす! その話深いねぇ、バリおもろかったで! 一応通報しとく? おもんねぇもんゼノブレ。オタクの妄想やんあれ。ちょっと許されることじゃないすよあれ。やっぱ通報しとく?」
部下の言葉に対し、まともと言えなくもない反応が返ってくる。
延々と、一人語りのように。
まるで言い聞かせるつもりなど端から持っていないような。
No.2田中みこ(覚醒)「まあ確かに~普通にしとくのもするわけなかろうて! 今日眠いからサクサク行きたいっすねぇ! あ、それとさぁ。一応聞くけどお前ら特にあのぉ、ちょっと今どっちモードで話せばいいか分かんないっすね。困るわ~。困っちゃったわ~! どっちがいいと思うお前ら?」
華麗なるれいか「敬語モードでお願いします。」
No.2田中みこ(覚醒)「了解です。こっちでね、やろうかなと思います。ちょっと付き合ってください皆さん。」
ゲスト・。・「ああ分かった、それで主の意見は?」
No.2田中みこ(覚醒)「秘密です。」
もはや滑稽を通り越し、悲哀どころかおぞましさすら感じさせるやりとり。
害意は皆無、敵意も空っぽ。
なのに、この『田中みこ』は何なのか?
耳をひとたび傾ければ闇に丸呑みされかねないという、計り知れない危険性が以前の田中みこよりも”進化”していることを感じさせる。
いやそもそも、誰がどう見たって明らかな変化が生じていた。
綺麗で美貌の麗しき美少女忍者であった姿が、ワキガがものすごい男の子の姿となっている。
つまり、夢の特性を捨てた人間ということになる。
以前の田中みこは『ウキュー(,,‘。‘,,)ノθ゙゙ ヴイィィィィン』や、『俺自身がワキガになることだ』など、訳の分からん戯言でこちらを惑わしてくる人物だった。
だがそれは所詮、SNSで見た彼の姿を、世界の誰かが勝手に夢想した姿にすぎない。
今の田中みこは―――正真正銘、本物の人間性を備えた田中みこだ。
No.2田中みこ(覚醒)「話変わるけどお前らさ、俺をどこまで知ってます?」
そこで初めて、田中みこの声音へ別の色が混じったように感じられた。
ゲスト・。・「?? 主は我らがみんと帝国の『太子』様だ。他に何かあるのか?」
未知の言葉に戸惑いつつ、反応を探るように問い返す。
その態度がある意味答えでもあったので、田中みこは邪気のような笑みを浮かべた。
No.2田中みこ(覚醒)「悪い。やっぱなんでもないっす。話戻させていただきます。いちごちゃんが飛び降りたその大穴、関わらない方がいいんじゃないですかね。」
華麗なるれいか「敬語モード気持ち悪いから、喋り方戻して~。」
No.2田中みこ「ちょわりぃ、俺トイレいってくるわ! あっそれとさぁ”例の作戦”やっといてくれやゲスにゃん! おつかれさんです、また明日!」
ゲスト・。・「(———。)」
まさしく、田中みこ、そのもの。
紛れもない狂人だが聖人でもある、規格外の化け物がそこにいた―――。
―――――――――。
――――――。
―――。
―――みんと帝国 異世界転生サーバールーム
その様子を文章で見せられてから数分―――。
事態をようやく呑み込めてきた上田は口を開く。
上田「違う、第三太子はあいつじゃなかった筈だ。確かゲスト・。・が異能を使って生み出したとかなんとか。名前は―――なんだ? 思い出せないッ。だがつまり、田中みこは第三太子というキャラクター枠を乗っ取って避難した。そういうことなのか?」
さくらみこ「・・・・。」
怒声が響く中、やっと状況が理解出来てきたさくらみこ。
涙目になりながら、無言で奇術師に助けを求める。
レトさん(本物)「はぁ、いきなり
互いにじっと目を見つめ合う。
空白の時間が耐えきれなくなったのか、さくらみこはするりと猫のように移動する。
さくらみこ「あ、後で全部説明してもらうにぇ・・・!」
瞳を潤ませながら、レトさんに勢いよく抱きついて来るさくらみこ。
その肩は恐怖で震えていたので、不本意ながらも彼はそのまま受け止めた。
そして未だ混乱しているもう一人にも言葉を伝える。
レトさん(本物)「もうやめとけ大将。どっさんはお前なんか見ていない。俺たちは対局を見ているんだ。こんなとこで邪魔されたくねぇ。田中みこは確かにずる賢くこの場を切り抜けた。お前も賢いって言うなら分かるだろ?」
上田「・・・どうして俺も狙わなかった、どりゃれいか?」
彼が釈然としない理由は、実のところ、これが一番大きい。
No.4どりゃれいか「さっきも言ったろ? 僕の盤面に君は必要ない。敵は初めからフリーれいかの躁霊だけなんだから。」
上田の命を”奪う”という様子は窺えない。
彼の関心そのものがもはや存在しないのだ。
まるで、自らが手を下すにも値しない些事であると示すかのように。
そしてその事実にこそ、上田は戦慄を覚えてしまう。
上田「俺は、テメェにとってただの虫けらだってのかよ―――?」
No.4どりゃれいか「君だけじゃない。もはや、みんと帝国そのものがどうでもいいんだ。だってもう、フリーれいかの躁霊はものの数分で殺せちゃうんだからさ。」
上田「―――なんだと?」
敵として認識されない悔しさも胸にある。
しかしそれより、今は伝えられた内容こそが衝撃だった。
この男は、なんと言った?
