第25話 変わる均衡 『物語』の編纂




―――仮に強敵を倒したとしよう。




それで危機を脱したとしよう。

ならば、次にはいったい何が訪れる?



決まっている。

この『物語』は再び、強敵を呼び出すだろう。

それは何度も何度も繰り返される悪夢、理不尽なほどに繰り返す。



―――そう、人はを恐れる生き物だ。



因果も何も無いところからの不幸。

それを受け入れられないという人が大半だろう。



だが逆に。

因果応報であれば、人はどこか納得できるのだ。



ましてや、命に関わることなら―――なおさらである。



悪魔の気まぐれなどで殺されてしまってはたまらない。

なんで不幸な目に遭うのか?

説明くらいはあってもいいだろう。

それさえあれば、こっちは大した文句も言わないのだから。



つまり私が何を言いたいのか。

納得できるかどうかは、とても重要なのだ。



そして言うまでもなく―――。









烏骨鶏「―――『蜘蛛併せ・阿弥陀アミダ』!」




突如として現れた幼女忍者、みんと帝国の人間。



「連戦続きでも、やるしかないなの・。・!」



敵の異能発動と同時に、私達はへと引き込まれた。







―――――――――。

――――――。

―――。







No.9北上双葉「この理不尽な異世界で、希望と呼べるものが私にとって一つだけあったの。それが『あなた』なんだよ。躁霊や鬱霊といった、あなたの『夢』じゃなくて、『あなた自身の真実』から答えを聞きたかったの。」



???「———お前は本物の人間なのか。」



二人の因縁もまた、あるべくして存在している。

それはきっと、夢が始まる前から―――。



No.9北上双葉「私は妄想体じゃないよ。ってゴメン。こんな姿じゃ信じられないよね。」



自らの外見をアピールするように、くるりと可愛らしく回る北上双葉。

その顔は笑ってなどいなかった。



No.9北上双葉「———『仮想旅路バーチャルドライブ』。」



???「ッ、異能か!!?」



二次元を具現化する理不尽な夢が、二人の周囲を包み込む。

U2部隊である彼女が、この場所に現れた意味とは何なのか。

北上双葉の狙いとは―――?







―――――――――。

――――――。

―――。







No.2田中みこ「一つだけ聞かせて。どうしてレジスタンスにいるの?」



No.4どりゃれいか「どうしてって、別に僕は、今でもU2部隊のつもりだけど。」



田中みこの強さは、まさしく達人と評する境地。

ならば、どりゃれいかの強さは理不尽と呼ぶに相応しいだろう。

U2部隊でありながら、U2部隊に軟禁されていたほどの『災厄』なのだから。



No.4どりゃれいか「まあでも、こっちの陣営も悪くないよ。少しだけ好きになってきたところなんだ。彼らのひたむきな精神と実力。彼らといるだけで、スリルある戦闘が楽しめる。U2部隊に軟禁されていた頃よりは充実してるかな。田中みこ、君もそうでしょ? 実のところ何重スパイなのか知らないけど、やりたい放題! 自由に行動してるようだし、今の僕よりも楽しそうだね?」



No.2田中みこ「———みこはどこにも属さない。誰にも縛られない忍者。みこの立ち位置はみこが決める。」



No.4どりゃれいか「———同感だね。立ち位置は己が決める。今はとても楽しいよ。好き勝手に暴れられるから。普段は優しい人でも、時にはわけもなく周囲のものに当たり散らしたい。今の僕はそれだけなんだ。メチャクチャな戦闘を攻略したい、っつうね。」



U2部隊とは、実のところ何も持ってはいない。

鬱の度合いと、それに比例する異能の強さ以外何も持ってはいないから。

他のあれやこれやという、人間を人間たらしめる複雑性が排除されているから。

だからこそU2部隊は迷いもないし、暴力も平気で生み出せる。



No.2田中みこ「―――。だからこれ以上何もさせない、おとなしくみこに殺されて?」



No.4どりゃれいか「酷い言い草だなぁ。どうして君がふわっと小学校に帰ってきたのか、それぐらいの説明は欲しい所だけど。」



No.2田中みこ「。」



その一言が、開戦の狼煙を上げることになる。

二人の表情は見えない。

ただ静かに、互いの異能は発動していた。



No.4どりゃれいか「———何だよ、僕の異能もバレちゃってるのかぁ。」



そんな破壊という名の真心を、彼はうずうずしながら伝えてくるのだった―――。







―――――――――。

――――――。

―――。






ともあれ、ここまでは計算通り、いいや、きっとある意味で予定調和。

今この瞬間に達した流れ、要因、そういったものが『物語』を一つの舞台として導いたようにも思える。



ひまれいか「(納得がいかない。この展開は何なのだ? なぜ『みんと帝国』の人間が邪魔をする? まるで我々を足止めするかのように次々と―――いや、まずは皆のために戦闘準備を固めるか。)」



彼らは気付かない。

むしろ、気付いたところでどうしようもない。



何故、みんと帝国の人間が次々と現れるのか?

U2部隊のボス、躁霊はどこで何をしているのか?

帝国の王、みんとの狙いとは?





―――仮に強敵を倒したとしよう。


それで危機を脱したとしよう。


ならば、次にはいったい何が訪れる?





決まっている。

この『物語』は再び、強敵を呼び出すだろう。

それは何度も何度も繰り返される悪夢、理不尽なほどに繰り返す。




―――



―――




この『物語しょうせつ』という妄想は、フリーれいかの『躁うつ病』が紡ぎだしてきた世界。

『れいか生主』という『夢』を捨てられず、狂い喜び乱れて繰り返す世界。

だがしかし、必ずしもそれは一定ではない。



なぜなら、全ての戦闘パートと全ての日常パートは躁霊が紡いでいる。

強敵との戦闘を得れば、同等の日常パートが組み込まれる。






しかし現在———何故かその『ルール』が適応されていない。


長編にも及ぶ強敵との戦闘を経ても、強敵との戦闘が瞬時に挟み込まれる。


僅かな隙間も許されず、流れを完全無視した形によって。





言うに及ばす、




躁霊がいたからこそ、物語は物語として正常に機能していたのだ。

つまりそれは裏を返すと―――。




No.9北上双葉「(収穫は失敗しちゃったし、他のU2部隊も安否不明。Kentさんの倉庫も消えちゃったけど、私だけの収穫は成功して見せる―――。)」



No.4どりゃれいか「(U2部隊とみんと帝国の戦力、レジスタンス側の現状、あらゆる要素を想定しろ。僕が取るべき選択肢、決して失敗は出来ない―――。」



No.2田中みこ「(分かってない。見てないから分からないんだ。この場の優先順位はどりゃれいかじゃない。レジスタンスでもない。あの男なんだよ―――。)」




様々な思惑が交錯する中、北上双葉、どりゃれいか、田中みこのU2部隊三人は秘密裏に動き始めるがもう遅い。




烏骨鶏「(全ては王の為。『みんと様』こそ、この世の何よりも価値のある王! 異世界を真に支配する王でござるッ。)」




異世界は今、凶兆を迎えようとしている。

たった一人の王によって、『物語』は大きく編纂へんさんされていく。

着実に、それは訪れていたのだ―――。












―――第25話 変わる均衡 ~『物語』の編纂へんさん












~現在状況~


・ふわっと小学校


校長室

少女,ヴィオラ,ひまれいか vs 烏骨鶏

負傷中『スカイれいか,姫れいか,ゆのみ,緑一色,ふじれいか,悲哀れいか』



10階

??? vs 北上双葉



地下20階

どりゃれいか vs 田中みこ











―――ふわっと小学校 校長室


~少女視点~



最初の一撃は相手も挙動が掴めておらず、初撃にして絶好のチャンスとなった。

出し惜しみなしの全開を、目の前の幼女忍者へと繰り出すべく―――。



「・。・!? あれ、えっと、つ、捕まえたなの・。・!」



そして、抵抗の意思もなく、またそれが可能であるはずもなく、呆気なく幼女忍者の捕縛に成功した。

思わず拍子抜けするほどに四肢を束縛でき、捩じり上げる。

こうなってしまえば如何な手があろうとも、逆転の目へ繋げることは不可能だろう。



ヴィオラ「・・・可愛らしい忍者さん。終わりだよ。あなたはもう逃げられない。ここで降参してくれ。」



ひとまず、何はともあれそう告げる。

私たちには、無抵抗の相手をいたぶる趣味はない。

自分達は憎しみの類で戦っているわけではないのだから。



烏骨鶏「お~w やってみるがいいでござるよ?」



だがしかし、それがどうしたと言わんばかりに、笑う、嗤う、けらけらと。

出来るのか?

そう問いかける瞳は邪悪で、なのに何故か、こちらを見ていないかのようなまどろみの瞳。



ひまれいか「ブラフ? 強がり? 自殺願望? あるいはこれから起こる結果を待ち望んでいるようにも見えるが。」



烏骨鶏「———さっさと来いよコラァッ!!」



「ッ―――、後悔しないでなのだ!・。・!」



幼女の挑発だろうが関係ない。

対等の相手として本気でぶつかり、このまま勝つ。



虚滅焔バニッシュメントオーバーフレイム!・。・!」



手足を壊し動きを封じれば、そこで勝利となるはずだ。

みしり、と粉砕の感触が伝わってくる。



しかし―――。



ヴィオラ「あ、ぐァァァッ・・・!」



瞬間、



あ―――と、まるで馬鹿のように口を開いてそれを見るしかなかった。

何だよこれ?

何が何だか、分からない。



ヴィオラ「ぐ、よせっ、自分を責めるなッ・・・!」



ヴィオラさんの手足はへし折れていた。

それは、私が今しがた攻撃を仕掛けたのと同じ箇所だったのだ。

身代わり?

今の一瞬で?