No.4どりゃれいか「邪魔せず見てなよ上田。僕はあと数話でこの小説をぶち壊す。フリーれいかの躁霊は邪悪そのものだ。僕たち『・。・』という適応不全集団。環境に馴染めない社会不適合者を
上田「・・・『・。・』だって、生まれてきたことは否定できないじゃないか。社会に馴染めない俺らがニコ生に蔓延ることに何の罪があるんだ?」
No.4どりゃれいか「違う。そういうことじゃないよ。人間社会には礼儀が必要なんだ。守ってきてくれた親や法律に、相応の責務を果たさなければならないんだ。守るべき最低限の線を互いに共有し、尊重しあおう。それに気づけた者たちが、また下の者を社会復帰できるように救っていく。僕たちでも人は救えるんだ。世界はそう回っていると、僕は信じたい。」
上田「だからテメェはフリーれいかを殺しにいくと? 結局やってることは同じなように聞こえるなぁ。」
No.4どりゃれいか「かもね。けど、殺人を容易にこなせる世界なんて漫画や小説だけで充分なんだよ。君も、いつまでの過去の栄光に浸ってないで、何か他のことでもやり遂げに行くといい。君は量産型れいかではないんだから。」
上田「馬鹿馬鹿しい。———が、確かに俺は量産型じゃねぇよ。ちっ、分かったぜ。今はテメェの青臭い論法に煽てられてやるよ。」
ようやく彼は闘気を鎮める。
とんでもない作戦を妨害してしまったのだと理解し、逆にその内容に興味を惹かれていく。
レトさん(本物)「田中みこはやっぱり一筋縄ではいかなかったが問題ねぇ。あの変貌じゃ覚醒異能まで発現済みだろうが、結果として遠い地へと後回しにできた。」
上田「田中みこになる前の『太子』———やっぱりおぼろげに覚えてんだよなぁ。なんか、テメェらと離れたら忘れちまいそうな気がするよ。で、じゃあ今から何をする気だ? 本気であいつを殺せるのか?」
No.4どりゃれいか「一瞬で決まる。チャンスは今しかない。」
その瞬間、どりゃれいかの姿は闇に消える。
異世界の根源を根本からひっくり返す作戦が、始まろうとしている。
フリーれいか、もとい、この小説の終わりは近い―――。
―――――――――。
――――――。
―――。
―――世界の裏側 とある通路
No.4どりゃれいか「根拠1、僕は既に第25話にて明示している。結果、僕が元居た場所から消え失せこの場に現れるのは不自然でも何でもない。」
強靭な意思の光が、押し寄せる鬱病患者のオーラに真っ向対峙するその姿の、なんと輝かしいことか。
フリー(躁)「やはり来たか(^ω)^ 一部始終余すことなく見ていたぞッ(^ω)^!」
勇者とは、おそらく彼のことを指すに違いない。
最強の絶望を倒す為ならば、彼はどこまでも諦めない。
No.4どりゃれいか「それを裏付けるのが根拠2、U2部隊にはとある法則が存在する。それは第21話で明示されている。」
【フリー(躁)「どこに散らばろうとも、みんと帝国の件が済んでしまえば支障は無いぽよ(*´ω`*) U2部隊は何があろうと、最終的には全員が集う。そういうふうにできているぽよ(*´ω`*) さっき物語の透視を行ったけど、近いうちにNo.4は、彼らと共にこの場所を襲撃してくるぽよぉ(*´ω`*) それに先駆けて色々準備しとくぽよ(*´ω`*)!」】
No.7いちご「お前ッ、なんだこりゃあ!?」
フレッシュ「頭に流れ込んでくる?!」
No.4どりゃれいか「”そういうふうにできている”。この伏線は失敗だったね。U2部隊が集う。つまり、僕がNo.7であるいちごちゃんの元にワープできたとしても何らおかしいことはないッ! そういうふうな仕組みができているんだから! だから僕は第25話にて忽然と姿を消すことが出来たのさ!」
そう、あろうことか、どりゃれいかは―――!
フリー(躁)「歓迎できないなNo.4(^ω)^ 今は我といちごの一騎打ちの時間だぞ(^ω)^?」
どりゃれいか、ここに見参―――。
文字通り―――最終決戦の場へとワープしていたのだ。
No.4どりゃれいか「いいや、君が死ぬ時間さ。覚悟はいいかい?」
途端、彼のオーラが数百倍にまで跳ね上がる。
格という意味でならフリーれいかの躁霊に負けてはいない。
フレッシュ「す、すご・・・。」
それは想いの強固さ、熱の激しさという意味ではない。
そうした面でもアレが度外れているのは確かだが、彼ならば、いいや彼だけは、あの怪物と真っ向対峙できる領域に達していると、その場の誰もが感じ取る。
No.7いちご「No.4だってぇ? んじゃあ、もしかしてお前が―――?」
膨れ上がる気炎を前に、彼もまた違う意味で興奮していた。
確かに”彼”の逸話は有名ではあったが、まさかこんな邂逅―――。
No.4どりゃれいか「議題提出。フリーれいかの躁霊はここで死ぬ。根拠1、この異世界は現実とリンクしている。それはこの第28話のあらすじで既に明示している。小説を見た人間が新しい異世界を夢見て形作る!」
冒頭で長々と文章を明示してきたのは全てがこの為。
彼の身体が青く光りだす。
フリー(躁)「むぅ(^ω)^!?」
No.4どりゃれいか「根拠2、小説世界が破綻しないという前提のもと、現実という史実に基づいた演劇が行われていた!」
彼の背中には巨大なモニターが浮いており、そのまま滞在している。
みんと帝国から彼と共にワープしてきたとでもいうのか。
そこから大量の情報が、文字が溢れる。
第21話『みんと帝国』の帝王みんとによる違法薬物感染攻撃。
第22話~第23話 ヴィオラ vs Hmmの固有結界による将棋決闘。
No.4どりゃれいか「例えばこれら二つの話。現実で実際に起きた事件と関連している。さらにそれらの事件は投稿日と発生日が一致している! この伏線を僕が利用させてもらうッ!」
第21話が投稿された日付は2020年3月3日。
その日は新型コロナウイルスが世界中で検出された最初の日。
第22話が投稿された日付は2020年4月1日。
第23話が投稿された日付は2020年5月12日。
その期間は藤井翔太という棋士が活躍、将棋史に伝説を残した日。
あろうことか。
夢と現実が、見事に
No.4どりゃれいか「その後の第24話~第27話の投稿日もその日の現実で起きた出来事を中心に夢として描かれている。気になるなら調べてみるといい。重要なのは、現実で起きた出来事は夢に現れる。それは回避不可能な現象だってこと!」
この間、およそ数十秒。
次の青き楔で勝負が決まる。
No.4どりゃれいか「そしてこの第28話の投稿日。この日付もまた、現実のとある出来事とリンクされかけている。———敢えてこう呼ぶよ。”フリーれいか”。君は覚えているかい?」
第28話の投稿日は―――2024年1月25日。
どりゃれいかが言うには、その日に何かがあったという。
1月25日———。
1月25日———?
『・。・』が、忘れてはいけない日。
『・。・』の運命を決定づけた日。
君たちも思い出せ。
あの頃を思い出せ。
フリー(躁)「知らんな(^ω)^ 答えてみろ(^ω)^ 少しでも論が破綻していたら今度は我の手番だ(^ω)^」
『
物理的な格闘における勝負ではない。
No.7いちご「ぶっふぉッw!!」
振り返ると、そこには腹を抱えて大爆笑するいちごの姿があった。
一体何が彼のツボにハマったのか。
いいや、もしくは気付いた―――?
No.7いちご「そうかいそうかいそういうことかい。ま、これで勝てるなら何でもいいや。どうやって死んでいくのか楽しみにさせてもらうぜぇ~!」
No.4どりゃれいか「流石、フリーれいかをこの世で最も憎んだ者。君は気付いたか。」
フリー(躁)「なにを―――」
同時―――。
フリーれいかの躁霊は倒れ込む。
フリー(躁)「(^ω)^??????????????????????????」
何の打撃も受けていないはずの躁王はしかし、血反吐を吐いて悶絶した。
死に値する『消失』という激痛が心身を焼いている。
フレッシュ「嘘・・・。議論システムを無視してあいつを殺す事なんて不可能なんじゃ!? いや、まさか、議論で殺そうとしているの!?」
フリー(躁)「おかしいぞ(^ω)^? 我の魂が消えていく(^ω)^???」
喪失感に苛まれながら、躁王は手を伸ばす。
己を殺そうとしているその勇者を―――。
No.4どりゃれいか「この第28話の投稿日―――1月25日。それは本家れいかちゃんねるコミュニティが君のせいで削除された日だ。この出来事は夢へとリンクする。するとどうなると思う?」
1月25日———。
もしも、あんな事件が起こらなかったなら?
『・。・』は、もしかしたらこの2024年でも全盛期の活躍をしていたかもしれない。
ないとは、言い切れない。
その可能性を、フリーれいか本人が潰した日。
自らの手で、未来を潰した日。
それはもはや―――。
―――自殺に等しい。
夢の強制力は絶対である。
それはもう、コロナ事件と藤井翔太伝説で証明されている。
1月25日が”そういう”日だったというのなら。
夢でも同様の出来事が起こるのは―――必然となる。
フリー(躁)「がはッ(^ω)^! これが貴様の、我を殺す一手ということか(^ω)^?」
肩で息をしながらうずくまる。
彼の身体は自壊を起こしており、それは本人にも止められない。
周囲の人たちは囲んでるだけで、誰も助けようとはしないままだ。
No.4どりゃれいか「この小説は更新日を一切変えない。わざわざ紹介文にまでそれを書いてる始末だ。気付いたのはそこからさ。日付に拘りすぎだよ。この小説の第1話の投稿日から実は全てが現実の出来事と繋がっていたなんてね。まぁ、僕はそれを一々ネタ晴らししようとは思わない。このくだらない小説は今、ここで終わる。」
そう言い残し、足を振り上げる。
そのまま踏み潰して消してやるぞとでもいうように。
躊躇も後悔も無い。
これで、終わりだ―――。
No.4どりゃれいか「最終回だ。ジ、エンドってね。」
―――――――――。
―――———。
―――。
フリー(躁)「ノックス第八条、提示されない手がかりでの解決を禁ズ(^ω)^」
天が引き裂かれるような爆音が響き渡る。
―――――――――攻撃は既に完了していた。
極悪な殺気が赤き楔として、どりゃれいかを壁際まで貫いていた。
No.4どりゃれいか「?!?!?———がぁァッ!?」
音速で大打撃を与えられた三半規管、まともに立っていられないほど平衡感覚が麻痺してしまう。
レトさん(本物)「なッ!? 馬鹿な!? ふ、ふざけるなッ!!」
しかも、赤き楔によって縫い付けられた場所は、さっきまで躁王達がいた場所ではない。
どういうことか、元居たみんと帝国のサーバールームへと戻ってきてしまっている。
No.4どりゃれいか「く、クソったれッ!! なんで反論された!?」
心配するレトさんに肩を貸してもらいながら、どりゃれいかは再度異能を発動する。
モニターが具現化され、”今”の躁王の姿が確認できた。
フリー(躁)「反論というやつだ(^ω)^ 貴様の言うU2部隊の法則、確かにそれは存在する(^ω)^ だがそれにはワープ機能など備わっていない(^ω)^ 話数は教えんが詳細は物語の何処かで既に明示されている(^ω)^ U2部隊同士で何が可能で何が不可能なのか、全部事細かく、しかし秘密裏にッ、伏線として明示済みだ(^ω)^!」
天を仰ぎ見ながら、そこに躁王は五体満足で存在していた。
上田「い、今ので駄目なのか!? 言ってることは何一つ理解出来ねぇが、要は作戦が失敗したってことか?!」
No.4どりゃれいか「———じゃあ何故生きている!? 百歩譲って、僕がU2部隊の隠された法則を見逃していたとしよう! でも、僕の示した『投稿日』の伏線は間違いなく意味のあるものだったッ! フリーれいかッ、お前は史実に則って死んでいなければおかしいッ!!」
フリー(躁)「反論(^ω)^ コミュが消えてもだからどうした(^ω)^? 貴様風に言うなら第10話、そして第27話か。コミュが消えたところで我は不滅よ(^ω)^」
No.4どりゃれいか「いいや、お前は死ぬべきだ! 少なくともさっきは本当に一回死んでいたッ! なのに、なのに―――あ、あああぁぁッ!!」
何かに気づき、血走った目で、モニターを一心不乱に動かしていく。
そこに映し出されたのは―――第18話。
【フリー(躁)「憤怒の相がダメージを負ったぽよ(*´ω`*) でも安心するぽよ(*´ω`*) 私にはまだ六つの相があるし、受けたダメージも数刻経てば回復するぽよ(*´ω`*)v」】
【何事も無かったかのように、奴の傷は回復していた。】
その文章を探し当て、彼は狂乱する。
呆けていた、予想して然るべきだったと叫び散らす。
レトさん(本物)「真中あぁあが躁王を不意打ちで刺し殺した時の場面かッ。お、おいこれッ、六つの相って、まさか、ああああ!!」
上田「おいこら分かるように説明しろよ! それとちったぁ落ち着け! どういうことなんだ!!」
さくらみこ「———元凶さんは、命を複数持っている、にぇ?」
思いもよらぬ人物から答えが返ってきた。
彼女、もしかして実は馬鹿のフリして結構頭がいい・・・?
いいや、そこはどうでもいい。
No.4どりゃれいか「そう。奴は七つの相という異能を持っている! 七つの異なる顔から生まれる別々の異能! だ、だけどそんなのッ、数通り七つの心臓だなんて思えるわけが、く、クソ・・・でも確かにこの第18話ではぁぁッ!!」
フリー(躁)「我はしっかりと提示しているぞぉぉおお(^ω)^???w 我の『七つの相』は世界を変える(^ω)^ 一度死んだからと言って、別の我を違う世界から呼び出せばそれで問題ない(^ω)^!」
モニターからは、してやったりというような表情の躁王が、これでもかという表現方法を用いてどりゃれいかを煽り倒していた。
それを、苦虫を嚙み潰したような顔で睨み返す事しかできないどりゃれいか。
上田「D4Cかよ・・・。ほんと、何だこれ! ったく、何やってんだ、どりゃれいか! 要はテメェのルールで綺麗にやり返されたってことじゃねぇか!」
ここまでの攻防を完璧に理解した上田は、今の状況を整理する為思考を膨らませる。
どりゃれいかの戦法は確かに躁王に匹敵する。
躁王を倒す為には『
議論なくして彼は斃せない。
どりゃれいかは議論をするしかなく、避けては通れない。
しかもその議論は無理難題のバーゲンセール、どだいまともな議論ではないのだ。
しかし、どりゃれいかは自らの異能『
それは躁王の命運さえ弄くり回せた筈なのだ。
だが躁王は―――それすらも逆利用した。
とっておきとも言える奥の手を、見事にカウンターしてみせたのだ。
フリー(躁)「我はここから二転三転と議論が続いていくと思っていたのだがな(^ω)^ まさか気づいていなかったとは、まあ無理もない(^ω)^ 第27話までの我の夢、総文字数にして約55万文字だ(^ω)^! ちっぽけな伏線など見逃しても不思議ではない(^ω)^ 時間はたぁっぷりとあったのに、準備が足りなかったようだなぁ(^ω)^?」
55万文字―――それはライトノベルで言うならおよそ二冊分。
そんなクソどうでもいい情報をモニター越しに映され、どりゃれいか達は認めるしかない。
一手、いやもう二手足りなかった、明らかな準備不足ッ!