いいや、確かに固く自分は拘束していたのだから。



唐突に現れた理解不能、理不尽な展開。

そしてヴィオラさんを心配する余裕もなく―――。



烏骨鶏「お~w 見事にぽっきりいったでござるね。あれは治すのにけっこう時間が掛かるでござるよぉ?」



幼女忍者は余裕を崩さない。

つまりすべて、この一連の現象は奴のいのうに他ならないと直感した。



「お前ッ、いったい何をしたのだ・。・」



烏骨鶏「お? そんなこと敵に聞くでござるか? 少しは自分で考える癖をつけるでござるよ? 試せばいいでござる。トライ&エラーでござるよ? 早くしないと、この拘束抜けちゃうでござるよ? したら、今のお前なんかはっきり言って瞬殺でござるぅ。」



「く、ッ―――。」



不安と苛立ちが集ってくるのを止められない。

このままもう一度攻撃を与えることはどうにも怪しく、戸惑ってしまう。

どういうことだ―――そう思いながら、もう一度力を込めるしかないのだ。

拘束を解くわけにもいかない以上、勝利するためにはこれしかない。

けれど理解が及ばない。

心を痛めながら、もう一度。



スカイれいか「!?? いぎいいいいッ!!」



そして、いや、やはりと言うべきか。

先ほどとまったく同じ現象が目の前で再来した。



「スカイれいかさん・。;」



激闘による激闘で意識を失っていた筈の彼女が、身を跳ねさせて吹き飛ばされた。

悶絶すると同時に、視界へ血が舞う。

自分が起こした結果で仲間がこんなに傷ついて―――やめてくれ、心が痛い。



烏骨鶏「お~w いいでござるよ、派手に手足が両方潰れてるでござるなぁ。鬱霊と聞いていたでござるが、意外とサディストなのでござるね。どっちかというとマゾかと思ってたでござる。きゃははははっ!」



その挑発に頭が沸騰して、怒りと後悔でおかしくなりそうだったけど。

奥歯がぶっ壊れるほど噛み締めながら衝動を抑え、冷静になれと何度も何度も言い聞かせる。

見切れ、分析するんだ、少しでも早くこの状態を脱却するためにッ!



ひまれいか「———そうだ慌てるな。まだ私がいる。あのメスガキに思い知らせてやろうではないか。」



先代知将の意地にかけ、ひまれいかは全神経を集中させる。



ひまれいか「(倒れたヴィオラとスカイれいかの傷は、少女の攻撃と同じタイミングで発生した。負傷箇所も全く同一。)」



「(反射・。・? 身代わり・。・? それともああして無抵抗で受けることが、このおかしな状況の発生条件なの・。・?)」



烏骨鶏「お~w 頑張るでござるよ。だけどいつまでも暇は与えてやれないでござる。時間は有限でござるからなぁ!」



そして―――そこでふと気づく。



目に入ったのは、




もっと端的に言うのなら、



どの程度の圧を掛けたかというものは正確には覚えていない。

だが、倍加までさせた記憶はさすがになかった。

だとすれば、これがあの幼女忍者の異能の一端、特徴の一つなのかと推察して―――。



烏骨鶏「お? なんか気付いたでござるか? 鬱でもきちんと考えられるのでござるねぇ。うんうん、よくできましたでござるっと!」



正解だと褒めるように、一段階引き上げられた腕力の牽制。



「・。・!」



私はそれに対し、咄嗟に返礼の反撃を放つ。

込めた力は通常の半分程度で、牽制にも満たない程度のものだったが、しかし。



緑一色「?!?!?!??!?!?!?キエエエエェェェェェェェ―――。」



―――予想通り、理不尽な悪夢の光景は訪れる。



今度は緑の化物が崩れ落ちた。

その打撲はこれまでのものと比較しても相当深い、あれだけ弱い衝撃だったのにだ。

骨の粉砕にまで達しているそれは、明らかに今自分が放った威力の数倍へと変化していた。



烏骨鶏「そんな検証じみた真似をしなくても、ちゃんとタネは教えてやるでござるのにねぇ。ご苦労様でござる。」



ひまれいか「どういうことだ貴様―――?」



烏骨鶏「おお、ビンゴでござる。だけどそれだとサンカク。点数は半分ってとこでござるなぁ~。」



気だるそうに首を捻る幼女忍者。

対してひまれいかは―――。



ひまれいか「(―――思考透視成功だ。まあ今回はあちらから種明かしをしてくれるらしいが。)」



発動条件は達成され、烏骨鶏の思考がひまれいかへと流れ始める。



烏骨鶏「拙者の力は、自分が受けたダメージをその場の誰かに跳ね返すでござる。要するに、ランダムで擦り付けてしまうでござるよ。次に命中するのは拙者かもしれないし、あんたたちかもしれない―――シンプルで公平な異能でござるよ?」



「まじなの・。・;?」



つまりは命をかけた大博打。

鳥肌が立つ。

それはそうだ、平然としている幼女忍者のほうがおかしいと言えるだろう。



今彼女が口にしたその真意は、すなわち自分をも巻き込んだロシアンルーレットなのだから。



・・・なんだよそれ、そんな馬鹿げた理不尽があるか?

そんなゲームみたいな能力、許されると思っているのか?



―――思えばhmm戦のときもそうだった。



将棋だの、陣形崩しだの、まるで戦と呼べただろうか?

力と力がぶつかり合う、そういう純粋なバトルではなかったように思える。

目の前の幼女忍者もそう。

こいつからは同じ匂いを感じる。



―――もしや、『みんと帝国』ってのは皆こうなのだろうか?



ひまれいか「・・・奴の思考、読めたものじゃないぞ。例えるならそう、薬物中毒者のような思考回路だ。常にモヤがかかっているかのような映像の繰り返しだ。」



「や、薬物・。・!?」



薬物―――その単語は聴き慣れていた。



『みんと』。

あの男が織り成す悪夢。

私はそれを、その男の物語を視たことがあった。



「・・・みんと帝国の認識を改める必要がありそうなの・。・」



己をも巻き込んだロシアンルーレット型異能。

それを平気で使おうとする異常者集団。



そして、



ひまれいか「チッ、かろうじて視えたのは名前だけだ。———烏骨鶏。れいかの中でも末端の末端、下手をすれば認知すらされておらんgmだ。その程度のレベルが、何故これほどまでに強いのだッ?」






烏骨鶏の異能 『蜘蛛併せ・阿弥陀アミダ


干渉不可能、目視不可能の糸に接続されるそれは、死のあみだくじという他ない。

術者の範囲内に存在する者をまきこんで、一つの運命共同体と化す異能。

空間内において、誰かに自分のダメージを飛ばすことが可能。


誰かを攻撃すればするほど、範囲内の誰かがダメージを喰らう。

範囲内の人間が多い程ダメージは増大し、さらに回数を重ねるごとに威力は上がっていく。

加えて、同じ人間が二回目三回目とダメージの受け持ち役に選ばれると、それに比例してまた威力は倍加する。

受けた10のダメージは、50や100になって周りに飛ぶということだ。



そして逆も、また同様。

この異能は、決して術者にただ有利なだけの条件ではない。

含まれるのは対戦相手や自分自身なのだ。

少女の初撃でそのまま沈んでいたかもしれないし、例えば隣のひまれいかを殴ってあっさり決着がついていたかもしれないことを意味する。

誰かが適当に傷つけば、たったそれだけで自分が当たりを引いて死ぬかもしれない。

運の悪い者にはとことん厳しく、まさに天運の異能とも言えよう。




ひまれいか「奴の異能をざっとまとめてみたが、概ねはこれが正解だろう。」



「―――ふざけるなッ・。・!」



たまらず私は吼えた。

すべてが運任せという特大の理不尽に、己の命を賭けざるを得ない。

あまりにも馬鹿げている。



だって、命が懸かってる勝負なんだ。

それをまるで玩具か何かのように簡単に取り扱うというのを、どうしても理解できない。



けれど、幼女忍者は意に介さず口を開く。



烏骨鶏「当たる確率が低いからこそ、いざ命中したら点数がでかいっていうギャンブル的な理屈でござる。お前も私も、実はラッキーだったでござるよぉ? さっきのがヒットしてたら、今こうして呑気にお話できなかったでござるからなぁ~w」



笑って告げる―――それを狂気だと私は思った。

じゃあこいつ、一体何のために私たちと戦っているんだ?

勝負の勝ち負け以前に、自分の命すらどうでもいいっていうのか?



「こんな戦い、意味がないのだッ・。・!」



烏骨鶏「そんなのどうでもいいでござる。少なくともは。ただ、退屈なのはお断りでござる。面白さ、熱いスリル、いいじゃないか求めていこうぜッ! 乗って来いよもっとなァッ!」



幼女忍者の目の奥底にある虚無。

それが何かを理解する。



―――それは、破滅へと続く暗い光ギャンブラーだ。



暴力、暴力、とにかく殴りたい、他には総じて空っぽの魂だ。




烏骨鶏「まあ、私の覚醒異能を知ったところで、もうどうにもならないでござるがなぁ。別に能力をバラそうがどうしようが一緒でござる。疑心暗鬼に探り合いするバトルなんかしてもしゃーねぇし、私がやりたいのはそういうんじゃないでござる。―――ただ、ギャンブルがしたいでござるのよ。」



強さ?

覚悟?

知らない、要らない、どうでもいい。



全部適当にかき混ぜて、ごちゃ混ぜにして、ひりつくような緊張感を楽しもうぜと、幼女忍者は低く笑った。



ひまれいか「―――ッ、背後だっ!!」



「・。・!!」



飛び込んでくる幼女忍者の霞刃に、私は咄嗟に反応し躱す。



「・。・?!? 身体を完全に拘束してた筈なのに、どこからそんなものを―――。」



幼女忍者は身体の自由を取り戻す。

信じられないッ、こいつ技量面でもなかなかのレベルだぞ!?