さくらみこ「二冊分って聞くと短めに思えるにぇ。エロゲだと一作につき60万文字が通例だから実際大したことない数字だにぇ! 名作なら尚更、その作品は頭に刻まれるにぇ!」
レトさん(本物)「だけど実際に読んでみるとなると話は別ってことだ! 今までの話数を一言一句覚えてる奴なんているか!? ああ、今俺もようやく分かったぜ! このやり方で勝つには、奴がこれまでに残した伏線を全て理解した上で議論勝負しなきゃならねぇ!」
No.4どりゃれいか「もうやってる! 幸いこっちは人数は揃ってる! 躁王を倒せる手段、なんでもいいッ! 反論の糸口をこの中から探すんだッ!!」
モニターには第1話から最新話までの『物語』がズラリと表示される。
No.4どりゃれいか「ああでもくそッ、ここからじゃ『
そもそも、躁王のもとへ辿り着けなければ戦いようがない。
正真正銘の最終手段を潰され、どりゃれいか達は風前の灯火。
上田「どんな戦いだよ、あっはっは! もういい分かった、俺が―――」
―――世界の裏側 とある通路
フリー(躁)「そもそも、清算できずに死ぬ奴らが許せないとな(^ω)^? そんなものは死を知らない者が恐れて言う言葉だ(^ω)^ 死んだら異世界転生できる、本当にできるかもしれないだろう(^ω)^? そして我にはそれを
天に向かって独り言を続ける躁王フリー。
No.7いちご「(俺は最初から分かってたぜ。この目で何度も見てきたからな。確かにあいつはコロコロと顔を変えていた。それがまさか別人だったってのか? 同じような奴が7人いるってことかぁ?)」
おそらく、躁王はどりゃれいか達に向けて話しているのだろうが、とにかくこれはチャンスだった。
No.7いちご「(つーかなんで七つなんだ? 俺の番号と関係がある、訳ねぇよな。なんかこの数も意味がある気がするぜぇ。考えろ考えろ―――こりゃあもう、俺がやらなきゃいけねぇ相手だ。)」
レジスタンスを裏切り、U2部隊に参加した変わり者。
いいや、それだけではない。
第8話―――レジスタンス同士での模擬戦。
第10話―――U2部隊との初戦闘。
第15話―――U2部隊との再戦。
第20話―――U2部隊への参入、及び概要。
第22話———将棋空間での戦闘。
そして第27話―――躁王との戦闘。
あらゆる場面のキーマンとなっていた彼だからこそ見通せる道もある。
No.7いちご「(よし、勝ち方は構築できた。あと必要なものは―――)」
フリー(躁)「勝ち方(^ω)^? それは見逃せないな(^ω)^?」
ぬらりと、躁王は振り返る。
視線は真っ直ぐ真摯に、しかし伝播してくる鬱のオーラが何よりおぞましい。
No.7いちご「・・・俺は何も言ってねぇよ? やっぱ耳ついてねぇのかぁ?」
フリー(躁)「貴様も一度感じただろう、我には物語の全てを監視できる(^ω)^」
赤鍵、抜刀―――。
言いようのない生理的な嫌悪が走った。
それは言葉よりも雄弁に、対決の終焉を感じさせる。
フリー(躁)「我に勝てぬものはいない(^ω)^ もう飽きたな(^ω)^ 続きは現実世界に転生して楽しむとしようか(^ω)^」
怖れ慄き絶望せよ。
これが鬱を極限まで叩き込まれた人間の大震災なり。
No.7いちご「(何か起これ何か起これ何か起これ早くいいから何か起これッ!)」
瞬間―――No.7としての祈りが通じたのか。
やはりいちご、この男の異能は幸運を引き寄せる。
No.4どりゃれいか「反論! 僕はU2部隊の法則ではなく、彼の異能によって君の元へとワープする!」
どりゃれいか、再度爆誕―――。
そして―――。
上田「俺の異能『
彼もまた、何食わぬ顔でしれっと共闘という形を取っていた。
上田―――どりゃれいかと一時結託!
刹那の内にモニターが出現し、戦場が文字で埋め尽くされていく。
フリー(躁)「ぬぅ(^ω)^!」
ほぼ反射的に、背後に現れた二人を赤鍵で切り倒す。
それは確かに当たっていたのだが―――。
上田「残念。俺たちは傍観者だ。別の時空から観戦しているだけの一般客さ!」
彼らへの攻撃は空振りに終わる。
まるで幽霊かのように、二人は宙へぷかぷかと浮かんでいた。
フリー(躁)「ノックス第八条(^ω)^! 貴様の能力が明確に明記されたのは今この瞬間が初出だ(^ω)^! だがそれは果たして本当に貴様本来の能力だったのか(^ω)^? どりゃれいかによって都合のいい異能へと、能力をでっちあげられた可能性(^ω)^!」
上田「・・・本当にどりゃれいかの言った通りかよ。反論! 俺は現実世界で数多の
フレッシュ「またこの文字、いったい何なのよぉ!」
白い空間には、どりゃれいかの異能によって巨大なモニターが出現していることは言うまでもない。
そこに存在する者は、否が応でも、これまでの『
結果、その場所はVRのように文字が浮かび上がってきているのだ。
上田「懐かしい”毒沼”だ。意味のない文字列をただ眺める配信の日々———これが俺の異能で何が悪いッ!!」
真っ向から反論の刃で迎え撃つ上田に対し、躁王は避けない。
いや、避ける必要はないと、既に彼は看破していたからだ。
彼の反撃は空振りと化す。
傍観者はあくまで傍観者。
届くのは言葉のみ。
フリー(躁)「だがそれでは貴様達の攻撃も当たらんではないか(^ω)^ まさか青き楔無しで我と戦うとでも(^ω)^?」
No.4どりゃれいか「だけど議論は出来る!」
フリー(躁)「(^ω)^!」
背後で立ち上がるその姿に、躁王はしばし反応が遅れる。
No.7いちご「反論! フリーれいかは今から俺に議論で負ける! それはなぜかッ! フリーれいか”だから”だッ! なぜなら彼はそういう人間だからだッ! そこで理由は完結しているッ! はい論破ァ!」
フリー(躁)「ぐぉおォッ(^ω)^?!」
傍目から見れば失笑ものの議論だが、そこには間違いなく覚悟があった。
放たれた反論は青き楔となり、躁王にダメージを与えていく。
No.4どりゃれいか「そう、君もやるんだいちごちゃん! 世界の運命は君に掛かってる!」
No.7いちご「分かってんよッ! まだまだいくぜぇ~~!!」
状況は明らかに一変、ただフリーれいかを倒すためだけにこいつらは―――。
レトさん(本物)「いいから手がかりになるような文章を探せッ! エロゲが得意分野なんだろ?!」
さくらみこ「い、今はどっちかっていうとそんなことないにぇ! あっ、これなんかどうだにぇ? 第17話の、日常演舞の第一開園をレトさんが無効化できてたっていう伏線! これでどうにかならないかにぇ!?」
レトさん(本物)「ならねぇよ! いや、あれ、どうなんだ? ああ、とにかくそれは採用! いいぞ! とにかくもっと必勝法になりそうなものを掴み取るんだッ!」
フレッシュ「どこの誰だか知らないけど、争いの元凶を止めるためなら協力してやるっての!」
No.7いちご「あ~? いいのかガキぃ? テメェ最初は否定してたじゃねぇかよ。この空間が何なのか調べるだのなんだのとよぉ?」
フレッシュ「誰のせいだとッ、まあいいわ。こいつをまず黙らせて、そこから話し合いの場へ持っていくッ!」
いちご、どりゃれいか、上田、フレッシュ。
画面越しだがレトさん、そしてさくらみこ。
ラスボスを倒すメンバーとしては余りにも奇抜、だがそれがいい。
フリー(躁)「———壮観なり(^ω)^」
本来ならば、躁霊を倒す役目は片割れである鬱霊であろうに。
夢の舞台では、何もかもが許されるのならば、これもまた一興か。
フリー(躁)「だが、まいったな(^ω)^ 我は議論を楽しみたかったのだが、そうくるのなら仕方がない(^ω)^ 反論、よもや増援を呼べるのは貴様だけだと思っていたのか(^ω)^? 我は前話のうちに既に仕込んでいたぞ(^ω)^」
No.4どりゃれいか「その手は読んでたよッ!」
天上から9万トンの水が落下してきていたことを誰もが文章で察知していた。
さくらみこ「第27話、れイカが大穴に堕とした大量の水が今になって―――。」
瞬間――――。
マンモスニキ「パオオォオォォォォォォオォオン!!!」
壁の上で目を覚ましたマンモスが吼える。
彼の巨体を遥かに覆い尽くすであろう大量の水が、頭上から一気に―――!!