烏骨鶏「攻守交替でござるよぉッ!」



巻き込むようなクナイの連射が炸裂する―――けれど、けれど、何にも痛みは無くて。

それどころか衝撃の走るという感触すらなかった。

それはつまり、同時に一つの結果を示している。



ふじれいか「―――――――。」



瞬間、私のダメージを肩代わりしたふじれいかから盛大に血飛沫が舞った。

脇腹から臓物が爆発したように弾け、水風船のように破裂する。

避けられなかったのは私のミスだというのに。



烏骨鶏「ついでにもう一撃いくでござるッ!」



そしてそのまま、



ひまれいか「なっ??!」



事態が深刻だということに、ようやく私たちは気付く。



姫れいか「ギッ、ァ――――――。」



弾けとぶ内臓や骨肉を見る。

さっきの何倍も酷く、血飛沫が吹き上がる。



「あ、ああああぁぁぁぁァァああぁッ!・。;!」



何だよこれ、何だよこれ、理不尽だろ、どうなってんだよッ!

こんな馬鹿げたバトル、あっていいはずないだろうがッ!



ひまれいか「―――範囲外に逃げるぞッ! このままではッ!!」



反射に等しい速度で、私とひまれいかさんは校長室を飛び出す。

正答はこれしかない―――倒れた仲間たちを置き去りにすることも含めて。

もうそれしかないと、私たちは悟ったのだ。



烏骨鶏「・・・あーあ。逃げられちゃったでござるなぁ。しらけるでござる。」






―――――――――。

――――――。

―――。








―――ふわっと小学校 12階 廊下



ヴィオラさん、姫れいかさん、スカイれいかさん・・・。

ふじれいかさんに悲哀れいかさんにゆのみさん、そしてあの緑の化物・・・。

ごめん、もう少しだけ待っててくれ。

絶対にあの幼女忍者を倒して戻ってくるから―――。



「異能の射程範囲から逃れる、だけどそれからどうするのだ・。・!?」



敵は最早、人ではない。

言うなれば、ただ周囲に死を振り撒く邪悪なマップ兵器。



ひまれいか「・・・一つだけ手段が無いこともない。ただしそれは、我々の切り札を一部見せることに他ならないッ。」



「・。・! それってまさか―――。」



ひまれいか「―――?」



「・。・!!!」



あじれいか・・・異能を無効化し反射する魔眼の所有者。

確かにそれならあるいは、でもそれは『作戦』に反することであり―――。



ひまれいか「盤外から物語を俯瞰していた我々でさえも、あじれいかの生死は確認できなかった。よほど、用意周到に隠したと見える。だが、あじれいかは今この場所にいるのだろうッ? でなければ本当にお終いだッ!」



「ま、待つのだ・。・! 他に勝てる要素が見つかるかもしれないなの・。・! だからもう少し―――。」



ひまれいか「があることは理解できるッ。だがこの場面で死んだら元も子もないッ! 隠したジョーカーを曝け出してでも、あのメスガキは早急に倒さねばならんッ! さもなければ、この場所を調査するどころではない、下手をすればここで全滅だッ!!」



彼の必死な剣幕に、私は息を飲む。

それほどまでに―――烏骨鶏の強さは魔境レベルなのだ。



「ま、まずは位置把握なのだ・。・! レジスタンスメンバーはまだまだいるなの・。・!」




・ふわっと小学校 探索中メンバー


もえれいか、しぇいぱー君、翔・。・太、ひげれいか、リオれいか、めんちゃん、あっちゃん、ゆうれいか、べるれいか、あじれいか(観測不能)、スノーれいか、真中あぁあ、レキモン、キリト、安眠、4410。




ひまれいか「随分いるな・・・。そいつらに現状を伝えていくのも大事かもしれん。余計な被害を食い止めることが出来るッ。」



つまり、ここからは味方と極悪マップ兵器の位置関連も重要になってくる。



「問題は烏骨鶏の射程範囲なのだ・。・ 一階層ごとなのか、はたまた複数階層ごとなのか、あるいはこの学校全体なのか、私たちが逃げる方向も考えなければならないなの・。・!」



走りながら、私たちは階段へと辿り着く。

登るべきか?

降りるべきか?

一刻も早く『彼』と合流するためには、いったいどちらへ進めばいい?



ひまれいか「ちっ、表札も案内板も無いのかこの学校はッ! これでは我々がどこの階にいるのかすら分からんではないかッ!」



「そういえばこの小学校、迷路みたいに複雑で広い場所だってこと忘れてたのだ・。;」



どっちへ進めば誰と合流できるのか。

それすらも運に任せる他ない―――!



ひまれいか「―――降りるぞ。校長室が存在する階というのは大抵が上層だ。一階に向かえば『彼』がいるのだろう? そんな奇跡に賭けるしかないッ!」



「了解なのだッ!・。・!」



駆け下りるッ!

今はとにかく烏骨鶏から距離を取ることだけ考えて―――。



否、



思いもしなかった。

ここでこいつが来るなんて、降りた階の先にいるなんて予測出来る筈が無い。




No.9北上双葉「あ。」



???「お、お前ら!?」



ひまれいか「な、何ィィーーーッ??!」




―――U2部隊No.9 北上双葉と遭遇。



「どういう状況なのだ・。・!?」



???「お前らが話してくれたU2部隊の一人だ! いいか、この学校は今『恋愛の相』によって妄想体の―――。」



放たれる言葉が、上手く私の頭に入ってこない。

いわゆる混乱状態であり、優先順位をどうするか、全神経を集中させようとする。



ひまれいか「ッ! そうかお前が例の! あじれいかではないにしろ、か! そして北上双葉よ、久しぶりじゃないか?」



No.9北上双葉「・・・・・。」



ひまれいか「ふん。そのアニメ調な外見も相変わらず虫唾が走る。何とか言ったらどうなのだ?」



No.9北上双葉「・・・・・・・・・。」



ひまれいか「(こ、こいつッ!! 私の『思考透視』を警戒しているのか、喋ってこない―――!?)」



北上双葉は、ふふんと勝ち誇ったような顔で仁王立ちする。

おまけにドヤ顔を披露。

『思考透視』を一度喰らった彼女だからこそ可能な対策法―――!



No.9北上双葉「(なんでひまれいかがここで来るかなもぉ~。これじゃ私、何も喋れないじゃん。せっかくのチャンスが台無しだよ~。)」



ひまれいか「(十中八九、北上双葉は私の異能を理解しているッ。くそッ、そもそもあのNo.4と呼ばれたU2部隊に『思考透視』を解除されなければこんなことにはッ! 発動条件がバレるだけでこうも不利に転ぶとはッ!)」



「というか、早くしないと追っ手に追いつかれるのだ!・。・!」



???「追っ手だとッ!?」



烏骨鶏「あれれ~? 意外と近くにいたでござるなぁ~w」



―――幼女忍者、もとい歩く殺人兵器、再び見参。



「あ・。・;」



きっと、時が止まる感覚とはこういう瞬間のことを言うのだろう。

U2部隊にみんと帝国に私たちレジスタンス。

三つ巴の展開、いいやそれとも・・・。

というか収拾がつくのかこれ?

いや、何を甘えたことを―――。



烏骨鶏「おやぁ! そっちにいるのはのU2部隊じゃないでござるか! まだ生き残りがいたでござるねぇ~w」



No.9北上双葉「(・・・・。)」



「そ、それってどういうことなのだ・。・?!」



ひまれいか「馬鹿ッ、今は逃げるのが先決―――。」



烏骨鶏「ほいっとでござる!」



自らの脚に斬りかかる烏骨鶏。

無論、その行動に対する結果は言うまでもなく―――。



???「ッ、がっは―――?!?」



秒も掛からず、男の肩から腰にかけて、まるで爆竹のように血飛沫が弾け飛んだ。



「・。; くそぉおおおぉおおォッ―――!」



U2部隊とみんと帝国は同盟を結んだのではなかったのか?

それなのに今、躊躇いも迷いも一切無し、問答無用のロシアンルーレットを発動させやがった!



ひまれいか「救助なんて考えるなッ! 最後の回復役であるゆのみが倒れた以上どうにもできんッ! おい北上双葉よ! 返答はしなくてもいい、お前も逃げたほうが無難だぞッ!」



その捨て台詞と共に、私とひまれいかさんは下の階層に駆けおりようとする。



No.9北上双葉「———。」



ひまれいか「ッ?!」



言葉に言葉で返す。

思考透視の条件は達成され、北上双葉の思考がひまれいかへと流れ込む。

はたしてこれは僥倖か。



否―――



なぜなら―――。




???「こんなとこで退場するタマじゃねーぞぉ、俺はなァッ!!」




「え、えええぇぇ・。・!?」



―――



???「手短にいくぜ。これは『きあいのタスキ』による効果だ。北上双葉の異能、『仮想旅路』による二次元存在の実体化によって生み出された道具さ。それを北上双葉から事前に受け渡され、俺は装備していた。だから俺は、死ぬ攻撃を喰らっても生きているのさ。まあこの効果は一度限りだ。ほら見ろ、タスキは跡形もなく無くなっちまった。」



「い、いやいやいやいやいや・。・;;」



また〇ケモンネタか!?

確かに『きあいのタスキ』なら、HPを1で押し留めて即死を防ぐことは可能だが・・・。

いやいや、理屈は分かるけど、それよりも問題なのは―――。



「どうしてそんな最強アイテムを渡してきたのだ・。・!?」



???「知らねぇよ。ただ北上双葉は俺に会うなり、すぐさまこいつを具現化させて渡してきた。道具の簡単な説明と、道具の装着を急かされてたところで、お前らがやってきて今に至るってわけだぜ。」



「・。・;」



???「一応言っとくが、俺と北上双葉は今が初対面だ。それはお前らが一番分かってんだろ?」



話を聞く限り、あまりにもやりすぎな”施し”だ。

一度限りの即死を防げるアイテムだなんて、それこそ理不尽な代物だろう。

それを突然、渡してきた?