フレッシュ「9万トンって、それマンモスの重量を余裕で超えているじゃない!?」
あらゆる異能の進撃を止めた防壁は、自然現象である水の落下に成す術無し。
レトさん(本物)「『
満を持しての奇術師、間一髪のところで判断が間に合った。
レトさん(本物)「反論! 水は落下中に土粒子と結合して自然消失した。あるいはマンモスの巨体に吸収、マンモス自身が飲み干した。そういう奇跡が合わさり、ここには水が落ちてこなかった! どうだ!?」
フリー(躁)「くっくっ、その暴論、心地よし(^ω)^!」
そのあまりにも意味不明な反論に、されど躁王はそれをスルーする。
レトさん(本物)「えっ!? 自分でもマジかよおいって思うほどの理論なんだが!? 土粒子ってデタラメ単語だぞ!? いいのかこれ!?」
轟音が次第に静寂に変わる。
彼の反論が届いたということだが、しかし―――。
上田「本命は水じゃないってことだろ。となると文章通り、星海の連中がお出ましだ。」
第27話、大量の水と共に落下してきた執行者達。
彼らの存在は既に明示されている―――!
ソードフィッシュ「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り。」
たこれいか「防御を墨汁で削ぎ落とす―――『
斬撃と黒弾が白壁と衝突する。
しかし、あらゆる異能の衝撃を無効化する為、何をしようが届かない。
たこれいか「あれっ? でも確かに罪の意識は真下から感じるっピ!」
ソードフィッシュ「シャムさん!」
貝塚勃起Syamu「———『お口アナル』!!」
シャムと呼ばれた中年男性の口元がうねうねと動き出す。
それは次第に、人が通れるほどの巨大さを持つワープゲートと化す。
フレッシュ「ま、まさかあれって、れイカ軍団の『お口アナル』!? あれだと、壁に隣接してるわけじゃないから、白壁に無効化されないわ!」
同様の異変は”こちら”側でも起こっていた。
その『お口』からは嫌な予感しか感じられない。
No.7いちご「おいおい、何か起これとは願ったけどさぁ、いっぺんに色々起こりすぎだろ! こっちは神聖な論破やってんだぞ!?」
もはや、その穴から災禍の波が流れ込んでくるのは確定だろう。
No.4どりゃれいか「———いいや、その手も読んでたよ! 反論! 根拠1、”彼ら”は君を救うために行動を再開した。根拠2、”彼ら”は君の元にワープする手段を既に獲得している。いずれも第19話、第25話にてはっきりと明示されているッ!」
彼は余裕の笑みで爆弾発言を投下する。
【真中あぁあの異能『
【術者が記憶している名前を元に『トモチケ』を具現化し、それを使用することで発動する異能。】
【トモチケに描かれた人物のいる場所へと、術者は強制的にワープする。】
【フリーれいか「そしてもう一人。忘れちゃいけねぇ人物がいる。U2部隊のボスをやってる―――俺の”躁霊”だ。俺はあいつも救ってやりたいッ!!」】
【No.9北上双葉「な―――?!」】
【フリーれいか「俺を構成する遺伝子。二重螺旋の片側。あいつも救ってやる事がッ、この『
それぞれの場面が文章で流れていく。
流石の躁王も”彼ら”の出現を予感し、絶句して目を見開いた。
フリー(躁)「貴様―――」
No.4どりゃれいか「根拠3、第24話! ヴィオラの異能により、リンクした全員が真中あぁあの異能を使えるとしたらどうだッ!? ”彼ら”の最終作戦は今始まる!」
【ヴィオラ「師匠として頼られているからッ―――私の『
【「私の黒焔をみんなが使うことだって出来るのだ・。・!」】
”お口”と反対側の方、そこから別のワームホールが生まれたと同時―――。
キリト「———目標視認ッ!!」
「みんと帝国の兵士を数名確認なのだ!・。・!」
ソードフィッシュ「これは―――?!」
双方の穴から、歴戦の猛者たちが集結。
そのまま規格外の速さで、剣と剣が交差する。
言うまでもなく、それは前線を進んでいたトップの二人。
キリト「・・・魚頭に二刀流。お前みたいな『・。・』なんていたか?」
ソードフィッシュ「・・・そっちは黒衣の二刀流。随分と分かり易い。」
お互いの実力を、ほんの一太刀で両名は察する。
即ち、完全なる拮抗。
キリト「お前ら止まれッ! 状況確認!」
ソードフィッシュ「戦闘を停止せよ。だが陣形は解くな! これだけの人数、混沌すぎるッ!」
一斉に打ち鳴らされる靴音。
リーダーの命令通りレジスタンスと星海は、戦闘を停止する。
もしも、ここに現れたのが星海達だけならば、敵味方もろともソードフィッシュに斬られていたかもしれない。
だが、そんな危険は冒せないこの状況。
つまりそう、レジスタンス側の人数が多すぎる。
フレッシュ「な、なんぞこれぇぇぇぇぇ(掠れ声)。」
星海と合わせて、侵入してきた人数なんとその数―――30名以上。
パーティIN▲
ソードフィッシュ
たこれいか
貝塚勃起Syamu
がうる・ぐら
キリト
鬱霊
ひまれいか
スカイれいか
ヴィオラ
緑一色
ふじれいか
悲哀れいか
姫れいか
ゆのみ
もえれいか
しぇいぱー君
翔・。・太
ひげれいか
リオれいか
元祖No.7めんちゃん
No.12あっちゃん
ゆうれいか
べるれいか
スノーれいか
真中あぁあ
レキモン
No.5安眠
4410(パシフィスタ)
No.9北上双葉
―――フリーれいか(本体)
フリー(躁)「あああああああああかかかかがあっがががぎゃやややあぉぉおおおああああ(^ω)^(^ω)^(^ω)^(^ω)^?!?!?!?」
最後尾の人間を見た瞬間、もはや彼は手段を選んではいられなかった。
フリー(躁)「甦れぇぇぇッ(^ω)^! No.8オタさくぅううう(^ω)^!!」
No.4どりゃれいか「な、何だって!?!? しまった―――」
速く、鋭く、隙が無かった。
圧倒的な人数差に胡坐をかいて油断してたのも大きい。
その反撃に対応しようとするレジスタンスと星海の反応など容易く追い越し―――。
今、ここに悪夢が再び顕現する。
No.8オタさく「———ギリシャ神話。ゼウス。『
―――――――――。
―――———。
―――。
誰もが、我が身に起こった現象が不可解すぎて、何もかもが分からなかった。
No.8オタさく「ようこそ俺の賃貸へ。ここからはRTA勝負の始まりだ。」
キリト「暗闇に、ゲーム機とテレビか。」
だがその機械、敵のことを意識した瞬間に、理屈抜きで謎が解ける。
確信を得たと言っていい。
ひまれいか「どうやら揃いも揃って別空間に閉じ込められたか。脱出するには、オタさくとゲームで勝負するしかない、と言ったところだろう。」
どうしてそんな原理、こんな事が起きたかなんて欠片たりとも説明がつかない。
しかし、オタさくを過去に『思考透視』していたひまれいかが言うのだから間違いないだろうと、仲間たちは推察する。
ひまれいか「ああそれと、気づいてる者もいるだろうが、今のこいつには単純に攻撃が通用しない。だがちょっとしたお遊び程度の異能ならOKのようだ。変わった異能無効化系の能力だな。」
ソードフィッシュ「そのようですね。私の二刀も先程から反応しない。どうやら、あらゆる戦闘行為が禁止になっているようだ。」
「マジなの・。・? U2部隊の覚醒異能ってやっぱり滅茶苦茶なのだ・。・;」
つまり、ワープゲートから乱入してきた31人全員が、オタさくの固有結界に引きずり込まれた結果となる。
彼らの対決は、また別のお話―――。
―――世界の裏側 とある通路
上田「はあっ、はあっ、人が、一斉に消えた?」
フレッシュ「気絶していたあの子も消えちゃったわ・・・。」
レトさん(本物)「議論参加者の俺たちは影響を受けなかったみたいだな。」
だが、それを喜ぶことはできなかった。
何故なら、そう―――。
No.4どりゃれいか「切り札を切らされたッ! あれだけの駒を道連れにされた! まさか、僕の手を読んでいたとでもいうのか?」
もしもあの状況下、みんと帝国の上田が星海達を説得、いちごがレジスタンスを説得、そして共闘の形を取れていたならば?
フリーの躁霊 vs 37人パーティ
白兵戦の域を超えた集団リンチで、躁王をフルボッコに出来たかもしれないのにッ!
こちらが手にした優位は、オタさくというたった一つの駒を囲んだだけ!
全く以て割に合わないッ!
フリー(躁)「欲張りすぎだ(^ω)^ 普通のRPGなら6人パーティが理想だろうが(^ω)^ まあ、勝つためには手段を択ばぬその魂胆は褒めてやる(^ω)^」
確かに、レジスタンスの連中が躁霊の元へ向かうという行為を無理やりに確定させたことは驚嘆に値するだろう。
どりゃれいかの戦法はやはり神がかっている。
さくらみこ「な、なんかさっき、”ぐらちゃん”を見たような気がするにぇ。」
フレッシュ「星海はれイカ直属の9人部隊よ。けど全員の名前は流石に私も覚えてないわ・・・。」
No.7いちご「つーか馬鹿かよあいつら、役に立たねぇなら笑えもしねぇぜ。」
レトさん(本物)「だが分かったこともある! 躁王の手駒はまだ存在する。しかも自由に呼び戻せるってことだ!」
躁王の手駒、すなわちU2部隊。
裏切り者を除いて名が浮かぶのは、日常演舞、BUNZIN、SEIKINぐらいか。
No.4どりゃれいか「違う、まずはオタさく達をどうにかすることが先決だ。鬱霊にきっさんにフリーの本体! あれだけの大駒を失うわけにはいかない。彼らの現状はどうなってる―――?」
それは至極真っ当な戦法であり、異論の余地もない。
すぐさま、全員が本のページをめくるように物語を探し出すが―――。
上田「はぁっ、はぁっ、がはッ、俺の『
明らかな異変。
謎の不調により、上田の意識を薄れさせていたが、それを気にしている余裕も無い。
No.4どりゃれいか「注意深く観察するんだ。どこにどんな勝機が眠っているかもわからない!」
―――オタさく空間
No.8オタさく「俺が人生でプレイした全てのゲームを、考え得る限りの縛りと最高難易度で俺より速いタイムでクリアできなければ、お前たちは一生この部屋から出られない。以上だ。」
一歩間違えば、怪我では済まない戦闘が日常だった。
そんな修羅場をいくつも乗り越えてきた。
だが―――この悪夢はどうだ?
全てのことを頭から投げ出して、
No.8オタさく「俺はある。それだけは昔から異常に鋭く研がれているからな。」
ゲームの中で、操作を何億回と繰り返す。
次第にそれは、現実感を欠けていく。
言葉を選ぶなら、一歩引いた俯瞰の視点。
己というゲームキャラクターを、画面の向こうから操作しているような。
彼らにとっての現実、それはスコープで見る光景にどこか似ている。
FPSで照準を覗けば、途端にその
たとえ大地震が起ころうが、本物の銃弾の雨が己の周りに降り注ごうと、目に映る標的にしか集中しない。
そう、彼は―――現実で起こっている出来事を、どこか向こう側でのフィクションに思えてしまうのだ。
こちらには影響しないという、根拠のない絶対的な感覚でしか物事を捉えられていない。
だって、どうせ大丈夫なんだから。
ゲームのように、銃口を突き付けられることなんてあるわけない。
どんな絶体絶命の窮地だろうが、それは全て作り物だろ?
だからこそ―――このオタさくには一切の攻撃が通じない。
ゆとり世代と、人は言う。
別に自分から望んでそうなった訳でもなし。
ただこれが、U2部隊No.8———オタさくの望んだ『夢』である。
キリト「いいよ、やってやろうぜみんな。別に一人で全てのゲームをしろって訳じゃないんだろ? わざわざ人数分の機材が揃ってるんだからな。」
考えを巡らせなくてはならないのは事実だろうが、あまりに荒唐無稽な出来事にどこから手を付けていいのかすらも分からない者が多い中、動いたのはやはりこの男。
キリト「おっカタログみっけ。流石オタさく。とんでもない数のラインナップだ。ソフトの数でいえば数千個か? ご丁寧にクリアタイムまで記載か。なんだ、オタさくと一緒に並行プレイできるわけじゃないんだな。」
ソードフィッシュ「躊躇ないですねあなた。流石生粋のゲーマー。かく言う私も、実はRTAプレイヤーとしての経験がある。カタログ拝見———隻狼にサイコブレイク2、名作は一通り揃っていると。」
キリト「ああやっぱりお前ソードフィッシュか。れいかでも何でもないのにご苦労なこったな。じゃあとりあえず、俺はこの、バルダーズゲート3の最高難易度にでもチャレンジしてみるかな。———うぉっ、言った途端にPCとコントローラーが具現化しやがった!」
ソードフィッシュ「私はこの―――テイルズオブシンフォニアだ!」
リオれいか「普通にゲームしようとしてる?!」
ひまれいか「敗北条件は? 制限時間は? 判定基準は? 答えろ!」
No.8オタさく「最初に言った。俺のルールでのみ脱出可能。攻撃行為は全て無効化。それ以外の解釈はすべて認める。全員で俺のタイムを抜いてみろ。RTAとはそういうものだからな。」
ひまれいか「———嘘はついていないみたいだが不明瞭すぎる。少し整理させろ。」
今回の覚醒異能は、やるべきことがはっきりと示されている。
だというのにもかかわらず、現状の材料では道筋立てた理解が不可能なのだ。
キリト「懐かしいなこれ。オタさくもBG3やってたなんて意外だぜ。裏で遊びやがって、配信しろよ。」
ゆのみ「お前が言うなよ。」
ソードフィッシュ「そういえばこれ、私はマグニス戦までしかRTAしてないんでした。」
ひまれいか「くっ―――」
二人の特攻隊長が部下を気遣って実験してくれているが、ひまれいか自身は未だに何も把握していないに等しい。
だから必然として―――。
姫れいか「ど、どうしたらいいんでしょう・・・。」
他もまた、客観的な判断など下せるはずもない。
どの可能性を考えてみたところで、やはり敵の言葉は信用できない。
フリーれいか「何も怖かねぇよ。躁王は俺を恐れてここに隔離したんだ。要は一時の時間稼ぎさ。こんなとこで躓いてちゃあ思うつぼだぜ?」
もう一人。
自らカタログをめくりだす者を見て、キリトは笑みを見せた。
フリーれいか「お前らとにかくカタログ見ろ。どいつもこいつも大したクリアタイムじゃねぇ。俺から言わせれば三流RTAプレイヤーだよあいつは。得意なゲーム選んで片っ端から潰してくだけで問題なし。ゲームが出来ねぇ奴は他人のプレイをサポートしろ。」