もしかして、彼にもしものことがあった時の為に?

それって彼を助けようとして渡したってことか―――?!



「ひまれいかさん、どう思うなの・。・?」



思考透視を成功させたであろう彼女から、意見を求める私。

北上双葉の狙いを探るには、それが一番手っ取り早いからだ。




ひまれいか「―――。」




「え・。・?」




すぐに私は、





No.9北上双葉「―――明けて。聡明たる十五の星々。」





ゆらりと北上双葉は身を逸らし天を仰ぐ。

それはまるで、己の力を確認する儀式めいた挙動。



No.9北上双葉「―――私の生涯。私の栄光を取り戻す。だからお願い、悪夢と偶然の奇跡を掴ませて。」



「・。・!」



未だ周囲には何の変化も現れていない。

しかし、私たちはその『エネルギー』を感じ取れていた。



ひまれいか「う、おぉ・・・。」



私は『虚滅焔』による負の感情の探知によって。

ひまれいかさんは『思考透視』による知覚によって。



烏骨鶏「な、なんで、ござるかぁ?」



???「チッ、強烈なのが来そうだな!」



いずれの知覚方法を持たぬ両者でさえも、存在しない筈の何かを見る。



No.9北上双葉「彼に手を出した賠償、タダでは済まないよ〜?」



―――まさしくそれは、であった。



「なにが始まってしまうなの・。・;?」



私たちが身動きできないのも無理はない。

今まで体験した何よりも凄まじい、これが本物の恐怖なのだと。

それは紛れもなく、北上双葉が有する本質なのだと理解する。




No.9北上双葉「―――覚醒異能発動。『Vの天秤ファンタズマ』」




それは希望か、はたまた絶望か。

幼女忍者に向かって、彼女は宣戦布告の一歩を踏み出した―――。











―――――――――。

――――――。

―――。












―――ふわっと小学校 72階



安眠「―――そう。あの子、本気を出すのね。」



膨れ上がる北上双葉の魔力を、遠く離れていた二人もまた感知する。



キリト「動けッ、動けよこのッ! あいつらの気配を感じるってのにッ、どうして動けないんだ俺の身体はァッ!!」



他の仲間が危機に瀕しているというのに、自分はのうのうと寝転がり、あまつさえ休んでいいのだと、めでたい思考は持っていない。

むしろ、迸る憤怒は静まらない。

彼は、異能によって自らの痛みすら超越しようとするも―――。



キリト「おいなんでだッ! 今が頑張る時じゃねぇのかッ! 俺の二刀、人口異能っつったか? どうして反応しないッ!? ご都合主義でも何でもいいッ! 俺の異能、力を貸してくれッ!!」



二刀を持った者は、超常的な力を発動することができる。

あくまでそれはキリトの力ではなく、二刀そのものが持つ力、故に人口異能。



だがどういうわけか、ここにきて二刀は何の反応も示さない。



キリト「何なんだよ人口異能ってのはッ! どうして俺にだけ異能が無いんだ? どうして俺は記憶喪失で、『外』からやってきた記憶すらも無いんだッ! そもそも『外』ってのは何なんだッ! 俺は何なんだッ! くそっ、動けってんだよ俺ェッ! さっき決意したばっかりだろォッ! もう逃げないってッ! 仲間の気配が次々と消えかかってるのに、俺だけ倒れてられっかよォッ!!」



これにも当然、

しかし、今のキリトには知る由もなく―――。



安眠「キリト君が立ち上がれたら、私も『闇ある者は光ある者を経験とするDarkness Shining Experience』で重症すら厭わず立ち上がれるのに・・・。」



彼が居てこそのレジスタンスであり、それに恥じない為の自分でいたい。



キリト「・・・くそおおおぉおおおぉおおォオッ!!!」



その信念を持ってしても、彼の身体は動かない―――。












―――ふわっと小学校 15階




リオれいか「ちょっと! どうしちゃったんですかレキモンさん! まだあの装置を調べ終わっていないのに!」



レキモン「早くッ、でかすぎる気配からして三人は集ってると思う。」



迷路のような通路を疾走するこの男、レキモン。

彼がこれほどに取り乱すのは初めてで、この人でもこんな顔をするんだなと、場違いに思ってしまう彼らたち。



しぇいぱー君「レキモンがここまで焦るなんてやばそう・_・」



もえれいか「私もッ、誰かのオーラが増えたのは感じたけど、ねぇ、三人って誰の事なのさぁ!?」



その問いに、レキモンは半分ずつの否定と肯定で答えるのだ。



レキモン「これだけの力ッ、該当しそうなのはU2部隊共に決まってるッ。だったら誰かが止めなければいけないんだよ。きっとキリトもそうするさッ!」



もえれいか「だ、駄目だって! レキモンの異能は対人特化の系統だから、城攻めは不向きなんだって! 今回は事前の作戦通り、私たちと離れずに合流をッ!」



レキモン「けど疼くんだよッ! 俺の失くした右腕がなァッ! 田中みこォオオォオッッ―――!」



彼の疾駆は止まらない。

むしろ、速度を上げて獲物の位置を嗅ぎ分けている。



しぇいぱー君「・・・リオれいか、君は戻って伝えるんだ・_・ ここは僕ともえれいかで何とかする・_・」



もえれいか「あーしも!? ってしゃーねーか。一度や二度はこーいうノリもいいかもね。」



リオれいか「わ、分かったよ! 仲間の元に戻って現状を伝えてくればいいんだね? 行ってくるッ!」



言うが早いか、リオれいかは飛翔して道を翻した。

あらゆる事態に備えての役割分担と選択が功を成し、彼らの行動に迷いは一切無いまま、それぞれが別方向へと動き出す。



だがその時―――。



リオれいか「(えっ?)」



ドラゴン娘である彼女が飛ぶ。

たったそれだけ、飛んだだけで、



リオれいか「(何この感じ。ここじゃない、。)」



そうと断言できない”余波”が、リオれいかの精神に呼応した。



リオれいか「(私の中のドラゴンの血が暴れている? それともただの勘違い? でもこの『ハンター』の気配、どこかで知っているような・・・。)」



不思議そうに首を傾げるも、リオれいかは気持ちを切り替える。

だって、今の戦場はここなのだから―――。










―――――――――。

――――――。

―――。









―――ふわっと小学校 地下10階




連撃、乱撃―――斬、貫、薙。

共に全力、共に真っ向。

愚直に、激しく、弄する策など一切なしに。

互いに一歩も引かぬまま、意地に任せて殴り合いと斬り合いを



No.4どりゃれいか「どりゃあああぁぁああッ!!」



No.2田中みこ「とぉっ。」



滝と滝が左右からぶつかり合っているような光景は、絶大な衝撃波を生んで部屋の装飾を木端微塵に吹き飛ばした。

連続して続く破壊の飛沫は周囲に飛び散り、自動修復する小学校に何度も爪痕を刻み込んでいく。



No.2田中みこ「たまにいるんだよ。君みたいに、存在するだけで迷惑な屑人間。」



No.4どりゃれいか「違うね。僕は生きている。それは誰だって同じさ。そして誰もが『夢』を欲するんだ。そのために僕は動く。けどさぁ―――。」



そう告げて、返す刀でどりゃれいかは続けた。



No.4どりゃれいか「田中みこ、?」



No.2田中みこ「そっちこそ、どうして本気でこないの?」



そう、ここまでの戦闘の中、一度たりとも異能の力は介入していないのだ。

全てが純粋な力と技術の乱舞。

そこに一切の理不尽は見えない。



No.4どりゃれいか「あーあ。やめたやめた。異能を使わない田中みこなんて、攻略のしがいもないしつまらない。。」



意味不明な言葉を述べながら、さも不本意だと言わんばかりにどりゃれいかは落胆している。

それは田中みこも同じであった。



―――二人とも理解しているのだ。



―――U2部隊の上位ナンバー同士が全力でぶつかり合えば、と。



No.2田中みこ「・・・何も無い惑星とかならいいけど、みこはこの学校を破壊したくない。」



No.4どりゃれいか「話が通じて助かるよ。面倒だけど、『物語』の順序に従う方が一番早い。」



つまりは停滞、様子見、総じて茶番。

初めから勝敗がつかない死闘を演じ合うだけの茶番。



―――U2部隊のナンバーは強さのランクに比例する。



No.0は例外として、No.1からNo.12のナンバーがU2部隊には存在し、一番強いのはNo.1、次順にNo.2、No.3と、番号順に強さが決定されている。



そしてNo.1からNo.9は『一桁メンバー』、No.10からNo.12は『二桁メンバー』と称されている。



この『一件メンバー』の力は―――『二桁メンバー』の比ではない。



どだい、

ましてや、彼らの『覚醒異能』に同調すれば狂気どころか世界構造の変幻すら招き、異次元の仕様へと組み替えられてしまうほどの力を持つ。



一桁ナンバーの本気は、いわば”神話”なのだ。



No.4どりゃれいか「軽率な振る舞いをするべきではなかったね。田中みこ、はある種の渦中にいるんでしょ? いいよ。僕はもう君の邪魔はしない。楽しみは後でとっておく。それでいいかな?」



詫びの意を込めながらも、どりゃれいかはどこか楽しそうにそう言った。

事実、面白がっている。



No.2田中みこ「・・・いらない時間くった。みこはもう行く。どりゃれいかも早く戻れば? No.9が覚醒した―――神話が始まるよ?」



対して、つまらなさそうに煙を上げ、その場から音もなく消える田中みこ。



No.4どりゃれいか「・・・みんと帝国か。ほんと、予想外の乱入だよね。まったく、―――。」



そしてどりゃれいかも忽然と、姿



―――。












―――ふわっと小学校 10階



~少女視点~



そして神話は紡がれる。



No.9北上双葉「―――覚醒異能発動。『Vの天秤ファンタズマ』」



刹那―――空間そのものが破砕したかのような爆音が響き渡った。



眼前で展開されているのは高度な空間創造であり、それが可能なのは認識している限りで一人しかいない。



烏骨鶏「空中に光が集まっていくでござるッ?!」



際限なく膨れ上がった顕現の力。

現れたのは―――だった。



「大きい、とてつもなく大きいなの・。・;」



ひまれいか「信じられん。本当にそんなことが?」



扉が全て開いていく―――しかし何かが出てくる様子はない。



???「どういうことなんだ?」



ひまれいか「北上双葉ッ、ここまで我々と差があるとはッ!」



他の扉も同様、何かが出てきた気配はない。

北上双葉の思考透視を成功させているひまれいかさんだけは理解しているのだろう。



間違いなく―――これから何かが始まるのだ。



烏骨鶏「お~w 何が飛び出すかと思ったら、なんでござるかそれぇ~。見掛け倒しもほどほどにするがいいでござるッ!」



己の喉元に霞刃を突き付け、その勢いのまま抉り飛ばす。

その結果、引き起こされるのは理不尽なロシアンルーレット。



「こ、今度は誰に飛んでくるなの・。・!?」



幼女忍者が自らに放った死傷は―――。



No.9北上双葉「ッ、・・・。」



烏骨鶏「お? もしかして大当たりでござるかぁ?」



誰が決めたわけでもなく、ただ平等に、死のルーレットは北上双葉を選んだ。

これまでの犠牲者と同じく、その身体からは鮮血が溢れ―――。



否、溢れ出てきたそれは―――血ではなかった。



???「あれは―――綿わたか?!」



「み、見覚えがあるのだッ!・。・!」



もこもことした、それでいてふわふわとした白いクッション。

私はそれを、以前の戦闘で知っている!



「北上双葉が連れている二次元存在、確か名前は〇ンメンだったなの・。・!」



隠れ家で戦闘した記憶が蘇る。

当時私は、全力全開の猛突進を北上双葉に向けて放った。

しかしそれは、彼女が具現化したポケ〇ンの技によって防がれたのだ。

そして今回も―――。



「あ、あれ・。・?」



そこには―――予想外にも、私が始めて見る生物がいた。



生物と表現したのは、




例えるならそう、




もこ田めめめ「おっすおっす! もこ田めめめだよっ!」



アニメのような存在感。

疑いようもなく、その外見は二次元存在であることは明らかで―――。



???「人面の羊かよ?!」



神楽すず「-君は今、神話の始まりを目撃している-」



「わぁ・。・!?」



今度は私の隣に、眼鏡の美人が音もなく現れた!

それだけじゃない、見渡せば他にも、他にも、いたるところに、いつの間にッ!



カルロ・ピノ「すごいよ双葉お姉ちゃん! 蜘蛛の巣を模したルーレット型異能なんて!」



八重沢なとり「落ち着いてピノちゃん。風紀を乱してはいけませんよ?」



花京院ちえり「ちえりだよっ!」



???「お、多すぎだろ・・・ッ。」



謎のアニメ人は、ざっと見ただけでも10人は超えている。

隠れ家で現れた、ポケ〇ンやU2部隊襲撃時の黒龍とはレベルが違う。

正真正銘、人間と同じ意志を持つ生命の輝きを感じる―――!



ひまれいか「———こいつらは”Vtuber”だッ!!」



「え、それはなんなのだ・。・?」



???「ネット界隈で流行した概念かッ! よく見たら、見覚えのあるメンツがちらほらいやがるな。グループ名は確か―――。」



神楽すず「―――我等十五の星にして奇跡の神話。■■■■部だ。」



「は・。・? 聞き取れなかったのだ・。・」



いや、聞き取れないというレベルではない。

まるで何かに封印されているかのように、その単語だけがぼやけている。



神楽すず「・・・そうか、『ようつべ戦争』で存在イデアそのものが消却されたのか。まあいいだろう。その程度の障害、我々にとって壁にもならん。」



シロイルカ「キュインキュイーン🐬!」



夜桜たま「―――ですね。早々に終わらせてあげましょう。」



ひまれいか「ッッ!!」


???「まるで軍隊・・・!」


「こ、これがU2部隊No.9の実力・。・!」



彼らは揃って戦慄する。

北上双葉を相手取るには、彼女が召喚ダウンロードするVtuber達をも相手にしなくてはならないのだと。



烏骨鶏「な、なんなんでござるかこいつらぁ・・・。」



幼女忍者が怯むのも無理はない。

いきなり十五人の戦士が現れたら誰だってビビる。



「というか説明をくれなのだ・。・! Vtuberって何のことなのだ・。・?!」



ひまれいか「阿呆がッ! 名称はどうでもいいッ! それより覚悟しとけ、私の予想が正しければッ、北上双葉のやろうッ!!」




No.9北上双葉「めめめ。始めていいよ〜。」




突如現れた十五の戦士。

言わずもがな、彼女達は北上双葉に召喚された。




その一人一人が―――




もこ田めめめ「んーとねぇ、『羊毛ウールの加護』!」




さらに―――




烏骨鶏「!! 傷が戻っていくでござるっ?!」




見せつけるように、北上双葉は己の首筋を撫でる。

その箇所は先程まで、大怪我を負っていた箇所の筈・・・。



No.9北上双葉「。」



これが、北上双葉が死のロシアンルーレットで大当たりしても死ななかった答えだった。

北上双葉が死ぬ間際、もこ田めめめが回復の力を全力で飛ばし、巻き戻し映像を見るかのように傷口を塞いだのだ。



烏骨鶏「は、っは、なんだそれでござる・・・。」



幼女忍者は意図を察する。



『蜘蛛併せ・阿弥陀アミダ』によるルールは、召喚されたVtuber達にも適応される。

いくら助っ人を呼んだところで、場にいるものはあらゆるダメージが誰かに飛ばされる。

そしてそのダメージを―――。



烏骨鶏「おまえ、?」



もこ田めめめ「んーとねぇ。私の羊毛が無くなるまでやっちゃうよぉ~!」



No.9北上双葉「戦闘中に受けた負荷を誰かにランダムで跳ね返す。性能としてはこんな所なのかな? 無敵の異能に近いけど、だったら大当たりが出るまで待てばいいよね〜。」



つまり、



烏骨鶏「―――なるほどねでござる。いいね、ぞくぞくするでござるなぁ!」



幼女忍者は悦に入った相を浮かべ、そして―――。



烏骨鶏「面白い、その賭け乗ったでござるッ!!」



―――そのまま己の身体に何百もの斬裂を刻み込んだ。



ひまれいか「や、やはりかッ、跳ね返って来るぞッ!!」



No.9北上双葉「めめめ! 即座に癒してッ!!」



同時、全ての衝撃が弾け飛ぶ。



もこ田めめめ「間に合えっ!!!」



弾け飛ぶ内臓や骨肉、それを瞬時に治癒、治癒、治癒。

全身の骨が吹っ飛ぶ、それを瞬時に治癒、治癒、治癒。



カルロ・ピノ「む~。ただこうして見てるだけなんてつまらない~!」



ヤマトイオリ「仕方ないよ。今回は待つ。それも仕事。」



そう言い放つ彼女達の首から下が挽肉にされる。

しかし、そこから治癒、治癒、治癒。



???「おい、冗談じゃねえぞ?! 血飛沫と羊毛しか見えねえッ?! お、お前ら、まだ生きてるよなッ!!?」



ひまれいか「地獄絵図とはこのことだッ。後はもう祈るしかあるまいッ!」



烏骨鶏「きゃはははっ!! 運命の女神がゆらゆら見えるでござるよッ!!」



―――回復の羊毛が無くなるのが先か、烏骨鶏に大当たりするのが先か。



冗談にもなっていない戦法で、だからこそ突破し得る一筋の勝機。



そして―――その時はあっさりと訪れた。



烏骨鶏「ッ、ギャ―――。」



―――鮮やかに、幼女忍者から血飛沫の花が咲き誇った。



「あっ・。・!」



そう、まさしく運否天賦によって。

同じように呆気なく大凶のくじを引いたのだった。



烏骨鶏「――――――。」



騒がしかった幼女忍者の声は聞こえない。

いや、喋るにしても頭部が消し飛ばされたのだから、喋れないのは当たり前。

どこからどう見ても即死だった。



カルロ・ピノ「蜘蛛の巣の残滓も消えちゃった・・・。」



八重沢なとり「術者が死んだことで、異能が強制解除されたみたいですね。」



神楽すず「審議の余地なし。万死に値する罪だよ。」



「・・・こんなの、戦いでもなんでもなかったのだ・。・」



そこには達成感以上にどうしようもない静寂感が付き纏った。

虚しさと切なさが満ちているのは、紛れもなくこれが博打だったからだろう。



すべてはひたすら、運任せ。

その運気は当たりもハズレも平等に招くだけ。

一歩間違えれば、私もハズレを引いて死んでいたかもしれない。

ただそれだけのこと。

これがいわゆる『ギャンブル』なのだ。



今回は偶然、私は運気を掴めただけの事。

そして敵は運気を掴めなかった、ただそれだけのことなのだ・・・。



―――みんと帝国『反車へんしゃ』烏骨鶏 絶命。



???「虚しいぜ・・・。勝っても何も得られねぇってのはよ。」



おそらく全員が、同じ心境だったに違いない。

ああ本当に、ここはなんて悪夢なんだろう・・・。




ひまれいか「気を抜くなッ! ッッ!!」



「え・。・!?」




結果は、北上双葉を含めVtuber達の粘り勝ち。

ならばこの場は、いったいどうなる?