場の張り詰めた空気を軽くするその返しはさすが、人生経験ならぬゲーム体験が豊富な大人といったところか。
キリト「ほい、Act2クリア。このゲームは少ないパーセンテージをセーブ&リセットで当てるだけの作業だ。攻略ルートも既に研究されつくしている。ならテクニックは必要ない。俺に言わせれば、時間が掛かるだけのヌルゲーだな。」
ゆのみ「い、いやいやいやちょっと待ってきっさん?! BG3だよ!? Act2クリアって、そんなの最低でも50時間はかかるんじゃ!?」
キリト「俺の異能はあらゆるものを超越させる。距離だろうが時間だろうがな。」
ひまれいか「———”あれ”はアリか?」
No.8オタさく「問題ない。」
ひまれいか「なら本当にこれは時間稼ぎの類だな―――龍が如く、起動! キリト、お前のサポートを全員にリンクさせろ!」
普通なら攻略不可能な神話異能だが、知将の元、全員が勝利に向かって動き出す。
「きっさん一人に負担はかけられないのだ・。・! 皆も協力お願いなの・。・!」
ヴィオラ「『
スカイれいか「速攻で片づけてやるわ―――私はこの『どうぶつの森』に決めたッ! 図鑑コンプなんて1時間あれば楽勝よ!」
次々と、機材の前に座り込み、それぞれがRTA勝負を開始していく。
フリーれいか「俺はもちろんダンガンロンパだ。おっと、AIソムニウムも俺がキープしておくぜ!」
たこれいか「ニコゲーの四川省で決まりッピ!」
レキモン「APEXが無い!? 理由はオタさくが下手くそだからって何だこれ!!」
がうる・ぐら「Only Up!」
翔・。・太「お絵描きの森、こういうのもあるのか。っておい! 勝利条件がイラストAIよりも上手い絵を描けだって!? くっ、上等だこの絵柄割れ厨がぁぁあ!」
リオれいか「モンハンワールドの縛りプレイ、誰か参加しませんか~!」
No.5安眠「APEXが無い!?!? なんであなた下手くそなのよッ!?!?」
「・。・! バイオハザード4・。・!? これって―――」
RTAプレイヤーにとって。
そしてオタさくにとって。
魂の原点とも呼べるゲーム。
フリーれいか「譲るぜ。ぶちのめしてやれッ!!」
「了解なのだ!・。・!」
領域がゲーム音で満たされていく中、未だゲームをプレイしていない者もいた。
もえれいか「何この子、あーしと瓜二つなんだけど」
鼻つんつん。
とつれいか「ホロライブの匂いがするッ!」
もえれいか「わっ起きた! ね、ねぇ。あなたって一体―――」
とつれいか「ホロライブぅううう! 早く助けてくれぇええぇッ!」
もえれいか「えっ? えっ? ホロライブって何のこと?」
決して出会ってはいけない表と裏が、条件付きとはいえ邂逅に成功している。
だがそれは果たして―――。
とつれいか「あの白い空間に戻してくれ! じゃないとヤバいんだって! うわああああああ助けてくれぇぇえホロライブぅぅぅぅうう!!!」
がうる・ぐら「a?」
―――――――――。
――――――。
―――。
さくらみこ「(なんだろう―――力が溢れていくのを感じる、にぇ。)」
他人に夢見られたからこそ。
彼女にも異能は発現する。
さくらみこ「た、助けないと! でもあのオタさくをどうすれば―――」
絶叫するファンを見下ろしながら、それでもやはりこの戦況をそこまで理解できていない。
その心境を文章で読み取りながらレトさんは吼えた。
レトさん(本物)「お前はまだ座っとけって! おいどりゃれいか! この大混戦から新たな勝機なんてみつかるか!? というか自力で脱出できそうなんだが!?」
上田「はぁっ、はぁっ! 正直ちょっとヤバい―――。」
フレッシュ「上田!? あんた、いつからそんな大汗を!?」
上田「傍観できる同時視聴者数を超えちまう! 全員は見れねぇよッ!」
そこまで言われて、事の深刻さに皆ようやく気付く。
下手をしたら『
ではその欠点を『
さくらみこ「みこの! みこの異能を使うにぇ!」
No.4どりゃれいか「いいや駄目だ! 君も今では立派な大駒だ! おいそれと無駄にできないッ!」
No.7いちご「だが”誰かが”やるしかねぇんじゃねぇのかぁ~?!」
『伏線』の弾はまだまだ全然ある―――。
躁王を倒す為にはどうすればいい!?
いちご、さくらみこ、キリト、リオれいか―――考えろッ!
No.4どりゃれいか「僕は―――負けないッ! これが僕の一手だあああぁぁ!! 反論! U2部隊における神話異能の法則を提示ッ!」
神話異能。
覚醒異能よりもさらに強大。
U2部隊の
No.4どりゃれいか「根拠1、第25話ではNo.9の北上双葉! 今回におけるNo.8オタさく! この二人以外、物語上で覚醒異能を発動したことはまだない!」
北上双葉は『北方神話』の『
オタさくは『ギリシャ神話』の『ゼウス』『
No.4どりゃれいか「———これはカウントダウンだよ。No.9の次はNo.8、ここまでくれば君でも分かるだろ!?」
No.7いちご「おいおいおい~~~! 俺が構築した必勝法まんまじゃねぇか~!? やっちゃっていいんかぁ!?」
彼の身体が神話のオーラに包まれる。
ここに発動条件は達成された。
No.4どりゃれいか「つまり次はNo.7が覚醒する番だッ! さあ反論は―――!?」
フリー(躁)「———いいだろう(^ω)^!」
だがまたしても、躁王は議論をスルー。
伏線が確定され、これより先―――。
U2部隊のNo順に覚醒異能が発動する、その未来が決定された―――!
No.4どりゃれいか「(通すだと!? まさか元から本当にカウントダウン的な役割があったとでもいうのか!? でもこれで―――!)」
No.7いちご「神話発動ぉぉ!! ―――『
天と地、始まりから終わりまで、ここに神話は紡がれた。
No.7いちご「物語の引きは俺ってわけ! さあそろそろ次回予告にでも入るかぁ!? ———次回、『
No.4どりゃれいか「もったいぶるなッ! 次話にもちこむと観客の好きなように改変させられるぞッ! はやく効果を発動しろぉおお!」
No.7いちご「言ってみただけだろ! 効果、効果っと―――あ?」
効果———?