みんと帝国の刺客が消え去った今、この状況は―――。




No.9北上双葉「さて、これでようやく本題に入れるね。」




周りからの敵意の目線―――!

十五の戦士は一斉に―――私たちに向かって戦闘態勢を取っていた。



花京院ちえり「ここからが本当の戦いだぁ~!! 何故なら私たちは敵同士!!」



「り、理には適ってるけど、それにしたって連戦多すぎなの・。;」



北上双葉の狙いは、無論、私達レジスタンスの排除に他ならない。

すなわち、危機は去ってなどいなく、ここからが正念場なのだ。

とはいえ、少女の体力も精神も限界が近づいていた。



???「聞かせろよ。さっきの続きを。俺に用があって来たんだろ?」



”彼”の言葉に対し、北上双葉もまた言葉を返す。



No.9北上双葉「———単刀直入に言うね。。」



「・。・!?!?」



その言葉を聞いた瞬間―――疲れなど吹っ飛んだ。



この『悪夢』のような世界から脱出。

彼女は確かにそう言ったのだ。

子供をたしなめるような優しい口調で、誠実そうなそぶりを見せながら北上双葉は懇願したのだ。



「あるなの・。・!? 本当にそんな手段が―――。」



神楽すず「動くなッ! ―――そこでじっとしていろ。そうすれば危害は加えない。」



ひまれいか「・・・。」



「くっ―――。」



No.9北上双葉「あるよ。U2部隊の本拠地であるこの『ふわっと小学校』には、現実へと帰還できる手段がある。。無論、。今、教えられるのはここまでかな。」



「・。・!!?」



???「待て。肝心なことを聞いてねぇ。わざわざ俺を助けて、俺を異世界から脱出させる意図は?」



No.9北上双葉「それはまだ言えない。けれど今がチャンスなんだよ。U2部隊のボス、だけがっ! 今なら逃げ出せるチャンスなんだよっ!?」



「は、はぁ・。・!?!? ひ、ひまれいかさんッ、あいつの言ってることは本当なの・。・!?」



ひまれいか「―――真実だ。脱出うんぬんは置いておき、北上双葉に敵対の意思はない。」



貴重な情報―――というよりは悪魔の囁きに近かった。




北上双葉の言葉が真実なら、私達レジスタンスの目的は既に達せられていたということになる。

そもそも、この『ふわっと小学校』に侵攻した理由だってそう。

異世界の情報を得る為、そして何より、躁霊を倒すための作戦を決行する為。



だけど今、

つまり、

ご丁寧に、



私たちは今、選択を迫られている。



異世界という名の『悪夢』か、現実という名の安全区画か―――。



いや、実質一択しかない。

もう異世界に残る理由も無いのだから。

そうなると、『ふわっと小学校』にいるレジスタンスメンバー全員を治癒し、仲良く揃って異世界から脱出する。

そういうハッピーエンドで終われるというのだから。




だが―――そんな短絡的な考えでいいのだろうか?




死ぬつもりで戦いに挑んできた。

全ては躁霊を倒して、自らも死ぬことで『物語しょうせつ』を終わらせるために。

その初志を捨ててまで、楽な道に進むこと、勝手に決めつけていいのだろうかッ?



そもそも、明かされていない謎は無数にある。

まだ何も解決していないのに、ラスボスが突然事故ったというだけで、今までの全てを投げ捨てていいのだろうかッ?





???「――――――断る。俺にはまだやる事があるんだ。第一、他の『れいか』を捨ててまで生き残ろうなんて考えちゃあいねぇんだよ俺は。」





だというのに―――”彼”は抗ったのだ。



No.9北上双葉「な、なんですって・・・?」



???「断ると言ったんだぜ。俺はな、『れいか』を救いに来たんだ。みんと帝国にいる奴等も、俺にとっちゃ救うべき対象なんだよ。もちろん、お前らU2部隊共もな。俺が原因で産まれちまった『物語』を、一体どうして諦められる?」



No.9北上双葉「そ、そんなのおかしい! ! !? 私と一緒にっ、やり直そうよ”フリーれいか”さんッ!!」



その甘い誘惑に、”彼”の瞳が揺れる。



否―――”彼”ではない。



その男の名はこれまで何度も耳にしてきた人物でありながら、一度もその実態を認識されていなかった。



フリーれいか「何度でも言う。俺にはまだやるべき道がある。ここでは退けない。」



躁霊と鬱霊の主にして、すべての創造主である人物。

自らの躁霊に心を壊され、異世界を彷徨っていた所を少女達に救われた。




”フリーれいか”―――それが”彼”の名前であった。




No.9北上双葉「『れいか』を救いたいってッ、本当にそれが正しいって、あなたは胸を張って言えるのッ!? 『れいか』なんて捨て置けばいいじゃないッ?! 私と一緒に『闇』のない平和な世界へ戻ろうよッ! でなきゃ私ッ、ッ!」



北上双葉はもはや、優し気な口調を演じるつもりはない。

彼女の内心、負の感情の一端を垣間見た今だから分かる。



No.9北上双葉「大体『れいか』なんて概念、未来が無い惨めな集団でしょ? そんな概念を助けて何になるというのよッ! あなたの心に巣食っていた躁霊を取り込んで元に戻ってッ、それでまたパチスロ麻雀するだけの毎日を味わいたいの?! 鬱な毎日を送りたいの!? 違うでしょフリーれいかさんッ!!」



北上双葉は―――力づくで私たちを抑える気だ。



フリーれいか「・・・誰が惨めだって?」



No.9北上双葉「~~~ッ!! 趣旨は理解してるでしょ!? あなたを真人間のままで現実に帰してあげたいのッ! 私に優しく手を差し伸べてくれたあの頃のようにッ! ―――どうしても嫌だっていうならッ、無理やりにでも連れ帰るッ!! ・・・抵抗なんて無駄なことはやめてよね。今の私は覚醒異能によって成った神話そのもの。人間の手じゃあVtuberには決して届かないッ! 最強で最後のVtuberとして君臨した、それが私、北上双葉ッ! あなたたちのような時代遅れのチャット集団とは次元が違うッ! 『れいか』は所詮、先の時代の敗北者なんだから! あっははははははっ!!」












―――ズガァン!!!!










ひまれいか「・・・・ほう。」





先代知将が、静かに驚く。

彼女を本当の意味で驚かせるのは、容易なことではない。




「・。・!?!?」




自らを最強と豪語した、あの頂点Vtuber北上双葉が―――




北上双葉のその姿はすぐにぼやけ、フリーれいかの正面に再構成される。

何事もなかったかのように。



しかし―――彼女は頬を押さえる。




を、なかったことには出来なかった。




その表情が、次第に驚愕に変わる。



対し、フリーれいかの表情は?

・・・見えない。

突き出した右腕に隠れ、その表情が見えないッ。



フリーれいか「―――せ。」



No.9北上双葉「ぇ、何?」



フリーれいか「。」



No.9北上双葉「な、何を―――っ!?」



次の一撃は、流石の北上双葉も許さなかった。

彼女の姿は露と消え、少し離れたところに再構成される。

しかし、それでも紙一重だった。



No.9北上双葉「―――痛い、痛いッ・・・痛いッ!」



ようやく北上双葉に本当の意味で、殴られた頬の痛みが込み上げてくる。

Vtuberという長すぎる牢獄は、彼女に痛覚という概念さえも忘れさせていた。

それがゆっくりと、蘇ってくるのだ。



No.9北上双葉「痛い痛い痛いッ、ああううぅうッ、私はッ、私がッ、殴られた??!」



頬を押さえて悶絶する北上双葉。

フリーれいかと目が合う。

彼の瞳の向こうに見えたものに、彼女は数年ぶりに―――恐怖する。



フリーれいか「痛いか?」



No.9北上双葉「ッッ!!」



フリーれいか「―――。」



北上双葉の目には、フリーれいかが殴り掛かってくるようには見えなかった。

怒りの拳を振り上げる彼の元に―――北上双葉が吸い込まれているかのように。



神楽すず「無駄なことを。私たちはVtuberの影。亡霊のように実体はない。」



そう、ただの人間であるフリーれいかごときに、『夢』である北上双葉を捉えることはできない。

北上双葉の姿を捉えようとすることは、水面に映る月に対し、石をぶつけるように無意味。



つまり、いくら石をぶつけたところで、水面の月を砕くことは出来ない。



しかし、フリーれいかは打つ。

ただひたすらに打ち続ける。

何度も何度もッ、二度と水面に月を許さぬつもりで。



「・・・すごいのだ・。・」



激しい殴打が水面を割る。

水面そのものを叩き割り、底さえも剥き出しにして、全てを穿ち抜くッ!



―――絶対の意思が、奇跡を穿つ。



ズガァンッ!!



フリーれいかが放った、振り返りもしない後ろへの蹴りが、虚空を打ち抜いていた。



―――そこに、腹を打ち抜かれた北上双葉が、その姿で再構成される。



No.9北上双葉「げ―――、はッ―――。」



フリーれいか「俺たちの勇敢な仲間を愚弄する言葉―――取り消せ。」



No.9北上双葉「ぅ、・・・ご、ほッ・・・。」



二度目の墜落。

北上双葉は理解する―――自分は捉えられていると。

そして、床に叩き付けられて、四つん這いで起き上がり、嘔吐した。

激しく何度も嘔吐を繰り返す。

激痛と嘔吐と涙と鼻水で、彼女の顔はぐちゃぐちゃだった。



そして怒りの表情で―――吼えた。

・・・それはフリーれいかの方にではなかった。



No.9北上双葉「Vtuberどもッ・・・! わ、私がやられてるのよ!? 何を見てるのよ、やっつけなさいよッ!!!」



神楽すず「御意ッ!!」



北上双葉の護衛、十四人の魔王達が異なる星座を形作る。

そして、それぞれが魔方陣を描き、詠唱を開始した。



ひまれいか「・・・扉だけじゃない。あの特大な魔方陣にも意味はあったということだッ。」



膨れ上がる気配の数は十や二十どころではない。

数百、数千、それ以上・・・?



「まさか有り得ないなの・。・! いくらU2部隊とはいえどもッ、ここまで滅茶苦茶な―――!」



魔方陣の隙間から―――

矢継ぎ早に連続発動する『Vの天秤ファンタズマ』はもはや、異常な速度と神話の格で押し潰されていく。



―――よって、ここが真なる勝負の際。


北上双葉の最後の奥の手、その結果が明暗を分ける。



ひまれいか「―――逃げろ。あれは駄目だ、どうにもならない。幸いにも完成まで時間のかかる類だし、猶予もあるッ。今ならアレの勢力圏内から逃れられるかもしれない。では発動までに妨害すればいいだろうなんて考えも捨てろ。。故に止められない。要は噴火と同じだ。既に引き金は引かれているんだッ。あとは火口からマグマが出てくるまでのラグがあるだけ、カウントダウンは始まっているんだッ!!」





これまで北上双葉が連発していたと思われる召喚は、言わば呼び水だったのだ。


Vの天秤ファンタズマ』の文字通り―――天秤は傾き、”大戦争”が始まろうとしている。





No.9北上双葉「狼が槍を呑み込む。蛇と雷神が相打った。魔犬と戦神、巨人と光、女神に吸血鬼、されど物足りぬ渇望ッ―――今、Vの魂ここに集らんッ!!!」





来るぞ来るぞ来るぞ―――あとにはもう、何も残らない。


たった一人だけであっても凄まじい負荷が術者を襲う神話の召喚ダウンロード


それをこれだけの数、同時に行うというのは異常どころの話ではない。





ひまれいか「数万規模の同時召喚から生じる力場に呑まれ、誰も残らない黄昏たそがれが広がるッ!」





―――それを、北欧神話ではこう呼んでいた。






No.9北上双葉「―――『神々の黄昏ラグナロク』ッッ!」






―――猛り狂い、極大規模の爆発が起こる。



―――万象を混沌の黄昏たそがれに変えんとする嵐が舞う。



―――神話の奔流が無数に、雪崩なだれ込むッッ!!





”今ここに顕象したVtuberの最終戦争は、原典の規格を完全に逸脱している”


”登場キャラもその関連性も、デタラメ極まりない代物”


”先ほどひまれいかが逃げろと言ったが、まるで意味のない忠告だった”




―――全次元に散らばっていた全てのVtuberが、今ここに集ったのだから。




No.9北上双葉「あは、あっはははははははっ!!! この人たちはね、それぞれがみんな、あんたのような主人公の成れの果て!! それぞれの『物語チャンネル』で主人公を務め、その勇敢なる物語に伝説となった13369人のVtuber!! その全員はねッ、それぞれが国やら星やら宇宙やら電脳世界やらの存亡を賭けて戦ってきたのよ!!」




―――その全てが敵に回るということ。


―――事は単純明快であり、それだけにどうしようもない。




No.9北上双葉「比べてあなたたち『れいか』は?! あっははははッ、せいぜい妄想の『物語』ごっこでしかないじゃない!! オワコンサイトにお金払って、世界の隅でイキがるだけの集団でしかないじゃないッ!! 主人公としての格が違うのよッ!! 食らって目を覚ましなさいッ、いっけぇぇぇええぇええええええッ!!!」




凄まじい神話の数々が、宇宙の誕生から惑星誕生、崩壊、そして宇宙の終焉までを瞬時に描く。

いかにフリーれいかであろうと、その後には塵一つ残らないッ!




ひまれいか「ふ、フリーれいかッ・・・!!」




―――だが。




爆煙が晴れた時、そこには人影があった。

その姿は、両手をポケットに突っ込み、静かに俯くもの。



No.9北上双葉「何よ・・・これ。」



フリーれいかは、まったくの無傷に見えた。

服に焦げをつけるどころか、髪を散らすことさえ出来ていない。



No.9北上双葉「なッ、何よこれッ?!?! 馬鹿Vtuberたちッ、全然効いてないじゃない?!」



Vtuberの神話たちは静かに顔を横に振り、主に短く報告する。



No.9北上双葉「なん、ですって・・・?」



―――”彼らの物語は、誰にも邪魔出来ない”。



申し訳なさそうに、彼らはそう伝えてくるのだ。

つまりはお手上げだと・・・そう言ってくるのだ。



No.9北上双葉「な、何が神話の魔王たちよ!! あんたたちだって、かつてはどこかの『物語チャンネル』の主人公だったんでしょう?! それがこのザマ?! 恥を知りなさいよッ!!」





―――彼ら、全Vtuberは知っている。


―――この『物語』の主人公が彼ならば。


―――自分達には邪魔出来ないことを最初から知っている。





フリーれいか「立てよ、北上双葉。―――決着を付けるぞ。」



No.9北上双葉「・・・そうかぁ。本当は私と死にたかったんだね。死後の世界で一緒になりたかったんだね? あはっ。最初からそうだと言えばいいのにッ!!!」




北上双葉はゆっくりと立ち上がり、その姿を霞に溶かす。

そして再び中空に現れ、フリーれいかと対峙する。




フリーれいか VS 北上双葉


劇的な始まりではあったものの―――終わりは近い。




「フリーれいかさん・。・! 私も戦うのだ・。・!」



フリーれいか「―――来るな。」



「ど、どうしてッ・。・!」



フリーれいか「お前はそこで、見ているんだ。そして今度こそ―――俺が伝えたかったことを理解しろ。」




その後ろ姿の、なんと頼もしいことか。

フリーれいかさんがどうしてあの神話攻撃に耐えきれたのかは分からない。

何かの異能なのかもしれないが、今だけは―――。



「私は、結局まだ迷ってるなの・。・」



―――私の正体が、誰かの『躁うつ病』を具現化した存在だと聞かされた。


―――人間ですらない、ただの鬱霊なのだと。


―――そして自然に、じゃあその誰かは無事なのだろうかと、いつも思っていた。




フリーれいか「『れいか』ってのはな、そう簡単じゃねぇんだよ。たとえネットの隅で産まれた概念だとしても、俺はそれを矜持だと言えるッ。」



彼は私に、何かを伝えようとしているのだ。



「フリーれいかさん―――。」



少女の頭の中に、”彼”と初めて出会った頃の記憶がよぎる。

そう、それは少女が目覚めたばかりの頃。

無限迷宮を彷徨い、異世界で初めての人間に出会った時の記憶―――。




”フリーれいか『なにをする? 決まってるだろ? 殺すんだよ。お前ら・。・を全員な!』”



フリーれいか「大切なものは、最初から全部、この胸の中に詰まっていたんだッ。」



過去にいきなり襲ってきた”彼”と、今ここにいる”彼”は同一人物。



しかし、志はまるで別物―――。



”フリーれいか『いつもいつも! お前ら・。・はネット上に現れて! 変な顔文字使って何処にでも湧いてくるのムカつくんだよ!! どこの界隈にも迷惑かけやがって!!』”



フリーれいか「誰かが『れいか』を否定しようともッ、殺そうともッ、俺はそれを拒否するッ! 俺が育んできた『れいか』はッ、ッ!! ―――俺の名前はフリーれいか!! 俺の世界は、誰が何と言おうと傷一つ付けさせねぇッ!!!」



私はその後ろ姿に―――歓喜して涙を流していた。



この人はッ、私の主とも言えるこの人は。

『躁うつ病』が無ければ、ここまで勇気に満ち溢れた熱い男だったのだ。



フリーれいかとは・・・ここまで強い男だったのか。



No.9北上双葉「無駄では無かったぁぁッ?!? ネット各地で悪意を撒き散らすだけの集団を産み出したことがぁッ??! ふざけないでよッ! 数々の『れいか』の模範となってきたあなただからこそッ、いいえ、あなた本人が一番分かってる筈よッ!? だって鬱になるほど『れいか』に追い込まれたんだからねぇ!?」



そう、実は少しだけ怖かった。



―――私には躁うつ病を発症した者の血が流れている。



どれほど否定しても、その始点は覆せない。

私の強さや心とか、どれも変な方向に理由づけされている気もした。

嫌な答えと常に繋がっている気がして、とても明るい気持ちにはなれなかった。



私の性格―――猪突猛進、先手必勝はたぶんそういうことだと思う。



突き抜けていて、容赦がないから正直で。





だから、今まで私が抱いていた決意や判断は―――躁うつ病の血を引いているからこそで、それに対し葛藤していたことは否定できない。



だから。

鬱霊という私自身の影を超えるんだと。

そう、フリーれいかさんの言葉に被せようとして―――。





フリーれいか「―――俺の鬱霊を甘く見るな。こいつの心は全部、れいか達がくれたもので構成されているんだよ。この異世界で産まれ―――育てられて。そして他のれいか達と出会ったんだ。」





「・・・・・、―――。」




闘志や克己心と呼ばれるものが、それを超える輝きを前に頭の中から吹き飛んだ。

分からない、自分が何を感じたのか分からないが―――しかし、しかしッ。



胸に暖かいものが染みわたっていくことだけは、紛れもなく確かだったんだ。



フリーれいか「心が強いと冷たい奴か? 決断速いと薄情なのか? 全然違うぜそういうの。なぁ俺の鬱霊? これまでの旅を思い出せよ。いろんな『れいか』達が与えてくれたいろんな気持ちがあったから、おまえはそんなに凄いんだよ。毎回ちゃんと悩んでいるし、責任持って選んでいるのを俺はちゃんと知ってんだからな? お前はもう鬱霊じゃねぇ。誰かのために笑ったり、怒ったり、頑張ったり葛藤したり、案じたり励ましたりして一緒に行こうとしてくれる―――そんなお前が、俺は気に入ったんだぜ?」