レトさん(本物)「おい!?」
No.4どりゃれいか「え?!」
まさに茫然自失、特大の誤算。
あれほどやかましかった彼が―――これはマズい。
No.7いちご「使ってみてぇのに―――どんな効果か分からねぇ。」
夢を形にするだけなのに、それができない。
フリー(躁)「当然だ(^ω)^ お前には己でやりたい夢などない(^ω)^」
予想すらしていなかった事態ではあるものの、考えてみれば至るべき推察ではあっただろう。
いちごの通常異能『
全てがオートで都合通りに進むのだ。
そこだけ聞くと、確かに無敵の異能だろう。
だがつまりそれは、全てを運命に委ねて生きていくということ。
自分の意思が、これっぽっちも反映されていない。
フリー(躁)「議論提出(^ω)^! いちごの『神話』は自滅だ(^ω)^ 天地開闢の名の元に、ただ発動を成功させただけで創造の果てには何も無し(^ω)^! 貴様には叶えたい夢などない(^ω)^!」
No.7いちご「俺の―――夢? 分かんねぇ・・・。俺が、消える? ここからじゃねぇのか俺は? 何か起こせ何か起これぇえええッ!!」
フリー(躁)「貴様の現在は『神話』だッ(^ω)^! もはや神頼みは通用しないッ(^ω)^!」
その場で崩れ落ちるいちご。
放たれる赤き楔によって、見るに堪えないような深手がどんどん増えていく。
レトさん(本物)「おい駄目だッ! 止せぇええええッ!!」
No.4どりゃれいか「反論ッ!! いちごの神話は既に過去話で確定しているッ! いちごォ! あの憎しみを思い出せッ!」
No.7いちご「グッ、ああぁっぁぁぁッ!!」
その宣誓にも似た言葉に、いちごは強く頷く。
絶望的な状況下で覇気だけは失ってはいけない。
希望が見えない分、モチベーションを昂ぶらせる姿勢だけは万端に貫きたい。
彼は―――負けが濃厚だとしても、気持ちだけは決して折れない。
No.7いちご「俺のこと嫌いなんだろフリーれいかぁ? 反論! テメェが嫌いそうな人物をピックアップぅう! オタさく、いちご、あじれいかぁッ! くくっ、なーんか共通点が見えてこねぇかぁ!?」
No.4どりゃれいか「その三人の共通点、それはフリーれいかに心の底から嫌われている者! あじれいかとオタさくは異能無効化系の異能を発現した! ならいちごにだって―――」
フリー(躁)「神話『天地開闢』にそんな史実など存在しないッ(^ω)^!」
完璧な指摘をされ、ここに議論は論破される。
ありったけの赤鍵をその身に喰らった彼は―――。
No.7いちご「が、はぁァアッ?! ぐほォッ!! ふっ、いいぜ俺の負けだッ!」
その目は、ありったけの強い感情を表していた。
狂乱は消え―――むしろ敵を褒めたたえるような目。
No.4どりゃれいか「いちご!?」
フレッシュ「嘘―――」
仲間になってくれた皆に、申し訳なさそうにする目。
さくらみこ「そんな・・・。」
上田「いちごぉぉぉおおォォォッ!!」
『夢』を持っていなかった自分自身に対して、哀れみの目。
No.7いちご「ちっ。もっと上手く俺を扱えっての、って言いてぇけど、流石にこれは俺のミスだなって納得しちまったんだ。悔いはねぇよボケ! ―――あぁ、テメェら暗い顔すんなよぉ! ここから俺の『死』という一大イベントの始まりなんだぜぇ!? 目ぇ背けんな、気合入れ直せッ! けっ、どいつもこいつも謝罪はいらねぇよ。」
議論に負けた代償がこれだ。
まるで霧が消えるように。
人体が雲散するだなんてあまりにも世の法則の埒外すぎて、周りの仲間からは悲鳴がまきおこる。
No.7いちご「死んだらどうなるんだろうな。本当に転生ってやつができん、のかなぁ。だったら、もし、戻れたら久々にFF14でもやるかぁ? 共闘ってのも、まあ、楽しかった、ぜぇ―――。」
瞳を閉じ、夢は潰え、姿が消える―――。
No.7いちご「———七つの相、俺には『七原』しか思いつかなかった、ぜ。」
最後の台詞がそれでいいのかと疑いたくなったが、それもまた彼らしかった。
意趣返しだとでもいうように、新たな”思わせ”を残して。
No.4どりゃれいか「七原って、多分絶対関係ないよ―――もうちょっと伏線を清算してから死んでくれ、いちごちゃん。君はまだ全然、やれただろうにッ。」
No.7いちご―――死亡、完全消滅。
フリー(躁)「さて―――ではNo.6の神話といこうか(^ω)^!」
場が、震動破壊の波に呑まれていく。
破壊を、狩猟を、蹂躙を求めて疾走する三つ首の『
彼の神話が顕現する舞台は整った―――。
No.4どりゃれいか「———。」
死を悼む暇さえないのか。
周りには『いちご死亡』の文字が大量に溢れかえっていく。
その光景に胸が詰まり、腹が煮えくり返って仕方がない。
さくらみこ「あ、ああぁっ、げふっ! ごほ、ごほォっ! が、あぅ・・・。う、ぁぁぁ・・・。」
身近で本格的な『死』に、もはや堪えきれずに嘔吐する。
そもそも彼女は絶望に対する耐性が足りておらず、むしろよく今まで戦場に出てこられたのか不思議なくらいだった。
Vtuberは基本、何年も引き籠っている―――すぐ
レトさん(本物)「やな気分だぜ・・・。おいさくらみこ! 墜ちんじゃねぇよ、少し休んでろ!」
これまでの出会い、そして戦い。
辛さも喜びも数え切れないほど重ねてきた。
いろいろな事があったし、数々の思い出にも触れてきた。
それらを仲間たちと一緒に経てきた、今の自分は・・・。
No.4どりゃれいか「でもやっぱり、悔しいよ―――くそぉぉおおおッ!!」
だがやがて、その絶望は怒りとなり、決意へと変わる。
上田「平気かどっさん? 次の『弾』はあるんだろ? ———心境なんて聞かないからな! 俺はテメェを信じてここまで付き合ってんだッ! 絶望に対する耐性なんて俺よりも持ってるだろ! 俺と違って引き籠りじゃねぇんだから!」
No.4どりゃれいか「ああ―――まだまだ大量の『
自分のしくじりで仲間が消えたことなど、気にする必要はない。
つまるところ夢そのものが死んだだけ。
それに分かったこともある。
躁霊を倒すには、七つの相そのものをどうにかしなければならない。
だが現状、たった一つの相に遊ばれているだけ。
しかし今———七つの相の仕組みが僅かではあれど暴かれつつある。
それはこの『小説』の原点。
この小説がどうして生まれることになったのか。
七つの因子点―――意味がようやく暴かれる。
このまま、残りの伏線すべてを清算してやる―――!
No.4どりゃれいか「僕はこの道を貫くッ! ———次の『弾』はこれだッ!」
フリー(躁)「いでよ、みたび生まれ変わったNo.6BUNZINんん(^ω)^!」
最終議論は、まだまだ始まったばかりである―――。
つづく。
・。・ @kunikokinoko
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