そう、強く言い切ってから、彼は再び北上双葉へ眼差しを向ける。



フリーれいか「そしてもう一人。忘れちゃいけねぇ人物がいる。U2部隊のボスをやってる―――俺の”躁霊”だ。ッ!!」



No.9北上双葉「な―――?!」



フリーれいか「俺を構成する遺伝子。二重螺旋の片側。あいつも救ってやる事がッ、この『物語しょうせつ』のゴールなんだッ!! 俺はそれを成すまで、絶対に諦めないッ。今度はもう負けやしない。必ず勝つ、戦うんだッ!!」



―――この言葉が、決定打となった。



これからの方針が決まったとも言っていい。

むしろ大きな一歩となる。

三人目の王により、異世界の均衡が大きく変化する。




―――止まっていたフリーれいかの時は動き出す。




No.9北上双葉「・・・あ、あはは。なんだろう。一瞬、あの頃のフリーれいかさんに重なったのは幻なのかな・・・。強すぎる絶対の意思、一体どういう覚悟を決めたらそんな風になれるの・・・。」



フリーれいか「舐めんじゃねぇよ。俺が倒れて寝てる間に、何か色々あったんだろ? 見誤るな。内容は分からなくても、お前も苦しんでいるのはよく分かるさ。」



No.9北上双葉「・・・それ、仕返しかな?」



フリーれいか「そうだぜ。。」



「―――――。」



No.9北上双葉「あ、ぅ、こ、この・・・。」



ひまれいか「・・・まったく、意趣返しにも程があるぞ。」



かなわない。

彼が、彼こそがレジスタンスの本当のリーダーに相応しい。

敵をも救いたいという気持ち、以前の私は考えようともしなかった。



No.9北上双葉「―――あははっ。何よこの馬鹿みたいなシチュエーション。バトルの雰囲気がっつり無視して、もっとこう、いい感じのがあるでしょ・・・。どこまでも『自由フリー』なんだから。」



フリーれいか「それが『フリー』だからな。」



いつの間にか―――周りの神話は夢の如く消えていた。



北上双葉が『Vの天秤ファンタズマ』を解除したのだろう。

つまりそれは、もう戦う意思が無いことを証明している。



ひまれいか「やれやれ、この場は一件落着ってところか?」




フリーれいか VS 北上双葉のバトル。

それはあっけなく、一人の死者も出さずに終結―――。




No.9北上双葉「待って。なんでひまれいかが仕切ってるのよ。」



ひまれいか「ひひ。照れ隠すことはないぞ北上双葉よ。実は内心、嬉しいのだろ―――。」



No.9北上双葉「それ以上、私の思考を透視したら潰すよ~?」



フリーれいか「それを言うなら北上双葉、俺たちに対する侮辱の言葉の数々、まだ許してねぇからな?」



元の喋り方に戻る北上双葉。

信じられない決着の仕方に、誰もが頬を緩ました。



「見失っていたのだ・。・ 私の為すべきこと、私が生まれてきた意味―――私たちには、決着を付けなければならない相手がいるのだ・。・」



この幸福を現実にするために。

忘れてはいけなかった。

見落とすのも、逃げてもならない。



この『物語』は―――救う物語であるのだと。



「そ、そうだ―――さっきの北上双葉さんの異能、回復の力・。・! それで小学校にいる負傷者を助けて欲しいのだ・。・!」



No.9北上双葉「それは安心して。さっき13369人のVtuberに頼んで、回復の羊毛を全階に送り届けてもらってるから~。」



「・。・!? 解除したんじゃなかったなの・。・!?」



神楽すず「私たちは亡霊。姿は見えずともここに”い”るのさ。」



「わぁ・。・!?」



だからなんなんだこの人!

一度ならず二度までも、どうしてわざわざ私の背後に現れるんだ!



ひまれいか「・・・1万を超えるVtuberが『ふわっと小学校』を埋め尽くしているわけか。」



「そ、そう考えると、ちょっと不安なのだ・。・;」



フリーれいか「あの『めめめ』っていう羊はどうした?」



No.9北上双葉「あの子は羊毛をロスしたからね~。一足先に神界へと還ったよ~。」



シロイルカ「キュインキュイーン🐬」



カルロ・ピノ「見て見て双葉姉ちゃん! 私のランドセル姿かわいいでしょ~!」



あれやこれやと十五の星が集ってくる。

時間制限とか無いのか?

冷静に考えてみると、やっぱり滅茶苦茶な異能でしょこれ。



夜桜たま「―――双葉ちゃん。あなたがどんな決断をしようとも、私達はそれを信じる。」



No.9北上双葉「・・・うん。ごめんねたまちゃん。当初の予定とは随分違うけど、それでも私は・・・この人の言葉に感化されちゃったから。自分の気持ちを偽ることだけはしたくない。」



ヤマトイオリ「うん、いいと思うよ~。」



フリーれいか「まあ仲間たちに関しては、これで心配いらないな。それで―――?」



・・・空気が引き締まる。

確かに、それはレジスタンスにとって一番知りたい情報だ。



ひまれいか「今のうちに情報交換をしたほうが無難だろう。どこに敵が潜んでいるか分からんからな。そして何より、まだ何か嫌な予感がするんだよ。この『ふわっと小学校』には。」



フリーれいか「手短にいくぜ。当初の話だと、U2部隊はみんと帝国に『収穫』をしに向かった。」



「そしておそらく、お互いに同盟を結んだけど、何かの理由により破棄された、そこまでは分かっているなの・。・」



フリーれいか「つまり、よっぽどの事が起きた。U2部隊のトップがみんと帝国に封印され、お前もここに逃げ帰ってきたほどの何かがだ。さっきの忍者刺客だってそう。どう考えても異常だろ。」





No.9北上双葉「―――いいよ。あの日、あそこで何が起こったのか。私が知る限りのことを教えてあげる。」












―――――――――。

――――――。

―――。







そして時は逆巻き始める。

北上双葉の回想に伴って、当時の情景がより明確に投射されていく。




No.9北上双葉「みんと。彼があそこまでの怪物だとは思わなかった―――。」




U2部隊とみんと帝国の初邂逅。


支配を目論む者同士、彼らは引きあった。





最強と最恐が―――ついに交差する。













―――みんと帝国 香の祭壇 



舞台は会場。

両雄は自然に、会談の機会を設ける運びとなっていく。




フリー(躁)「それじゃあ君は、この異世界を薬漬けにしたいぽよ(*´ω`*)?」



みんと「そうだが、それの何が問題だ?」



堅く、重く、鋭く射抜くような視線と言葉に対して、みんとは滑稽なほど子供のように首を傾げて問い返した。



みんと「争いは度し難い。人は幸福に生きるべき。俺たちの抱く感情にさほどの差異は存在しないと思うのだが。違うのか?」



静かに叩き付けられる躁霊の波にまるで揺るがず、言葉を重ねて止まらない。



みんと「人間、よい夢も見ればいいだろう。自分の中で救いを構築できるならそうすればいい。困難を乗り越える? 思えばよかろう、その時すでにお前はお前の中で勝者だから。成長とやらも望んだ分だけしているはず。劇的な展開とやらも、好きなだけ夢見て描け。他者との繋がりなど閉じればいいさ。無遠慮に外など見るから人は悲しくなり果てる。ではないか?」



技術の発展―――それと共に人類は地球全土を行き来できるようになった。

結果、自然として争いだし、世界大戦が勃発した。





極論―――



みんと「資源や優劣より、まず他人を意識するな。不幸になるんだよそういうのは。気楽に吸えよ。そんな目くじらを立てずに。」



フリー(躁)「・・・失望したぽよ(*´ω`*)」



差し出された『薬』を無視する躁霊に対し、みんとはどこか残念そうに肩を竦めてへらりと笑った。



そう、残念だったのだ。

驚くべきことにみんとはその時、眼前の男が理解に至ってくれない事実を自分なりに惜しんでいた。



傍からみれば壊滅的なやり取り、会話劇。



それでも、





言うまでもなく、みんとは重度の薬物中毒者。



常に一人芝居をしていた彼にとって、



方向性は全く違うが、どちらも真摯に人類を愛するもの。

そこに共感なり反発なりを感じたのはある意味当然だったのか・・・。



否、こんなどうしようもない男を前に”彼ら”が黙る道理もなかった。



No.6 BUNZIN「頭わいたことを抜かすな。このヤク中が。」


No.3日常演舞「都合のいい世界が好きなら、お前だけが籠っていなさい。」


No.9北上双葉「屑まる出しかな~。救えないにもほどがあるかも~。」



フリー(躁)「と、いうわけぽよ(*´ω`*) ―――君は邪悪すぎる。早々に摘んでおかなければならない(^ω)^」



決裂の合図―――世界が塗り替わる。

つまり、躁霊にとって看過できない敵と認識されたのだ。



みんと「残念だ。俺が向き合い、言葉を交わしたいと思った人物よ―――。」



両雄は立ち上がる。

王と王。

二人の怪物。



フリー(躁)「争いは嫌いではなかったのか(^ω)^?」



みんと「だとしても、殺される趣味はない。何より俺がここで死ねば、誰がみんなを救うというんだ?」




彼らの道は違える、故に戦うことは必然。


この戦いを軸に、異世界の均衡はまたしても崩れるのだ。


暴力という概念とはまったく異なる恐ろしさを持つ二人が今、激突する―――!





フリー(躁)「七つの相”追及”―――『弾丸論破ダンガンロンパの相』(^ω)^」



みんと「閉ざせ―――『香剰摂取オーバードーズ』」




つづく。









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